幽霊でも眠いもんだなー···
「お札買ったった♪」
(´゚ω゚`)ギャァァァァァァ
「うー···」
「お前、目が死んでンだよ目が。ほらもう一回やってみろ。」
「···(ニコッ)」
「···何回俺に同じ事言わせんだよ、テメェは。」
「···一億回?」
「おい」
△▼△▼
あれから直々直々に、高杉様は来られる様になった。
無論、というか大抵殆どは仕事関係の話を部下の方としていて、私は完全に蚊帳の外の事が多い。
時折、ほんの時折、曲者を見つけて縛り上げ、報告する程度しか挨拶を除いてほぼ会話しない。
其処に、不満も疑問もなかった。
ただ漠然と、己の立場を理解していた。
物音をたててはいけない。
邪魔をしてはいけない。
普通の人間だったら苦痛でしかない時間を延々と過ごしていた。
終始無言でじーっと座っているだけ。
ピクリとも動かないで。
これだけ聞くと辛ッ!と思う読者の方もいるだろうが、案外慣れてしまうとなんとも無い。
むしろ、何も動作をする必要(呼吸やその他生命維持のための活動を除いて)がないので楽といえば楽なものだ。
まあ、だとしても人間暇なもので。
私はひたすら、鏡の前で表情の練習をしていた。
一応断りを入れておくが、変顔とかでは決してない。
期待した其処の君、早々に諦めなさい。
···話が若干逸れたが、私は特に笑顔を重点的に練習していた。
まあ、笑顔、と一口に言っても、それは様々な種類がある。
大きく分けるならば、
①+の笑顔
②-の笑顔
だろう。
因みに、私が得意なのは後者だ。
冷笑や嘲笑、毀笑が挙げられる、人を不愉快にさせるもの。
何でかと言われるとやや返答に詰まるが、まあ、私を取り巻く環境、とでも言っておこう。
それはともかく。
物事には常に多面性があるもので、私は先程述べたように-の笑顔が得意だ。
つまり、+の笑顔は苦手ということ。
嬉笑や微笑、···嬌笑?辺りの笑みは総じて苦手だ。
···だが然し。水商売や遊廓等は総じてその笑みを求められる。
理由は至って簡単。
客を不愉快にさせるようじゃ、商売が成り立たない。
ただそれだけの話。
――笑みを求められるのなら、笑わなければいけないのなら、"自分一人"で出来なくては、いけない――
△▼△▼
そんな折、珍しく、高杉様は一人で現れた。
「···驚いたのか?···なら、言っとくが俺ァ結構こういう所の常連なんでな。」
内心驚いた私に対する第一声はそれだった。
思わぬ来客に一瞬動きを止めた私に、高杉様は小馬鹿にする様な笑いを浮かべて、こう言った。
「遊女が客の相手をしないのか?」
「···!もっ、申し訳ございません!」
慌てて、徳利やら御猪口を用意する。
そして、普段通りの言葉と笑み。
「···先程は大変失礼致しました。···今宵は、ごゆるりとお過ごし下さいませ。」
「···」
高杉様は、言い終わった私の顔をじっと見つめ、やや間があって口を開いた。
「お前···それはお前の本当の"笑い"か?」
その言葉はまっすぐ私の胸に突き刺さった。
かなり狼狽えたせいで、致命的なミス。
視線をちらりと逸らしてしまう。
「···ッ!······。」
鋭く、突き刺すような高杉様の視線。
心の奥底まで見透かされてる感じがした。
「···そうか。···まあ、それがお前さんらの"仕事"だったな。」
偽の表情、という事をあっさりと見破られ、肝が冷えた。
謝るべきなのか、それとも開き直るべきなのか、分からなかった。
「···あの···」
「···お前、他の表情とか自分の本心隠すのは得意そうだったが、妙に笑顔だけ下手くそだな。」
「···ッ!!!」
痛いところを突かれた。
だが、目は背けない。
動揺を表に出さない。
隠す。
「···申し訳ございません···」
「いや、別に謝る必要はねェさ。人にゃ誰しも得意不得意がある。」
「···!」
意外にも、怒られなかった。
むしろ、慰められた。
「···まっ、だとしてもその格好でそれはまずいんじゃねェか?俺以外の奴も相手にするんだろう?」
「···それは···」
痛いといえば痛い。
痛くないといえば痛くない。
「···。ンなあからさまに落ち込んだ顔すんな。···俺がお前を手伝ってやる。」
「·········え···?」
「俺は遊女の笑いなんて幾人も見てきた。だから、教えてやるよ。どんな笑い方すンのかをな。」
高杉様は、ニッ、と笑った。
高杉様とて、笑みは偽物だった。
「···宜しく御願い致します。」
それでも私は――偽りの優しさに縋った。
△▼△▼
俺が此処に彼奴に会いに行くようになったのは、
ほんの些細な気紛れと、
そこから生まれた、
彼奴への興味から。
速く正確に、とても少女とは思えない手腕で仕事をテキパキとこなし、血塗ろの殺戮者から一変可憐な乙女に一瞬で化ける、傍から見て完璧な"暗殺者"。
だがその本質は、
風吹けば崩れる砂城の様に、日光に溶ける雪の様に、儚く脆い、偽りの仮面を被っている、
致命的な程無垢な少女。
化けの皮一枚剥がれれば、あっという間に本心がさらけ出されてしまう、そんなギリギリ綱渡り状態。
そんな彼奴の弱さに、俺は何時しか世話を焼いていた――
△▼△▼
男を落とす為の手練手管。
床の技術。
人生の快楽。
そしてその他様々な事を教えた。
最初の方こそぎこちなく、だがその天才肌ですぐにのみこむ彼奴は、見る見る内に成長を遂げた。
遊女としての色気、仕草、手練手管···それらの偽りがほぼなくなり、演じて"いる"事が完全に消滅した。
今やすっかり、少女の弱さは形を潜めている。
俺に対する態度は、まず硬さが抜けて柔軟さが増し、妙な緊張感が消えた。
そして時折、素の表情を、感情を、見せるようになった。
大きな変化だ。
···俺は、俺によって磨かれた蕾が、ゆっくりと花開いていく様を、楽しみに見ていた。
そう、見ていた。
見ていただけだった。
最初は、本当に見ていただけだった。
···だが、彼女の世話を焼くうちに、俺の中の感情も、変化を遂げていた。
ただの便利な駒でしか過ぎなかった彼女を、今では一人の女として見ている自分がいる。
いや寧ろ、一人の女としてしか見ていなかった、見られなかった。
身体の真ン中に、すっと一本筋が通った、芯の強い女。
芯の強いが、他人への気遣いや優しさもしっかりある、包容力のある女。
そして――俺が惚れた女。
△▼△▼
寂しくて不安で仕方なくて、今にも崩れ落ちそうな私を、貴方は優しく導いてくれた。
道具としての利用価値を下げない為だとわかっていても、その優しさが偽りだとわかっていても、嬉しかった。
組織と、遊郭と、闇しか知らなかった私に、光の事を教えてくれた。
こんなにも美味しいものがあって、こんなにも綺麗なものが沢山ある世界だと、私を連れ出して、貴方は教えてくれた。
だから、"笑顔"になれた。
貴方の望む笑顔が、できるようになった。
嘘偽りの無い、笑顔を取り戻した。
この恩は絶対に返す。
そう心に強く誓ったあの日から。
私にとって貴方は、"依頼主"じゃなくて、"晋助様"になりました。
貴方には、道具として扱われているだけ"幸せ"なんだと思っていたのが、人間として、一人の人間として見てくれることに幸せを感じるようになりました。
身分不相応なのも、身勝手なのも、わかってます。
けれど、私の本心は···遊女"蓮"としてでなく、ただの"蓮"としてでは···
貴方は、私の大切な御方です。
やめてしめ縄やめてー!!
「((((ToT)†~~~ 悪霊退散!!!」
あぶねッ!?てか悪霊じゃなーい!
「南無阿弥陀仏···南無阿弥陀仏···」
やめれー!!!