わかんね、追加あるかもしれない。
――『アンタなんか、榮蘭じゃない!!!』
――『俺の女に···何してくれたんだこのクソガキ!!!』
あの日、両親が俺に向けて放った罵声を、今でも鮮明に思い出す事が出来る。
···辛かった。辛いとしか、言い様がなかった。
大好きで、尊敬していた筈の両親の豹変ぶりが、俺の心を酷く抉っていた。
そして、その傷は未だ癒えない。
だって、そこに――
△▼△▼
「お兄ちゃん、今日、お父さんとお母さん、遅いね。」
「うん?うん。多分、忙しいんじゃないかなぁ?」
「また仕事なのかなー···。大変そう···。」
「だな。···そうだ!帰ってきたら、肩揉んであげようよ。俺が母さんで、藍華が父さん···」
「···あー!お兄ちゃんずるーい!私じゃお父さんの肩に手届かないの知ってるくせにー!」
「···えへへ、バレちゃったか···。いいよ、俺が父さんの肩揉む。藍華は、母さんの肩揉んであげて。」
「···やったー!お兄ちゃん、ありがとー!!!」
――これは夢だ。あの日、あの惨劇が起こる前の···俺
···まだ7、8歳の俺と、4、5歳の藍華が、無邪気に笑っている。
逃げろ、逃げてくれ!
そう叫ぶが、場面は次へと移り変わる。
❮バンッ!!!!!!❯
物凄い音が、ドアを隔てた玄関から響く。
「っ!?お、お兄ちゃ······」
「しっ!静かに···」
藍華が、不安そうに俺の顔を見上げる。
そんな藍華の頭を撫でてやりながら、俺は、ドアの向こう側へと耳を澄ました。
バンッ!バンッ!と激しくドアが鈍器か何かで殴打されている音が響く。
――!――!と叫ぶ男達の声が響く。
「···こ、怖いよぉ······」
「···何が起こって······っ!?藍華、後ろに下がっ······」
❮バーーーンッ!!!!!❯
一際激しい音と共に、ドアが内側に倒れてくる。
「いやあああああ!!!」
藍華が絶叫する。すると、その声を聞いて、壊した"奴ら"は、ニヤリと笑った。
『···へっ。ちょうど獲物が目の前にいるなんて、俺達ついてんな。お前ら、さっさとこの子供達縛り上げるぞ!!!』
『おー!!!』
男の言葉の意味は、ほとんど理解出来なかった。
だが、藍華と俺が危険に晒されている――その事だけは、本能が理解していた。
『何だァ?この子供、俺達の事睨んでやがるぜ?生意気だな。』
『おい、お前。大人しくしろ。然もないと···お前の後ろの妹を殺っちまうぞ?』
『馬鹿野郎。殺したらだめだ。生け捕りにしねぇとボスに殺されるぞ?』
『おー、怖い怖い。さっさとやろうぜさっさ······っ!?』
俺が、包丁をヤクザの方へと向ける。
「···今、何つった?」
『は?』
「···今、何と言ったか言えと、言ったんだ。」
『何こいつ。子供の分際で俺に命令?ふざけんな······!』
怒りを顕にする奴らに、俺は冷然と告げる。
「···ふざけるなは、お前達だよ。この外道共めっ···!」
身体の内側から、ムクムクと力が湧いてくる。
もう一人の誰かが、俺の身体を支配する。
《さあ、
△▼△▼
···今思えば、あの悲劇は回避できたのではないだろうか?
もしもあの時···彼らを傷つけるだけで済んだなら······!
△▼△▼
「はあっ···はあっ······?」
気がついた時には、もう全てが手遅れだった。
真っ赤な視界。
腕で目を拭うと、辺りの景色がハッキリと、残酷に映し出された。
「···あ······ああ·········!」
両手は、液体によって真っ赤に染まり、服も同じように染まっていた。
片手に握りしめていた包丁からは、その液体が、ポタッ、ポタッと滴り落ちる。
「······え·········なに······これ······血······?」
手から包丁が落下する。
バシャン、と水音が響く。
それは血だまりだった。
文字通り、血でできた水溜りが、彼方此方にあった。
そして、その傍らには―――
「······あ······う、うそ·········」
人間の、頭が。腕が。脚が。
全て、ほぼ原型を留めずに、落ちていた。
どれも、なにか鋭利な刃物で切り裂かれたように、綺麗に切れていた。
厭だ!違う、やったのは、やったのは、俺じゃない!
やったのはっ···やったのはっ···!
《君だよ。他の誰でもない、"俺"だよ。》
ゾッとする程、俺に良く似た少年が俺の目の前に立っていた。にこやかに笑っているが、その身体は真っ赤な血に濡れて――いや、塗れていた。今の俺と、そっくりそのままに。
《やあ、もう一人の俺。こんにちは、――と言うより初めましてかな?まあ、とにかく会えて嬉しいよ。》
「誰だよ、お前···!なんなんだよ、もう一人の"俺"って···!!」
《そのままの意味さ。君は俺。俺は君。一心同体、表裏一体。同じ存在だよ。》
「同じ存在、だって···!?」
《あー、うん、まあ、同じ存在って言うのは厳密に言うとちょっと違うけどね。俺は、君の中にある夜兎族本来のモノ···俗に言う"本能"ってやつかな?それを、君の想像によって声と肉体を得た存在さ。》
「夜兎族本来の······本能···?」
戯けた調子で俺に返事をし続けていた"俺"は、急に表情を変えてグッと顔を近づけてくる。眼が爛々と輝き、口元は興奮したように釣り上がっていた。
《そう。僕···いや、僕達は、夜兎族の血を引くものになら全て宿る存在。世間一般の、夜兎でない者達は、僕達をこう称す"夜兎族の破壊衝動"とね。》
「破壊衝動···だと?」
《ああ。···ついさっき、君は目の前の奴らを
「······!······だったら、お前が·········」
再び穏やかな顔に戻った"俺"は緩やかに俺の言葉を指定する。
《おっと、勘違いしないでくれよ。確かに僕は君の意識を奪った。けど、その原因を作ったのは誰だい?そして、僕は君の中のもう一人の"君"だ。···言いたいこと、分かるよね?》
「違っ······違う·········!俺じゃ·········俺じゃ············!」
俺じゃない。そう叫びたかった。
否定したかった。目を背けたかった。
でも、それは、不可能で―――
《厭かい?認めたくないかい?···君の好きにするといいさ。でも、これだけは覚えておいてよ。僕が支配したのは、あくまでも君の肉体だ。そして、支配した理由は···君が僕を望んだから、という事をね···》
ククッと笑いながらもう一人の"俺"は姿を消していく。
後には、俺一人が残された―――
△▼△▼
「···」
あの日から、俺の中で、家族は藍華ただ一人になった。
もう、両親の事は憎む事しか出来ない。
恨む事しか出来ない。
なのに―――
「···この写真を俺に送るなんて、藍華、お前は俺に何を伝えたいんだ···?」
―『ありがとう』
たったそれだけを書いた手紙と一緒に、これを送った思惑は?
「···俺に、両親を憎む事をやめて欲しいってことか······?」
写真をじっと見つめる。
幸せそうな家族写真だった。
とても、幸せそうな―――
「···俺は······」
写真を引き裂きたい衝動に駆られた。
だが、幸せそうに笑っている藍華が写っている手前、如何しても破れなかった。
「···あれ?」
ハッと写真を見直す。
そうだ、この写真で幸せなのは藍華だけじゃない。
幸せなのは―――
「···そうか。そういう事なんだな、藍華。···お前のメッセージ、受け取ったよ。」
――お前は、何時だって俺の自慢の"家族"だ。
よし、次回から子供編やってくぞー。
まあ、まずは妊娠発覚からね。