発覚
吐く、吐く、吐きまくる。
どろりとした液体。独特な刺激。
内容物は何も無いのに、吐き気だけが襲いかかってくる。最近、いつもそうだ。一日に平均4、5回吐いているだろうか。
―何でこんな時に居ないのよ、あのバカ。
辛くて辛くて、甘えたいのに、その当人は仕事で居ない。
食事も少ししか喉を通らない。
どうしちゃったんだ、この身体は。
また吐く。今度は少なかった。
いつの間にか、背後に旦那が居た。黙って、ペットボトルの水とタオルを差し出してくれる。
「······ごめんなさい···」
「謝る必要なんか無ェよ」
そのまま、優しく背中をさすってくれた。衝動に駆られて抱きつきたくなる。でも、申し訳無くて、出来なかった。そんな、ふぬけた自分がたまらなく厭で、しょうがなかった。
△▼△▼
「旦那···病院、行ってくる。」
そう言われたのは、お昼御飯を食べた後だった。
今日も、お粥を少しすすっただけで済ませた彼女は、蒼白な顔をして頷いた。
「大丈夫だよ。今日は少し調子良いので···お天気も好いし···」
「俺もついてくよ。ここの星の医療は、トップレベルだから、安全だと思うぜ。」
「嬉しい···久しぶりに旦那とデートできる。」
「イヤイヤ、どんなデートだよ。」
それから、エチケット袋を大量に持ち、船を出た。
△▼△▼
大きめの総合病院。
「おまいさん、どこ受診するか決めてんのかィ?」
「···少し、心当たりがあるの。」
そう言った彼女の目の先には、『産婦人科』というプレートがあった。
△▼△▼
「···―で、もしかしたら···つわりかも知れない、と思って···」
医者は、優しそうな女性だった。お婆ちゃんってところか。
「検査薬は使った?」
「あ、いえ···」
「そうですか。じゃあ、検査してみましょうね。旦那さんは、待合室でお待ち下さい。終了しましたら、お呼びしますので。」
「イヤ、旦那じゃなくて付き添いです。」
△▼△▼
先生に呼ばれて、入ってきた旦那は、何故か不機嫌だった。
「何かあったの?」
「···何でも無ェ。」
「さて、藍華さん···ね、···おめでとうございます。お腹に、赤ちゃんが、宿っていましたよ。今、六週目くらいですね···」
頭が真っ白になった。
先生が話している内容が、少ししか頭に留まらなかった。
―嘘。でも、やっぱり···
「大丈夫よ。つわりも、その内収まりますから···」
心臓がとくとくと打つ音が、やけに大きく聞こえた。
△▼△▼
「···············」
帰り道。お互い、何も、話さなかった。
「···旦那。」
「···?」
「···私、子供なんか産んで良いのかな···?」
驚いて、彼女の顔を見た。
彼女は、泣いていた。
「人殺しで、親殺しで、そんな、血にまみれた奴が、子供を産めるのかな···?子供を、ちゃんと愛せるのかな···?そんな資格、私に有るのかな···?」
「·········さァな。判んねェよ、俺にも。
だけど、そういうのに、資格とかは要らねェだろ。それにお前、産んでも良いのかって、もしいけねェって言われたら、腹ン中の赤ん坊殺すつもりか?
いいか、たとえお前のその両手、その身体全てが血にまみれてたとしても、赤ん坊は、何の罪もねェ。ただの透明な命だ。そんなんを、殺したら、いよいよ終ェだぜ?手前で招いたこの現在、手前で責任とれ。そんで、子供に乗って幸せな未来にしろ。それが、親になったお前の、過去への贖罪だ。」
「··················」
「···心配は要らねェよ、なんせ、お前の周りにゃ、俺達が居るからな。」
「···ありがとう···············」
泣きじゃくって、もう鼻水もたれてる無様な姿を、何事だと見つめる周囲の通行人。
「···ホラ、みっともねェツラ晒すな。」
「う"ん······」
差し出したタオルをぐしょぐしょにするまで、道傍で泣いた彼女は、その後、恥ずかしそうに笑った。
「今日化粧してなくて良かったーほんとに···」
「···帰るぞ。」
「···ちょっと待って。行きたい所が、もう一つできた。」
△▼△▼
数日後
「たっだいまー!」
元気いっぱいに、奴は帰ってきた。
「藍華ーただいまー」
「···?んーおかえりー」
なんとも軽く挨拶をする奴に、少し悪ふざけをしてみたくなった。
「神威ー」
「ん?」
「子供産むから、私。」
「んー。·········えっ!!?子供ッ!!!?」
「そー。」
「えーッ!!?俺の!!?てか髪切ったね!!」
「今の流れで髪切ったね言うか···?そうだよ、アンタの子供だよ。」
「やったーーーーーーッ!!!!!」
「うるせェよ!!ったく···私はこの子産まれるまで、この星に住むから。いったんアンタとは別れることになるよ。」
「えー!!」
「だからうるっさい!!産まれたらちゃんと連絡するからさ!!!」
ギャーギャー言い合ううちに、また吐き気が襲いかかってきた。慌ててトイレに駆け込み吐く。
「大丈夫!!?阿伏兎ーッ!!藍華がゲロったー!!」
「ハイハイ。」
「ったく···」
ガンガン声が響いて頭が痛い。
居なかった時はあんなにも恋しかったのに、居たらわずらわしい。
全く、どっちかにしろよ。
「るせェっつってンだろーがバカシータ!!」
「シータプレイしてないから!!」
「してなくてもテメーはバカシータだ···ぅエッ」
「また吐いたー!!ホント大丈夫!!?」
「テメーのせいだ!!」
実は、この後に皆に妊娠わかったらどうなるか書こうかと思ったんですけどやめました。
まあ、理由としては後からでもかけるものであり、またあまり面白くないものであるからです。
子供がどうなるかの方が気になると思いますし。