ななななんのコトデスカ?
ワタシニホンゴワカリマセーン
「あー···暇ー···」
子供が出来たとわかってから、私はこの星に住んでいる。医療技術がトップレベルのこの星なら、何かあればすぐに相談できるからだ。
だが然し。
悪阻が治まった今、月が過ぎる毎にお腹が少しずつ大きくなる事を除けば、何も身体に異常がない。
因みに、只今妊娠生活五ヶ月目。
絶賛安定期中。
病院は、昨日定期検診を済ませたばかり。
異常無いですよー、と先生に言われた。
うん、異常無いのは私が一番判っている。
最初の方こそ吐きまくってて、質が悪い病気でも併発してんじゃないかと心配だったが、相談する度先生が"大丈夫、最初は皆そんな感じよ。吐瀉物に血が混じってたり、色がよっぽど変にならない限り普通の現象だから"と言ってくれたので信じたら、本当にそのとおりだった。
やっぱり、専門家の言う事は信用できるなぁ、と改めて思った所で一つだけ疑問が。
―これ、体調悪くないって結構暇じゃない?
「···暇って言われてもねー。今のお前を連れ回すなんてことできないだろ?流石の俺だってそれ位判るよ。」
「其所を何とか···!」
「いやいやいや。あんまり動くと良くないし、下手に色々としたらあのアンポンタンに殺されるよ、俺。」
「お兄ちゃんの癖して···」
「いや兄貴だから言ってんだよ!!!」
いい加減、兄貴との会話も堂々巡りになってきた。
こちとら退屈で仕方ないというのに、何処かに行きたいといえば反対ばかり。
旅話の一つも聞かせちゃくれない。
「···なんか無いの?面白い話。」
「俺が今までナンパした数とか?」
「ンなもん知ってどーすんのよ。」
「冗談冗談。···んー、そーだなー、面白い話かー···」
兄貴が少し考え込む。
「···無いな。」
「デスヨネー」
はあ。期待した自分が馬鹿だった。
そう思っていると、兄貴が苦虫を噛み潰した様な顔をして私の手をとる。
「···わーった。比較的治安のいい星なら連れてってやるよ。」
「···やったー!何処いくのー?」
「···んー、地球辺りが妥当か?」
「えへへー。」
「···ったく、バレたらどーすりゃいいんだよ···」
行先はアレだが、出かけられるなら嬉しい。
兄貴が小声でなにか呟いているが、キニシナイ。
「行くなら早く行こーよー!」
「あ、ちょ、ま、走るな!!!転んだらどうすんだよ!!!」
「転ばないから平気〜。」
久しぶりに、別の景色を見れる!
△▼△▼
「···榮蘭?お前、遂にやらかしたのか?」
「やらかしてないって!!だからそんな見下す様な冷たい目で見ないで小隈っち!!!」
兄貴の船に行くと、随分と可愛らしいという言葉が似合う女性が居た。苗字は、小隈さんらしい。
「···まさか、お前が孕ませたのか?」
「具見まで!!!···違う、藍華は俺の妹!!」
と思えば、もう一人別の人が現れた。オールバックに、サングラスが良く似合うワイルドな男の人。具見、というのは名前だろうか?
「···お前、近親相姦なんかする奴だったのか···」
「してない!!!これはちゃんと藍華の男との子供!!!というか何でそんなに疑うの!?妹居るって俺言ったよね!?」
兄貴が大声で叫ぶ。
兄貴にとっては沽券に関わるのかもしれないが、私から見ればこれは茶番に過ぎない。
だって、二人共うっすら笑ってるし。
「···嘘だよ。お前、エイプリルフールも知らないのか?」
「いや今日2017年4月2日だよ!?1日遅いけど!?」
「榮蘭、お前カレンダー見ろ。まだ4月1日だ。」
「はっ!?···え、嘘···」
確かに、カレンダーは4月1日になっている。···2018年であることを除けば。
明らかに嘘だが、面白いので少しばかり付き合うことにした。
「兄ちゃん、日付はちゃんと見ないと。」
「···う、うん···。うーん···」
私の一言で、兄貴は反論をやめて大人しくなる。
が、首を捻っていた。
「···まあいいよ。地球に、藍華連れて行くから。」
「了解。」
「わかった。」
兄貴の背後で、こっそりハイタッチしてる二人を、私はしっかり見ていた。
△▼△▼
「···あの星が――で、隣が――だ。」
「へー。」
船内にて。窓から見える色々な星の名前を、兄貴やそのお仲間の人達から教えて貰っていた。
知らない名前ばかりで、宇宙が広い事を改めて感じる。
「お前よりお前の妹の方が余っ程礼儀正しいな、榮蘭。」
「当たり前だろ?俺の妹だし。」
「···お前人の話聞いてるのか?」
「聞いてなきゃ返事しないって。」
「···はあ。お前に一々ツッコミをするのも面倒だからいい。」
「さいですか、小隈っち。」
「···いい加減その呼び方をやめろ。僕だって好き好んでこんな格好してる訳じゃないんだぞ···!!」
ん?好き好んでこの格好?
「···そーいやさ、前から気になってたけど如何して女装してんだ?俺さ、最初はからかってたから何も思わなかったけど、理由が気になる。あと前髪で片目隠してるのも。」
「······」
男だったんだ···。意外。
···って、それは置いといて。···小隈さん、凄い悲しそうな目してるけど······。
「あっ!···話せない何かがあったんだったら謝る!少し···ほんのちょっと気になっただけだから!」
兄貴がそれに気がついて謝る。
ふざけていても、根は他人を思う優しい兄だ。
こんな悲しい顔をされたら、堪えるのだろう。
「···。いいさ。別に。聞いたのはお前が初めてじゃない。僕も···いい加減話そうと思っていた。」
「···小隈っち···」
哀しそうに笑う小隈さんに、兄はなんとも言えぬ表情を浮かべる。
「···具見。···藍華とか言ったか?を、出してくれ。あんまりいい話じゃないからな。」
小隈さんが、私の方をちらりと見ながら具見さんに頼む。
「了解。···ちょっと行くぞ。」
「···ええ。」
私はそれに素直に従う。きっと、あの人は兄と二人で話したい事があるのだろう。
「······!藍華···」
兄が心配そうに私を見る。
「···。大丈夫。」
自分の部下くらい、信用しなさいよ。
△▼△▼
「···すまねェな。だけど、アレは本気で良くねェ話だ。特に···妊娠中のアンタには。」
「···そう。」
別に、そこまで興味がある訳では無い。
むしろ、過去にどのような罪を犯したのかなんて、私が知った所でなにかなる訳でもない。
私が興味を覚えたのは、片目を隠している前髪だ。
何故、隠しているのだろうか。
「···ねぇ、あの人の過去の話は別に教えてくれなくて構わないわ。だけど、前髪で片目を隠してる理由だけ、教えてくれない?」
私の言葉に、少し迷いを浮かべるが、了承してくれたらしい。
「···。其処なら問題ないか。いいぜ、教えてやる。」
「···」
「···単純な話。小隈さんは、オッドアイなんだ。」
「え?オッドアイって···あのオッドアイ?」
「ああ。両眼で瞳の色が異なる現象···人間だとかなり珍しいタイプな、先天性の遺伝子異常だ。」
「···異常?でもオッドアイは多少色合いが違うくらいだって···」
「
「···!」
「前髪で隠してない方の瞳は青色だろ?」
「え、ええ···」
「隠している方の瞳はな···赤色なんだよ。純粋な···赤色。青なんて一滴も混じっちゃいねェ···これは反対の青色でも言える事だし···」
「純粋な青と赤の瞳なんて···嘘···」
「嘘じゃねェ。正真正銘、嘘偽り無き真実さ。···判ってるとは思うが、そんな事例は確認されているのは星単位で言っても数件あるかないか。本当に極僅かな事例なのさ。」
「···でも、大抵そういう瞳の人の目は···」
「見えねェ。そう、そもそも異常により色が異なってるわけだからな······だが、小隈さんの目は普通に見えてんだ。こっちの方は、さっきの星単位で数件よりも更に少ない。星単位で1件あれば奇跡のレベルなんだ。」
「···つまり···」
「···目立つんだよ。察してくれたとは思うが、結構なモン抱えてンだ。だから、隠してるし女の格好している。」
「···そう、なのね。」
何となく、あの瞳の哀しさの理由がわかった気がした。
「···。因みに、俺がサングラスをかけてる理由に小隈さんは密接に関わってる。尤も、これはもう外せないもんだけどな···」
ぽつりと呟く。その目にも、暗い光があった。
「···貴方も何か抱えてるの?」
「俺?俺は大したことないさ。ただ···」
目を閉じて、ふっと笑う。
「全てから逃げちまった。家族も、友人も、···恋人も、捨てて、な。」
「···」
「馬鹿だろ?笑ってくれても構わない。」
「···本当に?」
「···ああ。理由も随分身勝手な、しょうもない、見栄とプライドだ。」
外の星々を見る横顔は、何かに怒っている様だった。
「···貴方、意外と嘘つきなのね。」
「そうかい?」
「ええ。さっきからずっと嘘をついてるでしょう?」
「···。さァねェ。嘘と受け取りたいなら、嘘と受け取ればいいさ。だが、俺は嘘をつくとは言ってないぞ?」
「嘘をつかないとは言ってないし、全て真実を話しているとも言ってないわ。」
「···ま、話なんて多少の嘘は付き物だろ?全部本当である必要はないさ。」
「···。そうね。多少嘘で飾ったものの方が、美しくは見えるわ。だけど···」
「···?」
「苦しくならないの?···嘘偽りのある自分しか、認めてもらえないのが。嘘偽りの自分しか、見てもらえないのが。」
「···!?」
「嘘のない自分は醜いのかもしれない。穢いのかもしれない。···けどね、そんな自分は何処までも透明なの。何処までも、真っ直ぐなの。負い目も何も無い、赤ん坊みたいに。」
「······」
何を真面目に語ってるんだろう、私は。
人の事なんて、言えた義理じゃないのに。
「···って、隠し事ばっかりの私が言えた義理じゃないけどね。気にしないで。」
「···いや、お前の言ってる事は間違っちゃいねェよ。···それが出来たなら、ちったあ楽になれンのかもな···」
「···そうね。凄く、難しい事だけれど···」
お腹をさする。
この子には、嘘に塗れた人生を送って欲しくない。
今私が言った様に、透明なまま胸を張って生きてほしい。
――嘘の中にも、真実はある。
あ、あれ?何かよくわからない話に···過去編のつもりは無いんですが···。
···あと、オッドアイについてですが、これはあくまでも私の想像上にある架空の説明に過ぎないので、信憑性は0です。
小隈さんたちの過去はまた何処かで。うん。何処かで。