赤ん坊って可愛いですよね!
バンッ!!!
勢い良くドアが開かれる。
「産まれたッ!!!?」
奴が、息を切らしながら入ってきた。
目がキラキラと輝いている。
「···数時間前にね。」
「やったーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「るせェッ!!起きちまうだろーが!!!!」
大声で叫ぶ。非常識か、此奴は。
せっかく安眠してるのに、それを妨げてどうする。
そして、此処は病院だ。
大声を出す場所ではない。
「見せて見せて!!!」
「ンな急かさなくても見せる!良いから少し声の大きさ小さくしろ!!!」
相変わらず大声の奴を黙らせてから、赤ん坊―寝てる―を渡す。
「···ほら。」
「うわぁ······。ちっちゃい···」
「···当たり前でしょ。赤ん坊、なんだし。」
スヤスヤと寝ている様子を見ると、自然と頬が緩む。
元々子供は好きな性分だが、自分がお腹を痛めて産んだ子供は格別に可愛い。
「···名前って、つけたの?」
「まだ。···アンタがつけてよ。」
「···えっ!?俺!?」
「だってこの子、男の子だし。やっぱ男だったら父親がつけるもんでしょ?···あ、女の子産んだら名前つけさせてもらうから。」
父親、という言葉を聞いた瞬間、神威の顔から笑顔が消える。
「···そっか。俺、父親になるのか···」
やけに真剣な奴に、思わず笑ってしまう。
「何を今更確認してんだか。···私がこの子身篭った時から、とっくにアンタは父親なの。···お父さんなら、早く名前つけてあげて。」
「···わかった。···名前、名前···。うーん···」
子供を抱えたまま、考え込む奴。こりゃ失敗したかな、と心の片隅で思う。
このまま行くと、何時間も考え込まれそうな気がする。
「···」
「···決まんなかったら······」
私が決める。そう言おうとした瞬間、奴が急に叫んだ。
「神凌!」
「へ?」
「名前だよ、名前!···神凌が良い!」
「かんりょ?漢字は?」
「"神を凌ぐ"って書いて"神凌"!ね、良くない?」
素直に驚いた。こんなまともな回答が来るとは思わなかったからだ。
「アンタにしては凄いまともな名前じゃない。···明日は槍でも降るのかしら。」
「どーいう意味!?俺だって真面目に考えてるよ!?」
「···はいはい。構わないわよ、それで。」
「やった!」
嬉しそうに腕の中の赤ん坊―もとい、神凌に話しかける。
「神凌〜。俺がお父さんだぞ〜♪」
「···寝てるのに聞こえる訳無いでしょ?それに、あんまり話しかけると起きちゃう···」
「···うー?」
そういうが早いか、神凌が目を覚ます。
「あっ!起きた!起きたよ、藍華!!!」
「見えてるって。おはよう、神凌。」
私は微笑みかける。
神威は、顔を見て興奮しながら話す。
「わ、神凌の目は藍華の目の色と同じだね!!髪は···俺と同じだ!!!」
「そりゃあ、アンタと私の子供だもの。半分位ずつ似るのが定石よ。」
興奮が収まりきらないのか、神凌の顔をじっと凝視する神威。
すると、寝ぼけ眼だった神凌は、きょとんとしながら神威を見つめた。
そして――
「ふっ···ふぇぇぇ···」
「えっ?」
「あっ···」
「ふええぇぇぇぇぇぇーッ!!!」
大泣きした。
△▼△▼
「あ、ど、どうしよう!?どうしたらいい!!?」
大の男が取り乱して、オロオロと歩き回る姿は非常にみっともなかった。全く、この光景を見るのは何度目だろうか。
「···はー。貸して。」
「う、うんッ!!!」
火がついたように泣く神凌を、急いで、但し丁重に渡す神威。私は神凌を受け取り、腕の中で、あやす。
「ほーら。この人は知らない人じゃないわ。貴方のお父さん。よちよち、怖くないでちゅよー···」
「···(ポカーン)」
私の腕の中に収まると、途端に泣き止む神凌。何やら奴は私の言葉遣いに言葉が出なくなっているようだが、キニシナイ、キニシナイ。
「キャッ♪キャッ♪」
「笑った···!」
「···あら、ホントだ。···可愛い···」
天使の笑顔とは、まさにこの事だろう。
何処までも真っ直ぐで、無邪気な笑顔。
「···。楽しみだなー、どんな風に育つのか。」
しみじみとしている奴に、少し毒を吐きたくなった。
「···。アンタには似せないから大丈夫。」
「ちょっとそれどういう事!?」
「そのままの意味。悪い所似られたらたまったもんじゃないわ。ねー、神凌ー。」
「あ!」
意味はわかってないだろうが、元気よく私の小指を握る神凌。あ、これヤバイんじゃ···
「···なんかミシミシいってるけど!?」
「き、気の所為よ。気の所為。あははは···」
痛い。小指がとてつもなく痛い。
「···か、神凌!!藍華の小指離せ!!!折れる!!」
「うー?(ミシミシ)」
あ、ヤバイ。そろそろ折れる。真面目な方で。
「痛たたた···!···ごめん、神凌、少し握るの緩めてくれないっ···?」
神凌の顔をじっと見つめながら、頼む。
「···あ!」
通じたのか、飽きたのか――真意は本人にしかわからないが、指が開放される。
「うわ真っ赤···」
「だ、大丈夫!?」
神威が慌てて私の手を掴む。···真っ赤に腫れた小指のある、左手を。
「いだぁぁぁぁぁッ!?」
余りの痛さに思わず叫ぶ。神凌に抓られ、その後すぐに神威に強く掴まれたせいで、赤い指に赤黒い痣が出来た。
「あっ!!?ご、ごめ···」
「殺す気かァッ!!!てか今のアンタのせいで完全に折れたよ!!!!」
そう、さっきパキッ、というイヤーな音が聞こえたのだ。確かめてみると、小指を動かそうとしても、くたりとしたまま動かない。
完全に骨折である。
「···キャッ♪キャッ♪」
神凌はというと、楽しそうに笑っている。
自分で産んだ子とはいえ、夜兎とは恐ろしいものだ。
「···陣痛と出産の痛みの次は骨折の痛みか···。笑えねー···」
情けないというかツイて無さ過ぎて、どっと疲れてしまった。神凌は、気がついたら寝ていた。
「え、えーと···ナースコール、する?」
「···あったり前だこの大馬鹿野郎!!!」
(この後、神威は看護師さんに物凄く怒られた。···『出産して疲れてる女性に怪我を負わせるなんてどういう神経してるんですか!?貴方の奥さんでしょう!?亭主関白じゃないんですよ!!!』と。)
△▼△▼
数ヶ月···
「たっだいまー!!」
「はいはいおかえり。ほら、神凌も。」
「うあー!」
「おー!!結構髪生えてきてんじゃん!俺と同じ色!!!」
あの後すぐ出張に行った奴は、帰ってくるなり神凌を抱き上げて騒ぐ。
「そーね。てかそろそろ降ろさないと泣くわよ?神凌はあんまり高い所好きじゃないみたいだし。」
「えー!俺もっと抱っこしてたい!!!」
「···泣いたらあやすの私なんだけど···」
脇の下を掴んで高い高いをしようとする神威に、神凌が強烈な蹴りを放つ。
「あー!」
「うぐっ!?」
それが神威の顎にクリーンヒット。何とも言えぬ声を上げて、神凌をベビーベッドの上に降ろす。
「あら···。他の人だと泣いたのにアンタだと蹴るのね。ちゃんと見分けついてるのかしら。」
「えっ!?俺以外蹴られてないの!?」
「ええ。···神威、何か疾しい事隠してンの?」
私がジト目をして聞くと、慌てふためいて神威が弁解する。
「な、無いって!!そんな事してない!!!」
その様子が面白いので、少し悪ふざけをしてみる。
「ほんとかしら。蹴られたってことは何かやらかしたンじゃないかなーって思ったんだけど。」
「違う!!!断じて俺は他の女に手を出したりとかそういうお店に行ったとかそういう事実はない!!!」
「ほんとにー?」
「絶対ない!!!命賭ける!!!!」
「言ったな?後悔しないな?」
「しない!!!だって俺無実だもん!!!」
「···」
かなりムキになり始めたので、この辺で悪ふざけはやめることにした。···にしても、毎回毎回冗談なのによく真面目に回答してくれること。
これだから、癖になってやめられない。
「わかったわかった。今回は信じるわ。」
「うーあっ!」
神凌も大きな声を出す。
親バカかもしれないが、同意している様に聞こえる。
「···さー神凌お風呂に入れてくるかー。」
「お風呂?こんな時間に?」
「まあお風呂って言っても、お湯入れたタライみたいなやつにつけて軽く洗ってあげるだけよ。私は後で入るし。」
「え、その間神凌は?」
「んー···。何時もは旦那に見てもらってるけど、今日はアンタ居るから見てて。高いところに持ち上げなければ基本泣かないからさ。」
「りょ」
「今時の子供か。···さ、お風呂入ろうねー、神凌。」
「あ!」
元気よく神凌が返事をする。
元気がいい所は、奴に良く似ている。
「···まさか性格まで似てないわよね?」
「うー?」
少し、寒気がした。
「気の所為よ気の所為···」
果たして似てしまっているのか!?
神を凌ぐ、で神凌(かんりょ)と読みます。
理由?
まあ、春雨史上最強の男と天才女殺し屋との間の子供だし神を凌いじゃえってことで。