後書きはまた別に投稿しまーす。
「まてまてー!!」
「やだよー!捕まらないもんねー!!!」
「お兄ちゃん、こっちこっち!!」
「うぉー!!!」
「「きゃー!!」」
久しぶりに姪っ子と甥っ子と遊ぶ休日。
元気一杯なその姿は、子供らしくとても可愛らしい。
「そぉら、捕まえた!」
「「きゃー♪」」
二人を両腕で抱え、グルグルと回る。十歳と七歳の兄妹は、楽しそうに笑っていた。
「目、目が回った······」
「えー!もっとー!!!」
「もっとやってよー!!」
「ご、ごめんちょっと休憩···」
「···えー。···しょうがないなー。火藍、俺達だけで遊ぼうぜ?」
「そうだね~。おじちゃん、疲れちゃったみたいだし。」
な、おじさ······
「三十路超えたらおじさんでしょ、兄ちゃん。」
「うおっ!?······って藍華か。ビックリさせんなよ。」
「ビックリさせるなんて人聞きの悪い。疲れてるみたいだからお茶持ってきてあげただけなのに。」
それとも要らないの?と言われ慌ててお茶を受け取り飲む。ヒンヤリとしていて、火照った体に染み渡る。
「あ"ー。茶が美味い······」
「完全におじさんじゃないの。」
クスクスと笑う藍華を見ていると、喉まで出かかっていた文句が消えてしまった。
ああ、自分はつくづく藍華に甘い。
「···藍華も、随分と母親が板に付いたよな。俺と一緒にいた時は全然違って。」
「当たり前じゃない。だって、今の私は"守られる"側じゃなくて、"守る"側なんだもの。」
泣かせたら承知しないわよ?なんて言う姿は、すっかり母親だった。藍華が幸せになってくれて嬉しいが、自分が守るという役目がなくなりつつある事に少し寂しさも感じた。というか
「俺も子供欲しいな~」
「無理無理。」
「即答!?」
「だって兄ちゃんチャラいじゃん。」
「チャラくないよ~、俺は。ただ女の人につい声かけちゃうだけで~。」
「それがチャラいの。···というかちゃんとしてないと今の彼女さんにフラれちゃうよ?」
「こいつは手厳しい言葉で。」
流石の俺も思わず苦笑い。
全く。これじゃあ何も言い返せないじゃないか。
お互い他愛のない話で暫し盛り上がった後――
「······ねぇ、兄ちゃん。」
「ん?何、改まっちゃって。なんか相談か?」
冗談っぽく返したつもりだが、藍華の真剣な瞳に目が離せない。ピン、と張り詰めた空気の中、俺はゴクッと息を呑んだ。
「···お父さんとお母さんの事、まだ恨んでる?」
「······」
スッ、と体から血の気が引いた。
当たり前だろ、と答えれば済むものが喉に引っかかって出てこなかった。
胸の中のどす黒い感情が、その言葉を押し上げているのに、何か別のものが、それを引っ張っていて、言葉が出なかった。
「···答えて。」
藍華の両手が、そっぽを向いた俺の顔を無理矢理向き合わせる。その瞳には、強い光が宿っていて、有無を言わせないものがあった。
「······ねぇ···」
「···はっきりして。」
「···わかんねぇ。」
ようやく絞り出せた言葉は、"分からない"だった。
だが、それを皮切りに、胸の中の鬱屈が流れ出した。
「前までなら、俺は、絶対恨んでるって答えた。それが俺の中の、"親"の認識だったからだ。」
そう、そうだ。
しっかりと俺を見ながら、俺を"何処?"なんて言っていた狂った母親。
「これっぽっちも愛してねぇくせに、偽りの愛情ばっか注いで、挙句その化けの皮あっさり剥がして···」
母を殺した俺を、いともたやすく殺そうとした父。藍華に刺された時も、俺達を恨んでいたに違いなくて。
でも、きっと、きっとアレは―――
「···全部、俺が原因だったんだよ·········っぁ···!!!!」
認めたくない、認めたくない。
俺のした事が全ての発端なんて。
俺があの時殺さなければ、何もしなければ、俺達は離れ離れになる必要がなかった事も。
たとえ、偽りが含まれていても幸せに暮らせていた事も。
藍華や、俺が、人殺しという汚名を背負わずに済んでいた事も。
だけど、だけど――!!!
「···ぁ、ごめ、ごめんな、藍華。俺、俺は、ずっと······逃げ······」
喉がつまって言葉が出てこない。
そうだよ、ずっと前から、わかってたんだよ。
俺は、俺自身を、ずっと正当化してたんだ。
ヤクザ達が殺そうとしたから、思わず殺しちゃっただけで、俺は悪くないって。
親が殺そうとしたから、思わず殺しちゃっただけだけで、俺や藍華は悪くないって。
そうやって、自分の罪から目を背けて、逃げて、のうのうと生きてきたんだよ。
何も無いフリして、軽く振舞って、後ろめたいものはすべて無視をして。責任を突きつけられねぇから、負う必要もねぇなんて勝手に自己解釈して。
身勝手で、我儘な暴君として、生きてきたんだよ。
時折囁いてくる良心を握り潰して、欲望塗れの悪心だけを受け入れて。
どんどん真っ暗な闇に沈んでいく自分を褒めて。
過去を気にしようとする自分を蔑んで。
自分に都合がいいように、周りを操って。
誰が見たって、最低としか言いようのない身で、生きてきたんだ。
「お前が、覚えて、ないっ、からっ······!嘘、教え込んで······!守るつったのに、守れて、なくてっ···!何もできない、自分すら誤魔化して······!」
結局、全てを都合よくしていただけなんだ。
一番罰せられるべきは、俺だってだけなのに。
馬鹿野郎なクズだってのに。
なのに、お前は、何故、そんな憐れむような目で、俺を見てくれるんだ?
俺を、泣いている赤子をあやす様に優しく抱きしめてくれるんだ?
なんで、見捨てもしないで、受け入れてくれるんだ?
「···泣きたい時は、泣いていいんだよ、兄ちゃん。私は、兄ちゃんに対して、憎い気持ちなんて、少しも抱いてないんだから。むしろ――」
ああ、ほんと、何処までも、よくできた妹だよ、お前は。藍華、お前が妹で、俺はほんとによかった。
「胸の中につっかえてたこと、全部話してくれたことが、嬉しいから。」
眩しい笑顔。俺にとっては太陽みたいで、そして俺にはもったいないくらいのもので。
――繰り返した夏の日の向こう――
△▼△▼
「···私は、一度たりとも兄ちゃんの事を恨もうとした事も、憎もうとした事も無いよ。親のこと全部知った時も同じ。
だって、さ。
兄ちゃんは、私に辛い思いをさせたくないから黙ってたんでしょ?今は、自分を誤魔化すためとか何とか思ってるみたいだけど、その時はきっとそう思ってたんだよ。
私は、全然覚えてなかったからそれで構わなかったし。
それにさ、ずっと私のこと気にかけて、優しくしてくれてたじゃん。それがさ、凄く嬉しかったし楽しかったんだ。その優しさは贖罪の意味もあったんだろうけど、純粋に私の事を思っててくれた意味もある筈なんだよ。だから、もう苦しまなくていいの。私のことで、ずっと悩んでいなくていいの。······―――」
「···」
鼻水垂らしてみっともなく大泣きしている大の男と、それに優しく語りかける女。何これ。お兄ちゃんとしてのメンツ、丸つぶれ。
「···なぁ、藍華。」
「···?わっ!」
何か、慰められたら、お兄ちゃん、元気出ちゃったんだよねー?だから抱き締めてもおKだよね?
「···ありがとう。俺の妹になってくれて。」
「···!···こちらこそ、私のお兄ちゃんになってくれてありがとう。」
願わくば、こんな平和がいつまでも続······
「···何してんの?」
「「え?」」
あちゃ、馬鹿が帰ってきちゃったよ。
あ、てかこの体制やばくね?
俺、藍華の事めっちゃしっかり抱き締めてるけど?
「······へーえ。俺のいない間に何かお楽しみ、だったみたいじゃん。」
バキ、ボキ、と指を鳴らしてジリジリとこちらに近づいてくる。うん、こーいう時は···
「逃げるに限るっ!!!」
「逃がさないぞ♪」
藍華をしっかりと抱き抱え、勢い良く走り出す。
捕まったら最後、人生のGAMEOVERだ。
「待てぇぇー!!!!」
「嫌だぁぁー!!!!」
「···やれやれ。」
人生、楽して楽しんだもん勝ちだぜ!!!