ゲームの呪いの正体が輝明の意識を乗り移り、二日間も動いていた。呪いの名はハイド。輝明が意識を失っている間に身体を乗っ取られ、ルーラの為に時間稼ぎの手伝いをしていたが、時間稼ぎを含めラ・ピュセルとスノーホワイトをハイドの余興の為にゲームを行なっていた。
(こんな奴の身勝手が続いたら…俺がどれだけ穏便なことをしてもっ…!)
輝明はハイドの余興のせいで、この力についてスノーホワイト達がシスターナナ達に報告されるんじゃないのかと困っていた。今は問題ないが、こんなことが度々起こしてしまえば、必ず自分の身に返ってくる。
『あとそれと頼みたいことがあるんだが、次に誰が脱落するか教えろ』
「…教えなかったところで、断れば俺の意思を無視して身体を乗っ取るんだろ」
『分かってるじゃねぇか?この世界の未来のことについて知っているんだろ。
でなきゃ、ルーラ達の魔法を確実に当てることはできないからな。それはたまから教えてもらったぞ、いいから早くしろ』
輝明はハイドに次に誰が死ぬのかを話すしかなかった。断わったところで身体乗っ取られるのは目に見えている。
こうなった以上、身体の自由をどうにかするためにはとにかく自分の原作知識をハイドに提供するしかない。
「ルーラの次に…ラ・ピュセルがクラムベリーに圧倒されて殺される」
『…なんだと?』
その言葉を聞いてハイドが驚いている。さっきまでゲームをしてふたなりにさせたばかりの子を次に殺される。
ハイドはあぐらをかいて頭をかいて考えて、独り言を言ってラピュセルをどうするか決めていた。
そして、
『おい、そいつを殺したクラムベリーの情報を全て教えろ』
「わ、分かったよ」
クラムベリーの詳細をハイドは険しい顔をしながら真面目に聞いていた。
彼の殺気が漂っている。
(ラピュセルの身体を改造しておいて、なんで心配なんか…お前にとってはただの余興相手だろ。それなのになんでこんなことを)
「これで全部だよ…まさかラピュセルを助ける為にお前が挑むのか?」
『あぁ、そうだ。気に入ってるからな、そいつのことが』
「気に入ってる?なんで?」
『あんな
ハイドがラ・ピュセルと初めて出会った時、身体を改造しようと思っていたのはその子の性格、あり方がとても気に入っていたからだ。彼にとっては闇堕ちさせて、自分のもののしようとしていたつもりが残念な結果になってしまった。
それでも、ハイドはすぐ死なせるのは惜しいと言っている。
対して輝明の方は力に慣れて、余裕があれば魔法少女をできるだけ多く生かしてあげたいとは思っていた。その時はまだ呪いの力についてはまだ分からないために住処をどうにかしてから考えようと思っていた。
(聞いててこいつの目的がわからない…ラ・ピュセルを助けたところで恨まれ…るのか?スノーホワイトと関係を深めたきっかけはこいつだし…というよりハイドはラ・ピュセルの中身の性別を知らなかっけ?)
ラ・ピュセルのことを女だと言ったということは実は変身前が男だということを、ハイドは全く知らない。ハイドと輝明の唯一の違いはこの物語(原作)を知っているか否かだ。
(まぁいいか…こいつがスノーホワイトとラ・ピュセルについて深く介入してくる気ならいつかは分かるだろ。最悪俺から二人のことについて聞いてきたら答えればいいし)
『言っておくが、ルーラにはこのゲームで死なない代わりに俺達の食料を手伝えということにした』
「成る程ね、それでルーラが…」
『誰かが補給してくれないと餓死してしまうだろうが。戸籍もないのにうろちょろしたら怪しまれるだろ』
住処を住ませてもらい、強力な力を持っているとはいえ食べ物、水などの生命ラインがないと彼も生きていけない。
「前から気になってたんだけどさ…その…俺のような一般人に正体がバレたら魔法少女の資格を失うってのがあるんだけど」
『そんなもん、お前を転生させた神とやらが調節したんじゃないのかよ?お前の場合は一般人というより転生者だからな?』
「はぁ…調節ねぇ」
能力(特典)は強制、転生先は自由だったもののここまで酷だとは彼自身思わなかった。小学生とかに転生というわけではなく、戸籍も何も保護が皆無な状態で転生させられたのだから、ルーラ達の住処を輝明が知らなかったらいつ死んでもおかしくない。
『ともかく
(こいつっ…舞台って言ってもどんなゲームで挑むつもりなんだ)
ハイドはそう言うと、輝明が次に鏡を見た時にはハイドではなく、自分自身が写っていた。
*****
夕方頃、ルーラこと早苗はハイドのゲームによって生きることはできたものの代償として輝明の言いなりにならざる負えなかった。早苗は会社から帰るとコンビニで買ってきたおにぎりとお茶を持っていく。
この時間帯は誰もきていない。
「ありがとう…ルー…早苗さん」
「…まさか、生かす代わりに生活面を手伝ってくれだなんて…」
ゲームに脱落したミナエルとユナエルからは早苗を見て思いっきり笑われていた。力のない一般人の彼女が二人を懲らしめようとしたところで返り討ちに合うのは目に見えている。ピーキーエンジェルズのことだから嫌がらせをされるに決まっている。今まで散々見下されていたのだから、今度は彼女らがルーラこと早苗を虐める。
力のない早苗は暴言に対して耐えるしかなかった。
「屈辱だわっ…こんなのっ‼︎」
「まぁ、死なないだけマシだと思って考えた方がいい「貴方は黙ってて」」
肉壁になるはずの四人に騙され、しかも一番信用していたスイムスイムにまで嵌められたことにショックを受けている。
「魔法が戻ったら絶対に…!」
(いやどう考えても無理だって。どう考えても多勢に無勢だよ…君を守る魔法少女はいるの?いないでしょ?)
早苗が魔法少女に戻ったところで、今度は複数を相手にしなければならない。ルーラは相手を従わせる魔法だが敵が多すぎる。結局、前の力を手にしても無駄であることには変わりなかった。
力を行使したところで一人では何もできないルーラでは返り討ちにされる。
(やり過ぎたらまた殺されそうになってしまうし、今の君は俺とハイドの召使いのようなものになってるんだから…俺が言わなくてもハイドに止めろと言われる時点で終わりだよ)
「貴方は良いわよね、そんなに気軽にできて‼︎」
「えっ、ええええなんで俺⁉︎」
早苗の怒りの矛先がピーキーエンジェルズとたまではなく輝明に向けられる。ルーラになっていた時は3人をバカだのアホだのと見下していたが、
「どいつもこいつも私のことをバカにしてっ!生意気なあのバカ3人にも、言うことを聞いてくれたスイムスイムも…なんでっどうしてこうなるのよっ‼︎」
「いや、俺に怒られても」
「分かってるわよそんなことぐらいっ‼︎あいつらにもっ、気づかなかった私自身にも怒ってるの‼︎私のやってることは何も間違ってなんかないのに‼︎
私はっ…」
早苗が抱え込んでいた怒りと恨みが大声に出して叫んでいる。こんな声をピーキーエンジェルズが聞いたら負け犬の遠吠えだのと罵り、笑ってからかうだろう。
「分かってるよ。君は確かに口は悪いよ。バカだのボケだのと…その点に関しては君の自業自得かもしれない。
でも君は、スノーホワイトのキャンディーを分けずに全部取ろうとはしなかった。それに計画を立てたのは全部ルーラだ。部下を捨て駒にしようって考えてなかったんだよね。だってチームの中から脱落者を出して欲しくなかったはずだから。
その思いを裏切られた。
君が辛いのは、こっちも分かるよ。
それに、そっちはまだ希望があるでしょ。君は無職じゃないし、ちゃんとした住む場所もある。むしろ俺の方が絶望的だからね。だってそもそも俺に戸籍がないし、住む場所もお金もない状態でどうやって生きればいいんだってところから始まったんだよ。俺にあるのは娯楽具と衣服諸々と正体不明の力だけだったんだから?」
転生されただけの輝明には戸籍もお金もない、あるのは正体不明の呪いの力と遊具、必要最低限のものしか入ってない。こんな状態でどこかに移住して生活するなんて極めて難しいからだ。
「貴方に力があるなら、他人から奪えばいいじゃない。食べ物とお金、それに証拠隠滅のために記憶を消去して…」
「そんなことしたら君達魔法少女が僕の悪行を黙ってないだろ?警察と魔法少女の両方を相手に賭けを続けても、こっちが賭けをする前に暗殺をしてくる子だっている」
「それもそうね…」
立っていた彼女は黙ったまま隅っこで体育座りをしていた。顔は下を向いており、とても落ち込んでいる。彼女の人生で彼女を注意してくれる人や裏切らず信頼における人がいなかった結果、どんなに頑張ったとしても裏切りが生じた。
「なら聞かせてくれないかな?早苗さんの経験談とか」
輝明は彼女の苛立ちを何度も聞き、頷いた。学校、会社での不満。自分の価値観を認められず、辞退させられたこと。
魔法少女になって以降、気に入らないカラミティ・メアリに教育されたことと。彼女を跪ける為に魔法少女をコツコツと集めてピーキーエンジェルズとたま、スイムスイムと勢力を多くした。彼女の話が魔法少女育成計画になって以降口が閉じてしまう。
それから先は彼女にとって思い出したくもない最期に迫っていたため話したくはなかった。
「落ち着いた?」
「…少し。胸がスッとした」
長い時間話した後、ようやく彼女の怒りが静まる。今度は早苗が彼のことについて聞き出してきた。
「…貴方、本当に何者なの?」
「転生されてやって来ました…なんて言っても信じるわけがないか」
「転生…生まれ変わるってこと?」
輝明は転生したきっかけを早苗に話した。転生前の悪運の度重ねで、アルバイト中に強盗が入り、その後タンクローリーが突っ込んできて大爆発により事故死したことを。
「俺は大学生だったからね。社会に入る前に死んじゃったよ…ってそろそろ時間かな」
外はだんだん暗くなってきており、ピーキーエンジェルズとスイムスイム、たまの四人がここに来る。
「もう十分やったから帰るわよ。今日は貴方と少し話をしてよかったわ」
「うん、魔力の方は後からまた言うよ」
早苗は食べ物を輝明に差し出してさっさと帰っていった。
*****
夜
「ちょっと四人に話があるんだ、いいかな?」
「…何?」
輝明は四人に話をかけてきた。たまとスイムスイムは輝明をちゃんと見ており、ピーキーエンジェルズは輝明のことを見向きもしてない。
(…睨まれてない?)
輝明もまたピーキーエンジェルズのことは放置し、スイムスイムの方をじっと見ている。彼女は輝明に対して憎悪などの憎しみや恨みのの感情を抱いてない。
「昨日、ルーラがいないから指揮系統について言ったけど…戦闘と戦略の方は君達で自由にやってくれ。でも俺が出る時は協力して「それ、昨日貴方がそう言ってた」えっ俺が?」
「うん言ってたよー」
(ハイドの奴…指揮系統が回ったってだけじゃ分からないだろ)
ミナエルとユナエルはマジカルフォンをいじりながら答えている。これでスイムスイムが輝明に敵対していないことがわかったが、
『悪いがここまでだ』
「おまえかっ…⁉︎」
話の最中にハイドが輝明の意識をまた乗り移ろうとした。
『変更の時間だ。お前には眠ってもらうが…ラ・ピュセルの死については俺がどうにかしておいてやるよ?』
ハイドがラ・ピュセルをどんな方法で死なせないのかは分からなかったが、助けようと考えている。しかし、ラ・ピュセルの死をどうにかするだけではなく、他の魔法少女にも手を出しかねない為に、意識を取り込まれまいと足掻いている。
『ラピュセルの件は俺が出向かないとダメだ。分かるだろ?』
(そんなの分かるわけないだろ‼︎俺の身体を使って面白半分で事を増やそうとするわ、お前は一体何がしたいんだよ‼︎)
輝明の返事に対してハイドはすぐに答えたが、
『残念だがノーコメントだ』
(なっ、俺の身体を好き放題使っておいてっ…‼︎)
『俺からも言わせてもらうが、この身体の所有権は俺が持ってること忘れんなよ?お前は黙って俺に従えばいいんだよ?まぁ、ただ一つ言えることとするのなら…俺はただ相手を強引にゲームに引き込ませて、そしてこの闇のゲームで勝ち続けりゃそれでいいんだよ』
その言葉を最後に輝明の意識は遠のいていく。今度は風邪や高熱ではなく、強い睡魔が襲っていた。彼は壁に横たわり、寝まいと抵抗するが数分経っていくうちにゆっくりと目が閉じていく。
(くそッ…これじゃあアイツの思い通りに)
そして彼はまたバタリと倒れてしまった。
2分後
「さってと…」
彼は両目を開き、両腕で身体を起す。
自分の部屋に戻りケースの中からクラムベリーを倒すための遊具を机の上に用意する。手荷物の準備と、外に出かける支度を用意した後に
「ミナエル、ユナエル、たま…ちょっと3人に頼みたいことがあるんだけどいいか?」
ピーキーエンジェルズとたまに話しかけた。彼の瞳はまた黒から赤へ、人格が輝明からハイドへと変わる。ハイドはふたなりを生やさせたラ・ピュセルを殺そうとするクラムベリーを相手に、輝明が教えた情報を利用して、ゲーム内容を考えていた。
(ラ・ピュセル。テメェがすぐに死ぬのは俺にとっては惜しい。だから助けてやるよ?)
ラ・ピュセルが死ぬ前日までに、ハイドはゲーム内容の作成をしている。
(手加減はしないぜクラムベリー?俺の策に敗れてお前が死ぬか、見破られて俺達が死ぬかだ)