朝、目覚めた黄泉川愛穂は自身の体の異変に気付く。
久しぶりに痛飲した。いや、むしろ飲みすぎたのかもしれない。
というのも、鉄装の奴がくだらないことをネチネチネチネチ聞いてくるからいけないじゃんよ。
自分だってそういう相手が居ないくせに、桃色な妄想を繰り広げられちゃ堪らないじゃん。
そりゃあまあ、私だって女だから、そういうこと想像したりとか、いいなとか思った男の人がいたことはある。
それでも教員、とりわけ警備員になってからはそういうこととは縁を切ったというか、仕事の方が楽しくなったじゃんよ。
で、気が付いたら、そういう経験なんかしたこともなくこんな歳になっちゃったし。
鉄装に馬鹿にされるのはなんかムカつくじゃん?
私がその気になればすぐできるじゃんよ。まあ、そういったことができる相手がいればだけど。
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「…んぁ?寒い」
小さく身体を震わせて、黄泉川愛穂は目を覚ました。
「うーん。頭痛ぁ。飲みすぎた。それに、ここ、どこじゃん?」
ベッドサイドのスイッチを押してルームランプの明かりを点けながら、警備員の研修なんかのときによく利用するビジネスホテルの一室であることに気付く。
「なんで裸?いや、それよりも股が痛いじゃん」
下半身の鈍痛とごわついた感触に、愛穂はそっと手をやって確認して、小さくため息をついた。
「…どう考えてもした後じゃん。しかも生」
一体誰と?
とりあえずベッドの下に脱ぎ捨ててあったジャージや下着類に目を向けると、その向こう側で大きな何かが動くのが見えた。
「…誰じゃん?」
視線を上げる。するとそこには、壁に張り付くようにして体育座りをしているツンツン頭の少年がいた。
「あー、小萌センセのところの、上条じゃん?」
声をかけると、ツンツン頭の少年はビクッっと全身を震わせ、それから怯えた眼差しで愛穂を見る。
「黄泉川…先生」
「…なんでそんな怯えてる?」
「いや、だって、先生…。あれ、もしかして、覚えて、いらっしゃらない?」
「この状況から、お前とセックスしたっていうのは想像付く。しかも生」
「わーわーわーわーわーっっ!!お、女の人がそんな生々しい言葉使っちゃいけません!!」
「いまさらじゃん。それにお互い裸だし。っていうか、そもそもなんでお前とこんなことになったじゃん?」
愛穂は身体を隠そうとはせず、眉間に指を当てて考え込む。
「…先生が酔い潰れて路上で座り込んでいたのを見つけて、俺が先生の指示でここに運んできたんです」
「路上に座り込んでいたって、なにやってるんだ、私」
「それでこの部屋に来て、ベッドに先生を寝かせて帰ろうとしたんですけど、後から羽交い絞めにされたかと思うとベッドに押し倒されまして…」
ぼそぼそと上条が呟くのを聞きながら、愛穂は思わず頭を抱えるのであった。
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「ぎゃああああああああああっっ!?なんでわたくしめは黄泉川先生に押し倒されているのでしょうか!?ってか!?なんで脱ぎ始めるんですか!?先生!?」
「そりゃ、男と女がベッドですることなんて決まってるじゃん?」
「だからなんでそういうことに!?てかでかっ!?いやいやいやいや、そうじゃなくってですね…」
「とりあえずキスするじゃん。んっ」
「んぐっ!?酒臭っ!?あれ?目が回る…」
「寝る前に服は脱ぐじゃん?まあいいや、脱がしちゃうじゃん」
「いやあああああああああっっ!!」
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「キスされた後、お酒の臭いにやられて倒れたみたいで、その後に目が覚めたら先生が俺の上で…」
「わかった。…要するに私が襲っちゃったってわけじゃん」
「…上条さん、もうお嫁にいけない」
「いや、お前、男だから嫁にはいけないじゃん。ってか、膣内(なか)でずいぶん出したなあお前。どろどろじゃんよ」
愛穂は気だるそうに枕元のティッシュボックスからティッシュペーパーを数枚取ると、自らの秘所に押し当てて下腹部に力を入れる。
「いきなりなに言ってるの!?ってか何しちゃってるんですか!?」
「んー?後始末」
「話してるのに!?」
「アフターピル飲むけど、こういうのはなるべくはやくきれいにしておいた方がいいじゃんよ」
目を逸らして顔を顰める上条に、愛穂は自嘲気味に小さく笑って言う。
「まあ、事故だと思って忘れるじゃん」
「いや、そんなことできないですよ。その、初めてだったし」
「じゃあ、筆卸しってことで。私が悪いんだからお前は気にすることないじゃん」
「………いや、あの、先生が」
上条の言葉を聞いた瞬間、愛穂の頬が真っ赤になる。
「な、なに言ってるじゃん!?」
「結構血が出てたんですよ。それに途中で倒れちゃうし」
「ど、どういうことじゃん!?」
「すげえ痛そうに呻いて、そのまま俺の上に倒れてきたんですよ。声をかけても起きないし、どうしようかなと思ったんですけど…」
言いながら上条は視線を逸らす。その頬は赤かった。
「『思ったんですけど』の、続きはなんじゃん?」
「いや、なんと言いましょうか、上条さんも健全な男子高校生なわけでして、黄泉川先生みたいな魅力的な女性に襲われちゃったりしたらその、途中で止めるわけにはいかなくてですね…」
ダラダラと冷や汗を流しながら上条は続ける。
「とりあえず先生をベッドに寝かせて、最後までしちゃいました。………勢い余って繋がりっぱなしで二回ほど」
「だからあんなにどろどろだったんじゃん。…ああ、だからお前あんな怯えてたってわけだ」
「ま、まあ」
「ふーん。ま、酒に飲まれた私の自業自得だから仕方ないじゃん。…それにしても、処女喪失ってもっといいもんだって思ってたけど、なんとも馬鹿らしい失い方じゃんよ」
乾いた笑いが愛穂の口から漏れる。その顔はどことなく寂しそうだった。
「お、俺っ!責任取ります!」
「は?なに言ってるじゃん?」
「ああ、ええと、そうじゃなくって、その…。あー、めんどくせえ!」
そう叫ぶと、上条は愛穂の両肩を掴んで、その顔を覗き込む。
「俺の彼女になってください!」
「は?」
「俺、まだガキですけど、絶対、先生にふさわしい男になってみせますから!だから、俺の彼女になってください!」
まっすぐに目を見て言う上条をまっすぐに見つめ返す。
「ちょっとキュンときたじゃんよ」
「ちょっとだけ!?」
「…私は、お前からすればオバサンじゃん?勢いに流されて自分の将来を縛り付けるような真似はするな。上条」
「黄泉川先生にならむしろ縛り付けられたいです!ぶっちゃけ、俺の好みにドストライクですし!」
「な…」
「っていうかもうお酒臭くないですね。キスしたくなった、キスしますよ、キスしましょうの三段活用!というわけでキスします!んー」
「ちょっ、馬鹿、やめ…んっ…」
強引に唇を重ねられ、最初は抵抗したものの、すぐにされるがままになる。
「上条…。お前、馬鹿じゃん」
唇が離れた後、掠れた声でそう呟いた後、熱を帯びた声で愛穂は言った。
「…ホントに私でいいのか?」
「はい」
短いがまっすぐな上条の言葉に、愛穂は胸が熱くなるのを感じずにはいられなかった。
「…愛穂」
「え?」
「名前。…恋人なら名前で呼ぶじゃん」
「…愛穂」
「上条の名前も、教えるじゃん」
「当麻」
「そっか。…と、当麻。うああああっ…。なにこれ、恥ずかしいじゃん。めちゃくちゃ乙女じゃんよ」
顔を真っ赤にし、身を捩じらせた後で愛穂は上条の頭を抱き寄せ、その耳元で囁く。
「なんか順番すっとばしてるけど、記憶にないからノーカンじゃん。…だから」
顔が熱くなるのを感じながら、愛穂は言った。
「ちゃんと、当麻の女になったって感じさせるじゃんよ」
愛穂は上条の肩に手を置いて軽く押し、上条の顔を見つめる。それから小さく微笑むと、静かに目を閉じた。