開幕、風音が裂け巨大な丹色の棒が飛来する。
「うおぉっ!?」
身体を仰け反らせて避けると眼前を物凄いスピードで棒が延びていく。
通り過ぎる全容は棒と言うより柱に近い。
すぐさま飛翔し諏訪子やルーミアと距離を取り、神奈子を正面に見据える。
寸前、嫌な気配を感じて半身を右に捻る。
ごおぅ、と突風の様に背後から柱が迫って来ていた。
服の裾を柱に擦過させながら、俺は内心舌を巻いていた。
──マジかよ、どういう能力だ?
考えている暇は無い。
すかさず俺は自らを強化させた。
「白符『勇士の決意』『聖なる力』『間に合わせの鎧』『神聖なる好意』『不退転の意志』『雨雲の翼』『神聖変異』」
一気に力が漲り、世界の速度が相対的に遅延を始めた。
やっべ、やり過ぎた。
膂力、速度、思考力、耐久性の全てが人間の限界を超えて神域に至る。
明らかにやり過ぎだ。
視界の端、再び中空に生み出された柱が俺を狙い飛ぶ。
それと真逆の位置で、神奈子が腰を落とし拳を握り締める。
「こいっ、オンバシラァァァァッ!」
「熱血系かよ!?」
意外な一面を目の当たりにして意識が柱から──御柱から逸れる。
が、問題は無い。
肌で空気の揺れを感じ取れる今となっては御柱の軌道も手に取る様に解る。
左手から迫る御柱を避けようと空中でステップを踏んだ所で、新たな声が届く。
「割れろ、オンバシラァァァァッ!」
「っ、なんじゃそりゃあ!?」
呼応する様に御柱が割断され、七つに分解しながら飛ぶ。
六亡星とその中央に分かれた御柱を紙一重で避ける。
まず右足を振り上げ、次に上体を屈ませ、最後に左膝を落とす。
──スタンド使いでもこんな体勢取らねえだろうに!
予想以上にアクロバティックな回避を披露した所で、はたと気付く。
打ち消しゃ良いんじゃね?
都合良く飛んできた御柱に右手を翳す。
「無符『この世界にあらず』」
予想通り御柱が消え去る。
神奈子はそれに動揺を隠せない様だ。
まぁ命中寸前で掻き消えたら誰でもそうなるわな。
地面に降り、ゆっくりと近付いてやる。
すぐさま御柱が飛んでくるが、打ち消すばかりじゃ芸が無いよな。
そう言えば今パワーもそこそこ強化されてるハズだし、試しにやってみるか。
眼前まで迫っていた御柱の底を、力任せに殴ってみた。
「どっせい!」
パカーンと真っ二つになるかと思いきや、御柱は底を俺の拳大にくり貫かれて粉々に割れた。
くり貫かれた分はそのまま殴りつけた方向、神奈子へと向かって飛来する。
狙いが少しズレていた所為か、神奈子には命中せず背後の丘を吹き飛ばすだけで済んだ。
拳の威力にビビりながらも、その事に胸を撫で下ろした。
──危ねぇ、神奈子を傷付ける所だった。
俺が神奈子を傷付けて良いのは処女を貰う時だけだからな。
すっかり自分の女扱いしている事は放って置こう。
万が一処女じゃなかったら精液便女だな。
人一倍執着心の強い俺にしてみれば、他人のお下がりなんぞ願い下げだ。
意識を戦場に戻せば、神奈子は青ざめた顔で俺を見ていた。
奇しくも今の思い付きで恐怖と混乱を植え付ける事が出来たらしい。
──殴った感触だと基本的に割れない部類の物だったからな、アレは。
一歩前に踏み出せば、神奈子が一歩下がる。
恐怖に歪む顔も可愛いな、抱き締めて撫でてやろうか。
邪念に駆られ黒い笑みを浮かべると神奈子は「ひぐぅ」と悲鳴の様な声を上げた。
……そんな邪悪な笑い方してたか?
更に一歩踏み出すと、弾幕と言って差し支えない数の御柱が飛んできた。
今度は左手を右に渡し、裏拳を入れる様にして腕を振り抜く。
ガィンだかガギィだか鈍い音を立てて、御柱が左へ弾き飛ばされていく。
細い御柱は右足を振り回し、全て地面に叩き落とす。
思考力が増幅されている所為か、一つ一つを個別に処理しても充分に次の御柱へ反応出来る。
弾丸の様に舞い飛ぶ御柱を叩き伏せながらゆっくり、ゆっくりと前進。
足を前に出す毎に御柱が激しさと密度を増して飛んでくる。
いや、御柱幾つ有るんだよ。
面倒くさくなった俺は怠そうに呟いた。
「白符『信仰の試練』」
幾つかの御柱が力を失い地面に落ちる。
その落ちた分だけ、俺の身体に新たな力が湧いてきた。
軽く身体を捻るだけで御柱を避け、更に足を前に送る。
気付けば神奈子まで後七歩という距離に迫っていた。
その瞳は恐怖に濡れていた。
確かに一撃も与えられない相手が黒い笑み浮かべてゆっくり近付いて来たら怖いかもしれない。
ゾンビとはまた違ったホラーだな。
後四歩まで近付いた時、弾幕が止んだ。
もう神奈子は竦み上がり後退する余裕すら無い様だ。
ってか半泣きだ。
これ以上虐めても可哀想なので、俺はやる気なさげに両手を上げた。
「降参だ」
「……え?」
「流石に泣いてる女の子相手に手を上げたりはしねぇよ」
ぽかんとする神奈子を胸元に抱き寄せ、優しく頭を撫でてやる。
「悪い、怖かったろ? ……もう大丈夫だ」
「……ぅ、ぁ」
「よしよし、良い子良い子」
「っ、ぁ、あ────、ぅあぁ────」
涙が一つ落ちたのを皮切りに、堰を切った様に大声を上げて泣きじゃくる神奈子。
まるで童女みたいに泣いている。
頭をぽんぽんと落ち着かせる様に優しく叩くと、強く抱き付いてきた。
抱き締め返すと、泣き声は更に強くなる。
戦いを見守っていたルーミアと諏訪子は何か言いたげに俺を見つめ、寝転がっているおっさんと口喧しい女は愕然とした表情で俺達を見ていた。
仮面を被った奴が、慌てた様に声を張り上げる。
「しょ、勝者、八坂神奈子!」
お、若い女の声だ。
てか存在忘れてたな。
泣きじゃくる神奈子を宥めて一先ず社へ戻り、村人総出で宴会の準備。
途中でおっさんと女のエンチャントは破壊して置いた。
二人共暴れ回るかと思ったが、案外素直に従ってくれた。
俺の人徳って事だな。
準備が終わるまで大和の神達には客間で寛いでいて貰い、俺は早速調理場へ。
ふはは、俺の右腕が唸るぜ。
今宵の包丁はアミノ酸に飢えておるわ、ふはははは!
と、妙なテンションで食事の準備をしているのには訳が有る。
俺の背後、熱っぽい瞳を向けてくる一柱が原因だ。
「なぁ、別に着いて来なくてもいいんだぜ? 客間で寛いでろよ」
「……邪魔なのか?」
「いや、邪魔じゃあないが。あんたも戦ったり何だりで疲れてるだろ」
「私は大丈夫だ。それと……」
「ん?」
「神奈子だ」
「あ?」
「神奈子って呼んでくれ」
どうですか奥さん、この切れ味!
かぼちゃだって簡単に、ほらこの通り!
「……呼んでくれないのか、契……?」
あぁもう!
そんな捨てられた子犬みたいな声出すんじゃない!
半ば必死で意識を逸らしていたが、流石に厳しいものがある。
というかいつフラグたった?
俺としてはこれからじっくりと攻略するつもりだったんだが。
まぁ、そんな事を考えても始まらないし神奈子がそろそろ泣きそうなので、俺はかぼちゃを切る手を止めて振り返った。
緋色というか丹色というか、若干赤の混じった暗い色の瞳を見つめて、言った。
「──神奈子」
パッと花を満開にさせた様な笑みを浮かべる神奈子。
その反応を見て手伝いに来ていた少女達がキャーキャー騒ぎ始める。
ルーミアの時もやってたが、お前等そんなに恋バナやロマンスが好きか?
「契、私に手伝える事があれば何でも言ってくれ」
「特に無い。というかお前一応客人扱いなんだからじっとしてろ。歓迎する相手に手伝った貰うとか落ち着かないだろ」
「そうか……解った、大人しくしてる」
「でもケイ、ここに来た時調理場仕切って色々やってたよね。客人だったのに」
笑いながら突っ込みを入れるルーミア。
足台に登ってネギを乱切りにする姿は若奥様に見えなくも……いや、どう見ても料理の手伝いをしてる娘にしか見えんな。
だが手付きはこの調理場で俺の次に良い。
立ちバックで犯しながらレクチャーしたのが功を奏したな。
手順を間違えれば肉棒を少し抜き、上手く出来れば奥まで突いてやる。
三回連続の失敗で肉棒を完全に抜き、逆にミス無く料理を完成させればたっぷり中に注ぎ込む。
料理が美味ければ更に二発追加だ。
そんな中出しクッキングを経たルーミアの腕前は、小さな食堂を経営していけるくらいに上達していた。
ちなみに諏訪子は肉棒を挿し入れただけで絶頂するから料理出来なかった。
何、普通に教えろ?
ご褒美があった方が悦んでやるだろ。
まぁそんな訳で、テキパキと料理を作り上げていく。
蒸かしかぼちゃのサラダは完成っと、蒸し鶏のスープもオッケー……ん、何だこれは?
この刺身を造ったのは誰だぁっ!
ルーミアか、なかなかやるじゃないか。
刺身包丁も無いのに見事な切り口だ。
大振りの浅蜊は酒蒸しにしよう。
「ケイ、こっち揚がったよ」
「よし、こっちも完成だ」
豪華な和風御膳が完成し、美味そうな匂いが漂う。
皆で手分けして、社の宴会場へ運ぶ。
上座に大和の神達を据え、中央には神奈子と諏訪子が並んで座る。
まだ大和の麾下に入る前だし、神奈子と諏訪子の仲を取り持つ意味でも並べて座らせた方が良い。
配膳している内に続々と村人が集まってきた。
中には酒瓶を持ち込んでいる奴もいる。
皆が揃い、酒と料理が行き渡った所で杯を片手に立ち上がる。
「皆、此方に居られるのは大和からお越し頂いた偉大なる神々の四柱だ。今宵は使者の方々をもてなす為の宴だ、とはいえ我等が神を畏れ敬うのに変わりは無い。さぁ杯を持て、大和の神々に、我等が諏訪子様に乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
皆が杯を傾ける。
俺も縁いっぱいに注がれた緑茶を呑む。
挨拶が終わると皆思い思いに食事を楽しんだり、会話に花を咲かせたりしている。
と、諏訪子が目を丸くして俺を見ていた。
「どうした諏訪子」
「契があんな立派な口上を述べられるなんて夢にも思わなかったよ」
「失礼な奴だな。立派かどうかはともかく俺にもそういった知識は人並みに有るさ」
「ケイ、格好良かったよ」
「ありがとよ、ルーミア。流石は俺の嫁第一号だな、本妻の本領発揮か」
「はぅっ、褒められた」
手を頬に当て恥ずかしそうに微笑む。
ちなみに諏訪子は普段着だがルーミアは浴衣姿だ。
合わせの裾から覗く生足がエロい。
可愛くて綺麗で気遣いも出来てエロくて幼女にもお姉さんにもなれるとかハイスペックな嫁だな。
何より素の状態で基本従順なのが良い。
諏訪子は宴会の場では神扱いだからイチャイチャ出来んが、ルーミアが俺の嫁なのは周知の事実だから気兼ね無くイチャイチャ出来る。
箸で浅蜊の酒蒸しを摘み、ルーミアの口元へ持って行く。
「ほれ、あーん」
「あーん……うん、おいひぃ♪」
にへらぁ、と惚ける様に笑む。
俺の嫁が愛し過ぎて困る。
ルーミアはお返しに揚げ豆腐のあんかけ風を摘み、俺に食べさせる。
「ケイ、あーん」
「ん、美味い。また腕を上げたな」
「えへへ、褒めて褒めて」
「なでこなでこ」
左手で優しく髪の毛を梳いてやる。
くすぐったそうに肩を竦めて、そのまま俺に枝垂れ掛かる。
それを羨ましそうに眺める諏訪子。
今度私にもしてね、と目で訴え掛ける。
甘えん坊な嫁さん達だな。
ともあれ賑やかな宴は中盤に差し掛かり、少しずつ酔い潰れる者も出始めた。
先程まで料理を口に運ぶ度「は、何よこれ美味しいじゃない」だの「人間の癖にやるわね、お代わり無いの」だの本当に口喧しかった女も、今は高鼾を上げて夢の中だ。
おっさんは村の男達と旨い酒を片手にモテない男談義に花を咲かせている。
そんな話題してるからモテないんだよ、と指摘する親切な奴は居ない。
指摘した所で「爆発しろ」しか返って来ないからな。
仮面の女は器用に仮面を被ったままチビチビと酒をやっている。
干した鰈を肴で追加してやったら、大層喜んでいた。
そして神奈子はというと。
「契は呑まないのか?」
「あぁ、一応未成年だからな」
「未成年?」
「願掛けみたいなもんだ。二十歳になるまで酒を呑まないから、その分健康で居させろってな。ほれ、追加だ」
次々と酒瓶や酒樽を空にしつつ、いつの間にかルーミアや諏訪子と一緒に俺を取り囲んでいた。
あれだけ呑んでまだ素面とは恐れ入る。
蟒蛇かなんかの化身か?
追加で酒瓶と肴を渡す。
肴は細かく切った鯵を包丁の背で叩いて生姜とネギを混ぜ、醤油と味醂と昆布だしで味付けしたものだ。
そのままで良し、ご飯に乗せて良しとなかなか渋い働きをする一品だ。
ルーミアはこれを気に入った様で、椀を突き出しご飯のお代わりを要求してくる。
腹ぺこ妖怪め。
ほっぺに米がくっ付いてるぞ。
指で摘んでヒョイと口に入れると、ルーミアは顔を赤くした。
照れ屋さんめ、そんな反応も可愛いぞ。
諏訪子、慌てて米をほっぺに付けるんじゃない。
そういう事は不意にやられるから威力が有るんじゃないのか?
まぁ、取ってやるけど。
そして神奈子、椀にチラチラ視線を向けるんじゃない。
お前までそんな反応すると突っ込みが追い付かないだろう。
そこまで考えて、はたと気付いた。
「ブレーキ役が居ねぇ……!」
「ぶれぇき?」
「お前等の暴走を押し止める奴だ」
後ルーミア、そうやってへにゃりと首を傾げるのは止めろ。
お兄さん我慢出来なくなるだろ?
そんな風に遊んで、気付けば宴も終盤。
流石に起きている人数の方が少なくなり、未だ素面なのは俺と神奈子と巫女少女達のみ。
口喧しい女は巫女達に運ばせ、おっさんはそのまま放置だ。
仮面の女もふらふらしながら客間へ引っ込みすぐに寝たらしい。
取り敢えず片付けられる物だけ片付けて、のんびり緑茶をすすっていると神奈子が肩を寄せてきた。
酔ってる風ではないから人肌でも恋しくなったんだろう。
ルーミアと諏訪子は仲良く手を繋いで寝ている。
姉妹みたいだな、こいつら。
「契、あのさ……」
「ん?」
「さ、さっきみたく……頭、撫でてくれないかい?」
上目遣いに俺を見つめる神奈子。
その雰囲気は大人の女性というより、一人の少女のものだった。
さっきチラッと聴いたが、神は生まれた時から成体らしい。
諏訪子の様にロリな場合も有るが、基本的には大人の姿で誕生する。
つまり神には子供の期間が無い。
知識量の差違は有れど、最初から大人として扱われるのだ。
だから神は、親が子に与える愛情の殆どを知らない。
その為俺がやった様に抱き締められたり頭を撫でられたりすると、その相手の事を深く意識する様になるらしい。
──刷り込みみたいなもんか?
英語で何つったっけ、い、いん、インデペンデンスデイ?
お、合ってる気がする。
「契ぃ……」
「……ほら、来いよ」
「あっ……」
そっと抱き寄せ頭を撫でてやる。
しなやかで艶の有る色っぽい髪だ。
優しく撫でる度に幸せが零れそうなくらいの笑顔を浮かべる神奈子。
随分可愛いじゃないか。
オンバシラァァァとか叫んでいた時と同じ人格かこいつ?
このまま和やかに夜が明けるのを待つのも良いかも知れん。
ついついそんな考えに流されてしまいそうになるが、刺せる釘は刺しておくべきだろうな。
「神奈子」
「なんだい、契」
「この国の民達を見てどう思った?」
「……温かい民達だね。私達が大和の神だからって必要以上には恐れず、敬いながらも親しみを持って接してくれる」
「あぁ、頭の悪い奴も中には居るが本当は気の良い奴等ばっかりだ。俺やルーミアを受け入れてくれただけでなく、友と呼んでくれる者もいる」
一息吐き、言葉を区切る。
開け放たれた縁側からは月明かりが降り注いでいたが、月を見上げながら喋るというのも流石に気障過ぎるか、と思い視線を下げた。
静寂の帳が降りた村の姿と、虫達さえ眠りに就いた山林が広がっている。
俺は身体を離して立ち上がり、縁側に腰掛け背を向けたまま続けた。
「神奈子」
「うん?」
「──この国を治め、民達の笑顔を守り抜くだけの気概と覚悟は有るか?」
「それは」
「すぐに答えるな。即答は真理を突きやすいが、その分言葉が軽くなるぞ。考えて悩め、俺もそうした」
「契も、そうした?」
「この国を治めているのは諏訪子だが、俺は夫として諏訪子を守り抜く責務が有る。つっても、まだまだ十八のひよっこだけどよ。大切なものを守る為なら、人殺しでも鬼殺しでも──神殺しでもやってやるさ。俺の身体が保つ限り敵を殺し、俺の精神が保つ限り嫁を愛する。それがお前達大和の神が来る前に決めた、俺の気概と覚悟だ。……もう一度問うぞ神奈子、お前にこの国を、民達を守るだけの気概と覚悟は有るか?」
一瞬口を開き掛け、そのまま閉じたのが気配で伝わる。
良い子だ、ちゃんと実践してるな。
と、首を優しく風が駆け抜けて行く。
未だ冷めやらぬ宴の熱気を、大地を撫でる風が落ち着かせてくれた。
背中にとん、と触れるものがある。
神奈子が背中合わせに座り、身体を預けてきた。
「決めたよ、契」
何を、とは問わない。
声色が内容を如実に語っていたからだ。
応える代わりに、俺はニヤリと意地の悪い顔を浮かべて言った。
「神奈子、お前が俺に要求する見返りは何だ?」
「……流石と言うか、言葉の先を読むのが得意だね」
「俺は弱いからな、その裏返しだ。神奈子が喋りやすい様に建前から言ってみろよ」
クスリ、と背後で笑いが生まれる。
俺が弱いってのはギャグじゃないぞ?
笑いに続く様にして、若干言葉の端に威厳を滲ませた声が届く。
「今までの宗教から形態は大きく変わる。私も精一杯やってみるが、それでも多少の相違や軋轢は生まれてくるだろう。そうした時、民達との渡りを付けてくれる存在が居れば有り難い。そしてそれは契、お前の役目だ」
「役目、と名打ったか。なら拒否権は」
「勿論無い。お前は私の麾下に入ると一騎打ちの場で明言したのだからな? キリキリ働いて貰うぞ」
「へぃへぃ。で……本音は?」
「契、結婚しよう」
「マテ、どうしてそうなった!?」
突然の告白にコケてバランスを崩し、危うく縁側から落ち掛けた。
それを支えてくれる神奈子。
そのまま腕を前に回して背中に身体を密着させてくる。
ぷにぷにふんわり、幸せな感触が広がる。
「何で抱き付いてるんだよ?」
「契が好きだから?」
「何で疑問形なんだよ!? てか落ち着け神奈子、お前の今のドキドキは初めて異性を意識した事による戸惑いのドキドキだ、恋のドキドキじゃねぇ!」
「契にドキドキしてるのには変わり無いじゃないか、ほら」
むにゅっと更に胸を押し付けてくる。
それはそれで嬉しいが、俺は謎の戸惑いを覚えていた。
自分で狙って落としていないのに、相手が俺を好きだと言う事が動揺を与えていた。
攻めに長けた男は攻められると弱い。
それを見事に体現していた。
慌てふためく俺に寂しそうな声が掛かる。
「……やっぱり、幼子じゃないと異性として見れない?」
「ぶふっ!? んな訳有るか!」
「でも諏訪子もルーミアも、容姿は平均より幼いじゃないか」
「偶然、偶然だから! ってかルーミアは大人体型にもなれるからセーフだ、俺は断じてロリコンじゃない! 神奈子も充分魅力的だと思うし抱けるもんなら抱きたいって思うから、ロリ専門じゃないぞ!」
「えっ……」
「あ?」
ちょっと待て俺。
今なんか勢いに任せて変な事口走らなかったか?
神奈子はもじもじしながら、きゅっと抱き付いてきた。
首筋に熱い吐息が掛かり、徐々に心臓が鼓動を速めていく。
これは拙い。
何が拙いかは解らないがとにかく拙い。
自分でも意味不明なパニックを起こしていると、不意に拘束が解かれ身体の向きをぐいっと変えられる。
目に飛び込んで来たのは顔を赤らめながら腕を組み、胸を強調する様に見せ付けてくる神奈子の姿。
服の下からピンと尖った乳首がその存在を主張している。
「あ、あのさ、契!」
言葉は真っ直ぐ届くが、神奈子は恥ずかしいのか顔を俯かせてしまった。
そして、俺を殺す一言を口にする。
「こんな私で良かったら……その、抱いてくれないか?」
理性の糸が細切れにされる音が聞こえた。