今日の昼飯は鯛茶だ。
鯛の刺身を醤油、白胡麻、少量の山葵、刻み海苔と共に和えて味を整え、ほかほかご飯の上に載せて更に上から熱々のお茶を掛ける。
この時掛けるお茶は基本的に好みのもので構わないが、俺は鯛の味と白胡麻の香りを楽しむ為に、余り匂いの強い茶葉は使用しない。
お茶だと味が物足りないという方はお茶の代わりに昆布だしのつゆを注いでも良い。
その場合、絡める醤油の量を抑える事で程良い濃さの味と塩分控え目の健康食を両立する事が出来る。
普段口にする事の少ない食材だが、どの様に食べても美味い魚だ。
自分なりに改良して新たな料理を開発しても良いだろう。
「成程、勉強になるわね」
俺の講釈を聞きながら大人ルーミアが鯛を盛り付けていく。
その手際は地方のホテルのシェフ並みだ。
やはり脳の処理能力が変わるのか、大人形態の方が動きは良い。
「特筆すべきは昆布との相性の良さだな。塩を振って油で昆布と一緒に炒めただけでも抜群に美味い」
「ふむふむ、今度試してみようかしら」
「すっかり料理にハマったな」
「あら、旦那様に美味しい料理を食べて貰いたい一心よ?」
「またルーミアは可愛い事を言う。その内胃袋を掌握される日が来るかもな」
「ふふっ、そうなったらケイは私から逃げられないわね」
「馬鹿だな、逃げる訳無いだろ?」
「でも浮気するじゃない」
「確かにな。……それでも、俺の一番はいつだってルーミア唯一人だよ」
「うぁ、は、恥ずかしいからそういう台詞言わないでよっ」
「照れるなって」
「照れてなんかないわよっ」
ぷいっ、とそっぽを向くルーミア。
頬は真っ赤だし口の端がにやけているので誤魔化せていないが、本人が大丈夫なら良いだろ。
盆に椀と急須を載せ居間に向かうと、諏訪子と神奈子とその他二柱が卓に着き、今か今かと昼飯を待ち構えていた。
神奈子は俺と目が合うと、さっと視線を逸らした。
反応が実に初々しい。
そして諏訪子、よだれを拭け。
卓袱台に垂れそうだろ。
皆に椀を配膳していると、一柱居ない事に気付く。
「ん、あの仮面女はどこ行った?」
「みんな、おふぁおー……」
襖が開き髪をボサボサにしたセミロングの女が入ってきた。
よくよく見れば相当な美人なのだが、気怠そうな雰囲気が全てをぶち壊している。
所謂、残念な美人だ。
目をしょぼしょぼさせながら神奈子の隣に座り、眠たげに箸を取る。
いや、誰だお前。
頬に汗を浮かべた神奈子が女の脇腹をつついて起こす。
「あ、アマテラス様、仮面っ、仮面忘れてますって」
「んぅ~、神奈ちゃんつつかないでぇ」
「いや、起きて下さいっ。アマテラス様、契が訝しんでますってば」
けいってだぁれ、と眠たげな目を巡らし俺を捉えて十数秒。
少しずつ顔付きが端正になっていき、同時に焦りの様なものが浮かんでいた。
神奈子は如何にか取り繕おうとして女と俺を交互に見て、おっさんは困った様な笑みを浮かべて、口喧しい女は呆れて嘆息していた。
俺はと言えば、聞き覚えの有る名前に錆び付いた知識をひっくり返していた。
「アマテラス……アマテラス……あ、もしかして天照大神か?」
「あ、私の事知ってた?」
「まぁ、有名っちゃ有名だったからな」
「契ぃ、そんな事は後にして食べようよ。ご飯冷めちゃうよ?」
おっと、そうだった。
積もる話は後にして、今は鯛茶に集中しなければ。
諏訪子に急かされ鉄瓶から急須に湯を注ぎ、八十度を目安にお茶を淹れる。
一気に香り立つ芳醇な匂いが立ち込め、食欲をこれでもかとそそる。
「じゃあ食うか」
「「いただきます」」
「いただきます、と。ほら、あんた達も食えよ、ちょー美味いぜ」
鯛の山を崩して米と一緒に掻き込む。
鯛の味と白胡麻の風味が舌を楽しませ、次に海苔と山葵の匂いが絶妙なアクセントとなり、飲み込むとお茶の香りがふっと鼻に抜ける。
──日本人で良かった。
美味いだの不味いだのを超越し、俺は自らの出生に感謝していた。
勿論食材を育んだ自然や、それを採ってきた民達、こうして食卓を囲んでくれた皆にも感謝の気持ちを忘れない。
ルーミアは味の奥深さに感動しながら新しい料理を模索中。
諏訪子は美味しい美味しいとすぐに平らげお代わりし、早くも二杯目が胃袋へ消えていく。
おっさんは二日酔いには堪らんなぁ、と笑顔で食べ進めている。
口喧しい女は一口食べて箸を置き、真剣な表情で俺に一言「嫁に来ないか」「謹んで辞退させて貰おうってか何で俺が嫁だよ普通婿じゃねぇのか!?」「じゃあ婿でも良いから」「行かねぇよ!?」という遣り取りをしたり。
まぁそれ程気に入ったんだろう。
こいつは美味い飯を食わせて置けば、案外素直で口が悪いだけの女になるから扱いやすい。
そしてアマテラスは鯛茶を口にした途端強いショックを受けていた。
「何でこんなに簡単なものがこんなに美味しいの!?」
「そりゃ逆だ。簡単なものだからこそ、美味い味を引き出すのは難しいんだ。同じ様に作れば誰だって、そこそこの味は出せる。だが全ての食材の旨味を引き出し且つ調和させるには、食材に対する理解と料理の技術、そして食べる人に喜んで貰おうという謙虚な気持ちが必要なんだ。ご馳走とは豪華で在れば良いってものじゃない。文字通り美味いものを探して走り回り、食べる人を喜ばせる為に作った料理がご馳走となるんだ」
「あぁ、またケイの悪い癖が……」
「でも真剣に話す契って格好良くない?」
「それは同意するわ」
熱を込めて語る俺の横で何やらひそひそと話す嫁二人。
まぁ、二人には前に話した事だから今回は見逃してやるか。
神奈子は食に対する俺の熱意に驚いた様で目を丸くしている。
おっさんは我関せず、アマテラスは納得して頷きを返し、女はひどく感銘を受けたのか目をキラキラさせて俺を見ていた。
何だ、今頃好感度上げようとしても……いや、アリだな。
等と阿呆な考えを巡らせたりしている内に、五合炊いた米がすっかり無くなった。
MVPはルーミアだ。
次点で諏訪子。
というかお前等その細い身体のどこに入るんだよ、四次元胃袋か?
ともあれ昼飯を終えて、いよいよ会議に移る。
議題はこれからの国の治め方と信仰が変わる事への対処だ。
その前に改めて自己紹介をする。
まずは俺からだ。
「改めて、望月契だ。今は諏訪子の所で世話になっている。自分でも疑問に思う事は有るが、一応まだ人間だ」
「私はルーミア、元人喰い妖怪で今はケイの妻をしているわ。夢はケイの子供を産む事かしら?」
「んぐふっ」
危うくお茶を噴きだしそうになった。
恥ずかしがり屋の癖に露骨な事を仰る。
まぁそれは叶う事間違い無いから別の事を夢にしなさい、それも叶えてやるから。
続いて諏訪子が口を開いた。
「私は諏訪子、ここの土地神で周辺のミシャグジを纏める祟り神だよ。今は契の第二夫人で性奴隷かな」
「ぶはっ、げほっげほっ」
今度は唾が気管に入って咽せた。
諏訪子、それ今言う必要有ったのか!?
羨ましそうな、それでいて人を殺せそうな視線を俺に向けながらおっさんが野太い声を出す。
「俺はスサノオだ。好きなものは美味い食事と酒と美女、嫌いなものはモテる男だ」
「解りやすいな。美味い食事と酒を提供しながらもルーミアと諏訪子を侍らす俺はどういう立ち位置なんだ?」
「肩を組んで酒を飲み交わすが、隙あらば爆発しないかと願っている」
「神がそんなもん願うな!」
全俺が叫んだ。
次に口喧しい女が声を上げる。
「私は豊岡姫よ。最初は人間なんて、と思ったけど望月契、アンタは特別よ」
「そりゃどうも」
「だから嫁に来なさい」
「まだ引っ張るか!?」
「婿でも良」
「言わせねぇよ!」
漫才としての呼吸はぴったりだ。
存外、相性は良いのかもしれない。
若干嫉妬の様な感情を滲ませ、神奈子が口を開いた。
「私は八坂神奈子。軍神で契の新妻だ。宜しく頼む」
「ちょっと詳しくお話を聞きたいわね。ケイ、土下座」
「朝の顛末は聞いたけど、新妻云々は初耳だなぁ。契、土下座」
「扱い酷くね!?」
「「いいから土下座っ!」」
嫁二人に押し切られ土下座させられる。
なんとなく悔しいから政治家でもこんな綺麗なフォームしてねぇだろ、ってくらい見事な土下座を披露した。
「あっ」
偶然、新しいお茶っ葉を持ってきた巫女少女に土下座の現場を見られた。
なにこれ恥ずかしい。
巫女少女はお茶っ葉を取り替えると、そそくさと廊下を駆けて行く。
遠くで響く「契様が諏訪子様とルーミア様に土下座強要されてた!」という声が俺の心を抉っていく。
やべぇ、俺何か悪い事したか?
思い付くのは昨夜、神奈子の体液を介して行われたアルコールの摂取。
なまじ願掛けとか見得を切ったもんだから罰が当たったのかもしれない。
諏訪子は祟り神だしな。
取り敢えず二人に怒りを収めて貰い、アマテラスの自己紹介。
すまん、こんな空気になるとは正直思わんかった。
「えっと……私はアマテラス。一応大和の国では一番偉いっぽいよ?」
「何で疑問符付いてんだよ」
「皆が働いてくれるから私に仕事なんて回ってこないし……働こうとしたら皆に遊んでて良いって言われるし」
ひょっとしてそれは戦力外通告なんじゃないのか?
さっと目を逸らす豊岡姫とスサノオ。
自らニートになるんじゃなくて、周りからニートである事を強要されるとか新しいな。
ともあれ自己紹介も終わったので早速会議に移ろう。
最初の議題はこの国の治め方だ。
一応進行役も兼ねて俺が口を開く。
「まずこの国を新たに治める事になった神奈子は、後で神事や奉納の際の準備や当日の動き方について諏訪子に聴く様に。信仰の集め方は後で説明するとして、大和の総本山に二割、残り八割を神奈子と諏訪子に充てようと思う。はい、ここまでで質問のある奴」
「はいはいはい!」
「はい、は一回だ豊岡姫。で、何だ?」
「二割って少なくない?」
「その疑問に答える為にこれを見て貰おうか」
襖を開け部屋の外に控えていた巫女少女から薄い木の板が幾重にも連なったものを受け取る。
その際巫女少女の顔が若干の憐れみと励ましを滲ませていたのは見なかった事にする。
さっきの土下座は忘れろ。
受け取った木の板を卓の上に広げ、一枚目をアマテラスと豊岡姫に向けてやる。
そこには墨で民達に関するデータが書かれていた。
製作、俺。
「何よこの記号とヘタクソな字は」
「よし豊岡姫、表へ出ろ。テメーは俺を怒らせた」
「あ、これケイの字よね?」
「言われてみれば味の有る繊細な文字ね」
「遅ぇよ! しかし記号って何だよ……あぁ、アラビア数字か。漢数字にするの忘れてたな」
「アラビア数字?」
「異国の数字だな。俺は慣れ親しんでいたんだが、まだここでは存在すらしていないかもしれん数字だ。まぁそれはいい、代わりに俺が読むからなんとなく眺めていてくれ」
皆が居住まいを正したのを見て、ううんと咳払いを一つ。
「まずこの国の人口は現時点で三百四人。この内まだ年端も行かぬ子供達を抜いて二百八十人だ。実質この二百八十人が諏訪子を信仰で支えている」
「案外少ないわね?」
「山と湖、丘を越えれば海だからな。人が集団で暮らせる様な土地は思いの外少ない。その分一人当たりの信仰の深さは凄まじいぞ。俺が居た所では十万人に一人居るか居ないか、という信心深い人間が集まっているのがこの国だ」
俺の言葉に目を丸くする大和勢。
現代日本にあれだけ純粋に神を信じてる奴は滅多に居ないからな、嘘は言ってない。
怪しい宗教家なら存外多いかもしれんが。
「それだけに一人が支える信仰の質が高い為、二割が諏訪子の神格を保つ為に出せる限界ギリギリのラインだ」
「ライン?」
「あぁ、すまん。線って意味だ。二割を超えれば諏訪子が力を失ってしまうんだ。そうするとミシャグジ連中が勝手に暴れ回って余計面倒くさい事になる」
「私も質問いいかい、契。二割を出雲に渡すなら、残りの八割は私と諏訪子で折半かい?」
「いや、神奈子には色々と無理を強いてしまうかもしれんが二人で八割の信仰を使って貰う。一人で四割じゃなく、あくまで二人で八割だ」
「契、どういう事?」
「まぁ待て諏訪子、その辺りは後で説明する。先にこっちの資料を見て貰おう」
二枚目の木の板を差し出す。
書かれているのは二つの円グラフだ。
「この円は民達にアンケートを取ったものだ。所謂聞き取り調査だな。題目は、信仰する神が諏訪子から代わったらどうするか」
神奈子が身を固くする。
そりゃそうだろう、新しく下に付く民達が自分をどう捉えているかの指針にもなるからな。
「左の円を見てくれ。結果、九割が新しい神を信仰しない。一割が無回答、その他の意見だ」
「ケイ、その他の意見って?」
「一割近くは年端も行かぬ子供達と言ったろう? 新しい神を信仰するかと聴いたら『だー、だー。あぅー』とか言われてな。貴重な意見だったから敢えてアンケートに反映させた」
「赤子じゃない!?」
「ルーミア、赤子でもこの国の民だ。将来この国を担う者に対して相応の敬意は払っても良いだろう?」
「いや、まぁ……そうだけどさ」
「安心しろ、半ば冗談でやった」
「「「「「「冗談かいっ!」」」」」」
おぉ、突っ込みで皆の心が一つになった。
いい事だな、うん。
諏訪子からの半目とルーミアからのジト目は捨て置き、説明を続ける。
「次に発表するのは信仰しない理由だ。隣の円を見てくれ。内訳は七割がミシャグジの祟り、仕返しを恐れてのものだった」
「あー、ミシャグジは信仰代えられたら裏切りだーって考える奴等も多いからねぇ」
「ちなみに残り三割は『諏訪子様の縞パンニーソより素晴らしいもの等有り得ない!』という若い男連中からの評だ」
「あーうー!?」
「それって前にケイが洗脳してた人達じゃないの?」
「そうだな。──さて、次に移るが」
「流さないでよっ!」
「まぁ流させろ。代わりに民達の心配を払拭しつつ神奈子に信仰を移す方法を考えて置いたから」
俺の言葉に思わず身を乗り出す諏訪子と神奈子。
案外息ぴったりだな。
他の三人も興味津々で目を向けてくる。
ルーミアはそれを見て楽しむ俺に、呆れた様に息を吐きながら微笑んでいた。
「その方法だが、諏訪子。名字を付けろ」
「へ?」
「大和の国になるに従い、諏訪子は大和の神として生まれ変わった事にすれば良い。そうすれば民達は今まで通り諏訪子を信仰しつつ、その信仰も大和に向けられたものになる。何の問題も無い」
「ちょ、ちょっと待った!」
「お、珍しいなアマテラス。どうした?」
「大和の神に生まれ変わるって言ってもそう簡単には行かないんだけど……」
「何も文字通り生まれ変わる訳じゃない。心機一転、これからは大和の神になった気分で頑張るぞ、ってくらいの心構えで良いんだ。必要なのは変わりながらも代わらない、という事実だけだからな。今までの諏訪子じゃない、大和の諏訪子という肩書きさえ有れば、信仰を大和に属するものとして今まで通り集められる」
「えぇー……すごい屁理屈じゃない、それって……」
「屁理屈だの詭弁だの言うのは嫉妬や傲慢で気に入らない奴を一方的に悪人扱いする言葉だ。アマテラス、せっかく美人なんだからそういった発言は控える様にな?」
「はぁ~い……えへへ、美人だって」
「望月契、私にも美人って言いなさいよ」
「はいはい、美人美人」
「うふふふ、やぁねぇ、そんな本当の事言われたら照れちゃうじゃない」
「今ので良いのかよ!?」
その後もやいのやいのと白熱した議論を交わし、気付けば日暮れまで話し合っていた。
予想通り俺の案が取り入れられ、この国は諏訪子と神奈子の二枚看板で運営される事となった。
信仰が割れるんじゃないかとの声も上がったが、勿論その辺りも抜かりは無い。
美女と美幼女で構成された大和の神様ユニット『かな☆すわ』として売り出すからどちらを信仰しても元は一つだ。
明日には早速デビュー曲として作曲ルーミア作詞俺の『信仰してよねっ』と『カミサマのヒミツ』を歌い上げ、その後サイン会と握手会も予定している。
二月に一度のディナーショー(宴会)も予定してあり、全く隙は無い。
おまけに俺が二人とイチャイチャする為の時間も取ってありハードなスケジュールは一切組んでない。
クックック、こんな事もあろうかとルーミアを調教して置いて正解だったな。
後で慰労としてたっぷり抱いてやるか。
「ケイ、また悪い顔してるわよ」
おっと、取り敢えず今は料理に集中しないとな。
会議の終了が遅くなったので大和勢は今日も泊まりだ。
諏訪子のリクエストである昆布の煮しめと神奈子のリクエストであるとろろ蕎麦を手早く仕上げる。
ん、蕎麦?
あぁ、なんか手で潰したら臼で挽くみたいに出来た。
適当に水やら加えて作ってみたが、やはり夏の蕎麦は香りが数段落ちる。
蕎麦は冬に食うのが一番美味いから仕方が無い。
代わりにつゆに一工夫加えて本日の主役とし、蕎麦は気分を味わう立場に徹して貰う。
邪道だがこれは勘弁して欲しい所だ。
「っと、ルーミア、そっちはどうだ?」
「ん、良い感じ」
「ふっふっふ、これを食ったら皆腰を抜かすな。或いはほっぺを落とすかもしれん」
「ケイがそこまで自信を持つなんて珍しいわね? 一体どんな味なのかしら」
「俺との性交を一日我慢したら食える、って設定したら大いに悩むんじゃないか?」
「そっ、そこまで!? くっ……早く食べてみたいわ」
「まぁ、ルーミアが食べたいって言ったら作るけどな。可愛い嫁さんの頼みだし」
「うっ……ケイ、不意打ちはズルいわよ」
「好きな娘を虐めたくなる男の心理だ。それがルーミアみたいに美人で可愛くて綺麗で素敵な女性なら尚更だな」
「くぅ……」
真っ赤になって俯いてしまうルーミア。
可愛過ぎるのも罪だな。
普段幼女形態なだけに大人形態のルーミアは新鮮で良い。
そんな風にからかいながら、次々に料理を完成させていく。
いつも多めに作った分は、民達の所へ順繰りに巫女少女達がお裾分けに行く。
俺が来てから始めたシステムだが、案外好評で信仰の質が更に良くなったらしい。
そうそう、最初は全部ルーミアが作ったと思っていた男が居たんだが、ある時作っているのが俺だと解って愕然としていたな。
大丈夫です、アリです、付き合って下さい! とかほざきやがったから取り敢えずグーパンで沈めて置いた。
俺はノンケだ馬鹿野郎。
ともあれ完成した料理を居間に運ぶ。
諏訪子と豊岡姫は歓声を上げ、スサノオと神奈子は酒瓶を握り締め、アマテラスは早くも酔っ払っている。
またカオスな夕食になりそうだ。
案の定、賑やかと言うには喧し過ぎる食事風景が広がった。
「おぉ~、昆布の煮しめ美味しいよケイ」
「蕎麦も美味いな、この季節のものとは思えない味わいだ」
「二人に喜んで貰えたなら何よりだ」
「うひぃ~酔っ払ってないよ~だ」
「にしても男でこれだけ料理が上手いなんてねぇ。望月契、アンタ大和の神になってみない? 料理で信仰得放題よ」
「やだよ面倒くせぇ」
「なら仕方無い、私の嫁に」
「ならねぇって。大体豊岡姫も口の悪さをどうにかすりゃ充分可愛いんだから、男なんて掃いて捨てる程寄ってくるだろ」
「そんな傾国の美女だなんて」
「言ってねぇよ!」
「ふふふ~ん、ふひ~ひひふ~♪」
「望月、お前酒は造っておらんのか?」
「俺がまだ酒呑めないし、多分呑んでも旨いと感じないからな。やっぱり自分で旨いと思えるものを造りたい。ま、最初に造った酒はスサノオに献上してやるよ」
「契、私も呑んでみたい」
「悪いなスサノオ、最初の酒は神奈子に渡す事になった」
「爆発しろ」
「ぱっぱっ、ぱりらりらぱっぱ~、ぱ~りらりらりららぱらっぱ~♪」
「おい、アマテラスから酒取り上げろ。ってかラリるまで酒やってんじゃねぇ!」
「ケイ、そろそろ良い頃じゃない?」
「ん、そうだな」
「なに、契とえっちな事するの?」
「それは聞き捨てならないわね、望月契。抱くなら私を抱きなさい」
「ちげぇよ! 新しい甘味作ったから持ってくるだけだ!」
突っ込み役が足りない。
パソコンなら深刻なエラーがどうのこうのと表示されるレベルだ。
ともあれ調理場に戻り、様子を確かめる。
……よし、大丈夫だ。
牛乳やらグラニュー糖やら足りないのをそれっぽいもので代用したからそれなりに不安だったが、どうにか形になった様で一安心だ。
特別な存在にあげる甘くてクリーミーな飴玉の汎用性に驚きだな。
器に移し替え、お手製のスプーンを添えて運び込む。
「わ、何これ?」
「見た事無い色ね? 柿よりも蜜柑よりも黄色いわよ」
「これは西洋のお菓子でプリンだ。多分今まで食べた事の無い甘さだな。横に置いてあるスプーンで掬って食べてくれ」
言うが早いか、諏訪子が早速一口。
一瞬固まり、目一杯に星を浮かべて舌鼓を打ち鳴らした。
「美味し~い! 何これ、凄く甘くて美味しいよぉ!」
「こんなに美味しい甘味が有ったなんて……! 望月契、お代わりは勿論有るわよね!?」
「無かったら祟る!」
「お前等落ち着け、お代わりは一人三回までだ」
「どれどれ……おぉっ、これは美味しいなっ、契っ、凄く美味しい!」
「確かにこれはほっぺが落ちそうね。ケイ、私にもお代わり頂戴」
「ちょっと流しで水がぶ飲みしてくる」
「待てアマテラス、そんな足取りで大丈夫なのか?」
「こんな美味しそうなの、酔ってるまま食べるなんて勿体無い!」
「神力か何かで浄化出来ないのか?」
「それだ! ……っ、かぁぁぁぁつ! よし、いただきます!」
「これは焼酎の肴にいいかもしれん」
「そう言えば死んだ爺さんも焼酎呑んでる時に甘いもの食ってたな。お、我ながら上出来だ。まぁカラメルソースがまんまヴェル○ースなのは仕方無いか」
賑やかな食事は深夜近くまで続き、最終的に昨日と同じ流れで解散になった。
ルーミアと諏訪子、神奈子を布団まで運び俺も横になる。
明日から忙しくなるな。
そんな事を考えて、すぐに眠りに落ちた。