「ぅあっ」
しとしと降り注ぐ雨音を聴きながら長閑に過ごしていた、弥生も中頃の昼下がり。
台所へお茶を取りに行った神奈子が、驚いた様に声を上げた。
「どうかしたの?」
「いやぁ、びっくりしたよ。急須が突然真っ二つに割れてね」
「あ、それケイのお気に入りの急須だ」
不思議なもんだ、と頭を悩ませる神奈子が持ってきたのは割れた急須。
朱色の落ち着いた雰囲気の急須は縦にすっぱりと割けていた。
余程の達人が鋭利な刃物で斬り付けない限り出来ない様な割れ方をしている。
頭を悩ませていると食器棚からパリンと音が鳴り、ケロ子が驚いて声を上げた。
「わっ、何これ!?」
「どうしたのケロ子」
「湯呑み取ろうとしたら触ってもいないのに湯呑みが割れちゃって」
「こっちもかい。おや、それ契の湯呑みじゃないか」
浅葱色の湯呑みが、同じ様に割れていた。
ケロ子が知らない間に洩らした祟りの所為かとも思ったけど、それがこうも立て続けに起きるとは考えにくい。
それにケイのものに祟りが向かうハズ無いよね、と私は結論付けた。
結局何も解って無いけど。
「そう言えばケイは?」
「あぁ、言ってなかったかい。契は川の水が少なくて湖の水位が減ってるのを調べに行ったよ」
「例年なら雪解け水で、逆に水位は上昇してるハズなんだけどね」
「川の上流に向かって歩くって言ってたから、今頃は山の中じゃないか?」
二人共そんなに心配はしていないみたい。
ケイならそこらの妖怪にも負けないし、山はすぐ近くにある。
でも、私は何故か言い様の無い不安に駆られた。
もしかしたらケイの身に、何か良くない事が起きているんじゃないかって。
堪らず、私は口を開いた。
「神奈子、いつ頃戻るかは聞いた?」
「一刻も有れば充分、道が悪くても三刻までは掛からないって言ってたよ」
「出発したのは?」
「ついさっきだよ。どうしたんだいルーミア、珍しく落ち着かないみたいだけど」
「ルー子、落ち着きなって。契なら大丈夫だよ、私らが殴り掛かったって傷一つ付かないんだから」
「……うん、ごめんね。なんだか不安になっちゃって」
「確かに不吉っちゃ不吉だね、契の物が壊れるなんて。諏訪子、アンタ祟り撒き散らしてないだろうね?」
「あーうー、神奈子私を何だと思ってるのさ? 契の物を壊したりする訳無いじゃない」
「ほら、お仕置き目当てとか」
「お腹に子供居なかったらそれもアリだけど、流石に今はやらないよ」
「ははは、それもそうだな。悪い悪い」
普段通りの二人。
掛け合いを見てると私の不安も杞憂なのかな、って思えてきた。
まだぢくぢくと疼く心を抑え付けて、私は別の急須でお茶を入れる事にした。
日が暮れる頃には戻るハズ。
そう自分に言い聞かせて、私はのんびり待つ事にした。
「そう言えばルーミア、契とはどんな風に知り合ったんだい?」
「あ、私も気になる。出逢った時にはルー子の事を嫁だ、って言ってたし」
「初めて逢った時の事かぁ……えへへ」
「おっ、いきなり幸せそうな笑いが」
「ルー子、教えなさいよ」
二人に急かされて、私はケイに逢った時の事を思い出しながら口を開いた。
あの時の私は封印された影響でまだ力も弱ったままで、偶に山に紛れ込んで来た人間や野生動物を狩って生活していた。
力が落ちてる所為か思考能力や精神年齢も、まぁ見た目と変わらない。
その日もふらふらと山中を歩いていたら、急にドサッと重いものが落ちた様な音がした。
何かなーって音のした方に近付いてみたら、そこには一人の男の子が立っていた。
男の子は警戒した様子で私を見ていた。
黒髪で目に何か──眼鏡という名前は後で知った──を掛けていて、その下には綺麗な黒の瞳。
その瞳に見つめられた私は、今まで感じた事の無いドキドキに襲われた。
一目惚れだった。
もっと近くで彼を見たい、彼に見つめて貰いたい、彼の手を握ってみたい、彼に触れて貰いたい。
色んな事が頭の中を駆け巡って、私は何を言えばいいのか解らなくなった。
なんとか出た言葉は、私がいつも人間を食べる前に言う言葉。
「──あなたは食べてもいい人類?」
「は?」
拙い、彼がぽかんとしてる。
変な子だと思われただろうかと焦っていたら、彼は服から綺麗な包みを私に差し出した。
「俺は食べてはいけない人類だが、気さくに話し掛けてくれたお礼に飴玉をあげよう」
「わ、ありがと」
「なに、気にしなくていいさ」
お礼を言ったら優しく頭を撫でてくれた。
手から伝わる温かさがこそばゆい。
中には飴というものが入ってるらしい。
どうやって開けるのかまごまごしていたら、彼が包みを破って口に入れてくれた。
思わず彼の指をちぅちぅ吸ってしまった。
甘い。
凄く甘くて美味しい。
「おいひぃ♪」
「あ、ゴミは俺が後で捨てておこう」
「ありあとー♪」
見事に餌付けされてた。
お礼を言うと、見惚れるくらい素敵な微笑みを返してくれた。
格好良いなぁ。
その後お互いに自己紹介をした。
彼の名前は望月契。
ケイ、って呼ばせて貰った。
名前を呼んだだけで、ちょっぴり距離が近付いた様な気がする。
彼はどうやら旅人みたいで泊まれる場所を探してたから、随分前から在る古い小屋まで連れて行ってあげた。
「じゃあ、わたしはここまで」
くるりと踵を返す。
ちょっと寂しいけど、一緒に居られるのはここまで。
これ以上一緒に居たら私の人喰い妖怪としての性が彼を傷付けちゃうかもしれない。
だから、帰ろう。
そう思う直前、彼の声が掛かった。
「なぁ、ルーミア」
「んぅ?」
「家が無いならどこで寝てるんだ?」
「木の上とかかな」
「……良かったら一緒に小屋で寝るか? 外で寝るより暖かいと思うぞ」
胸が跳ねた。
彼の申し出は有り難いものだったし、何より私がまだ彼と一緒に居たい、って思ってたから。
どうしよう、すっごくドキドキする。
なんとなくドキドキを知られるのが恥ずかしくなって、私はちょっとおどけてみせた。
「んー……えっちな事しない?」
「ぶっ!? しねぇよ!」
「じゃあ、お邪魔します♪」
彼は慌てて両手を振った。
焦った顔も格好良かったけど、そんなに否定されたら寂しいなぁ。
今は封印されてるけど、本当の私は大人の女性なんだから!
そんな遣り取りをして緊張はちょっぴり解れた。
彼と一緒に居るだけで、なんの変哲も無い干し肉が最高の食事に思える。
寝る時には彼が囲炉裏の側に私の布団を敷いてくれた。
ちょっとした気遣いが嬉しい。
堪らなく彼の事を気に入ってた私は、そのまま彼の布団に潜り込んだ。
彼の温もりに包まれた私はすぐに寝息を立て、久し振りに幸せな気持ちで眠る事が出来た。
「……って感じかな」
「おぉー、一目惚れとはルー子らしい」
「しかし話を聴く限り、とても契とは思えないねぇ」
「なんで?」
「私の時は事情が事情だったからかもしれないけどさ、相当ルーミアに優しいじゃないか」
「確かにねぇ。私も契の飴玉欲しいなぁ」
「ちょっと優越感」
「いいもん、帰って来たら契に飴玉貰うから羨ましく無いもん」
「ははは、拗ねてたら子供に笑われるよ諏訪子」
和やかな雰囲気で話は弾む。
話してる間に日も暮れ、そろそろケイが帰って来る時間だ。
多分疲れてるだろうから今日のご飯は私が一人で作ろう。
お風呂で背中を流してあげようかな?
ケイも意外と照れ屋だから、封印解いた状態で背中に密着したら慌てるかも。
あわよくばそのまま……いやん♪
そんな妄想をしてたら、ケロ子にほっぺをつつかれた。
「にゃによぅ?」
「んー、なんかムカついたから。私は安定期入らないと契に抱いて貰えないしさ」
「そこは仕方無いだろう、私やルーミアからしたら契の子を孕めた諏訪子の方が羨ましいんだから」
「そうそう、ケイに抱いて貰えるのは嬉しいし気持ち良いけど、ケロ子みたいに子供を授かるのが本来の目的だし」
「あーうー、解ってるけど私も契に犯されたいのー」
「やれやれ、諏訪子の子供には淫乱さが遺伝してないと良いけど」
「ケロ子みたいにならない様に私達がしっかり教育しないとね、神奈子」
「二人共酷い!?」
ケロ子を弄って遊んでいると、何やら玄関先が途端に騒がしくなる。
何だろうね、と三人で顔を見合わせていた所にやって来たのは全身ずぶ濡れの青年。
確か最近、外回りの際にケイの補佐をする様になった青年だ。
「どうしたんだい彦六、そんなに慌てて」
「やっ、八坂様、洩矢様っ、一大事です! 契様が、契様がっ!」
「ケイ? ケイがどうしたの!」
思わず立ち上がり青年の胸倉を掴み前後にぶんぶんと振りたくる。
と、横から神奈子に手を抑えられた。
「落ち着きなルーミア、そんなにやったら彦六も話せないだろう」
「っ、ごめん」
「げほっげほっ、いえ、自分は大丈夫ですから、お気になさらず。ルーミア様も落ち着いて聞いて下さい」
手を離し床に腰を降ろす。
彦六と呼ばれた青年は居住まいを正すと、自らを宥める様な口調で話した。
「契様が鉄砲水に飲まれ、行方が判らなくなっております」
最初は意味が解らなかった。
次に私は自分の耳がおかしくなったのかと思い、耳を揉んだ。
外は相変わらず雨が降り続いている。
その雨音がやけに煩く感じた。
「契様と自分は水量の調査の為、山から流れる川を上流に向かい登っておりました。足場も悪く思う様には捗らなかったのですが、中程まで進んだ時急に契様が自分を突き飛ばしました。突然の事で呆気に取られていた自分の目の前で大量の水が押し寄せ、契様を飲み込んで行きました。恐らく気温の低い山頂付近で水を堰止めていた氷が何らかの拍子で割れ、鉄砲水となって流れ出たのでしょう。自分はすぐに下流域へ向かいましたが契様の姿は見つからず、捜索の人手を借りようと一度戻ってきた次第です」
話は半分も耳に入らなかった。
ケイが行方知れず?
鉄砲水に飲まれた?
頭の中をぐるぐると嫌な想像だけが巡り続ける。
「彦六は一旦村長の所に行って地図を借りてくるんだ。それに契が飲み込まれた場所と打ち上がっていそうな場所に印を付けて置いてくれ。私は健脚な奴等を集めて捜索隊を結成する」
「解りました、行って参ります!」
神奈子が青年に何か喋っていた。
虚ろな目でそれを眺めていると、左頬にじんわりと熱が滲む。
張られた、と気付いたらケロ子が私に詰め寄っていた。
「ルー子、気を張るんだ。何も契が死んだって決まった訳じゃ無い、そんな目をするのはまだ早いよ」
「諏訪子の言う通りさ、首根っこ捕まえて戻って来るから契に一発キツいのをかましてやりな」
「あ……うん、ごめん。二人共、ありがとう」
「大丈夫さルー子、契はすぐ見付かるって」
「ルーミア、捜索隊の食糧を作って置いてくれ。こういう時は体力勝負だからね、それにルーミアも動いていた方が気が楽だろう?」
「うん、解った。おむすび作って置く」
「私も手伝うよ、ルー子」
すぐ様分かれて行動に移る。
米を三升炊いて、その間に味噌汁も用意する。
雨で身体が冷えるだろうから、おむすびの中には生姜とネギの辛子味噌和えを、味噌汁の具には人参と大根を短冊切りにしたものを。
ケロ子には味を見て貰い、その間に器を用意して置く。
程なく米も炊き上がり、百五十人分の炊き出しが出来上がった。
付け合わせに沢庵を添えれば完璧だ。
早速広場へ運ぼうとした所で神奈子が帰ってきた。
「あぁ、炊き出しはここに置いといて大丈夫だ。社を作戦本部として情報を出し各隊に報告させるから」
「でもそれだと捜すのに時間掛からない?」
「時間は掛かるかも知れないが、その分見落としや捜索範囲の重複も起きないから精度はこっちの方が高い。それに情報は集めて置きたいだろう、諏訪子」
「それもそうだね。皆一気に出すの?」
「いや、この雨だ。五十人ずつ交代で捜索に当たらせて、順次休ませた方が良い。焦って被害を大きくする訳にも行かないからな」
間もなくケイの捜索隊、総勢百五十人が社に集結した。
神奈子は拡大した地図を指差しながら調べる範囲や隊の内訳を指示していく。
皆真剣に聞き入れてくれている。
思わず胸が熱くなって、私は声を上げていた。
「それでは先発隊五十人、宜しく頼んだ。くれぐれも無茶だけはしない様に」
「あっ、あのっ!」
「どうした、ルーミア」
皆の視線が私に向く。
それを受け止めて、私は深く腰を折った。
「ケイの事、宜しくお願いします」
「……ははっ、心配は要らねえさ」
「契様の事だからきっとピンピンしてるだろうぜ」
「奥方様の分も頑張って来ますよ!」
「必ず見付けて来るから大丈夫だよっ」
老若男女問わず、皆暖かい言葉をくれた。
視界が涙で滲む。
これだけの人望を集めたケイは、私だけじゃなく皆にも特別な存在になっていた。
──帰ってきたら、一発びんたしてやるんだから。
ごめんって言ったらもう一発、ただいまって言ったらもう二発。
両頬が真っ赤になったら許してあげる。
そしたら心配させた分、ずっとずっと抱き付いてやる。
寝る時も起きる時も、ご飯の時もお風呂の時も、ずっとずっと。
だから、ケイ。
無事に帰ってきてね。
先発隊の皆を見送って、私はそっと祈ってみた。
それから数刻。
雨はまだ降り続いていた。
深夜となり今日の捜索は打ち切られまた明日、日の出と共に再開する予定。
まだ、ケイは帰ってこない。
ケロ子はお腹の子供の事があるから、早めに寝かせた。
神奈子も明日に備えて最後の報告を受けてからすぐ床に就いた。
私は布団に入ったけど眠れず、気が付けば調理場の椅子に座っていた。
なんでかは解らない。
きっと、お腹を空かせたケイが帰ってきた時にすぐご飯を作ってあげられる様にだろう。
やる事も無いまま呆けている内に夜が明け、私は皆の朝ご飯の用意を始めた。
しばらくすると匂いに誘われたのか、神奈子が起き出してきた。
「おはよう、神奈子。炊き出しはもう少しで出来るよ」
「おはよう、ルーミア。……アンタ寝たのかい?」
「ううん、流石に気が高ぶっちゃって。皆を送り出したら寝かせて貰うから、心配しないで」
「無理はするんじゃないよ? 契が帰ってきた時にルーミアが倒れたんじゃ、何にもならないからね」
「ん、了解」
神奈子に昨日の残りで作った雑炊を振る舞って、のんびりお茶をすする。
湯飲みに映った顔は、少しやつれて隈が出来ていた。
いけないいけない、こんな顔だったらケイに笑われちゃうよね。
その後皆に炊き出しを振る舞いケロ子に栄養の付くものを食べさせた私は、再び調理場の椅子に座っていた。
この椅子は、ケイが私の為に作ってくれた特製の椅子。
木を切り倒して角を取り何度も擦って表面を滑らかにして小さな座布団と枕を取り付けて完成した、私専用の椅子。
座っているだけで、ケイに抱き締められている様な、そんな気分になる。
枕も座布団も、ケイが使って古くなったものを修繕して作ったもの。
だから、ケイの匂いがする。
幸せな匂いに包まれながら、私はお昼ご飯の支度を始めるまで眠る事にした。
次の日も、その次の日も、ケイは帰ってこなかった。
神奈子は捜索の範囲を広げ、湖周辺から更に下流域まで広げる事にしたみたい。
ケロ子は自分も参っているだろうに、私の事を心配して気に懸けてくれている。
私はと言えば、すっかりこの椅子でしか眠れなくなっていた。
朝昼晩の支度と皆で 食卓を囲む以外は、ずっと椅子で眠り続ける様になった。
しばらくそんな日が続き、神奈子にもう炊き出しの用意は要らないと言われた。
気付けば一月経っていたらしい。
これからはゆっくり出来るなぁと思った所為か、私の睡眠時間は少し延びた。
起きている時間より眠っている時間の方が長くなってからしばらく経った。
まだ、ケイは帰ってこない。
──会いたいよ、ケイ。
私の身体を抱き締めて、また優しく頭を撫でて欲しい。
びんたもしない、付き纏ったりもしないから、帰ってきて。
美味しいご飯も用意するから、ケイの好きな鯖の味噌煮も作ってあげるから。
ね、一緒に食べよ?
ある日、私はご飯時でも無いのに目が覚めた。
何となく理由が判り、すぐに大量のお湯を沸かした。
少しして神奈子が血相を変えて調理場に走り込んできた。
ケロ子が産気づいたみたい。
用意してあったお湯を盥に張り、どんどん部屋へ持って行く。
粗方運び終わったら、ケロ子の手を握って安心させてやる。
親がケイだからか、お産の方法は人間と同じだった。
ケロ子が金切り声を上げて、産婆さんが玉の様な子を取り上げた。
女の子だ。
元気に泣く子はケロ子に抱きかかえられると、安心した様に指をしゃぶり始めた。
おめでとうって言ったら、ありがとうって返された。
神奈子は感極まって、ぽろぽろ涙を流して喜んでいた。
──ケイ、あなたの子が、産まれたよ。
可愛くて、利発そうで、優しそうな女の子だよ。
きっとこの子も、ケイに会いたいって思ってるよ。
だからケイ、早く帰ってきなよ。
暖かい家族が、待ってるよ?
夏が過ぎて、秋が終わり、冬を越えて、また春がやってくる。
あの子も──鼎もすっかり大きくなって、今じゃ男の子よりわんぱくに育った。
神奈子はすっかり鼎にデレデレしてて、すぐに甘やかそうとしてはケロ子に怒られている。
私は食事の時しか話してないけど、とても真っ直ぐな子に育ってるのが解る。
偶に、起きたら私の膝の上で寝てる事もあって、凄く微笑ましい。
けれど私はそれとは別に、少し恐怖の様なものを感じていた。
椅子から漂うケイの匂いが、薄れてきた。
ケイの声が聴きたい、ケイの温もりに触れたい。
少しずつ、私の中のケイが消えていく。
──やだよ、いなくなっちゃ、やだ。
夢の中ではいつも側にいて、優しく抱き締めてくれるケイ。
でも、最近その夢も見る回数が減ってきた。
ケイの夢を見た後は、決まって頬に涙の後が残ってる。
ケロ子や神奈子が心配してくれるけど、私はまだ大丈夫。
だって、約束したから。
ケイと『契約』したから。
私を母にしてくれる、って。
きっと鼎みたいに素敵な子供になる。
だって、私とケイの子供だもの。
だからケイ、早く帰ってきて私を抱き締めて。
壊れちゃうくらい乱暴にしてもいいから、代わりにケイの温もりを感じさせて。
ケイさえいれば、どんな困難だって頑張れるから。
ケイ、待ってるからね。