あれ。
あれれ。
どうしてこんな事になっているんだろう。
原因を思い返そうとする私の思考は、ずんっ、と響く衝撃とゆっくりと染み渡る快楽に邪魔されて全然纏まらない。
頭が鈍く痛み、視界にはもやが掛かった様にぼやけている。
白く霞む視界の先に、優しい黒の瞳が私を覗き込んでいる。
その背後に有るのは天井。
という事はつまり、私は彼に組み伏せられている。
それ事態は望んでいた事だし拒む所かバッチコイな事なんだけど、それに至るまでの記憶が無くて混乱してしまう。
考えても今の状態では頭が回らない。
それなら彼に聞けば良いか、と口を開く。
でも、私の口から出たのは疑問の声では無く、甘い嬌声だった。
「ひゃぁ、あぁ、あんっ、あっあっ、あひゃぁん!」
自分の声に驚くのと同時、強烈な快楽が一気に押し寄せ脳を焼き払って行く。
鮮明になった視界の先では私の大好きな、おにいさんの姿が有る。
勿論、おにいさんは全裸。
その破壊力足るや普段和服の隙間から覗いていた素肌なんかとは比べ物にならない。
程良く厚い胸板、硬く引き締まった腹筋、動く度に浮き上がる筋肉と血管。
思わず鼻血が吹き出しそう。
視界と共に鮮明になった意識は息吐く間さえ無い快感に揺さぶられ、何一つ満足に考えられない。
今こうして冷静に──かどうかさえ怪しいけれど──考えているのも、どうにか思考の一部を切り離しているから出来る事。
大半の意識はおにいさんが与えてくれるこの上無い気持ち良さに奪われている。
おにいさんの逞しいおちんちんが私のアソコを擦る度、全身が溶けてしまいそうな快楽が走り抜ける。
僅かに残る鈍痛と慣れない快楽から察するに、私が破瓜を迎えてからそんなに時間は経ってない。
一体どうしてこうなっているのか。
「ふぁん、あん、あぁん、あんっ、おに、さん、おにぃ、さんっ!」
……っと、いけないいけない。
危うくこっちの思考までおにいさんに染められる所だった。
私の全部をおにいさんに奪われるというのもかなり魅力的では有る。
でも、おにいさんとの情事をしっかり楽しむ為にも疑問は解消して置きたい。
「可愛いよ、紫」
……っ!?
い、今のは危なかった。
おにいさんに囁かれただけで心臓が跳ね、全てを委ねてしまいたくなる。
でも私はそんなに簡単な女の子じゃない。
おにいさんの方から結婚を申し込んでくるまで、私の心は渡さないんだから!
「ふわぁっ、おにいさん、しゅき、しゅきなのぉ、もっと、もっとわたしのアソコ、ほじってぇ!」
だ、大本営は堕ちてるみたいだけど、まだ平気だもん!
手繰り寄せた記憶、始まりは今日の昼下がり。
少しお昼ご飯には遅いけど、今日のご飯はおにいさんが作ってくれる事に。
松茸なんて滅多に食べられないから私は興奮しっぱなし。
勢いに任せておにいさんに抱き付いたり、匂いを嗅いだりもした。
おにいさんの匂いって何て言うか、嗅いでたら頭がぽ〜っとしちゃうんだよね。
苦笑しながらも頭を優しく撫でてくれるおにいさん。
それでいて、まるで手品みたいに料理を作っちゃうのは素直に凄いと思う。
松茸の土瓶蒸し、松茸の炭火焼き、松茸ご飯と豪華絢爛。
私ってば子供みたいに目をキラキラさせちゃって……思い返すと少し恥ずかしい。
でもご飯は美味しいし、目の前にはおにいさんの笑顔が有るし。
楽しくて嬉しくて幸せ過ぎて、私はちょっとおかしくなってた。
──ちょっとだけなら、大丈夫。
鬼の友人に貰ったお酒『契り』を土倉から取り出して、おにいさんと飲み交わそうと杯を渡した。
このお酒、鬼が作っただけ有って異常な程強い。
私みたいな一種族一体の妖怪でも三口で酔っ払ってしまう。
勿論私もおにいさんも早々に酔っ払い、ぐでんぐでんになった。
酔っ払った私は少し気が大きくなっておにいさんを誘惑。
……まぁ、普段なら誘惑と言うのも烏滸がましいくらい稚拙な行動だった。
着物を脱いで「おにいさん、抱いて♪」と両手を広げるだけの幼稚な誘惑。
ただ予想以上に酔っていたおにいさんは和服を脱ぎ捨てると「孕ましてやるよ、紫」って言って私に覆い被さった。
そのまま前戯もそこそこに、おにいさんの立派なおちんちんが私のアソコに、その、ごにょごにょ……。
以上、私が抱かれた経緯。
破瓜の瞬間とかは最高潮に緊張やら酔いやらが高まっていた所為か、余り記憶に残って無い。
さっき意識が戻ったのも、おにいさんの精液が私の中に注がれたからだろう。
──あ、あれ?
でも不思議な事にお腹の中から精液が流れ出てくる気配が無い。
それ所か精液は奥に留まって、お腹にじんわり溶け込んでいく様な感覚さえ有る。
──せ、精液ってサラサラしてるんじゃ無いの!? な、なんかおにいさんの精液、どろってしてるよ!?
以前、偶々性交している男女を見掛けた事が有る。
その時茂みの影から見えた精液は、透明な水飴みたいなのに白く濁った所がぽつぽつと有るものだった。
流れる様子は唾液みたいで、こんなにどろってしたものじゃ無かった。
因みにそれを見た日からおにいさんを想って自慰を始めたのは誰にも言えない秘密だ。
お腹の中に有るおにいさんの精液の感覚に混乱していると、激し過ぎる快感が背筋を駆け上った。
堪らず意識が持ってかれる。
「あひぃぃっ!? おに、おにいさ、それ、それぇっ、おまめクリクリしちゃ、んひゃぁぁぁぁぅっ!」
視界がチカチカと明滅を繰り返し、何も考えられなくなる。
アソコはじんじんと甘く痺れ、壊れてしまったかの様にぴゅくぴゅくと淫らな汁を噴き上げている。
おにいさんは私の反応に気を良くして、更に激しくおちんちんを出し入れした。
おちんちんがアソコを擦り上げる度、イヤらしい声が溢れ出る。
「んぁぁっ、もっとぉ、もっとぉ! アソコずんっ、ずんってしてぇ、おにいさんのおちんちんしゅきぃ、しゅきぃ!」
自分の口から溢れる言葉に顔を覆いたくなる。
──いやっ、こんな淫乱なの、本当の私じゃない!
切り離した思考の片隅で感情が悲鳴を上げている。
身体と精神の大半は与えられる快楽に溺れている。
私を認めてくれた憧れの、最愛の人が注いでくれる快楽だ。
抗う事なんて出来ない。
幸せという酸が私を溶かしていくのを、ただ見ている事しか出来ない。
「おにいさ、んぁっ、あぁん、あっあっ、らめぇ、アソコ気持ちいぃ、いいのぉっ、アソコ溶けちゃうぅ、うぁっ、あぁっ、はぁぁん!」
耳を塞ぎたくなる様なイヤらしい言葉が溢れていく。
おちんちんで奥をコンコンと突かれる度に、身体がぴくんと跳ね上がる。
気持ち良い。
気持ち良過ぎる。
いつしか私は両足をおにいさんの腰に回して、おちんちんが抜けない様にしっかりと抱き付いていた。
すっかり堕ちた身体は、浅ましくおにいさんの精液をねだっている。
「しゅきぃ、しゅきなのぉ、おにいしゃんのせーえきで、アソコにとぷとぷされりゅのらいしゅきなのぉぉっ! らしてっ、わらしのアソコにせーえきらしてぇっ! あかひゃんうむのぉ、おにいしゃんのあかひゃんうむのぉぉっ、らから、せーえきとぷとぷらしてぇぇっ!」
どぷっ、とお腹の奥で何かが弾けた。
高い熱量を持ったそれは私の奥深くまで染み渡り、身体の芯を溶かす。
射精、された。
気付いた瞬間、最高の快楽と最高の幸福感が心を満たしていった。
全身を痙攣させておにいさんの精液を受け止め、赤ちゃんの部屋に精液を誘い込む。
「ふぁ──っ、あ──っ、れてりゅぅ、あかひゃんのへやに、しぇーえひ、れてりゅぅぅぅ……♪ おにいひゃん、しゅひぃ、らいしゅひぃ……♪」
もう呂律も回らない。
快楽に染まっていく意識の片隅で、泣き叫ぶ事に疲れた感情がそっと思う。
──淫乱な私だけど、これからもおにいさんの側に居れたら良いな。
これだけの痴態を晒してしまった私だ。
もしかしたらおにいさんに退かれているかもしれない。
退かれるだけならまだしも、気味悪がられて避けられたら、どうしよう。
ズキン、と胸の奥が軋む。
おにいさんから離れたく無い。
恋人や友人で無くて良い。
性欲処理の人形でも良いから、おにいさんの側に置いて欲しい。
淫語を口にしながら、おにいさんの精液を貪りながら、私は快楽とは違う涙を一筋流した。
「泣かなくて良い」
不意に聞こえた、おにいさんの声。
届いた声に、私は動きを止めた。
「俺は紫が好きだしずっと側に居て欲しいと思ってる。まぁ、少し苦手と言うか気後れする所は有るが、それも含めて紫が好きだ」
おにいさんの言葉が胸に落ち、快楽に引っ張られていた思考が幾分戻ってきた。
同時に心臓が早鐘を打つ。
おにいさんが、私を、好き?
呆けた様に見上げる私に微笑みを返して、おにいさんは照れた様子で口を開く。
「意地っ張りで臆病だからな、俺も。こうして酒の力を借りなきゃ、紫みたいな可愛い娘を口説けないのさ。だが今度は素面の時に告白する。だから紫、今はこれで許してくれ」
そう言って、そっと指で私の涙を拭う。
近付いてきた唇が私の唇と重なり、ちゅっと音を立てた。
その瞬間、私の視界が俄かに色付いた。
色褪せていた風景に魂が宿ったかの様な、目覚ましい変化。
自然と私はおにいさんを抱き寄せ、何度も唇を寄せた。
「んっ、ちゅっ、んぅっ、すき、すきぃ、おにいさん、だいすきぃ……!」
嬉しい筈なのに、涙が零れる。
何度も何度も唇を重ねているのに、全然足りない。
もっともっと、おにいさんを感じていたい。
おにいさんを想うだけで胸が高鳴り、おにいさんに触れるだけで満たされていく。
泣き疲れて眠るまで、私はおにいさんに口付けていた。
目覚めたのは、辺りがすっかり暗くなってから。
いつの間にか敷かれた布団の中、隣には大好きな人の寝顔。
あどけない少年の様な寝顔を眺めていると、心の奥に溜まっていた泥がスッと溶けていくのに気付いた。
──そっか。私とおにいさん、似てるんだ。
初めて会った時は、私がおにいさんを怖がっていた。
あの時の私は人付き合いも下手で、いつもびくびく怯えながら過ごしていた。
だからおにいさんにも、どこか恐怖みたいな何かを感じていた。
でもおにいさんは私を見てくれた。
妖怪とか変わった髪色だとか全然気にしないで、私自身を見てくれた。
周囲と違うこの髪の毛を、綺麗だって言ってくれた。
だから、私は変われたんだ。
この村に来てからは人付き合いも上手くなったし、自分の事をちょっぴり好きになれた。
全部、おにいさんのおかげ。
でも変わった私に会ったおにいさんは、ちょっと戸惑ってた。
弱々しい私しか見てなかったから、きっと驚いてしまったんだろう。
今日みたいにじっくりお話する機会も無かったから、その驚きを消化し切れなくて混乱しちゃったんだと思う。
さっき言ってた「苦手な所」っていうのも、きっとその所為。
そして今度は私がおにいさんの抱えていた不安に中てられて、余計な不安を抱えてしまった。
話せば簡単に解決したのに、二人でぐるぐる迷子になっていたんだ。
「……くくっ」
なんだかおかしくなって、喉を鳴らした。
本当に似た者同士だ。
お互いに話し合いたいのに、距離感が掴めなくてふらふらしてたなんて。
でも、これからは違う。
もう回り道しなくて済む様に、私はおにいさんに遠慮なんてしない。
正面からぶつかってやるんだ。
もしおにいさんが迷子になりそうな時は、私が腕を引いて上げる。
「逃がさないからね、おにいさん♪」
額にちゅっと口付ける。
きゅっと抱き付くと、胸がぽかぽかしてきた。
優しい気持ちになれる、ぽかぽか。
多分これが誰かを好きになるって気持ち。
そして多分、これが……、
「初恋……実っちゃった♪」