※この作品はR-18です。

東方恋人探   作:一ノ瀬 崇

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第四幕
転移式隙間。そして強制放浪の旅へ。


 今日も平和な一日が始まる。

 鳥の囀りに目を覚ますと両腕が軽い痺れを訴えてくる。

 右腕には諏訪子、左腕には妹紅が抱き付いており幸せそうに寝息を立てている。

 夜中にこっそり潜り込んで来るのが最近の日課らしい。

 まぁ、概ねいつもの事だ。

 肘を曲げて指を伸ばし、二人の鼻を摘んでやった。

 十秒経過。

 眉間に皺が寄り始める。

 二十秒経過。

 細かくぷるぷると震え始める。

 ここで一旦指を離す。

 三十秒程で呼吸が元通りになり、更に追加で十秒待って再び鼻をぷにっと摘んだ。

 それを何度か繰り返す。

 面白いのは二人の反応が対照的な事だ。

 諏訪子は少しずつ頬を上気させ虐められる事に快感を得ているが、妹紅は眉間に刻まれる皺が回数を重ねる毎に深くなっていく。

 潜在的にSかMかが解るな。

 ともあれ遊んでいても仕方が無いので二人を起こす事にした。

 

 

「ほれ二人共、朝だぞ」

「うぅ〜……」

「くー……すー……」

 

 

 身体を揺すると妹紅は不機嫌そうに呻き、諏訪子はその揺れが気持ち良いのか安らかな笑みを浮かべている。

 一向に起きる気配が無い。

 呆れと諦めを多量に含んだ息を吐き出し、俺は気の進まない方法で起こす事にした。

 諏訪子の耳元に顔を寄せ、囁く。

 

 

「いつまで寝ているつもりだ、雌蛙」

「ひぅん!?」

 

 

 顔を真っ赤に染めて覚醒する諏訪子。

 怯えた振りをしながらも情欲に塗れた瞳で俺を見上げてくる。

 が、俺が夜伽の雰囲気を微塵も感じさせない事に気付くと慌てて周囲を見渡した。

 

 

「あ、あれ?」

「おはよう、諏訪子」

「お、おはよう。あれ、え、あれ?」

「どうした諏訪子、夢でも見ていたのか」

「……な、なんでもないよ」

 

 

 問い掛けると少し照れた様子で首を振る。

 まぁ、朝から淫夢を見ていたなんて言えないだろうからな。

 続いて妹紅を起こす。

 方法は簡単だ、ただガクガクと強く揺さ振ってやれば良い。

 

 

「目指せ一秒間に十六回振動」

「もこちゃん死んじゃう!?」

 

 

 大丈夫だ、不老不死だから。

 等と冗句を飛ばしながら妹紅の肩を掴み揺さ振り始める。

 二十秒程で重い瞼が開いた。

 

 

「……んぇぁ〜」

「おはよう、妹紅」

「……にぃに、おは……ふわぁ〜」

 

 

 盛大な欠伸を見せ付ける妹紅を諏訪子に預け、やや肌寒い廊下をひたひた歩く。

 もうすぐ冬か。

 まだ吐く息は白くないが、後数週間で雪が降ってくるだろう。

 村の雪掻きも手伝ってやらんとな。

 居間の襖を開けると、朝餉の用意をしていたルーミアと奈苗が出迎えてくれる。

 

 

「おはよう、ケイ」

「おとーさん、おはようございます」

「ん、おはよう」

「今日は玉子焼きと焼き秋刀魚ですよ。玉子焼きは私が作りました」

 

 

 えっへん、と胸を張る奈苗。

 諏訪子と妹紅が見たら血涙流しそうなくらい胸が揺れている。

 ルーミアは胸の大きさに頓着していない。

 そこら辺は大人の余裕と言う奴か。

 どうでもいい事を考えながら配膳を手伝っていると神奈子がやってきた。

 

 

「お、契も起きたか。おはよう」

「おはよう神奈子。朝から湯浴みとは優雅だな」

 

 

 風呂上がりでほんのり桜色に染まった肌が艶めかしくて実に良い。

 髪の毛もいつものふんわりヘアーではなく真っ直ぐ下へ伸び落ちていて、清楚な雰囲気とクールビューティな感じが加わり非常に可愛らしい。

 俺個人としてはこのストレートに下ろした髪型の方が好きなんだが、本人はいつもの髪型が気に入ってる様だ。

 

 

「おにいさん、おはちゅー」

 

 

 突然背後から声を掛けられた。

 振り向くと同時唇に柔らかいものが触れ、しっとりとしたものが口内を犯してくる。

 まぁ、スキマを割って現れた紫が朝の挨拶と共にキスを仕掛けてきただけだが。

 最近、紫も我が家の食卓に加わる様になった。

 一人で食べるご飯は寂しいらしい。

 色々と世話になった事も有るし皆歓迎したのだが……毎朝こうしてキスをねだるのは如何なものだろうか。

 最初は奈苗や妹紅が嫉妬していたのだが、嫁同士で何か取り決めを交わしたらしく最近は紫の特権となっている。

 ……勿論、そこに俺の意志は無い。

 嫌では無いからいいか、と思い始めてきたのは嫁達に調教されているからだろうか。

 少し不安だ。

 ともあれ配膳を続け皆が揃った所で楽しい朝食の時間だ。

 

 

「いただきます」

 

 

 両手を合わせて味噌汁を一口。

 具は長葱と占地。

 占地の歯応えに続いてシャキッと鳴る長葱の食感が素晴らしい。

 玉子焼きは甘い味付けで、出汁巻き玉子とはまた違った美味しさが有る。

 特に妹紅には大好評で、絶賛された奈苗は照れ臭そうに笑っていた。

 あっと言う間に平らげ、食事時間僅か十五分。

 それでも朝から三杯もお代わりしたルーミアには『はらぺ娘』の称号を贈ろう。

 後片付けも終えて暫し一服。

 と言っても煙草はやらないので庭を眺めながら緑茶を飲むだけだが。

 これまたいつもの様にまったりしていると、紫が思い出した様に言った。

 

 

「おにいさんおにいさん、この後予定は有るかな?」

「全く無い。どうした?」

「実は河童に手伝って貰って私の能力を埋め込んだ道具を開発して貰ったんだよね。それを使えば離れた場所でもすぐに到着出来るって訳。で、これから実物を受け取りに行くんだけど道中一人じゃ寂しいなぁ〜って」

 

 

 上目遣いに見てくる紫。

 すっかりあざとくなってしまった。

 懐かれた代償とでも考えて置いた方が精神衛生上良さそうだな。

 

 

「解った、行くよ」

「ありがとおにいさん、大好き〜」

「じゃあ善は急げだな、すぐ出発しよう」

「あぁん、いけずぅ!?」

 

 

 むきゅっと抱き付いてくるのをひらりと躱して立ち上がり、湯飲みを台所に置く。

 その後自室で浴衣からYシャツとスラックスに着替え厚手のジャケットを羽織れば準備万端。

 途中部屋の外から「おとーさんの生着替えハァハァ……うっ、……ふぅ」とか聞こえたが全身全霊を以て無視した。

 襖を開けると賢者タイムの奈苗が何やら良い空気を吸っていた。

 それで良いのか巫女少女。

 まぁ、そんなイベントも有りつつ玄関へ向かうと紫が日傘を差して待っていた。

 前にプレゼントした紫陽花の刺繍が施された着物を着ている。

 気に入って貰えている様で嬉しい。

 

 

「待ったか?」

「ううん、今来た所」

 

 

 デートの待ち合わせをしたカップルみたいな会話に、二人で笑い合う。

 紫は日傘を差したまま、左手を伸ばす。

 右手を重ねると、愛おしげに指を絡めてきた。

 少し気恥ずかしい。

 が、満面の笑みを浮かべる紫を見ているとこんな日も偶には良いか、と思えてきた。

 空を仰ぎ見る。

 雲一つ無い晴天が広がっていた。

 今日も一日、平和に過ごせそうだな。

 

 

 

 

 

 

「……で、何で俺はこんなに怖がられているんだ?」

 

 

 疲労を多分に含んだ溜息が漏れる。

 それに反応して緑の帽子と青い髪がビクッと震えた。

 紫は隣で乾いた笑いを上げるばかり。

 今俺が居るのは幽香の家に程近い滝の側、木々の中にひっそりと佇む小屋の中だ。

 研究や開発が好きな河童の中に於いて『マッド』の烙印を押された奇特な河童が住むと紫に連れられやって来たんだが。

 

 

「にとりが人見知りなのは知ってたけれど、まさかここまでとは思わなかった」

 

 

 そう語るのは紫。

 ここの主は『河城にとり』と言うらしい。

 そしてその当人が、組まれた何かの部品の後ろで怯える様に俺を窺っている少女と言う訳だ。

 入るなり隠れてしまって、自己紹介をする間も無く避けられている。

 話をしようにも口を開けば物陰に隠れてしまうし、一歩踏み出しただけで「ひゃぁうぅぅぅっ!?」と悲痛な叫びを上げられてしまう。

 先程は視線を向けただけで半泣きされた。

 

 

 ──これは精神的にキツい。

 

 

 元来打たれ強い訳では無い俺のメンタルは既にアラートを発している。

 一番途方に暮れているのは紫だろう。

 片や見知らぬ男に怯える少女、片や少女の反応に打ち拉がれる男。

 どうしたら良いのかさっぱり解らん。

 

 

「え、えっと、大丈夫よにとり! おにいさんは優しくて良い人だから!」

「……ほ、本当……?」

「勿論よ、噛み付いたりしないから!」

 

 

 俺は犬か? 

 色々と突っ込みたいが取り敢えず少女は紫の言葉を信じたらしく、ゆっくり、非常にゆっくり顔を出す。

 が、俺と目が合うとすぐに引っ込んでしまった。

 これはなかなか難しいぞ。

 

 

「あぁっ、ほら大丈夫だから! おにいさん怖く無いよー、ほらステイステーイ。良い子良い子」

 

 

 無理矢理屈まされ頭を撫でられる。

 よし紫、帰ったらじっくり語り合おうじゃないか。

 と言うか紫の説得の所為で、自分が大型の盲導犬か何かになった気分だ。

 そして彼女は大型犬に怯える中学生……。

 止めよう、何か悲しくなってきた。

 幼女安打率はインド人もびっくりなんだが、どうも少女安打率は奮わないらしい。

 その後も暫く説得を続け、どうにか恐怖心は拭い去れた様だ。

 まだ硬さは残るがそれでもしっかりと少女は自己紹介をしてくれた。

 

 

「えっと、は、初めまして。かっ、河城にとりと申します。河童ですっ」

「これはご丁寧にどうも。俺は望月契、しがない人間で最近神になった半端者さ。宜しくな、にとり」

「はっ、はいっ! 宜しくお願いしますっ」

 

 

 ぺこっと頭を下げるにとり。

 左右の短いツインテールがぴょこっと揺れて愛らしい。

 水色に染まった白衣……染まっている時点で白衣なのかは疑問だが、ともかくそんな感じの服を着ている。

 左右に増設されたポケットから覗く作業手袋や背負った緑色のリュックサックからはみ出たスパナが異彩を放つが、見た感じ大人しそうな娘だ。

 

 

「そんなに畏まらなくて良い、もっと砕けた話し方のが嬉しいからな」

「はっ、はいっ! あ、じゃなくてっ、う、うんっ!」

 

 

 カチコチと機械仕掛けの様に動く。

 まだまだ先は長そうだ。

 ともあれにとりの先導で小屋の奥へ。

 物が溢れ返っている所為か案外狭く感じる室内の端、金属製の床板が有る。

 突如現れた近代文明の香りに呆けていると、にとりは壁のボタンを押し込んだ。

 プシューと空気が抜ける音が鳴り、金属製の床板がスライドして開いた。

 その下には階段が続いている。

 

 

「どういう事だ……?」

「河童は凄い技術力を持ってるんだよ、おにいさん」

 

 

 凄いなんてもんじゃない、これは数世代先の技術力だ。

 電気をエネルギーとしている事が如何に優れたものかを、イマイチ紫は理解出来ていないのだろう。

 呆然としつつもにとりの後を追って階段を下りていく。

 一歩進む度に電灯が足元を照らし出す。

 下り切ると、小学校のグラウンド程の広さが有る部屋に辿り着いた。

 所狭しと機材が立ち並び、正しくラボと形容出来る部屋だ。

 にとりはくるりと身を翻して、少し自慢気に胸を張った。

 

 

「ようこそ、にとりの科学ラボへ!」

 

 

 わー、と紫は拍手していたが、俺は感動も驚愕もしていなかった。

 理由は、にとりの頭上。

 一回転した時にリュックサックからはみ出していたスパナがロッカー脇のケーブルを引っ掛け、その所為でロッカー上の鉄板がずり落ちて来ていた。

 飛び込む様にしてにとりの身体を抱きかかえ、庇う為に俺の背中から着地する。

 間一髪、鉄板は俺が通り抜けてから落下し鈍い音を響かせた。

 何が起きたのか理解出来ずに、にとりと紫は目を白黒させている。

 

 

「怪我は無いか、にとり」

「え……あ……?」

 

 

 まだ脳の処理が追い付いていないのか呆けている。

 抱き締めたまま頭の先から足の先まで見渡して見るが、特に捻ったりぶつけたりはしていない様だ。

 ほっと一息吐く。

 

 

「無事で良かった」

「────っ!?」

 

 

 急に顔を逸らし俯くにとり。

 その様子にどこか怪我をしたのかと焦ってしまう。

 

 

「どうしたにとり、どこか痛むのか?」

「いっ、いやっ、だ、大丈夫だからっ!」

「そうか? 痛みが有れば言ってくれ、良く利く薬を持っているからな」

「う、うんっ、ありがとっ」

 

 

 何やら慌てた様子で手をぶんぶんと振る。

 元気そうで何よりだ。

 にとりを床に降ろすと紫が興奮して駆け寄って来た。

 ……鉄板を踏み付けているが良いのだろうか。

 

 

「にとり、大丈夫だった!?」

「うん、平気。その……契君が助けてくれたから」

「そっか、良かったぁ……それにしても流石おにいさん、格好良かったよ!」

「一瞬肝が冷えたな。にとり、こういった鉄板は或る程度纏めて低い位置に固定した方が良いぞ」

「うん……その、本当にありがとう……」

「気にするな。それよりも、にとりが無事で良かった」

 

 

 笑い掛けると、にとりは何故かまた物陰に隠れてしまった。

 ……何か怖がらせてしまっただろうか。

 と、後ろから紫が囁いてくる。

 

 

「おにいさん、今のでフラグ建ったよ」

「何?」

「ほら、にとりの顔見てみなよ。真っ赤になっちゃって……アレ、恋する乙女の瞳になってるよ」

「……マジでか」

 

 

 確かに先程と違って目に怯えの色は無く、代わりに頬が赤く染まっている。

 てか今のでフラグ建つとか、どんだけ対人経験に乏しいんだ。

 ズレた眼鏡をくいっと直しながら小さく溜息を吐く。

 

 

 ──はて、俺は地球ではそんな嬉し恥ずかしなイベントに縁が無かった筈だが。

 

 

 まぁ、好かれているなら問題無い。

 恥ずかしくて近付けないなんて、初々しくて可愛いじゃないか。

 ……無理矢理近付いたらどんな反応するんだろうな。

 おっと、また思考が鬼畜に走っていた。

 にとりを虐めるのはもう少し仲良くなってからにしよう。

 

 

「おにいさん、また悪い顔してる」

「気の所為だ」

 

 

 

 

 

 

 ちょっとしたハプニングを終えて、漸く目的の場所へ辿り着いた。

 途中冷静さを欠いたにとりが何度もケーブルに足を引っ掛けたので、その度に『治癒の軟膏』や『純白の秘薬』で治してやった。

『純白の秘薬』は『治癒の軟膏』と同じくライフ回復かダメージ軽減を選択出来る。

 違う点は回復量ないし軽減値を自分で調節出来る所だ。

 軽い怪我から重傷まで全てに使える汎用性が魅力だ。

 

 

「で、これが件の?」

「そう、隙間転移装置試作型」

 

 

 紫が手にした筒型の置物。

 ぱっと見ただの茶筒にしか見えないが、実はにとりの技術を注ぎ込んだハイテクマシンらしい。

 詳しく話を聞いてみるが、どうやら失敗作の様だ。

 理論は完璧な筈だが動作せず、一度対象を送ったら壊れてしまうらしい。

 まぁ、試作型なんてそんなもんだろう。

 紫から筒を受け取り近くの机に置く。

 

 

「まぁ、これに懲りず改修型でも……」

 

 

 二の句は継げなかった。

 何故なら話していた筈の二人が消えてしまっていたからだ。

 いや、二人だけでは無い。

 今し方置いた筒も机もラボさえも、全て消え去っていた。

 代わりに広がっているのは、鬱蒼とした深い森。

 

 

「……マジかよ」

 

 

 ぽつりと呟いた言葉は深い木々の中に溶けて消えた。

 

 

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