※この作品はR-18です。

東方恋人探   作:一ノ瀬 崇

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海は嫌いだ。そして中二病な口説き方。

 村を出発してから一週間。

 取り敢えず東に進路を取った訳だが、失念していた事が一つ。

 ルーマニアの東には黒海が有る。

 当然馬車では渡れないので、北から回り込むルートとそのまま南東に進みトルコ側から抜けるルートのどちらかを選択する事になる。

 いっそ船が使えればなぁ、と漏らしたのを聞き付けたレミリアがさらっと一言。

 

 

「商船に相乗りさせて貰えば?」

 

 

 レミリアが提示したのは、商人が物資を運ぶ為に使う貨物船に乗せて貰い黒海を渡るという案。

 だが、吸血鬼は流水を渡る事が出来ない。

 正確には、吸血鬼が流水の上を渡ると酷い酔いに襲われるとの事。

 レミリアとフランにそんな無理はさせられない、と美鈴が却下するも再度口を開いたレミリアに、今度は俺と美鈴が言葉を失う事に。

 

 

「私もフランも流水平気になったわよ」

 

 

 どういう事かと詳しく聞けば、俺の血を取り込んで以来流水への忌避感が薄れ、試しに小さな川を跨いでみた所全く異常が起きなかったらしい。

 そう言えば水に濡らしたタオルで拭いた時も苦しそうな様子は無かったな。

 美鈴から「また契さんの血ですか」と呆れた眼を向けられたが甚だ不本意で有る。

 なりたくてミュータント製造血液になった訳じゃない。

 しかし話を聞く限り、吸血鬼としての弱点は殆ど無くなったんじゃないのか? 

 日光に晒されても肌荒れを心配する程度、流水も平気になり雨の日でも大丈夫。

 胸に木の杭を刺すとか銀の銃弾で心臓撃ち抜かれたら死ぬとか言われているが、そんなもん喰らったら誰でも死ぬ。

 十字架云々は教会が権威を誇ろうと捏造した話だし、ニンニクの臭いは単に好き嫌いだろう。

 

 

 ──あれ、レミリアとフランの吸血鬼っぽさって何だ? 

 

 

 血を吸う事と羽が有る事、力が強い事くらいしか無い気がする。

 ……まぁ、羽を隠せばただの美幼女にしか見えないから問題は無いだろう。

 という事で美鈴が商人と話を付け、悠々と商船に乗り込んだ俺達一行。

 優雅な船旅と洒落込もうとしていたのだがここで問題が一つ。

 

 

「……ぅ、ぁあ……」

 

 

 青い顔をして船の縁に凭れ掛かっているのは、ご存知メイド長美鈴。

 吸血鬼姉妹は流水を克服したのだが、代わりに美鈴が船酔いでダウンするとか誰が想像しただろうか。

 フランは背伸びしながら美鈴の背中をさすってやっている。

 やだあの幼女優しい。

 爪先立ちの所為でぷるぷる震える膝元とか心配そうに揺れるサイドテールとか優しさ溢れる小さな掌とか全てが可愛い。

 

 

「こらケイ、少しは美鈴の心配くらいしてあげなさいな」

 

 

 ぽこっ、と頭を叩かれる。

 振り返れば腕を組んだレミリアが苦笑しながら立っていた。

 俺の隣に立つと柔らかい笑みを浮かべて、縁に身体を預け流れ行く景色に視線を踊らせる。

 風に揺れる髪先やはためくスカート、頬に添えた手が令嬢としての淑やかさ美しさを引き出している。

 その姿は一枚絵の様に決まっていて、普段の俺なら見惚れていたに違い無い。

 が、残念ながら今の俺にそんな余裕は無かった。

 

 

「おえっぷ」

「ちょっ、ケイも船酔いなの?」

「あぁ……というか船に乗るのも初めての経験だ。こんなに厳しいとは思わ、ぅっ」

「なら先に言ってくれて構わないのに……水持って来る?」

「いや、いい。……有り難うな」

「無理しちゃダメよ? さすってあげるくらいしか出来ないけど、苦しくなったら言ってね」

 

 

 レミリアの優しさが心に染みる。

 というかここ数日レミリアの良い女度数が鰻登りだ。

 普通十歳ってもっと視野が狭いんじゃないのか? 

 他人の事を考え、気を配り、行動する。

 簡単に見えて難しい。

 それを傲る事無く当然の様に行うレミリアが時々眩しい。

 

 

「……ぅぷっ」

 

 

 だが今は優しさよりも酔い止めが欲しい。

 

 

 

 

 

 

「アレだな、陸の方が性に合ってるな」

「そうですね、私達はのんびり陸路を行きましょう」

「美鈴、俺と来てくれるか? 陸路を」

「ええ、契さんとならどこまでも共に行きます。陸路を」

「美鈴……」

「契さん……」

「はいはい、解ったから行くわよ」

「美鈴とお兄様仲良しだねー」

 

 

 互いに手を取り見つめ合っていると、レミリアに溜息を吐かれた。

 無事対岸に辿り着き大地を踏み締めた感動に浸っているだけだというのに。

 地面が有るって素晴らしい。

 もう二度と船には乗らん。

 

 

「でもお兄様、日本に渡るには海を越えなきゃダメなんじゃないの?」

「……空を飛んで行けば大丈夫だ!」

「どう考えてもダメな発想よ、それ」

「良いんだよ、日本では神様だからな俺」

「契さん、日本に行くなら私も連れていって下さい。今度は空路で」

「勿論だ美鈴、共に日本へ行こう。今度は空路で」

「契さん……」

「美鈴……」

「ダメだわ、この二人」

「あはは、やっぱり仲良しー」

 

 

 妙にハイテンションとなった美鈴と遊んでいたらレミリアからジト目を向けられた。

 ちょっとくらい良いじゃないか。

 ともあれ黒海を無事に越えた俺達は商人に別れを告げてゴットゥーザ、もといゴートゥーザイースト。

 現代で言うとカザフスタンとかそこら辺の場所を渡り中国の方へ抜ける。

 砂漠地帯とステップに備え水も大量に買い込んだし、日持ちする旅糧も沢山有る。

 夜の寒さ対策に毛布も買い足した。

 これで砂漠も恐るるに足らず。

 序でに馬車も魔改造して置いた。

 資金に物を言わせて車輪を木製のキャタピラに変えゴムを使用したサスペンションを取り付け、荷物の輸送にラクダを買った。

 天幕内も広くし居住性を高めた。

 更に以前の物より軽量化されている為スピードも出る上、耐久性も向上した。

 盗賊対策には能力を使って『罠』を仕掛けた。

 

 

「これで道中も安心だな」

「ケイって魔改造が好きよね」

 

 

 すっかり突っ込み役が板に付いてきたレミリアを抱きかかえ、フランと一緒に天幕の中へ放り込んでやる。

 中には毛布と座布団を敷いているのでクッション性は抜群だ。

 

 

「きゃっ!?」

「わー♪」

「靴は脱いでそっちの篭に入れておけよ。俺は後ろの二号車に居るから何か有ったら呼んでくれ」

「はぁーい」

「あぁ、美鈴。この先、日差しもそうだが砂を孕んだ風が強く吹く。こっちの外套を着て防護しとけ、それと水筒を十本置いとくから喉が渇く前に水分補給するんだぞ? 水が足りなくなったら呼んでくれ、持って行くから」

「解りました」

「よし、じゃあ出発だ」

 

 

 御者は美鈴に丸投げして連なった天幕の後ろ側に腰掛ける。

 ぺしっ、と鞭の鳴る音が聞こえゆっくりと馬車は動き始めた。

 馬より速さは落ちるが、それでも充分な速度は有る。

 二号車に乗った俺の役目は、周囲の警戒と皆の健康管理、それと料理だ。

 とは言ってもまだ港を出発したばかりで、やる事は無い。

 のんびり空でも眺めるとするかと思っていたら、前の天幕から何やら話し声が聞こえてきた。

 

 

「全く、ケイったらレディの扱いがなっていないわ」

「でもお姉様、お兄様にお姫様抱っこされてた時嬉しそうじゃなかった?」

「それは……まぁ」

「いいなぁ、私もお兄様とらぶらぶしたいなぁ」

「フランは後三年くらいしたらケイとイチャイチャ出来るんじゃないかしら」

「え〜、後三年しないとダメなの?」

「私も小さいけれど、それより小さいフランは完全に子供として見られているから、ケイを篭絡するのは難しいでしょうね」

「ろ〜らく?」

「メロメロにしちゃう事よ」

「そっかぁ、私もお姉様くらいに大きくならないとダメなんだね」

「フランはケイが好きなのね」

「うん! お兄様もお姉様も美鈴も、みんな大好きだよ♪」

 

 

 何だろうか、この微妙に食い違っていて小っ恥ずかしい会話は。

 美鈴の方からも気恥ずかしそうな気配が漂ってきている。

 帰ったら妹紅とフランを会わせてみよう。

 多分聞いていて悶えそうになる純真過ぎる会話が展開される筈だ。

 奈苗を加えたら誰も太刀打ち出来まい。

 

 

 ──俺もあんな感性を持っていたんだろうか。

 

 

 思い返せばフランくらいの年で、既に純真無垢な心とおさらばしていた気がする。

 サンタもコウノトリも信じない、大人から見れば詰まらない子供だったな。

 

 

「……なのよ」

「じゃあ、お兄様はロリコンなんだね!」

「ぶふっ」

 

 

 思考を飛ばしていた所にとんでもない言葉が撃ち込まれた。

 すぐさま天幕を抜けて前の天幕に居たレミリアのこめかみに拳を当てる。

 

 

「何を吹き込んでやがる」

「え、あ、ち、違うのケイ、これは、あぁっ、ぐりぐりはダメぇぇっ」

 

 

 中指の付け根の骨でレミリアのこめかみをぐりぐりと揉んでやる。

 たっぷり十秒数えて解放すると、頭からぷしゅーと煙を上げて倒れ込んだ。

 フランが頬をつんつんして生きているか確認している。

 涙目で起き上がったレミリアは頭を抑えて恨めしそうに見上げてくる。

 

 

「う〜……ひどいわよケイ」

「妙な事吹き込むからだ」

「だって事実じゃない」

「断じて違う、上にも下にも守備範囲が広いだけだ」

「節操無し……」

「まだ足りないか」

「あっ、ちょっ、振動が脳に、脳にー!」

「何でお姉様はちょっぴり嬉しそうなの? 痛そうなのに」

「レミリアはMだからな」

「えむ?」

「意地悪されたり痛い事されたりするとゾクゾクして気持ち良くなる変態の事だ」

「ちょっ、何言って、あっ、そこはダメだってば、は、鼻から何か出る──!」

「あはは、お姉様Mだー」

 

 

 みっちりお仕置きしてやった。

 これでもう妙な事は言わないだろう。

 若干フランの精神汚染が気に掛かる所だが、まぁ心配は要らないか。

 その後寂しさの余りしょんぼりしていた美鈴にマスカットのジェラートを与えて機嫌を取り、特に目立ったトラブルも無いまま一日が終わる。

 

 

 

 

 夕食後、皆が天幕に戻り寝付いたのを確認した俺は切り株に腰掛け、地図とにらめっこをしていた。

 今日はまだ草木が多く、日没後の寒気はそれ程厳しくは無い。

 焚き火の明かりで地図を読み、時折夜空に浮かぶ星を見上げる。

 別に中二病を発症した訳では無い。

 星の位置から方位を求め、今日の進捗状況から明日進める距離を割り出し、地図を読む事で幾つかのルートを弾き出していただけだ。

 出掛けに商人から聞いた話では、ここから南東の道は盗賊が出るらしい。

 南東にはそれなりに整備された道が有り、砂漠よりも岩山が多く途中にはオアシスも幾つか点在しているとか。

 その分行き交う商人も多く、それを狙う盗賊が待ち構えているらしい。

 北東の道はステップが広がり緩やかな傾斜地となっている。

 特に脅威も無く途中村も有る様だ。

 唯一の欠点は南東の道を通った時と比べ三倍の時間が掛かる事。

 山道を抜け砂漠を大きく迂回する為だ。

 東を突っ切るルートは、砂漠のど真ん中を疾走するルート。

 当然周囲は砂だらけ、目標になるものは何一つ無い。

 盗賊も流石に居ないだろう。

 水や食糧といった物資が充分に有るなら一番早く東に抜けられる。

 単純に計算した場合、東の砂漠を抜ければ三日、南東の道を行けば五日、北東の道を行けば半月の時間が掛かる。

 どのルートを選択するかは明日の朝、皆と相談して決めよう。

 

 

「だ〜れだ?」

 

 

 突然目の前が暗くなる。

 声を高くし甘える様に擦り付いてくるが、独特の艶やかさは隠し切れていない。

 

 

「寝たんじゃなかったのか、レミリア」

「ふふっ、夜の眷属が夜更かし出来ないなんて喜劇にもならないわ」

 

 

 抱き付いたまま身体を回し膝の上に座る。

 ふわり、と髪から良い匂いがした。

 俺の両腕を身体の前で交差させ抱き締めている様に固めると、満足そうに背中を預けてくる。

 端から見れば、俺が後ろからレミリアを抱き締めている様に見えるだろう。

 頬を腕に擦り付けて甘える姿は昼間の令嬢然としたものでは無く、年相応の女の子にしか見えない。

 腕に少し力を込め抱き竦めてやれば、嬉しそうに声を漏らす。

 

 

「ケイの身体、温かい」

「夜は冷えるからな。風邪を引く前に天幕に戻った方が良いんじゃないか?」

「もう、意地悪言わないで。私はケイとくっ付いていたいのよ」

「昼間とは全然違うじゃないか」

「だって昼間もべったりしていたら、フランや美鈴が甘えられないじゃない?」

「フランはともかく、美鈴もか?」

「ええ、美鈴だって時には甘えたくなる事も有るわ。今までは甘えられる人が居なかったもの」

「……やはりお前は異常だよ、レミリア。普通その年でそういった思考や想像は出来ないものだ。他者の立場を考慮する、上に立つ者として相応しい振る舞いを身に付けたかもしれない。だが、代わりにお前は自身の心を押し込んでいる様にも見える」

 

 

 その言葉に、微かに身を震わせる。

 密着した背中が伝えてくるのは恐れか。

 ぎゅっと、腕に力を込める。

 急に強く抱き締められたレミリアは身体をびくっと硬直させた。

 

 

「……やっぱり、こんな子供は気持ち悪いわよね。フランでも美鈴でも無い、私の想像の中の『誰か』が望む私を必死に演じようとしてるだなんて。ほんと、滑稽よね」

「そうだな」

 

 

 応えた声に、レミリアは顔を伏せた。

 後ろ髪が悲しそうに揺れる。

 それを見た俺は内心で溜息を吐いて、これからキリッとした顔でクサイ台詞を言わなければならない事に頭を抱えたくなった。

 

 

 ──言わなきゃ全部伝わらないが、言ったら間違い無く黒歴史逝きだな。

 

 

 漢字はアレで合ってる。

 本気で向き合い心をぶつけるって事は、自分の羞恥心さえ振り払えればとても簡単な事だ。

 顔が熱を持ったのを自覚して、俺は諦めて口を開いた。

 

 

「確かにレミリアは幼くしてスカーレット家の当主になった。当然それに相応しい振る舞いや意識を持たなくてはならないだろう。けどな、レミリア。別に今じゃなくても良いんじゃないか?」

「……どういう事?」

「だって考えてみろよ、レミリアはまだ十歳だろ。そんな小さい内から当主なんか出来っこ無いだろ普通。そんな小さい子供に全部押し付けて『さぁ、当主様ご命令を』みたいな事言うのがスカーレット家に仕える者として正しい姿か?」

「でも、それは当主の責務よ」

「だがレミリアを犠牲にする口実にはならない。こないだも言ったが、今すぐスカーレット家の再興をしなけりゃいけない訳じゃ無いだろう?」

「それでも私は当主よ、放り出す訳にはいかないわ」

「なぁ、レミリア。誰がお前にそれを望んだ? 美鈴がお前にスカーレット家当主として振る舞う様に言ったのか?」

「……いいえ、美鈴は私に言ったわ。私自身の事を考え、私が納得出来る私になった時に、改めてスカーレット家をどうして行くかを考えていこうって。その時は一緒に考えてみようって」

 

 

 声に涙が混じる。

 方法も方向も間違ってはいない、ただ少し焦っていただけだ。

 それに気付けたなら心配は無いだろう。

 

 

「……何だかスッキリしたわ。妙な意地に縛られていたみたい」

「気分は晴れたみたいだな?」

「ええ、お陰様で。……ごめんなさい、ケイ。私の所為で煩わせてしまったみたい」

「構わんよ、別に手間でも無いしな」

「優しいのね、ケイは」

 

 

 くすくすと笑みを零すレミリア。

 取り敢えずは心の荷を下ろす事に成功した様だ。

 が、俺はもう一押しする事にした。

 どうせ黒歴史逝きなのは避けられないのだから、とことん逝ってみよう。

 

 

「美鈴の言う通り、焦る必要は無い。今はレミリア・スカーレットとして、ゆっくり成長していけば良い」

「うん……そうよね。有り難う、ケイ」

「それにな、レミリア。将来お前がスカーレット家を再興する時、力を貸して欲しいって望んだのなら、俺は喜んでレミリアの力になる」

「え……」

「まぁ、それ以外でも呼べばいつだって力になるがな」

「え、えっ?」

 

 

 混乱するレミリアの耳に唇を寄せる。

 帰ったら説教ものだな、と内心で苦笑しつつも俺は言葉を紡ぎ出した。

 

 

「好きな娘の側に居たいと思うのはいけない事か?」

「な、何を……?」

「あぁ、回りくどいのは止めよう。レミリア、俺はレミリアが好きだ。嬉しい時は共に笑い、悲しい時は共に泣き、どんな時も側に在りたい。レミリアが夜空に煌めく星ならば、俺は星を側で見つめる月で在りたい。……レミリア、俺は君が好きだ」

 

 

 驚きで見開いた瞳が俺を映し出す。

 一瞬嬉の色が過ぎったが、すぐに悲しみが瞳を塗り潰していった。

 浮かぶのは諦めた様な暗い笑み。

 

 

「……有り難う、ケイ。でも私は」

「俺じゃダメか?」

 

 

 被せ気味に言った言葉に、レミリアは目を剥いた。

 

 

「そうじゃない! そうじゃないの……」

 

 

 俯いてしまったレミリアに苦笑を返す。

 何を考えているかはだいたい想像が付く。

 レミリアは『自分は与えて貰ってばかりで何も返せていない。そんな自分が誰かを好きになって良いのだろうか、誰かに好いて貰える資格が有るのか』なんて考えているのだろう。

 頭の緩い女子高生辺りが考えたなら蹴飛ばしてやりたい発想だ。

 だがレミリアは自己陶酔するでも無く、真剣に悩んでいる。

 本気で他人と向き合おうとしているからこそ、自分の劣っている部分、醜い部分を見過ごせないのだろう。

 

 

「……私は夜空を彩る数多の星の一つでしかないわ。夜空に爛々と輝く月と釣り合う様な、価値の有るものじゃない」

「星の価値は見る人が決める。自分の価値を判断する事に意味は無い」

「月が照らすのは大地。遠く霞んで見えない星に、想いを馳せる人は居ないわ」

「大地からは見えない星でも、月は見ている。儚く尊い星がそこに在るのを知っているからな」

「……意地っ張り」

「レミリアこそ」

 

 

 思い返しただけで頭を掻き毟りたくなる中二病まっしぐらな台詞を吐きつつ、それを意識の外に弾き出してレミリアを抱き締める。

 

 

「レミリアだからだ」

「えっ……」

「他の誰でもない、レミリアだから側で支えたいと思った。レミリアだから好きになったんだ。今、この瞬間も、フランや美鈴じゃダメなんだ。レミリアに好きだと伝えたい。改めて言おう、レミリア、俺は君が好きだ。君じゃなきゃダメなんだ」

 

 

 レミリアの瞳が俺を見上げた。

 ほろりと、一粒の涙が零れ落ち頬を伝う。

 指で払うと同時、次々と涙が溢れ服を濡らしていった。

 

 

「え、あ、あれ? 私、何で泣いて……?」

「さぁな。でもまぁ、思いっ切り泣いてみるのも良いんじゃないか? 頼り無いかもしれんが、こんな胸で良いなら貸すぞ」

「……ふふっ、そうね。少し、借りるわ」

 

 

 身体を入れ替えて胸に顔を埋めたレミリアは声を上げる事も無く、ただ静かに泣き続けた。

 服に滲む涙が熱を伝え、すぐに冷える。

 時折震える背中を抱き締め、優しくぽんぽんと頭を撫でてやる。

 パチッパチッ、と薪が弾ける音だけが周囲に響いていた。

 暫くその音に耳を傾けていると、不意にレミリアの身体から力が抜けた。

 

 

「……レミリア?」

 

 

 返ってきたのは小さな寝息。

 泣き疲れて眠ってしまったらしい。

 安らかな寝顔に浮かぶのは、微笑み。

 どうやら迷いは晴れ、自分を自分として受け入れる事が出来た様だ。

 これでレミリアが歪んだり押し潰される心配は無くなった。

 悩んだり迷ったりする事が悪いとは言わないが、幼女はいつも笑顔で居るべきだ。

 そして、幼女が笑顔で居られる様にするのが大人の役目だ。

 

 

「……なんてな」

 

 

 未だクサさの抜けない思考から目を背けて立ち上がる。

 焚き火はまだ消えていないが、暖かい天幕内に寝かせてやりたい。

 そう思いレミリアを運んだのだが……しっかりと服を握られており、とても離してくれそうに無い。

 無理に指を外そうとすると、悲しそうにぐずる。

 

 

 ──今日くらいは良いか。

 

 

 早々に白旗を上げた俺は天幕から毛布を取り出し、先程の切り株へ腰を下ろした。

 毛布を背中から回し、すっぽりとレミリアと俺を包む。

 これで風邪は引かないだろう。

 頭を撫でてやると、レミリアはくすぐったそうに笑みを零した。

 

 

「ん……ケイ……」

「お休み、レミリア」

 

 

 

 

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