面倒くせぇ。
今の胸中を一言で表すならこれ以外無い。
騒ぐだけ騒いで殆ど寝ちまいやがった。
一先ず女性達と子供を起こし家に帰らせ、男連中は焚き火の側に纏めて投げ捨てて置く。
夏だし布でも掛けときゃ凍死しないだろ。
諏訪子に案内して貰い客間に布団を敷きルーミアを寝かせる。
なんだかんだで相当呑んでいた様で、若干身体が酒臭い。
──酒臭い幼女って色んな意味でダメな分類に入るな。
少なくとも見た目は倫理的にアウトだろ。
布団を掛けて頭をぽんぽんと優しく叩くとくすぐったそうに身を竦める。
宴会場に戻り残飯を片付け椀を川で洗う。
洗剤や下水が無いから垂れ流しで水洗いだが、その分環境には良いのかもしれない。
天然由来の物しか使ってないしな。
月明かりに照らされながらごしごしと椀を洗っていると、背中にトンと何かが凭れ掛かってきた。
「契は不思議だよねぇ、普通祟り神って聞いたら驚いたり怖がったりするのが当たり前なのに」
「どこからどう見ても可愛い幼女にしか見えんからな」
「最初の時だって、私の正体をちゃんと解ってたからあんな言い回ししたんでしょ?」
「ぼんやりな。あの青年が諏訪子様がどうとか喋ってたし、たかが幼女に様付けて、それも本人が居ない所で敬称なんて付けないだろ」
「頭良いねぇ、契は。益々気に入ったよ」
「そりゃどうも。ってか諏訪子、この面倒くせぇ腹の探り合いは止めだ。お前の考えを素直に言ってみろよ、無茶な話じゃなけりゃ付き合ってやるぜ」
背中の重みが消えたのを確認して、椀を纏めて持ち上げる。
台所に先導して貰い椀を片付け、境内裏の広場に出る。
ここなら多少暴れても平気だろ。
振り向いた諏訪子は顔から笑みを消し、無表情に言葉を紡ぐ。
「先日、大和の神から打診が有った。我等の庇護の下、子孫繁栄を夢見ては如何かってね」
「ハッ、そりゃまた随分と尊大な。宣戦布告の前に降伏勧告とは恐れ入る」
「契、私はお前を戦列に加えたい」
凛と言い放った諏訪子。
その目は真っ直ぐに俺だけを映していた。
本気か、と呆れた様な視線を返す。
静寂が地に染み入る程の時間を置き、俺は口を開いた。
「ただの人間、それも部外者を呼び入れた程度でどうにかなる相手か? 更に言うなら、まだ諏訪子は俺の実力も知らない。味方に引き入れるつもりなら最低限そいつが戦力として使えるかどうかも把握しとけよ」
「だからこそ、此処を選んだじゃないか。存分に暴れられるこの場所を」
「なら勝負の取り決めをしようぜ。制限時間は日の出まで、致命傷となる攻撃は避ける事。諏訪子、お前の敗北条件を決めろ」
俺の言葉に眉をひそめる諏訪子。
そりゃそうだ、人間が神に挑みしかも勝利条件ではなく敗北条件を設定する様に求めたのだから。
「勝つ積もりかい?」
「さてな? まぁ、形式上は勝負なんだ。決めて置いて悪いものでもないだろ」
「……惚れ惚れする程不貞不貞しいね、契は。私の敗北条件は帽子を奪われる事でどうだい?」
「あぁ、それでいい。俺の敗北条件は……そうだな、眼鏡を取ればいい」
「そんな事でいいのかい?」
「気絶すりゃ奪い放題だろ、気にすんな。それと諏訪子、俺は自分の力がどうなってるかまだ正確に把握してない。勝負の前に少し手伝ってくれ」
「それは、まぁ構わないよ」
了承を得た俺は数歩下がり、諏訪子を眺めながら準備運動を始める。
──ちゃんと神様やってるじゃないか。
村人というか信者というか、皆との距離が近い事に多少疑問を抱いていた。
俺の勝手なイメージでは神は黙して語らず、信者とも距離を保ち気紛れに加護を与えるものだと思っていた。
だが、諏訪子は違った。
村人達と同じ目線に立ち、同じ様に笑い、同じ様に過ごしている。
崇められてはいるが、それを笠に着るでも無く自然体で人に接する。
──もしかしたら、諏訪子は寂しかったのかもしれんな。
あの立ち振る舞いや言動から察するに、諏訪子は村人達を家族の様な存在と捉えているのだろう。
だが、彼等にしてみれば如何に親しくても神という存在。
心のどこかで、線を引いていた。
近いのに届かない、そんな距離だ。
そこへ現れた俺という神を神と見ず、ただの幼女と扱う人間。
興味と親しみと好奇心。
それらが混ざって、俺を側に置いておきたいと考えたんじゃないか、とそんな風に俺は感じた。
「諏訪子、適当に攻撃してきてくれ」
「ん、了解」
短い遣り取りを交わし、諏訪子が右手を前に突き出した。
何を、と思うより早く指先から光が迸る。
咄嗟に身を屈めた。
直後、高速で放たれた拳程の大きさを持った光弾が頭を掠めて飛び、背後の木を打ち倒した。
ズンと重い響きが大地を揺らすのを足裏に感じ、俺は内心舌を巻いた。
──待て、何だ今のは!?
屈めた体躯を伸ばし、その反動を使い右に大きく飛び退く。
一拍遅れて、今立っていた場所に光弾が当たり地面を抉った。
とんでもねぇ威力だ。
呆れ半分焦り半分、冷静さを失いつつ更に左へ転がる様にして身体を倒す。
服の裾が光弾に軽く触れ、右後方に強く引っ張られる。
バランスを崩した所に光弾が飛ぶ。
やけにゆっくりと迫って来る光弾を眺めながら、俺の脳はフル回転していた。
──今の体勢じゃ避けるのは無理だな。ならどうすればいい? 光弾を打ち払うか……いや、あの威力だ、打ち払うのは腕一本と引き換えになるな。ならいっそ。
打ち消す、その言葉に至った瞬間、俺は自身の能力の使い方を理解した。
想像した事を創造すればいい。
回りくどいのは無しだ。
知らぬ間に口の端を吊り上げていた俺は、小さく、しかしハッキリと言葉を紡いだ。
「無符『この世界にあらず』」
音が生まれ、旋律が生まれ、言葉が生まれる。
俺に干渉しようとした光弾は存在そのものを打ち消され、初めから無かったものとされた。
上手くいった。
ニヤリと口を愉悦に歪ませる。
視線の先、諏訪子は始め後悔と恐怖に似た色を、次に驚愕と疑問に似た色をそれぞれ顔に滲ませた。
「え、契、今の何!?」
「ようやっと掴んだ能力の片鱗だな。というか諏訪子、最後のに当たってたら俺死んでたんじゃないか?」
「あ、あーうー……ごめんなさい。で、でも契は無事だったんだし、終わり良ければなんとやらだよ!」
いや、確かにそうだけどな。
しかし死にかけてパワーアップや封印開放とか、王道過ぎて涙が出てくる。
眼鏡を中指で押し上げながら、俺は改めて自身の能力を確認した。
想像を創造する力。
イメージがそのまま具現化される様だ。
試しにもう一つくらい使ってみるか。
「白符『不死の標』」
呟きが空気に溶けると同時、俺の身体に溢れんばかりの活力が湧いて出た。
消耗した体力を回復するのも面倒だと思ってライフ──生命力の総量を二倍にしてみたんだが、これは少々やり過ぎたかもしれん。
なんというか、下半身がたぎる。
生命力増加し過ぎだ。
ともあれ準備は出来た訳だ。
俺は諏訪子に向き直り、笑みを張り付けたまま口を開いた。
「こっちの準備は完了だ、諏訪子も準備は良いか?」
「うん、いつでも」
「なら始めようか、手加減は無しだ」
「契、私が勝ったら契は私の戦列に加わって貰うからね!」
「あぁ、それでいい」
言葉が終わると同時、諏訪子の纏っている空気の質が変わる。
それまでの人懐っこいものから、気圧す様な気概を孕んだものへと。
突如、多数の光弾が生まれ俺を囲む様に展開する。
──なかなか良いセンスしてるな。
冷静に光弾を観察すると画一の動きではない事が解る。
直接俺を狙うもの、回避方向へ飛び退路を塞ぐもの、それらを意識から逸らす為の目眩ましのもの。
確かに人間ならこれで充分だ。
如何に身体能力が高くとも避け切る事は難しい。
だが俺は不貞不貞しく笑い、諏訪子の間違いを指摘してやる事にした。
「白符『鎧をまとった上昇』」
そう、俺の頭上に光弾は無かったのだ。
ふわりと空へ舞い上がった俺の足元に、一斉に光弾が着弾する。
まさか飛び上がるとは思ってもみなかったのか、諏訪子はぽかんと俺を眺めていた。
その隙を逃さず接敵し、諏訪子の身体をやや強めに抱き締めてやる。
「んぷっ」
「油断大敵だ、諏訪子。如何なる相手でも自分の枠に収めようとするんじゃない、今みたいに足元を掬われるぞ」
特徴的な帽子を取り上げ、頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
「あっ……」
「俺の勝ちだ、諏訪子」
「あーうー、負けたぁ。でも契、一体何をしたの? 光弾を掻き消したり、突然空に飛び上がったり、本当に人間なの?」
「まだ人間だ、……多分な。あれは俺の想像した出来事を現実に創造し直しただけだ」
それを聞いて諏訪子は目を丸くする。
「私が言うのもアレだけどさ、神かなんかみたいな力だねそれって」
「かもな。だが神にはなれない、俺の精神が人間で在る以上人間の枠を超える事は出来ないからな」
「……契、年齢偽ってない? 絶対十八歳じゃないよね、言動といい発想といい」
「失敬な、花も恥じらう十八の男だぞ」
「恥じらうの食虫植物だったりして」
「言うじゃないか諏訪子。お仕置きだな」
「あーうー!?」
逃げようと慌てふためく諏訪子の顎を持ち上げ、俺の方を向いた唇を奪ってやった。
「んんっ!?」
軽く触れただけのキス。
柔らかい感触に満足して諏訪子の身体を離すと、ぽやぁっと惚けた目で俺を見上げる。
いかん、生命力増加し過ぎだ。
諏訪子が物凄く魅力的な女性に映る。
もう一度、今度は優しく抱き締めて、その桜色の唇にキスをする。
諏訪子も俺に身体を預け、唇の感触を楽しんでいる様だ。
そっと唇を離せば、切なげな瞳で俺を見上げる。
「そう言えば俺が勝った時の取り決めを設定してなかったな」
「ふぇ……?」
「諏訪子が勝てば俺を戦列に加える予定だったろ?」
「う、うん」
さて、どうするかな。
勝っても負けても諏訪子の味方をしてやるつもりだったんだが、こうまでアッサリ勝つとは思わなかったからなぁ。
考え込む俺の思考に下半身が意見を陳情してきた。
──まぁ、軽くフェラくらいして貰おう。
自分には素直に。
俺の認める美点の一つだ。
ひょいと小さな身体を抱え上げ「あーうー!?」俺は縁側から居間に上がり込み「け、契?」離れの客間へ向かい諏訪子を下ろし「え、あ、あれ?」押し入れから布団を出して敷き「わ、わぁ……っ」諏訪子を布団に寝かせた。
顔を羞恥に染めて固まる諏訪子。
その頬に軽く口付けて緊張を解してやり、服を脱がしていく。
まだ膨らんでもいない平らな胸の上、ぷくっと可愛らしく桜色の乳首があった。
そっと舌でつついてやると、高い声で鳴いた。
突然の快楽に戸惑う諏訪子に微笑む。
「帽子の序でに諏訪子を奪う」
あれ、俺最初フェラって言わなかったか。
思考を下半身に任せるとすぐに暴走するから困る。
どう誤魔化したもんかと頭を悩ませるより早く、諏訪子が真っ赤な顔で頷いた。
「うん、私の全部、契になら……ううん、契に奪って欲しいの」
あれ、いつフラグ立てた?