「……まだ若干腰に違和感が」
「ふふっ、ごめんなさい」
目を弓にして柔らかく微笑むルーミアの頬を指先でつついてやる。
どうやら昨日は新月だったらしく、テンションと力が増幅された事であの様な行動に至ったらしい。
妖怪としての性故に仕方の無い部分は有るが、なけなしのプライドを保つ為にもルーミアには昨日の事を内緒にする様何度も念を押して置いた。
了承した時に紅い瞳が一瞬輝いた気もしたが、そこはルーミアを信じる他無い。
「んっ、はぷっ」
「こらルーミア、幾らお腹が空いたからって夫の指を食う奴が有るか」
「だって私、人喰い妖怪だもの」
「……にしては、ルーミアが人肉を喰う所を見た事が無いな」
「旦那様がショックを受けるんじゃないかって気を回していたのよ。それに、ケイから新鮮なぷりぷりの精子を貰ってるから平気よ。特に昨日のは最高だったわ、またお願いしようかしら?」
「……ルーミアの頼みは断れないから、俺はルーミアがそれをお願いしない様にお願いして置くさ」
「ふふっ、ケイったら」
卓袱台に頬杖を付いて慈しむ様に紅い瞳を向けてくる。
純粋な愛だけを込めた視線に、少し気恥ずかしさが込み上げてくる。
所在無さげに目を外し頬をポリポリと掻き毟る。
と、眼前に金の色が揺れた。
「んむっ」
「ちゅ、ふふっ、隙有り♪」
気を抜いた一瞬に身を乗り出し、唇を奪っていくルーミア。
悪戯っぽく微笑むのが、この上無く可愛らしい。
そう考える時点で俺は相当深く溺れてしまっている様だ。
自然と両手が伸びてルーミアの肩を抱き、くいっとその華奢な身体を引き寄せる。
「んっ、んぅ……ちゅ、ちゅぷ、ちぅちぅ……んくっ」
唇を割り舌に乗せた唾液を流し込んでやると、ルーミアは嬉しそうにそれを受け止め白い喉を鳴らす。
離れた口元から伸びる銀糸が鎖の様に二人を繋いでいた。
どちらとも無くそれを舌で絡め取り、もう一度深く唇を重ねる。
甘い香りが肺を満たし、心を満たしていく。
「おぅおぅ、見せ付けてくれるじゃねぇか兄ちゃんよぉ」
「諏訪子様、チンピラっぽさが素晴らしいです!」
「にぃにとるーみあさん、またなかよくなってる?」
「仲が良いのは素晴らしい事だが……多少は私達の事も思い出して欲しい所だな」
「あっ、朝からくっ、口付けだなんてお父様破廉恥過ぎますっ!」
何やら外野が煩い。
と言うか諏訪子、最近はっちゃけ過ぎやしないか?
片胡座をかいて威嚇してくるのは可愛いが縞パンが見えるぞ。
映姫は映姫で初々しい反応だな、弄り甲斐が有りそうだ。
「平常運転なのは奈苗だけか。相変わらずだが、何で奈苗は動じてないんだ?」
「にゅっふっふ、私はおとーさんの事なら何でも知っているからですよ!」
「はは、そんな訳が……いや、フラグっぽいからノーコメントだ」
「ねぇ奈苗、契とルー子の間に何が有ったのさ?」
「流石に全部言うとおとーさんも恥ずかしいと思うので、ヒントを一つ。おとーさんは漸く自分がしてきた行動の威力を思い知った、って事ですよ♪」
頭に両手をぽんと乗せて前後させる奈苗。
……いや待て、何故知っている!?
慌てて視線を向けるが、ルーミアも首を左右に振っている。
見られていた気配はしなかったと思うのだが……流石は俺の血を引くだけは有るな。
普段ぽやぽやしているが、実は誰よりも頭の回転は早いのかもしれない。
「解んないなぁ。奈苗、もう一つヒントちょーだい」
「ダメですよ、諏訪子様。これ以上は、しーですよ♪」
「んぷっ」
人差し指を立てて唇に軽く当てる。
端から見ると完璧に諏訪子が妹だな。
首を巡らせると神奈子は顎に手を当てて思案顔、映姫は手を軽く握って背中をぽこぽこと叩き、妹紅は諏訪子と同じ様に唇を抑えられむーむー星人と化している。
「むーむー」
「むー?」
「むーむむーむ!」
「むむー」
「むーむーむ」
「むー」
「ゲシュタルト崩壊するから止めろ、と言うか何で会話出来るんだ二人共」
「むむむ」
「何がむむむだ!」
「ケイ、突っ込み所はそこで良いの?」
「いや、これは反射的と言うかお約束と言うか」
やいのやいのと部屋の中が一気に賑やかになる。
と言うか諏訪子と神奈子は自分の神社を空にして来ている訳だが、果たしてそれで良いのか?
この前奈苗が「神様は自分の神社を空にするのは良くない」みたいな事を言っていた気がするんだが。
──まぁ、良いか。諏訪子と神奈子の顔を見れただけで、一日元気に過ごせそうな気がするからな。
愛しい二柱を見やる。
怒ったり、悩んだり、笑ったり。
幾つもの表情を見せてくれる嫁さん達に囲まれながら過ごすと言うのは、何物にも代え難い至福の一時だと思う。
穏やかな微笑みを浮かべて家族団欒を楽しんでいると、玄関の戸がカラカラと開く音が聞こえ、次いで元気の良い澄んだ声が響いた。
「ケイー、あーそーぼー!」
「お邪魔します~」
「あ、チルノちゃん達ですね。は~い、今行きます~……ひゃわっ!?」
ぱたぱたと廊下に消えて行った奈苗の悲鳴と共に鈍い音が聞こえてくる。
多分柱に額をぶつけたのだろう。
相変わらずドジっ娘だな、とルーミアと二人笑い合う。
と、廊下をどたばたと走る音が響き渡りガラッと勢い良く襖が開く。
飛び込んで来たのは空色のセミロング。
「ケイー♪」
「おっと、おはようチルノ」
「んふふー、ケイあったかい♪」
部屋に入るなり抱き付いてきたチルノをむぎゅっと抱き締め、サラサラの髪の毛をゆっくり梳いてやる。
気持ち良さそうに頬を緩め、首元にすりすりと甘えてくる。
「どうした? 今日は随分と甘えん坊じゃないか」
「今日、あたいの夢にケイが出て来たの! それで起きたらケイに会いたくなったの、だからだから!」
「解った解った、むぎゅむぎゅしてやるから少し落ち着け」
「ケイー、好きー♪」
ぐりぐりすりすり、とまるで自分の匂いを纏わり付かせる様に身体を擦り付けてくるチルノ。
何やら俺の知らない間に、好感度が急上昇しているらしい。
少し気になったので腕の拘束を緩め、チルノの瞳を覗き込む。
「夢の中で、チルノは俺と何をしていたんだ?」
「あっ……にへへ、ナイショだよ……♪」
頬に手を当てて恥ずかしそうにはにかむ。
普段元気いっぱいのチルノしか見ていないから、この反応は新鮮だ。
と言うか非常に可愛い。
抱き締めたままぷにぷにの頬を指先でつついたりくすぐってやったりする。
「やっ、くすぐったいよー」
「ほれほれ、言うまで止めないぞ」
「あんっ、ケイの意地悪ー♪」
何だこの可愛い生物は、けしからん。
尚もぷにぷにつんつん遊んでいると、後頭部に軽い衝撃が走る。
見ると膨れ顔の映姫がべしべしとチョップをしていた。
それに気付いたチルノは映姫の手を掴み、くいっと引き寄せた。
完成したのは幼女サンドイッチ。
「きゃ、な、何を」
「ほら、これで映姫もケイと密着!」
「あ……お父様の背中、暖かい……」
目を閉じてむきゅっとしがみ付きながら頬を赤く染める映姫。
首を戻せばチルノが幸せそうに何度も指をにぎにぎしてくる。
──幼女パラダイス、開園ッッ!
微妙にトチ狂った事を考えていると、廊下から大ちゃんと奈苗が姿を見せた。
予想通り、額が少し赤くなっている。
「白符『新たな信仰』」
「おとーさん、ありがとうございます」
白い光が奈苗の額を照らし、痛みを取り去っていく。
少し恥ずかしそうに微笑みながら、奈苗はぺこっと頭を下げた。
「余り心配させないでくれよ?」
「でへへ、はぁい♪」
「契さん、お邪魔します。皆さんもおはようございます」
「いらっしゃい、大ちゃん。ルーミア、二人にアレを出してやってくれ」
「えぇ、解ったわ」
ルーミアは軽く頷いてスッと立ち上がり、奈苗を引き連れて台所へと向かった。
大ちゃんに座布団を差し出しながら、私も私もと擦り寄ってきた妹紅と諏訪子を両手でそれぞれ抱える。
……なんか最近幼女密集率が高いな。
チルノは少しひんやりしているが、基本的に幼女は体温が高い為冬場は暖かくて良いのかもしれない。
そんな事を考えながら右手で諏訪子を撫で左手で妹紅を抱き、背中で映姫の吐息を受け止め胸でチルノの鼓動を感じる。
と、ルーミアが小皿を人数分手にして戻って来た。
その後ろに奈苗が続き、大事そうに和紙で包んだ箱の様な物を抱えている。
「おや、この匂いは」
「気付いたか神奈子。流石は我が家の甘味試食担当だな」
「……うん、まぁ事実なんだがその呼び方はもう少し何とかならないのか?」
「皆食いしん坊だものね」
「ルーミア、お前には言われたく無いぞ」
「ふふっ、ごめんなさい神奈子。さぁ、皆おやつにしましょう」
ぱんぱん、と手を鳴らしたルーミアは手際良く小皿を並べる。
その上に奈苗が持ってきたそれを切り分け乗せていく。
艶やかな黒と黄色のコントラストに、早くもちびっ娘達が歓声を上げた。
「わ、キレイー!」
「にぃに、これってくりようかん!?」
「昨日夕飯の後に作って置いたんだ。最近妹紅は勉強頑張ってるからな、そのご褒美に特別だ」
特に妹紅のテンションの上がり方は尋常では無い。
さもありなん、妹紅は栗が大好物だ。
目をキラキラさせて切り分けられていく羊羹をじっと眺めている。
今にも涎が零れそうなその様子に、思わずルーミアも笑みを浮かべる。
勿論、ちびっ娘達の羊羹を他の羊羹より少し大きく切ってやるのを忘れない。
いつの間にか皆卓袱台の周りに集まっており、映姫までもがそわそわしながら羊羹を待っている。
奈苗が渋めの緑茶を注いでくれ、準備は整った。
「いただきまーす!」
「あまくておいしぃ♪」
「お茶も美味しいですね、口の中がさっぱりします」
「羊羹まで作るなんて、お父様は多芸なんですね」
舌鼓を打ち満面の笑みを浮かべるちびっ娘達を見て、自然と口の端が上がっていく。
とは言え早く食べないと妹紅からおねだりされてしまいそうなので、早速俺も羊羹に楊枝を入れる。
うむ、上出来だな。
羊羹自体の甘さを抑えたお陰で甘露煮にした栗の風味が引き立ち、重くならない絶妙なバランスを保っている。
渋めの緑茶が舌に残る甘さを洗い流し、鼻へ抜ける香りが爽やかな気分を呼び起こしてくれる。
「流石はケイね、お菓子の分野では勝てる気がしないわ」
「やっぱり万年口から甘い言葉吐いてるからじゃない?」
「失礼な奴め、なら諏訪子には甘い言葉掛けてやらないぞ」
「ぶーぶー、契の意地悪ー、鬼畜眼鏡ー」
「いや諏訪子、鬼畜眼鏡は褒め言葉になるんじゃないか?」
「よし解った、表へ出ろ駄神共」
「やぁん、妻の可愛い冗談じゃない♪ だからそのデコピンは止め、アッー!」
「ま、待て契、謝るからそのデコピンの構えをだな……ッア──!?」
失敬な事を口走る駄神共に愛の鞭をくれてやった。
ルーミアはケロ子も懲りないわね、と苦笑いを浮かべている。
妹紅は……我関せずとひたすら栗羊羹に舌鼓を打っており、奈苗に至っては信仰している筈の二柱が涙目な所を見てからからと笑っている。
それで良いのか守矢神社。
等と賑やかなティータイムを楽しんでいる所へ、何やら血相を変えた様子で紅魔館のメイド長が駆け込んできた。
「けっ、契さんっ、た、助けて下さい!」
「穏やかじゃ無いな、何が有った?」
巻き上がる砂塵さえ捨て置き街道を駆け抜けて来た赤髪の女性。
いつに無く切羽詰まったその形相に、俺も背筋を伸ばし思考を切り替える。
問い掛けた先、美鈴は下唇を噛み締め絞り出す様に言った。
「忙しくて、私のお昼寝タイムが無くなりそうなんです」
「……あ?」
「成程な、紅魔館が広過ぎて家事が追い付かないのか」
「そうなんですよぉ、あ、どうもどうも」
奈苗にお茶を出して貰い、こくこくぷひゅー、と何とも美味しそうに飲み干す美鈴。
暢気なその姿からは先程の思い詰めた様子は微塵も感じられない。
「暮らして居ても三人だけなんだろう、なら使わない部屋はいっそ放置したら良いんじゃ無いのか?」
「ダメですよ契さん。使って無くても埃は溜まっていきますし、部屋の気も淀んじゃいますよ」
「……そんなもんか?」
「ケイは気が向かないと整理整頓しないものね」
「お父様は少々ものぐさな所が有りますからね、普段からきちんとした生活を心掛けないと、んぷっ」
説教が始まりそうだったので映姫を膝抱っこして思いっ切り抱き締めてやる。
少し手をぱたぱたさせ暴れていたが、頭を撫でてやると顔を胸に埋め大人しく抱き付いてきた。
うむ、扱い易くて良いな。
そんな映姫を美鈴は興味深そうに眺める。
「契さん、その娘が噂の?」
「何だ噂って」
「神になった序でに側室を新たに迎えようと思い至った契さんが自ら好みの女の子を作り出した、って聞きましたけど」
「おい待て。誰だその噂を流した奴」
「紫さんですけど」
「ごめんなさいでした」
名前が上がった瞬間、綺麗な土下座を決めた紫が俺の右隣へ降ってきた。
取り敢えず軽くげんこつを落とす。
「あたっ」
「こら紫、そんな着地したら危ないだろ」
「え、最初に怒るのそこなんですか」
「何だかんだ言ってもおとーさん優しいですから。はい美鈴様、栗羊羹です」
「あぁどうもどうも、いやぁ、甘味は大好物なんですよ」
俺に突っ込みを入れるも奈苗の差し出した栗羊羹にあっさり意識を散らす美鈴。
突っ込み役としてはまだまだ精進が必要だな。
その後紫を膝に乗せ頬をむにむにと弄りながら話を続ける。
退いて貰った映姫はと言うと、再び背中に引っ付き鼻をすんすん鳴らして満足そうに微笑んでいる。
どうやら映姫は匂いフェチらしい。
……また俺の箪笥から無くなるシャツが増えそうだ。
「それで、だ。当主様はそこら辺何か考えは有るのか?」
「うにゅあ~」
「無理はしない様にと暖かい言葉を頂きましたけれど、メイド長としてやはり屋敷の管理を疎かにする訳には」
「その割には駆け込んできた理由がえらく怠惰なものだったが」
「はゆ~」
「そこはアレですよ、怠惰を求めて勤勉になるって奴です」
「まぁ、良いか。美鈴は寝顔も可愛いからな」
「にゅふ~」
「ぅぁ、は、恥ずかしいです」
「はっはっは、そう照れるな。……ふむ、なら新たにメイドを雇ったらどうだ?」
「ぷみゅ~」
「成程、それは良いかもしれません……って契さん、紫さんの顔が潰れちゃいますってば」
「ん、そうか」
「ひゃんっ」
ぐにぐにと押し込んでいた手を離すと、ぷにゅんと頬が元に戻る。
弄り過ぎた所為か若干赤みが差している。
「はぅ~、ほっぺが餅みたいになるかと思った」
「お仕置きは終わりだ、紫も奈苗に栗羊羹と緑茶を貰ってこい」
「え、良いの?」
「元々そのつもりで多めに作って置いたからな」
「流石おにいさん、愛してるぅ~」
むきゅっと抱き付いてきたので額に軽くキスをしてやる。
にへら、と甘ったるい笑みを浮かべた紫は満足そうに座布団へと移動した。
ふと視線を感じ目を向ければ、少し顔を赤くした美鈴が俺を見ていた。
「け、契さんっ。あ、あの、後で私も……キス、して欲しいで、んむっ」
伸ばした右手で美鈴の顎を引き寄せ、やや乱暴に唇を奪う。
本当は蹂躙してやりたい所だが、発情されると話が進まないので触れるだけのキスにして置いた。
それでも奥手な美鈴には充分刺激的だったらしく、ぽ~っと熱に浮かされた様にとろんとした瞳を向けてくる。
「続きは今夜に、な」
「は、はい……」
「さて、メイドを雇うという方向性は決まったがどうやって人員を確保するか」
「ねぇ、ケイ」
畳の上をごろごろと転がってきたチルノがそのまま膝に頭を乗せてくる。
優しく髪を梳いてやると気持ち良さそうに目を細めた。
「こら、はしたないぞ」
「えへへ、ケイ暖かい♪」
「全く、仕方の無い奴だな。それでどうした?」
「メイドって何? 死んだら行くとこ?」
「そりゃ冥土だ。メイドってのは掃除や洗濯、料理なんかを手伝う奉公人の事だ。地方の娘が花嫁修行をする為にメイドになったりもするな」
花嫁修行、と聞いたチルノの目が一瞬輝いた気がした。
突然ぐいっと身体を起こすと両手を腰に当て、むふーと鼻息荒く宣言した。
「決めた! あたいメイドになる!」
「うん?」
「メイドになったら花嫁修行が出来るんでしょ?」
「まぁ……そうだな」
「だからメイドになって、立派な花嫁になれるように修行する! あたいが立派なメイドになったら、ケイ、あたいと結婚して!」
幼い氷精が口にした言葉に、思わず目を見開いた。
真っ直ぐ過ぎるプロポーズの言葉が、数秒程俺の思考を止める。
我に返り、向けられた好意を認識し、また思考が止まる。
それは周りも同じ様で、紫や美鈴は栗羊羹を楊枝に刺したままの態勢で固まり、ルーミアや諏訪子や神奈子は目を丸くし、妹紅や大ちゃんは口をあんぐりと開けている。
見れば奈苗までもが驚いた様子で口元に手を当てていた。
皆の様子を見て多少落ち着いた俺は改めてチルノと向き合う。
キラキラした瞳で俺を見る妖精を、壊れない様そっと抱き締めた。
「……そうだな。チルノが立派なメイドになったら、改めて俺から告白する。俺と結婚してくれ、ってな」
「えへへ、これであたいとケイはこんにゃくしゃだね!」
「それを言うなら婚約者、だ」
「細かい所は気にしちゃダメよ!」
「にしても、どうしてチルノは俺を好きになってくれたんだ? 今までそんな素振りは無かったと思うんだが」
一番気になるのはそこだ。
昨日まではお互い仲の良い友人くらいの距離感だった筈。
特にフラグも建てた覚えは無い。
覗き込んだ先、チルノは照れた様に頬を上気させて小さく口を開いた。
「あのね、夢で見たの。あたいとケイが、一緒に暮らしている所。夢の中ではとっても楽しくて、胸がぽかぽかして、すっごく幸せだった。起きたらそのぽかぽかがまだ残ってて、でも最初はそれが何だか解んなくて。ケイの事考えたら、また胸がぽかぽかして、身体もふわふわして、すっごく不思議だったの。これってもしかしたら恋なのかな、って思ったらケイが好きなのが止まらなくて、もう頭がわーってなっちゃった。でもね、全然イヤじゃ無いの。ケイの事を好きって解ったら、とっても嬉しくなって」
少し興奮を声に滲ませながら、チルノは身振り手振りを交えて俺に思いの丈を伝えてくる。
自分の気持ちを余す事無く伝えたい、そんな想いを感じた。
「だから、あたい決めたの。今日、ケイに好きって言うんだって。ケイにはいっぱいお嫁さんが居るから、あたいは相手にしてもらえないかもしれないけど、でも、それでも良いの。あたいがケイの事を勝手に好きになっただけだから、ケイがあたいを見てくれなくても……あ、本当はいっぱい一緒にいたいよ? でも、あたいはケイが好きだから、ケイの側にいられるだけでも嬉しいの。だから、ケイ、あたいをケイのお嫁さんにしてください」
ぺこり、と最後に小さく頭を下げる。
こんな幼い身体にこれ程大きな気持ちを抱いていてくれたのか、と気付かされる。
好きと決めたら一直線、そんなチルノらしい想いに俺は知らず両手を伸ばしていた。
抱き締めた身体は少しひんやりとしていて、暖かい。
「チルノ、俺は焼き餅妬きだぞ?」
「あたいはケイだけしか見てないから、大丈夫だよ」
「束縛も強いぞ?」
「あたいがどこにも行かないように、しっかり捕まえてね」
「……いやらしい事もいっぱいするぞ?」
「あたいの事、好きにして良いよ。あたいの全部を、ケイにあげたい」
もう、言葉は要らない。
そっと重ねた唇は微かに震えていた。
掻き抱く様に強く小さな身体を抱き締めると、チルノも抱き返してきた。
「……成程、外から見たらケイの甘々っぷりが良く解るわ」
「ルー子もこんな感じだったよ」
「と言うか契、公衆の面前だというのを忘れてないか?」
「ここまでくると、おこるよりもなんだか、すがすがしいきもちになるね」
「今日はお赤飯炊きましょうか♪ チルノちゃんとおとーさんの婚約記念に」
「いっそおにいさんが女の子堕とす度に宴会やろっか」
「月に一、二回の頻度で宴会になりそうですねぇ」
……感動的なシーンの筈が色々とぶち壊しだ。
因みに喋らなかった二人、大ちゃんは何やら思案顔で俯き映姫は背中で寝息を立てている。
唇を離すとチルノは恥ずかしそうに頬をポリポリと掻き、上目遣いにちらちらと視線を送ってくる。
流石にこの状況でのキスはムードが無かったか、と少し反省する。
そして宴会の準備に何故か主賓で有る筈の俺が駆り出された。
チルノの好物を聞き出し、甘い茶碗蒸しや南瓜の天ぷらを作りつつデザートの葡萄ゼリーを氷室へとぶち込んで置く。
台所を縦横無尽に駆け回りながら、そう言えばメイド云々の話はどうなったのか、と疑問を抱える俺だった。