※この作品はR-18です。

東方恋人探   作:一ノ瀬 崇

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切欠と宴会。そして愛娘達の策謀。

 

 

「……成程、そんな面白い事が俗世では起きていたのか」

「他にも、最近都では正体不明の妖怪が出るとか」

「もぐもぐ」

「正体不明? 誰も姿を見ていないのか」

「うんにゃ、何でも見る人に因って見える姿が違うとか。丁稚は長い脚を十二本生やした巨人を、童女は蛇で出来た柳を、老人は罅割れた面を持つ猿を、ってな具合だねぇ」

「んくんく」

 

 

 夜雀の女将、ミスティアの話を熟考しつつ左手を伸ばす。

 が、指先は何も掴めぬまま空を切った。

 違和感に初めて視線を向けた先、皿の上には竹串が散乱している。

 山と積んであった蒲焼きは既に無く、最後の一串が今艶やかな唇に呑み込まれて行く。

 

 

「んぐんぐ、んみゅっ」

「こらルーミア、俺の分まで喰う奴が在るか」

 

 

 ジト目を向けつつ柔らかな頬をつついてやると、ルーミアは可愛らしい声を漏らしてくすぐったそうに肩を竦めた。

 そのまま指をずらして口の端を拭う。

 指先に付いた蒲焼きのタレを認めて、ルーミアは何の気兼ねも無く指を口に含んだ。

 温かい感触を乗せた舌が人差し指を這う。

 

 

「ちぅちぅ」

「こらルーミア、俺の指を喰うんじゃない」

「話には聴いてたけど、本当に仲が良いんだねぇ。妬けてきちゃうよ」

 

 

 微笑ましげな声色ながらもニヤニヤと楽しそうにこちらを眺める女将。

 ちょくちょく屋台へと足を運んでいるが、呑んでいると必ず誰かがやってくる。

 その度、女将にやれ色男だのやれ妬けるだのとからかわれている。

 仕返しとばかりに浮ついた話は無いのかと尋ねれば、呉服屋の三男坊から花を贈られたり農家の長男と次男から口説かれたりと、存外人気は高いらしい。

 が、女将は「気になる人が居るから」と言って断っているとか。

 最初にそれを聴いた時、女将に気に入られた幸運な男は誰かと尋ねてみたのだが、これがとんだ藪蛇。

 艶めかしく唇を舐めて「さぁ、誰だろうねぇ?」と言いながら俺の手を握って来たもんだから、同席していた奴等は大盛り上がり。

 皆に囃し立てられる中臍を曲げてしまったレミリアの機嫌を取るのに多大な労力を払う事となった。

 以来、女将にはからかわれっ放しだ。

 

 

「良いじゃない、みすちーにも私達の熱々っぷりを見せ付けてやれば。あ、次は豚串を追加ね」

 

 

 串にして五十本もの蒲焼きを軽く平らげたルーミアは涼しい顔で豚串を注文する。

 いつの間に仲良くなったのか、ルーミアは女将をみすちーと渾名で呼んでいた。

 どうやら偶々かち合わなかっただけでちょくちょく屋台へ足を運んでいたらしく、俺の前に置かれた刻み昆布と白菜の和え物も実は二人で考案した新メニューだとか。

 

 

「しかしルーミアも凄い食べるよねぇ。見てるだけでお腹いっぱいになりそうだよ」

「初めて逢った時も餌付けしたらホイホイ付いて来たからな」

「ちょっとケイ、それじゃ私がまるでアホの子みたいじゃない」

「料理を教えるまではご飯の度に雛鳥宜しくねだって来ていたしな」

「あはは、何となく想像付くねぇ!」

「みすちー、笑い過ぎ!」

 

 

 ぷくっと頬を膨らませるルーミア。

 そんな姿さえ可愛いと感じてしまうのはもう諦めた。

 可愛いのだから仕方が無い。

 苦笑と共に愛妻を眺めていると、ルーミアは俺をちらりと見て皿に山と盛られた豚串を見て、警戒を滲ませた視線を向けてきた。

 

 

「あげないわよ?」

「いやしんぼめ、ってか違う!」

「流石に冗談よ」

「どう思う女将?」

「今のは半分以上本気だったんじゃないかねぇ?」

「二人共酷いわ、いくら私だからって独り占めする訳が無いじゃない」

「豚串を下ろしてから言え」

「説得力無いよルーミア?」

 

 

 俺達二人にふるぼっこされたルーミアはくすん、とわざとらしく泣き崩れる振りをしながら豚串に手を伸ばした。

 全く以て食欲に忠実な奴だな。

 さり気なく吸物と米のおかわりを頼む愛妻を視界に入れつつ、清酒をくいと呷る。

 アルコールが喉を焼いて行く感覚を堪能していると、不意に背中へ軽い衝撃が走る。

 首だけで振り向くと同時、視界いっぱいに肌色が広がり唇に何か柔らかいものが当たった。

 

 

「んっ、んっ♪」

 

 

 啄む様に唇を重ねてくる襲撃者を抱き上げ膝の上に乗せる。

 にへらぁ、と溶けそうな程に緩んだ笑みを浮かべ俺を見上げる襲撃者。

 その頬を説教がてらつついてやった。

 

 

「うみゅっ」

「こらチルノ、突然抱き付いて来たら危ないだろう?」

「えへへ、ごめんなさぁい」

「も、もう、チルノちゃんったら。契さん、ルーミアさん、こんばんは」

「あら、可愛らしいお客さんだねぇ。いらっしゃい、妖精のお二人さん」

 

 

 届いた声に顔を上げると、少し顔を赤らめた大ちゃんが立っていた。

 どうやら他人の接吻を見るのも、大ちゃんにはハードルが高いらしい。

 長椅子を少し詰めると多少遠慮しつつも俺の左隣に腰を降ろす。

 まずは駆け付け三杯とばかりに小さな御猪口に清酒を注ぐと、大ちゃんは可愛らしく喉を鳴らして呑み干した。

 

 

「はふぅ」

「良い呑みっぷりだ。女将、こちらの貴婦人に刺身の盛り合わせを」

「わわっ、契さん!?」

「あはは、お代は兄さん持ちだから気にしなくても大丈夫だよ」

「そういう事だ。男の見栄を受け止めてやるのが良い女の条件だぞ?」

「は、はぅ……」

「気にしなくても大丈夫よ大ちゃん! あたい達が大人になったら、思う存分ケイにお返しすれば良いんだから!」

「い、良いのかなぁ……?」

 

 

 酒を呷っている俺、笑い上戸で気さくな女将、天真爛漫なチルノの三人に説き伏せられ、多少困惑した様子で視線をさまよわせる大ちゃん。

 が、その視線は女将が差し出した刺身盛り合わせにすぐ固定される。

 甘党だと思われていた大ちゃんだが、実は魚が好物で中でも刺身は毎食食べても飽きないという程のお気に入りだ。

 あの大食プリンセスことルーミアでさえ毎食は飽きると言った事から、ご執心の程が窺えるだろう。

 確かに俺も毎日ならまだしも毎食はキツいからな。

 狐うどんや天丼に刺身とか、なかなか珍妙な取り合わせになりそうだ。

 珍しくハイテンションで頂きますと声を上げるのを横目に楽しみ、くいと清酒を呑み干す。

 

 

「そう言えばチルノ、身体の調子に何か異変は無いか?」

「んーん、大丈夫だよ」

「そうか。何か有ったらすぐに言えよ?」

「うん、ありがと! ……えへへ、ケイ好き好きー」

 

 

 先日チルノを抱いた時に起きた、羽の形状変化。

 諏訪子や神奈子に訊いてみた所、俺の生命力を吸収した際新たにに生成されたのでは無いかと答えを貰った。

 自然そのものに近い概念的存在で在る妖精は、レミリアや紫といった他種族の者より生命力増加に伴う身体的・能力的変化が顕著だ、というのが二人の考察だ。

 こんかいも、にぃにのせいでしょ? という妹紅の有り難い言葉で皆が納得したのも記憶に新しい。

 ……いや、何か最近キツくないか皆。

 若干滅入ってきた気分を紛らわせようと、腕に抱いたチルノの頬をぷにぷに弄ぶ。

 うむ、柔っこくて気持ち良い。

 

 

「まぁまぁ兄さん、悩む姿は色っぽいけどお酒でも呑んで気楽に行こうじゃないさ」

「……それもそうだな。女将、アレ出してくれ」

「おおっ、遂に解禁かい?」

「序でに女将も一緒にどうだ?」

「おや兄さん、こんな見窄らしい夜雀にもお目零しをくれるのかい」

「はて、俺の前には雅に歌う朱雀しか見当たらないが」

「やだもう、兄さんってば。見境無く口説いてたらいつか天罰が下るよ?」

「ねーねーケイ、アレって何?」

 

 

 女将と軽いジャブの打ち合いをしていると膝上のチルノがぺちぺち頬を触ってきた。

 若干冷ゃっこいが、アルコールで体温の上がった身体には心地好い。

 

 

「取って置きの酒だ。八助の所で造って貰った特製だぞ? その名も『望月』だ」

「あ、ケイと同じ名前なんだ!」

「それはなかなか興味深いわね?」

「兄さんの持ってきてくれるお酒の中でも抜群に美味しいんだよぉ、これは」

「頂いちゃっても良いんですか?」

「他の皆には内緒だぞ? ……まぁ、実の所これは試作品でな。今日の夜に完成品が届くからな、そうしたら広場で宴会だ。因みに題目は女将の歓迎会だ、何か一言考えて置いてくれ」

「へ?」

「この後は急いで宴会の準備だ。チルノと大ちゃんは郷の子供達が摘み食いしない様に見張っててくれるか? ルーミアは俺と一緒に宴会の食事の準備な。映姫や奈苗が下拵えをしてくれている筈だ」

「ちょっと、聞いてないわよ、ケイ」

 

 

 突然の宴会宣言に目を丸くする女将。

 右隣からはルーミアのジト目が飛ぶ。

 そんな二人に、ニヤリと笑みを返した。

 

 

「今言ったからな」

「ていっ」

「ッアー!?」

 

 

 どやぁ、と雰囲気を出していたら愛妻からデコピンされた。

 何と理不尽な。

 

 

 

 

 一時間後、俺達は各々の目的の為に慌ただしく動き始めた。

 チルノは刺身に夢中になっていた所為でイマイチ状況が把握出来ていない大ちゃんを連れて子供達の所へ、女将は宴会の主役になると聞いて何をしたら良いか解らずに軽くパニックを起こしながらスピーチの用意。

 そして俺はと言うと、マイワイフに首根っこを掴まれて絶賛移送中だ。

 

 

「いやぁ、すっかり言うのを忘れててな」

「全く、成長しないにも程が有るわよ。その様子だと、まだ伝えていない面々が居るんでしょ?」

「その事で確認だよー、っと」

 

 

 暢気な声と共に空間を切り裂いて紫が降ってきた。

 最近紫は家を空けている事が多い。

 前に理由を尋ねてみたが、照れ臭そうに笑って誤魔化された。

 その時は取り敢えず頬をぷにぷにつついてやったが、特に危険な事をしている様子は無かったので好きにさせている。

 

 

「古明地家と紅魔館と鬼の集落と永遠亭には知らせておいたよ」

「流石だ紫、愛してる」

「やぁん、そんな事言われたらおにいさんをもっと好きになっちゃう」

 

 

 両頬に手を当ていやんいやんと身をくねらせる紫。

 ルーミアにも、これくらいのお茶目さが有っても良い気がするんだがなぁ。

 

 

「っと、にとりにも知らせたか?」

「うん、たった今行ってきた所。幽香も居たから序でに声掛けて置いたよ」

「そうか……ん? 紫、幽香と面識有ったのか?」

「あれ、教えて無かったっけ。お茶飲み友達だよー」

「随分渋い交友関係なのね」

「じゃあ、そろそろ永琳さん達を迎えに行ってくるねー」

「あぁ、行ってこい」

「転ばない様に気を付けなさいよ?」

「行って来まーす」

 

 

 にこやかに手を振って紫は隙間に消えた。

 隙間の消えた跡を眺めて気を抜いていると不意に首元が軽く締まる。

 それと同時にルーミアが俺の首根っこを掴んだまま、我等が神社の境内をすたすたと横切って行く。

 いやいや奥さん、幾ら何でも亭主の扱いが酷く無いですかね。

 そんな抗議も兼ねて脇腹を軽くなぞる。

 

 

「ひゃあっ!?」

「お、手応え有り。うりうり」

「やっ、ちょっと、ケイっ」

「フハハハ、良いでは無いか良いでは無いかうぐふっ!?」

 

 

 くすぐられたルーミアは反射的に両手で脇腹をガードし身を捩った。

 そう、両手で。

 支えを失った俺の身体は重力に引かれ、見事なまでにばたりと倒れ込んだ。

 妙な体勢で倒れ込んだものだから満足に受け身も取れず、強か顎を強打してしまう。

 ガチン、と歯が鳴る。

 

 

「……いてぇ」

「あっ、だ、大丈夫?」

「妻の愛の形が打撃だった。泣きたい」

「そ、そんなつもりじゃ無かったのよ? 本当よ?」

 

 

 珍しくわたわたと慌て出すルーミア。

 こんな風に慌てる姿を見るのも久し振りな気がする。

 動きが可愛らしいから、もう少しからかってみるとしよう。

 

 

「そう遠くない将来、俺はこんな風に捨てられてしまうのだろうか」

「そんな訳無いじゃない! 私はケイを捨てたりなんかしないわよ」

「世間体が悪いからと家から出して貰えずに、虫の居所が悪いと殴られる様な生活が待っているのだろうか」

「い、いじめたりなんかしないわよ。ほらケイっ、良い子良い子」

 

 

 軽くパニックでも起こしたのか、子供をあやす様に頭を撫でてくる。

 ……いかん、ルーミアの頭なでなでには凄まじい程の威力が有るのを忘れていた。

 からかってしまった罪悪感と共に眠くなってしまいそうな程の安心感が生まれ、無意識の内に身体が勝手に動き出す。

 

 

「ひゃわっ!? ケ、ケイ?」

「ルーミアは温かいなぁ……」

「あ……ケイの気が済むまでこうしててあげる。ほら、良い子良い子」

 

 

 抱き付いて胸に顔を埋めた俺の頭を、優しい感触が滑り落ちていく。

 ほんわりと馬鹿になっていく自分を認識しつつ、どうしたもんかと一人悩む。

 突っ込み役が居ないだけでこの始末。

 普段突っ込みを担っているルーミアが無力化された今、境内の真ん中で崩れ落ちながら抱き合う変人二人を止められる奴が居ない。

 ルーミアはまだパニックから帰って来ないし、俺は俺で意識の半分以上を持って行かれている為に脱け出せない。

 

 

「……えっと、二人共何やってんの?」

 

 

 たっぷり十分は抱き合った頃、宴会の出し物に使う小道具を蔵で探していた諏訪子が呆れた声で呟いた。

 右手にぶら下がる『かな☆すわ』の特製扇子がこれまた懐かしかった。

 

 

 

 

 

 

「──はぁ」

 

 

 盛大な溜息と共にジト目が飛んでくる。

 あの後台所に駆け込み映姫と奈苗に平謝りしつつ、どうにか料理を完成させた。

 ギリギリ間に合った事に胸を撫で下ろしていると不意に上着の裾をくいくいと引っ張る感覚が有る。

 振り向いた先には満面の笑みを浮かべた映姫が立っていた。

 そう言えば俺達が遊んでいた間も料理を頑張ってくれていたな、と思い起こす。

 今日は思いっ切り甘えさせてやろうと身を屈め頭を撫でてやろうとした瞬間、小さな手に引かれる様に正座させられた。

 突然の事に首を傾げていると、同じ様にルーミアも正座させられる。

 うん、と満足そうに一つ頷いた映姫は笑みを浮かべたまま、視線だけを無表情に戻して言った。

「それで、準備に遅れた事に対して何か釈明は有りますか?」と。

 

 

 ──まさか娘にマジ説教されるとはなぁ。

 

 

 この真面目さ、一体誰に似たのやら。

 少なくとも俺では無い。

 横目でちらりとルーミアを覗き見ると、困惑と反省をごちゃ混ぜにした感情を瞳に乗せていた。

 うむ、気持ちは痛い程解るぞ。

 

 

「聞いていましたか、お父様」

「滅相も無い」

「いやケイ、明らかにその答えは聞いてないでしょ」

「もー、お父様っ、真面目に聞いてください!」

 

 

 ぷんすかと怒る映姫。

 もー、とか言っちゃう辺り可愛くて仕方が無いんだが、今抱き締めたら間違い無く怒るだろうな。

 というか、そろそろ周囲の生暖かい視線が厳しい。

 

 

「ほっほっほ、契様も愛娘の雷にはたじたじかのぅ」

「ねぇ、お母さん。えーきちゃん、なんでけい様とるーみあ様を叱ってるの?」

「映姫ちゃんとの待ち合わせに遅刻したみたいよ。映姫ちゃん、契様が大好きだから待ち遠しかったんじゃないかしら」

「……招待されて来てみれば、これはまた何とも反応に困るお出迎えね」

「あ、幽香いらっしゃ……え、何事?」

「ぷっ、もっちーマジ説教中とか」

「なかなか珍しい光景ね。それはそうと、初めまして。貴女が風見幽香さん?」

 

 

 うわ、幽香と紫達まで集まって来た。

 つーか輝夜、指を差して笑うんじゃない。

 そして永琳はマイペースに幽香に自己紹介をしていた。

 何気に初顔合わせなのか。

 それなら、後で女将と一緒に何かスピーチでもして貰うとしよう。

 

 

「そもそもお父様は女性を軽々しく口説き過ぎです! お父様自身は本心からの言葉のつもりで口にしているのかもしれませんけど、受け取る女性にしてみたら大変なんですからね! 台詞回しは詩的ですし、お父様そのものも素敵ですし、何よりお父様のあの仄暗い瞳に見詰められたらそれだけできゅんきゅんしちゃいますし」

「そうなのよねぇ、ケイったら見境無く甘い言葉を吐き散らすから」

 

 

 うんうん、と大きく頷くルーミア。

 だが口を挟んだ事で映姫のターゲットが移った様だ。

 如何にも怒ってるんだぞと言わんばかりに両拳をぎゅっと握り向き直る。

 

 

「ルーミアさんもルーミアさんです! お父様は時々無為に戯れる事が有るって解っているんですから、ちゃんとお父様を止めないといけないんですよ?」

「あ、はい、すみません」

「大体あれだけルーミアさんに溺れているお父様が今更離れられる訳無いに決まっているでしょう。確かに甘えてくるお父様というのも普段の凛々しい姿とはまた違って素敵ですけど、だからと言ってただ甘えさせれば良いという訳では有りません。そもそもルーミアさんはお父様を甘やかし過ぎです」

 

 

 俺への純粋な説教と違い、ルーミアへの説教には嫉妬心の様なものが見え隠れしていて微笑ましい。

 が、それを面に出そうものならポコポコぱんちが飛んでくるだろう。

 村人達も集まり始めたしそろそろ勘弁して頂きたい所だ。

 そんな俺の願いが通じたのか、黒髪の中に一房だけ有る緑髪を風に靡かせた少女が苦笑を浮かべて駆け寄ってくる。

 

 

「映姫ちゃん、そろそろ宴会が始まりますからその辺にしてあげてください」

「ですが、奈苗さん。お父様とルーミアさんにはもう少し大人としての自覚を持って貰わないと」

「まぁまぁ、これ以上は宴会を楽しみにしてる皆さんにも悪いですし。後で何か説教の代わりになりそうな罰を与えれば充分ですよ。それに」

 

 

 奈苗はそこで区切ると映姫の耳元に口を寄せ、周囲には聞こえない様声の調子を下げて囁く。

 

 

「罰だからって名目を付ければ、宴会の間ずっと膝抱っこして貰えますよ?」

 

 

 その時映姫に電流走る。

 ハッと目を開いてその手が有ったかと言いそ「その手が有りましたか!」って本当に言ってるし。

 すぐに俺とルーミアの様子を窺い今のが聞こえていないか探ってくるが、残念な事にばっちり聞こえている。

 が、映姫はバレていないと思ったのかホッと胸を撫で下ろした。

 何故今のがバレなかったと思えるのか。

 突っ込みたいのを我慢していると、えへんえへんと映姫が態とらしく咳払いをする。

 

 

「まぁ確かにそろそろ宴会も始まりますから今回はこの辺にして置きましょう。ですが、訓戒だけでは真に反省出来るかを量れないのでお二人にはそれぞれ罰を与えます」

 

 

 ちらちらと俺に熱っぽい視線を向けながらそう宣言した。

 その姿に思わずルーミアは微笑みそうになっていたので、映姫に見えない角度から小突いてやる。

 気持ちは解るが今は耐えろ。

 

 

「お父様は……今日の宴会の間、デレデレしない様に私の監視下に置きます。ルーミアさんはお父様とイチャイチャしない様にしてください。良いですね?」

「ん、解った」

「了解よ」

 

 

 嫉妬と独占欲が垣間見える要求に苦笑が零れそうになるのを何とか堪え了承を返す。

 と、それを穏やかに見守っていた奈苗が声を出さずに唇だけで喋る。

 一つ貸しですよ、か。

 奈苗から貸し借りという表現が出るとは随分と珍しい。

 はてさて一体何を要求されるやら、と肩を竦めて立ち上がる。

 足が痺れてぷるぷる震えているのは見逃してくれ。

 ルーミアは涼しい顔で立ち上がろうと腰を上げ、何故かそのまま座り直した。

 どうかしたのかと思うと同時、これまた珍しく悪戯な笑みを浮かべた奈苗が背後に回り込み人差し指で足をつつく。

 

 

「つんつんぷにぷに」

「っく、ちょ、奈苗止めっ」

「にゅっふっふ、どうかしましたかルーミア様?」

「い、今痺れてるから触らな、ッアー!?」

「ぷにぷに~♪」

 

 

 仲睦まじくじゃれ合う二人。

 存分に癒されていると、くいくい袖を引く感覚が有る。

 視線を向ければ映姫が少し顔を赤らめて手を繋いできた。

 微笑みを返し、指を絡めて握る。

 

 

「じゃあ行くか、お姫様」

「ちょっ、ケイ助けて!」

「ダメですよお父様、アレは罰の一環なんですから」

「だそうだ、諦めろ」

「や、そんな殺生な、アッー!?」

「悶えるルーミア様可愛いですよ~、ぷにぷにつんつん♪」

 

 

 罰という名目で悪戯し放題の奈苗。

 その楽しそうな様子から若干俺と同じ臭いがした。

 存外Sだな、奈苗。

 そんな二人を眺めながら、映姫に手を引かれ村の中央に有る広場へと向かった。

 

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