「うー、やっぱりもっと地味な方が……」
「だいじょぶだいじょぶ、ぬえちゃんとっても可愛いよ♪」
「で、でも……」
「でもでもばっかり言っちゃうぬえちゃんはー」
「な、なに?」
「むぎゅむぎゅの刑だー! むぎゅむぎゅー♪」
「ひゃぁっ!? け、契さん助けてっ」
「仲良いなお前達」
仲睦まじく抱き合う幼女を眺めながら、平坦な道をのんびりと進む。
件のぬえは白地に菫の花をあしらった小袖を着ている。
一昨日、出掛けに村で買ったものだ。
旅の着替えに買い込んで置こうと呉服屋へ足を運んだのだが、ぬえが選ぶ服はどれも大人しいものばかり。
可愛いのだからもっと着飾った方が良い、と俺と響子の二人で強引に選んでやったものの一つだ。
民主主義万歳だな。
ともあれ、せっかく買ったのだから着せてみたくなるのは当たり前。
渋るぬえを着替えさせ、存分に楽しんでいると言う訳だ。
「ぬえちゃん好き好きー♪」
「うぅ……」
「ぬえちゃんはわたしの事好き? それとも嫌い?」
「え、や、あぅ……」
「んぅ?」
「……好き」
「きゃぁぁぁぁん♪ ぬえちゃぁん♪」
「ひゃっ、や、ちょっ、響子ちゃんっ、危ないよ……!?」
服と言うよりぬえで楽しんでいる、が正しいかもしれんが。
ストレートな愛情表現に弱いので響子を相手にするのはなかなか大変な様だ。
くるくると輪舞曲を踊る様に戯れる山彦幼女と、それに振り回されている正体不明の幼女。
存外、良いコンビなのかもしれない。
「っと、余りはしゃぎ過ぎるなよ?」
ふらふらになったぬえがバランスを失って倒れ込んで来た。
すかさず受け止めてやると、二人とも少し照れ臭そうに見上げてくる。
「あはは、ふらふらするー」
「響子ちゃん、回りすぎ……」
「大丈夫か、ぬえ」
「うん、私は平気」
「わたしは平気じゃないから契さんにむぎゅむぎゅしちゃうー♪」
「あ、響子ちゃんずるい」
「ならぬえも抱き付くか?」
「はわっ!? わ、私は、その……お、お邪魔します」
多少混乱しつつもしっかりと抱き付いてくるぬえ。
少しずつ積極的になってきている様で何より。
子供は素直が一番だからな。
賑やかに旅路を行くと、暫くして山道へ差し掛かる。
「時折木の根が張り出しているから注意しろよ」
「「はぁーい」」
揃って返事をする二人の頭を軽く撫で、踏み均された道を進む。
木の根が隆起して出来た天然の階段を軽やかに上り、枯れ枝とそれに絡まる蔦が織り成すアーチを潜り抜け、針葉樹が立ち並ぶ回廊を抜けて行く。
幾つかの曲がり角を抜けると、不意に視界が開けた。
「わぁ……!」
思わず、と言った様子でぬえが感嘆の声を上げる。
開けた視界の先、連なる山々と霧に霞む渓谷が広がっていた。
陽光を受けキラキラと輝く霧の上には虹の橋が掛かっていて、幻想的な世界に迷い込んだ気にすらさせる。
「綺麗だな」
「キレイだねー」
「すごい……」
「うん、すごいすごい♪」
楽しそうに返すのは響子。
この場所は声も響くから山彦としてはテンションも上がるのだろう。
案の定、何かを期待してキラキラと瞳を輝かせている。
苦笑を滲ませつつ、俺は山間へ向かって声を張り上げた。
「やっほー!」
「やっほー! やっほー! やっほー!」
三連続で山彦を返す響子。
どうやら正解だったらしく、満面の笑みを浮かべて抱き付いてきた。
レディの要望には敏感でいないとな。
「ぬえもやってみたらどうだ? 響子がわくわくしながら待ってるぞ。早くしないと口でもわくわく言いそうだ」
「わくわく♪」
「もう言ってる!?」
山彦としての血が騒ぐのか、はしゃぎっぷりが半端じゃない。
元気爆発中の響子に押されながら、ぬえも大きな声を上げる。
「やっほー!」
「やふぅぅぅぅぅっ♪」
「何か違う!?」
テンションは最高潮の様だ。
両手をぱたぱたさせながらぴょんぴょん跳び跳ねる姿が何とも可愛らしい。
尻尾も千切れんばかりに振られており、そのままヘリコプターみたいに飛んで行くのではないかと思わせる程に激しく動く。
「契さん契さん! もっかい! もっかいやって!」
「さて、お姫様はどんなのをご所望かな?」
「なんか激しいの!」
「激しいの!?」
「じゃあ取って置きを使うか」
「取って置きを用意してたの!?」
「行くぞ、ファス……ロダ!」
「トシコシダー!」
「激しいけど何か違う!?」
「あれ、違った?」
「何かはわからないけど、何か違うよ響子ちゃん!?」
うむ、ぬえの突っ込みスキルも順調に育っている様だな。
突っ込まれスキルは夜に鍛えてやるか。
「ぬっふっふ」
「契さんが不敵な笑い方を……」
「ぐひ! げひひ!」
「真似したらダメだよ響子ちゃん!?」
「俺今そこまで酷い笑い方してないぞ!?」
ハッ、思わず突っ込みを入れてしまった。
この俺を突っ込み役に回すとは、これが幼女パワーか。
取り敢えず響子の頬をむにゅむにゅ摘まんでお仕置きしておいた。
痛くない様に引っ張ったり押し込んだりしてみたが何故か嬉しそうだった。
何で嬉しそうなんだよ、お仕置きにならないだろ。
「にへー、契さんと触れ合ってるだけで心がぽかぽかするんだよー♪」
「ん、あぁ……そうか」
「契さん照れてるー♪ かわいー♪」
「……成程、ぬえはこの攻撃に晒されていた訳か」
「うん、なかなかの強敵」
そんなこんなで移動を再開する。
低い峰を一つ越えた辺りで空気が変わり、多少体感温度が下がった様な気がする。
雪は無いが時折足元でじゃくじゃくと土が鳴っているので、霜が降りている場所も有るらしい。
寒くないか、と視線を向けるとぬえは大丈夫、と頷いた。
防寒着も背中のリュックに詰め込んで有るから寒さ対策はバッチリだ。
響子はと言うと、あっちへこっちへぱたぱた走り回っているので寒さとは無縁の様子。
額に汗も浮かんでいる。
取っ捕まえて手拭いで汗を拭いてやる序でに、頭も手拭いでわしゃわしゃしてやった。
「きゃぁー、ぬえちゃん助けてー♪」
「ちゃんと汗拭かないと風邪引いちゃうよ?」
「やぁん、ぬえちゃん厳しいー。もしかして熟年離婚の危機?」
「まだまだちびっ娘だろうに。それにぬえは響子が大好きだからな、離婚の心配は無いだろ」
「ちょ、け、契さん!?」
「にへー、私もぬえちゃん大好き♪」
「きゃぁっ!? きょ、響子ちゃん……」
響子が今までのじゃれ付く様な勢いでは無く、愛おしげにそっと、深く抱き締めてきたので真っ赤になっている。
随分好かれたものだな。
暫くあわあわしていたが、何をどう解釈したのか目を閉じてぎゅっと抱き返したぬえ。
それを受けて響子は益々嬉しそうに抱き付いている。
「仲良いな、二人共」
「うんっ、仲良しさんだよー♪」
「……何か寂しいから俺も混ぜろー!」
「わぁっ、契さん!?」
「あはは、契さんも仲良しさん♪」
慌てるぬえとにこやかに笑う響子へ突撃した。
二人纏めてむぎゅむぎゅしてやった。
うむ、やわっこかったです。
「あはは、意外と契さんも甘えん坊だね♪」
「二人でイチャイチャしててズルいぞ、今度からは俺も混ぜろよ?」
「いっ、イチャイチャしてた訳じゃ……」
「満更でも無かったろ?」
「それは……うん……」
「みんなで仲良しさんだもんね♪」
あの後長らく使われていない山小屋を見付けた俺達は、少し早いが大事を取って休む事にした。
夕暮れ時に山を下るのもなかなか危険だからな。
俺一人ならどうとでもなるが、幼女二人には酷な旅路だろう。
そんな訳で今は晩御飯の支度中だ。
そろそろ野菜が萎びて来そうだから鍋に全部ぶちこんでみた。
キャベツ、長ネギ、干し椎茸、人参、そして先程蹴り殺してきた猪を味噌仕立てで頂く。
これで幽香農園から持ってきた野菜は全て無くなる。
若干物悲しい気分になるな。
因みにぬえは俺の左隣で使い終わった食器を洗ってくれていて、響子は台所の広さが足りない為後ろで待機中だ。
とは言え、元気一杯の響子が大人しく待っていられる筈も無く。
「まだかなまだかなー」
「こら響子、料理中は危ないからチョロチョロするんじゃない」
美味しそうな匂いに目を輝かせながら鍋を覗き込む響子へ、ぽこっとチョップをくれてやる。
「わひゃんっ♪」
「もー、響子ちゃんったら。あんまり自由だと噂の妖怪に食べられちゃうよ?」
「噂の妖怪? そんなのが居るのか」
「うん、村を出る時に耳にしたの。山を越えた辺りに人を驚かして魂を吸い取っていく妖怪が出るんだって」
「それ程に強力な妖怪なら不比等が教えてくれそうなもんだが」
「やぁん、契さんこわいよー♪」
「てぃっ」
「ひゃぅんっ♪」
どさくさに紛れて抱き付いてきた響子にもう一発チョップをくれてやりつつ、その『噂の妖怪』とやらへ思案を巡らせる。
人を驚かして、の部分は実に一般的な妖怪だな。
しかし魂を吸い取ると言うのはどういうものなのだろう。
触れると生命力を吸われるのか、傷から魂が漏れ出るのか、はたまた直接口吻を蚊の様に突き刺して吸うのか。
そして吸われた魂はどうなるのだろう。
「け、契さん」
「ん? あぁ、すまん。危うく噴き溢す所だったな」
響子の声で意識を鍋に戻した。
灰汁を手早く取りつつ煮え具合を確かめる。
後もう一煮立ち、と言った所か。
と、腰元に抱き付いている響子の動きが止まっているのに気付いた。
心無しか握られた服の裾が強く引かれている気がする。
「け、けけ、契、さんっ」
「どうした、ぬえ?」
「う、うう、うっ、うし、うしっ」
「牛?」
「うしっ、うしろ……っ!」
はて、俺の背後には何も……あぁ、勝手口が有ったか。
背後へと向き直ってみると、開いた扉から草臥れた唐笠が覗いていた。
──成程、唐笠お化けか。
ドギツイ紫色の唐笠の中央、赤い一つ目と長く伸びた舌が特徴的だ。
傘の陰に隠れているのは妖怪としての分体だろう。
この角度からでは判別が付きにくいが、どうやら細身の女性体らしい。
勝手口からちらりと覗く艶やかな生足が判断材料だ。
……これで男だったら縊り殺してやろう。
「う~ら~め~し~や~……!」
「「ひやぁぁぁぁぁっ!?」」
ベタなフレーズの後を追う様に、可愛らしい悲鳴が二つ上がった。
同時に背中側の腰元へ軽い衝撃が走る。
お子様二人には刺激が強かったらしい。
ゆらりと立ち上がる様に上体を起こした唐笠の下から、分体の姿が覗く。
「……おぉ……」
思わず感嘆の息が漏れ出る。
水色のショートボブ、少し垂れている水色の右目、裾が折り畳まれミニスカートの様になっている水色の着流し。
眩しい魅惑の太股の下は下駄を履いている。
左目だけが赤く輝き、唐笠の一つ目と同じ様に存在感を放っていた。
愛らしくも美しい顔立ちから視線を下げれば、女性らしい丸みを帯びた肢体が映る。
全体的に小柄な身体だが、胸はなかなかに自己主張していた。
着流しから覗く谷間が実に蠱惑的で素晴らしい。
是非湯船で後ろから揉みしだきたい。
そしてミニスカートの様になっている裾から伸びる生足。
芸術品の様にきめ細やかな肌が何とも言えぬ色気を放っている。
小娘には出せないであろう、芳醇な艶かしさがそこには有った。
「え、あ、吃驚してくれた……? アレ、でも何か違う気がする……?」
謎の美女は何故か驚いている様子だ。
驚かせに来て自分が驚くとはなかなか面白い状況では有るが、さてどうしたものか。
背後には怯える幼女が二人、目の前には戸惑う美女が一人。
この場面で俺が取るべき行動は唯一つ。
良い感じに煮立った鍋を火から降ろす事だな。
「改めて、ごめんね二人とも」
パン、と両手を合わせて頭を下げる美女。
それに笑顔で響子が応える。
「あはは、だいじょぶだよー。ちょっとびっくりしたけど、もう平気! ね、ぬえちゃん」
「う、うん、大丈夫」
「二人とも良い子だぁ……」
微妙に面白いテンションのまま感激している。
彼女の名は多々良小傘。
打ち捨てられた唐笠の九十九神らしい。
確かにあの色では大衆受けはしないだろうな。
流石にこの時代の人間がセクシャルバイオレットな色彩の唐笠を見て、素晴らしい色合いだと感じる事はまず無いだろう。
熟れ過ぎた茄子の様な、とでも言おうか。
どうにも珍妙な色だ。
しかしこの奇怪な色の唐笠から、傾国と評しても過小な程の美女が現れるとは御天道様にも解るまい。
目尻を下げて弱く微笑む姿は宛ら地上に舞い降りた女神の様だ。
「それにしても契さん、なんかもうスゴイよね」
「ん?」
「小傘ちゃんのかわいさにびっくりしてた、なんて」
「うん、契さん見境なし」
ぬえがなかなか辛辣だ。
心無しか頬をぷくっと膨らませている。
どうやら自分が怖がっていた時に平然と料理を続けていたのが、お気に召さないらしい。
女心は難しいな。
因みにぬえと響子の小傘への呼び方は小傘ちゃんで決まった。
妖怪として発生した時期がぬえや響子と然程変わらず、何より小傘本人がそう呼んで欲しいと希望したからだ。
──つまり小傘は心ロリ状態か!
心ロリ。
読み方は『こころり』。
成熟した若しくは成長期の肉体であるにも関わらず、精神は幼いか未成熟な状態の娘を指す。
この状態で何が最高かと言えば、大人の肉欲を開発し悦楽で振り回しながら、従順で無垢な精神を堕とし切らずに弄べる点だろう。
麗しき美女がまるで童女の様に甘え、快楽を貪る姿は感動すら覚える。
「はぅあ!」
急に小傘が素っ頓狂な声を上げる。
顔を真っ赤にしてわたわたと落ち着き無く身動いだかと思えば、恥ずかしそうに上目遣いで窺ってくる。
はてさて、一体何事だ?
「むぅー……契さんっ、小傘ちゃんみつめすぎ」
栗鼠の様に頬を膨らませて膝をぺちぺち叩いてくるぬえ。
それを面白がって、響子も反対側の膝をぴたんぴたんと叩いてくる。
ぺちぺち、ぴたんぴたん。
ぺちぺちぺちぺち、ぴたんぴたん。
「ええぃ、やめんか!」
「ひゃぁっ!?」
「きゃー、つかまったー♪」
小さい身体を引き寄せて頭をぐりぐり撫でてやる。
ぬえはされるがままに、響子は逃げる所か抱き付いて来た。
可愛らしく嫉妬を滲ませたお姫様を胡座の中に入れて、左手でひたすら頬を撫でる。
こうして置けばその内機嫌も直るだろう。
響子は背中に抱き付いて満足そうにしているので放置しよう。
……さて、何の話だったか。
「で、どうかしたか小傘? 変な声上げて」
「ななな、何でも無いよっ?」
「何で疑問符付いてるんだ」
「ほ、本当に何でも無いから! 別に契くんに見詰められて恥ずかしかったとかじゃ無いから! ほ、ホントだよ!」
何だろうか、この可愛い生き物は。
盛大に自爆しつつもそれに一切気付いてない辺りがまた愛らしい。
「うぁぁ……どうしたんだろ、私。何か契くん見てたらドキドキするし……ハッ、まさかさっき契くんから吃驚の気持ちを吸い取ったのが原因かも!? 普通の人間ならまだしも契くん実は神様だって言うし、もしかしたら何か知らない間に影響が出てたりして……? で、でもドキドキしちゃうのは仕方が無いよね。契くん笑うと素敵だし、あの灰暗い瞳で見詰められたら、何かこう、きゅんってしちゃうし。うん、何もおかしくない。アレ、でもこれってもしかして……恋? 一目惚れ? ……ゎ、ゎぁっ!? 一目惚れなの!? このドキドキって恋のドキドキ!? うわぁ……どうしよう、益々契くんの顔恥ずかしくて見れなくなりそう……」
なかなかマシンガンに心の声が漏れ出ている。
早速好感度に変化が有った様だが、その理由には少しばかり思い当たる節が。
先程のファーストコンタクトで理由は如何あれ、小傘に対して俺は驚きを以て応えた。
小傘は『驚く』という人間の感情を糧に生きる妖怪だ。
無論、俺の驚きを取り込んだのは改めて言うまでも無い。
しかし待って欲しい。
俺は精液のみならず、汗や血液、唾液にも発情を促す作用が発現したトンデモ眼鏡である。
深く考えると泣けてくるので軽く流すとして、こう言った予想は出来ないだろうか。
俺から出るものに媚薬効果が現れる→つまり俺の全身が最早媚薬そのもの→媚薬塗れの肉体に精神が内包されている→実は精神にも媚薬効果が染み込んでるんじゃね? →その媚薬効果をたっぷり含んだ精神の欠片を取り込んだ所為で小傘の精神にも何らかの影響が!
──中途半端な説得力が有るのがまた泣けてくるな。
自分で考えて悲しくなってきた。
おかしい、清く正しい青春眼鏡は一体何処へ消えたのだろう。
「ほぇ、契さん?」
「ん、あぁ……何でも無い何でも無い」
気配が変わったのを気取られたか、響子が後ろから右頬をぷにぷに突いてくる。
無邪気な山彦幼女に癒されつつ、取り敢えず媚薬で精神が汚染云々は気にしない事にした。
余り考えても仕方無いからな。
前向きに吹っ切った所で食後のお茶を啜る。
口内に残っていた鍋の塩気が洗い流され、代わりに爽やかな煎茶の香りが喉を降り鼻へ抜ける。
それを契機に、と言う訳ではないだろうがぬえは小傘を正気に戻すべく可愛らしく気合いを入れて胡座を抜け出し、響子が代わりに胡座の中へ滑り込んできた。
だらしなく開けた服の下、ぽこっと膨れたお腹が見える。
俺の視線に気付いてか、響子は甘ったるい程に惚けた笑顔を向けてきた。
「にへへー、まんぷくぷく♪」
「こら響子、はしたないぞ」
「契さんだから良いもん♪ かわいい所も恥ずかしい所も、全部全部、契さんになら見て欲しいから♪」
そう言って俺の右手を掴むと自分のお腹に乗せて満足そうに笑う。
甘えん坊だなと思うのも束の間、響子はそのまま右手をするすると胸の方へ誘導し……ってちょっと待て。
「おい響子、何をする気だ」
「にへへ……契さん好き好き♪」
「答えになってないぞ!?」
「あ、何してるの契さん! ダメだよ、破廉恥だよ!」
「違う、俺は無実だ!?」
「け、契くんの手が響子ちゃんの胸を……ごくり」
「ってか響子離せよ!?」
「やぁん、もぞもぞさせたら気持ちよくなっちゃうよぉ♪」
「こらー、契さん!」
「ちがっ、や、やめるんだぬえ!?」
両手を振り上げて背中をぽこぽこ叩いてくるぬえ。
響子は右手にしがみついて離れない所か、身を捩ってぷくりと膨らんだ乳首を掌に押し当ててくる。
感触は天国だが状況が修羅場だな。
と、それまで恥ずかしそうにしながらバッチリ見ていた小傘が正気に帰り、ぬえを押さえてくれた。
「お、落ち着いてぬえちゃん」
「むぅー……!」
「よ、よし、この隙に……とりゃっ」
「わぅん♪」
小傘が稼いでくれた時間を使い、一気に右手を引き抜く。
すぽっと抜けた右手を熱い視線で追いながら、響子は物足りなさそうに抱き付いてきた。
それを見てぬえも勢い良く抱き付いてくる。
何と言う幼女サンドイッチ。
「やぁん、契さんのいけずぅ」
「私もかまってくれなきゃヤだもん……!」
言動から察するに、どうやら二人はヤキモチを焼いたらしい。
充分布団の中で壊し、げふんげふん、もとい愛してやったと思っていたがまだまだ物足りなかった様だな。
なら今夜はもう少し激しくしてやるか。
にやりと口の端が自然に歪んだのと同時、抱き付いていた二人の肩がびくんと震えた。
その勢いのままに顔を跳ね上げ、多少怖じ気付いた様にこちらを窺ってくる。
野生の勘か。
「け、契さんが怖い……笑ってるのに怖いよ……!」
「わ、わたしは充分むぎゅむぎゅしたから、後はぬえちゃんに任せようかなー?」
「うええぇぇっ!? き、響子ちゃんこそ、わ、私に遠慮しなくて良いよ!」
「何、遠慮する事は無い」
がしっと背中から抱える様に抱き竦め、口を耳元へ寄せる。
「二人纏めて、壊れるくらい愛してやるさ」
「「ひぅぅぅぅぅっ!?」」
「……ぅゎー、私の存在が薄ーい。いや、でも今の契くんは何かちょっと怖いし……うん、可哀想だけど二人には頑張ってもらおうかな……」
小声でぼそぼそ呟いている小傘。
しかし彼女の元へも悪の手は忍び寄っているのだった。
うむ、これで良さげなフラグも建ったな。