意味が解らなかった。
理解が出来なかった。
普段の言動とはかけ離れた単語が交じっていた事に、私の頭が上手く処理してくれない。
そんな戸惑いが、声となって溢れた。
「…………は?」
多分、私は今ぽかんと間の抜けた顔をしているのだろう。
……あぁ、解った。
これは恐らく奈苗なりの新しい冗談なのだろう。
直ぐにでも背中に隠した小さな看板を取り出して『ドッキリ大成功♪』と色鮮やかに塗られた文字を見せるに違いない。
それなら、今回はまぁ、許してあげよう。
だから早く嘘だと聞かせて欲しい。
そんな私の願いも届かず、奈苗は少し寂しげに微笑んでいる。
動かない奈苗に、私は焦燥に似た感情が思考を焼いていくのを感じながら、先程の言葉を反芻していた。
──奈苗が、誰かに、殺される?
誰に、いつ、何で。
疑問だけが頭の中をぐるぐると廻り続ける。
奈苗が殺される。
それはつまり、奈苗が死んでしまうと言う事。
「──っ、ぁ、がっ!?」
それを理解した瞬間、胸の奥に突き刺さる様な痛みと、息が詰まる程の苦しさが私を襲った。
呼吸が上手くいかない。
かひゅー、かひゅー、と喉を擦る様な音が鳴る。
思わず胸を押さえて踞った。
──やだ、やだよ、苦しい……。奈苗が、奈苗が死んじゃう……? やだっ、やだよぉ……ケイ、助けて、胸が痛いよぉ……!
張り裂けそうな胸の痛みが思考を掻き乱す。
言い表せない苦しさに、気付けば最愛の人へ助けを求めていた。
でも、今ケイはここに居ない。
代わりに応えたのは、眼前の少女だった。
「おとーさんが死ぬか、代わりに私が死んでおとーさんを助けるか。そんな選択肢が元々は有りました。でも私にとって一番大切なのはおとーさんです。なのでルーミア様には申し訳有りませんが、今回は私が勝手に決めてしまいました」
返された言葉は、更に私の心を狂わせる。
ケイが死ぬか、代わりに奈苗が死ぬか。
「……何よ、それ」
知らぬ間に言葉が漏れ出た。
混乱の中で、私の心でまだ落ち着いている部分がまるで他人事の様に私の声を聞いていた。
「何で、何で奈苗が死ななきゃならないのよ! そんな馬鹿みたいな話が有る訳無いじゃない! ケイが死んじゃうから、代わりに奈苗が死ぬなんて、そんなのっ、そんなの認められる訳無いでしょっ! 嘘なんでしょ? 全部冗談なんでしょ? 早く嘘だって言いなさいよ! 今ならほっぺをつねるだけで許してあげるから、だから、嘘って言いなさいよ……!」
……どうやら、私は憤っているらしい。
確かにこんな話を突然聞かされもしたら、それは怒る。
でも、何に怒っているのか。
少なくとも、この感情の矛先は奈苗に向かっていない。
理不尽、余りに理不尽な話だ。
そこまで考えて、私はふと気付いた。
これ程までに滅茶苦茶な話なのに、私はそれを根底では信じている。
いや、勿論奈苗が死んじゃうなんて信じたくも無いけど、感情とは別の所で、私は奈苗が嘘を言ってはいないと感じている。
自覚した途端、すっと奈苗の言葉が飲み込めた。
色々と文句は言いたいけど、それは一先ず置いておこう。
すーはー、と深呼吸を一つ。
……うん、少し落ち着いた。
「奈苗が死ぬ死なないは別にして、何でその結論に至ったのか。その過程を聞かせてくれる?」
私の言葉に、奈苗は少し驚いた風だった。
もう少し私が取り乱すと思っていたんだろうか。
そんな訳が無い……って断言したい所だけど、今まで奈苗には私が弱ってる所をいっぱい見られているからなぁ。
うん、ケイの言葉を借りるなら『甚だ不本意である!』って感じね。
と、私の思考を読んだのか奈苗がくすりと笑いを零す。
……そんなに解りやすいかしら、私。
「解りました、それではルーミア様に此度の経緯をお話しますね」
そう謂って微笑む奈苗に気負いや緊張は見られない。
いつものぽややん巫女だ。
普段通りの口調で告げるには、少々内容がキツイけれど。
「先ずは、私の持つ能力について説明しましょう」
「奈苗の能力? でもそれは」
「いえいえ、アレは代々受け継いだ血の力ですので私個人のものでは無いんですよ。本来の私の能力は『物事を正しく認識する程度の能力』です」
物事を……正しく?
聞いた限りでは余り凄さは伝わって来ない能力だけど。
首を傾げる私に奈苗が微笑みを返す。
「幾つかの選択肢が用意された、若しくは可能性を孕んだ事柄に対して今後起こるたった一つの事象を導き出してくれる能力です。解りやすく言えば、予想した展開の中から正解の未来を教えてくれるんですよ」
「……は?」
「つまり、ちょっとした予知です。ただ、一般的な予知や未来視と違ってこの能力が導き出した未来は『確実に』訪れるって事が特徴ですね。何らかの手段で状況を大きく変えない限り、と言う制約は付きますけど」
「ちょ、ちょっと待って」
未来が、解る?
それって多分、世界中でも五指に入るくらい強力な能力じゃないの?
未来に合わせて行動するだけで財も権力も、思うがままに操る事が出来る。
それこそ、ケイや奈苗の身に降り掛かる災難を避ける事だって出来る筈。
私の思考を読み取ったのか、奈苗は穏やかな笑みを返した。
「問題はこの能力で識った未来は、他の誰かの行動では変えられないと言う事ですね」
「……どういう事?」
「例えば、この後台所でルーミア様がお皿を割ってしまう、と言う未来を識ったとしましょう。それを聞いたルーミア様は勿論お皿の扱いに注意しますよね?」
「そうね、割らない様にしっかり注意するわ」
「いっそお皿に触れない、或いは台所に行かない、そんな手段も有りです」
成程、と私は頷きを返す。
確かにお皿自体に触れなければ割るも割らないも無い。
でも奈苗は首を振った。
「ですが結果は同じ。必ずルーミア様は台所に赴き、お皿を割ってしまいます」
「は? 何で?」
「理由はそれこそ無数に存在します。誰かに頼まれた、台所に行く必要が出来た、等々。必ず、台所でお皿を割ってしまいます。それは『ルーミア様には』変え様の無い確定した未来なんです」
「……その未来は、奈苗だけが変えられる?」
「正解です。ただ、私が未来を変えるとした場合多大な対価を支払う必要が有ります」
「対価?」
「ええ、言い換えるなら……代償、でしょうか」
そこまで言って、奈苗は僅かに眉尻を下げた。
代償。
額面通りにその言葉を受け取るなら、変えたい未来の事象と同等程度の物事を奈苗が支払う事になる。
同じ様に……ケイの命を救う場合は奈苗の命を差し出す必要が有る、と。
「理解して頂けた様で何よりです。それでは、おとーさんが殺されそうになる背景について説明しましょうか」
「っ、そうよ、何でケイが殺される様な状況になるの? やっぱり嫉妬に狂った男達の仕業?」
「あはは、普段のおとーさんの言動が偲ばれますねぇ。ですが当たらずとも遠からず、と言った感じです」
と言うかケイが恨みを買う理由なんてそれぐらいしか思い付かない。
冗談でも何でも無く口から出た言葉だけど、奈苗はあくまで冗談と受け取ったみたい。
でも、完全に見当違いでは……無いのかしら?
その疑問に答える様に澄んだ声が届く。
「先ずは今回の騒動の原因ですが……狙いはルーミア様です」
「…………は?」
え、なに、わかんない。
何事?
私が……え?
「ふふふ、混乱してますねルーミア様。とっても可愛くて素敵です♪」
楽しそうな響きが耳朶を打ち、意識が戻ってきた。
多分本当の事なんだろうけど私が混乱して面白い事になるだろうから、敢えて奈苗は色々と端折って伝えたに違い無い。
アレだ、後でほっぺたを赤くなるまでぷにってやる。
少しばかり頬を膨らました私を見て、奈苗は楽しそうに笑うと補足を始めた。
最初からそう言ってよ、もう。
「下手人は都で名を挙げている、そこそこ有名な陰陽師です。本人の才覚はお世辞にも有るとは言えませんが、とある事情で力を底上げしています」
「なかなか辛辣ね奈苗。貴女がそこまで言うなんて珍しい」
「おとーさんに害為す人間ですからね。おとーさん風に言うと『慈悲は無い』です。まぁ、ぽんこつ陰陽師について知っておくべき事は二つですね」
先ず一つ、と奈苗は人差し指を立てる。
「私が識った未来と色々な方に探って頂いた情報を統合して考えた結果、この陰陽師が人格者では無い事は確かですね。権力を振り翳し強きを助け弱気を挫く、物語の中でもなかなか出て来ない程の小悪党です。最も、今は仮初の力に酔う塵芥に過ぎませんが」
「おぉぅ……奈苗の口から聞かされると痛烈ね。どれ程下衆な奴かと逆に興味が湧きそうよ」
「恐らく会っただけで吐き気を催すと思いますよ。ではもう一つ、こちらは聞き流すには難い話題となりますね」
ぴんと中指を立てる。
続いて語られるのは恐らく、その陰陽師が私に執着している理由。
「さて、所でルーミア様は『何の』妖怪なんでしょうかね?」
「え? 何のって……人喰い妖怪じゃない」
「残念ながら不正解です。ぶっぶー、ですよ」
「えぇ? 本人が言ってるのに」
「ルーミア様が本物の人喰い妖怪なら、今頃この郷は骨も残らず喰い尽されていますよ。ルーミア様の場合、人喰いはあくまで嗜好の範囲でしか有りません。それに人を喰べなくなって一体何年経っているんですか? 人喰い妖怪であれば七年と持たずに飢えて死んでます」
「それはまぁ、そうね。でもそれなら私は一体何の妖怪だって言うのよ?」
「そこです」
「んみゅっ」
言い切って奈苗は人差し指を突き付けてきた。
伸びた指が私の唇を押してきた所為で変な声が漏れ出る。
何処か満足そうな表情を見る限り、勢い余って触れたんじゃなく解っていてやっているらしい。
このまま指を咥えてやろうかしら、とも思ったけど嬉しがる奈苗が簡単に想像出来たから黙っておく事にした。
なんか癪だけど。
代わりにジト目を向けてやるけど、奈苗は楽しそうに微笑むだけ。
「ルーミア様が何の妖怪なのか。それこそ、陰陽師が亜神『望月契』を殺す事さえ厭わない理由となります。まぁ、自らの死を迎えるその瞬間までルーミア様が目的の妖怪だとは気付かない様ですが」
「ぷはっ。もう、だから私は何なのよ?」
「端的に表すなら『宵闇』の妖怪です」
「よい……やみ?」
思わず首を傾げる。
幾ら妖怪が感覚的なものを根底に置いて発生した存在だからと言っても、宵闇とはまた解りにくい。
取り敢えず詳しい話を「やぁん、へにゃって首を傾げるルーミア様可愛いです♪」とか言いながらくねくねしている奈苗から聞き出そう。
一発ぴしっとチョップを額へ落とす。
「あたっ」
「で、宵闇の妖怪って何なのよ」
「読んで字の如く、闇に関わる妖怪です。本来、闇に近ければ近い程概念的な存在となるので現世に降りる事は無いんですけど、時折形を保ったまま発生する妖怪が居るんですよ。それを便宜上『宵闇』としている訳です」
「んー……ん?」
「解りやすく言えば、頭の良い人は自分の研究に没頭して引き篭りがちですけど、たまに人付き合いの良い人も居る、って事です」
「つまりその外に出る珍しい奴が、私?」
「そんな感じですね」
詳しい事は兎も角、私が珍しい種類の妖怪って事は解った。
と言う事はその物珍しさが狙われている理由?
……いや。
さっき奈苗は、件の陰陽師が私の種族を知るのは今際の際だと言っていた。
つまり今現在私の存在は単なる人喰い妖怪としか認識されていない筈。
ならどうして、その陰陽師はケイを襲うんだろうか。
その疑問に、奈苗は苦笑で応えた。
「恐らくルーミア様が封印されていた事と関わりが有ると思うんですが……何の因果か封印された際の力の残滓と言いますか、端的に言うとルーミア様の力の一部が宿っているものを、その陰陽師が所持しています。それがおとーさんとの繋がりを示している訳では無いので直接の因縁は無いんですけど」
「……で、簡単に言うと?」
「ルーミア様の超強力パワーを手にして調子に乗ってる下衆が最近妖怪やら神様やら囲ってハーレムひゃっほいなおとーさんに嫉妬して喧嘩売りに来る、って感じです」
「随分はっちゃけたわね!?」
「噂で聞く限り妖怪に相当な恨みを持っているらしく、妖怪は皆殺しにするのが当面の野望の様です。奇しくも人から神へと変貌を遂げたおとーさんに目を付け、その力を殺して奪ってやろうと息巻いているそうです。早く現世から消滅して欲しいですね」
黒い笑みを浮かべる奈苗。
どうしようケイ、奈苗が何か怖いよ。
戦々恐々とする私の様子を見てか、奈苗はこほんと咳払いをした。
「とは言え不思議に思いませんか?」
「え?」
「如何に強力な武器を手にしているとして、おとーさんが易々と殺されてしまうでしょうか?」
「……何か要因が有るのね」
「私の識った未来で、おとーさんは誰かを庇っていました。辺りの様子から察するに近くで火事も起きているみたいです」
ふむふむ、火事が起きていてケイは誰かを庇っている。
普通に考えたら人命救助の最中若しくは急な火災に見舞われたか、って所だけど。
暢気に考察していた私は、続く奈苗の言葉で歯をギリと噛み締める事となる。
「何人かの武装した人も見受けられました。恐らく陰陽師が泡銭に物を言わせて雇い入れたならず者達でしょうね。妖怪を忌々しく思う者を集めて噂の命蓮寺か、その近くの妖怪の村へ襲撃を仕掛けた。見る限りは力の弱い妖怪、所謂『非戦闘員』と呼ばれる方も大勢いらっしゃった様です。極めて平和な集落だったのでしょう。火矢を射掛け嬲り殺しにしようとした所へおとーさんが割って入り、思いの外抵抗が激しかった為に人質の心算で近場の幼子へ弓を射掛け、それを防いで意識が散漫になったおとーさんを」
「もう、いいわ」
何て外道な奴。
人と殆ど変わらない大人しい妖怪達を、ケイを殺す為の足枷として利用する。
その為に無関係の集落を襲うんだろう。
ケイの事だから黙って見ているなんて出来ないと思う。
「まぁ、そんな感じの未来は真っ平御免ですからね。そこへ介入させて貰うつもりです」
「そう言えばどうやって? まさかとは思うけど今から出発?」
「いえいえ、もっと確実で楽な方法ですよ」
そう言って奈苗は胸元から一枚の紙を取り出した。
普段使っているお札とは違って何か切れ込みみたいなのが入っている。
人型の、紙?
「これに私の霊力のほぼ全てを詰め込んで有ります。発動条件は対を持つ者が生命の危機に陥る事、発動効果は対を持つ者の眼前へと術者を転移させる。簡単に言うと、おとーさんがピンチになったら私が参上します♪」
「……は? え、そんなのいつの間に」
「こっそりおとーさんの服に縫い付けて置きました。用意したのは以前修行と称して大社の奥へ籠っていた時ですね」
「あぁ、ケイが仏教について説明してた時に」
確かあの時は禊と言って半日近く上の神社に籠ってたわね。
それまで巫女の修行より花嫁の修行(家事手伝い)の方を中心にやってきた奈苗にしては珍しい、と神奈子が感心していたのを思い出す。
その実自分が死ぬ時の用意をしていたと知ったら神奈子は間違い無く泣き崩れるわね。
……ん?
「待って、奈苗が今回の未来を識ったのはいつなの?」
「そうですね、おとーさんがレミリアちゃん達を連れて帰って来た時でしょうか。あの時点でおとーさんが何者かに殺される、と言う未来は識る事が出来ました。確定していなかった部分は『おとーさんが誰に襲われるのか、命を落とす事になる場所は何処か』って所です。その後の情報で下手人の陰陽師、命蓮寺と言う場所、が判明したって事です。なのでルーミア様が思い付いた『確定する前に下手人を排除出来たかもしれない』と言う案は残念ながら使えませんでした」
何の事は無い、と涼しげに奈苗は答えた。
つまりケイが命蓮寺の存在を知る以前から奈苗はケイが殺される未来を能力で見せられていた、と。
……よくもまぁ、正気で居られたわね。
私だったら狂っている所だわ。
それか原因となっている奴を殺すか。
「いっそ今殺せないかしら」
「残念ながら今の状況では何も問題を起こしていない訳ですから、腐れ陰陽師を消す大義名分が有りません。無為に殺せばそう言った連中に妖怪や味方する人間を攻撃する口実を与えてしまう事になります。最悪、郷の皆さんにも危害が及びます。建前上は『望月の神、その庇護下に居る者へ危害を加えた為にこれを鎮圧した』と言う形に収める必要が有りますね」
「面倒ねえ……」
「はい、厄介です」
「どうあっても、避けられないの?」
「ダメですね。ごめんなさい」
困った様に笑う奈苗。
その額にもう一発手刀を落とす。
「あたっ」
「次に同じ事で謝ったらデコピンするわよ」
「でへへ……ごめんなさい」
「てぃっ」
「あたっ!? い、今のは違いますよぅ」
若干力を込めたからか奈苗は少し涙目になっている。
額の真ん中が徐々に赤くなるのを見て、私はふんと鼻を鳴らした。
……全く、本当にこの子は何でもかんでも抱え込みたがるんだから。
愛する人が殺される、そんな未来を見せられて。
助けるには自分が代わりに死ぬしかない、そんな事実を突き付けられて。
大丈夫な訳が、無いじゃない。
空元気を振り撒いて他人を気遣って。
ほんと、バカじゃないの。
「ちゃんと解るまで何度でもやるわよ」
「ええぇ、ルーミア様がおーぼ-です!」
「愛の鞭よ」
「何かそう聞くと若干嬉しく感じる自分が憎いですっ」
もっと頼ってくれて良いのに。
私じゃなくても、ケロ子なり神奈子なりに相談してくれれば。
──ねぇ、奈苗。私達ってそんなに頼り無いかな。
思わず漏れ出そうになった心の声をぐっと飲み込む。
代わりに掌を真っ直ぐ伸ばし、軽く振り上げて頭頂部へ落とす。
ぽこぽこ、と何度も何度も。
「あたっ、や、ひゃんっ」
「全く、何で今まで黙ってたのよ」
「心配掛けちゃうと思って、いたっ、やぁん」
「ばーかばーか、奈苗のばーか。そんなの気にしなくても良いでしょ、家族なんだから」
「いたたっ、こ、これ以上は振動が脳に、脳にー!?」
良い感じに奈苗がピヨピヨしてきた所で一旦手を止める。
そのまま右手を頭の後ろへ回し、左手で背中を支えてぐいっと抱き寄せた。
伝わる体温は温かい。
一瞬ぴくっと可愛らしく身体を跳ねさせた奈苗の耳元で、そっと囁く様に声を絞り出した。
「解ったわ」
「ほぇ?」
「奈苗を傷付ける奴を、絶対に逃がしはしない。必ずこの手で殺してやるわ」
「……ご迷惑をお掛けします」
「馬鹿ね、奈苗は。違うでしょう?」
「お礼……はちょっとそぐわないですね。それでは……時が来たら宜しくお願いします、ルーミア様♪」
「ええ、任されたわ」
この愛しい子の覚悟に応える為にも。
悲し過ぎる未来が待っているのならその未来の先諸共、喰い千切ってやるわ。
金色の人喰い妖怪、最後の仕事ね。
ねぇ、ケイ。
どうせ避けられない未来なら、
──存分に喰ってやろうじゃない。