※この作品はR-18です。

東方恋人探   作:一ノ瀬 崇

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僧侶と船長。そして不安への備え。

 

 

「あらあら、みんな元気一杯ねぇ」

「俺は元気を吸い取られたがな」

 

 

 頬に手を当てたおやかに微笑む聖に溜め息を返す。

 先程の襲撃を抜けた俺は聖とぬえが用意してくれた雑煮を食べている。

 俺は小豆の皮を苦手としているとぬえが伝えてくれたので、一人だけ雑煮だ。

 澄まし汁に餅と三つ葉と高野豆腐に人参、椎茸が入ったあっさりとした雑煮。

 聖の祖母が昔作ってくれたレシピらしい。

 本来は鶏肉も入るそうだが、まぁ仏門の徒だから肉が無いのは当然だろう。

 素朴ながら出汁の効いた塩味が旨い。

 他の皆は汁粉を食べている。

 餅をうにょーんと伸ばしながら食べる響子が実に可愛らしい。

 とは言え後のお仕置きに手心は加えないが。

 

 

「あー、面白かった♪ 契さんびくんびくんして可愛かったよー♪」

「後で覚えとけよ響子、ぬえ。息が出来なくなるまで擽ってやる」

「お、お手柔らかに……」

「はっはっは、まぁ面白かった対価としておこうか」

「ナズ、余りやんちゃではいけませんよ? すみせん契さん、時々ナズは悪戯っ子になる事が有りまして」

 

 

 珍しく星がしっかりしている様に見える。

 多分目の錯覚だろう。

 

 

「しかし新年でも無いのに何で汁粉と雑煮なんだ?」

「お正月用にと村の皆さんが分けてくださったのですけど、流石に量が多かったので食糧庫から溢れる分を頂いてしまおうと」

「成程な。有り難い事だ」

「ええ、本当に」

 

 

 郷でも、よく皆が岩魚だの猪だのを持ってきてくれている。

 前に松茸は持っていったが今度春先にでも山菜を採っていくか。

 筍採りも良いかもしれん、妹紅や輝夜も連れて楽しく散策と言うのも中々に乙だな。

 そんな風に意識を飛ばしていると、廊下の奥から二人分の足音が聞こえてくる。

 話し声混じりのそれは少しずつ大きくなり居間の前までやってくる。

 声と足音が止まると同時、からりと襖が開かれ二人の少女が姿を見せた。

 

 

「お、大将来てたんだ? おちびちゃん達もいらっしゃい♪」

「むぐむぐ……こんにちはー」

「こんにちわ! ふっふっふー、成長したら船長より大きくなっちゃうよー♪」

「その頃には私も一足お先に大人の女性だよ?」

「な、なんだってー!」

 

 

 早速賑やかに響子と遊んでいるのが船長こと村紗水蜜だ。

 元は舟幽霊だったらしく、村の皆からは親しみを込めて船長と呼ばれている。

 舟を沈める側なのに船長とはこれ如何に。

 服装は水平服にキュロットという活動的なもの。

 小傘に負けない健康的な小麦色の太ももが実に美しい。

 髪は多少癖の付いた黒のショートヘア。

 今は外しているがキャプテンハットも持っている。

 性格は見ての通り、社交的でフランクだ。

 俺の事を大将と呼び、ぬえと響子をおちび、小傘をお嬢と呼んでいる。

 

 

「あら、望月君は一人でお雑煮?」

「小豆の皮が苦手でなぁ。食えない訳じゃ無いんだが」

「好き嫌いすると大きくなれない、って聞くけど望月君を見ると迷信なのが解るわね」

「別に一つや二つ嫌いなものが有ってもそんなに関係無い。大事なのは偏食せずに野菜、果物、穀物、魚、肉を満遍なく食べる事だな」

「お肉かぁ……仏教徒には難しいわね」

「本来なら肉も重要な栄養源なんだが……代用するなら大豆や海藻なんかを摂ると良いだろうな。特に大豆は万能と言っていい。豆腐や納豆を毎日食べるのもオススメだ。唯一、痛風には注意が必要だが」

「なるほど、じゃあ今晩は湯豆腐で決まりね」

 

 

 お豆腐は有ったかしら? と台所へ向かって行った尼僧は雲居一輪。

 頭巾を被っている為判りにくいが、中々の美人だ。

 少し癖の付いた青み掛かった髪を後ろで纏め上げているらしいので是非とも御目に掛かりたいものだ。

 ポニーテールとか大好物でしかない。

 快活で家庭的で美人と非の打ち所の無い逸材なのだが、尼僧の格好がそれを覆い隠していて実に勿体無い。

 いやまぁ、俗世から離れて欲を捨て去る為には異性の興味を引かない事も或る種重要なのだろう。

 

 

「ねぇねぇぬえちゃん、おもち咥えたままこっち向いて」

「んゆ?」

「はぷっ♪ おもちうにょーん♪」

「うにょーん」

 

 

 ぬえが咥えた餅を反対側から咥え、そのまま後ろに下がって餅を延ばす響子。

 二人の間を一筋の餅が繋ぐ光景は……ロマンチックでは無いが微笑ましい。

 これが噂のモッチー☆kissか。

 響子は満面の笑みだが、ぬえは少し照れ臭そうに頬を赤く染めている。

 それでも満更でも無さそうな所を見ると将来的に二人の間に喜増塔でも建ちそうな気がする。

 ここまで百合百合しいのは見た事が無いから新鮮だな。

 フランとこいし、チルノと大ちゃんのペアもこの二人には及ばない。

 懐いた理由は定かでは無いが二人の仲が良好で有るなら別に良いか、という気もする。

 

 

「はぷはぷ……ちぅちぅ♪」

「んゅぅ!?」

「ちゅっちゅー♪ ……ごくん。ぬえちゃんの唇やわっこい♪」

「あ、こら! ぬえの唇は俺のだぞ!」

「にへへー、ごちそうさまでした♪」

「はぅぅ……」

 

 

 そのまま餅を食べ進めた響子は、然も当然の様にぬえと唇を交わした。

 軽く触れるだけと見せ掛けてぬえの口の中に入っていた餅も吸い取っていったらしい。

 餅が無ければ舌を差し挿れていたであろう。

 全く、油断ならない幼女だ。

 そんな事を考えつつ餅を咥えた所で右の袖をくいくいと引かれる。

 振り向くと真っ赤な顔をした小傘が目を閉じて俺の咥えた餅に、ぱくりと食い付いてきた。

 端を軽く咥えただけだからか、すぐに餅は切れてしまう。

 それでもどこか満足そうに、少し照れ臭そうな笑みを浮かべて小傘は餅を飲み込んだ。

 

 

「あはは……結構恥ずかしいね、これ」

 

 

 そう言って頬をポリポリと掻く小傘。

 なにこの娘かわいい。

 

 

「村紗の分もお汁粉持ってきたわよー。って、何その変な顔」

「お汁粉よりも甘ったるいもの見ちゃったの」

「ん? ……あぁ、成程。じゃあお雑煮にしとく?」

「いっそ盛り塩でも良い」

「それって村紗が成仏しちゃうんじゃない?」

「舟幽霊は海が本拠地みたいなもんだから塩なんか痛くも痒くも無いわい」

「いやまぁ、確かに海の塩分で成仏しちゃった舟幽霊の話は聞いた事無いけれど」

「実際無意味。古事記にもそう書かれている」

「いや書いてないわよ!?」

 

 

 なにやら背後が賑やかだ。

 だが今はそんな事はどうでもいいんだ、重要な事じゃない。

 手早く雑煮を平らげて小傘とのイチャイチャタイムに突入せねば。

 

 

「あらあら、仲が良いのねぇ」

「おや、てっきり聖は契の様に多数の女子を侍らしているのは好ましくないと考えるかと思ったのだけど」

「契ちゃんはしっかり一人一人と向き合っているから大丈夫じゃないかしら? 自分を中心に女の子と付き合うんじゃなく、ぬえちゃんや響子ちゃん、小傘ちゃんを本位にして考えているから、本当の意味で悲しい涙を流させない様に頑張っていけるんだと思うわよ」

「ふむ……?」

「一人一人に本気で好きって思えてるから大丈夫、って事かしらね。ごめんなさいナズーリン、ちょっと解り難かったかしら?」

「いや……納得したよ。確かに契は『中心に居る自分と、その周りに侍らした女子』ではなく『女子それぞれの一番である自分』という立ち位置の為に動こうというのが感じられるからね。いやはや、惚れ直してしまったな」

「あらあら♪ ナズの為にお赤飯を炊く日も遠くは無いかしらね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、一息吐いた所で少し話が有る」

 

 

 雑煮を食べ終え、抱き締めたり撫で回したり耳元で愛を囁いたりして小傘を目一杯可愛がったのでそろそろ本題に入ろうと思う。

 ニコニコと楽しそうな聖、少しばかり羨ましそうな顔のナズーリン、砂糖を吐き疲れた様子の村紗、そんな村紗に苦笑を浮かべる一輪、刺激が強過ぎたのか先程まで真っ赤な顔で固まっていた星がこちらへ向き直る。

 ちなみにぬえは左腕、響子は右腕に寄り掛かり、小傘は俺の胡坐の中に居る。

 

 

「改まってどうしたの? 望月君」

「ここに着いてから気になる事が出来てな。余り愉快な話では無いのが心苦しいが……一輪、ここの村や命蓮寺を監視している連中に心当たりは有るか?」

「監視って……穏やかじゃないわね、どうしたの?」

「あぁ、すまん。急ぎ過ぎたな。実はこの村──或いは命蓮寺へと向かう道中でこんなものを見付けた。ナズーリン、さっきの紙を出してくれ」

 

 

 渡したままだった例の紙をナズーリンが懐から取り出す。

 多少赤で化粧されているが、それ以外は白い紙切れだ。

 

 

「これは……随分と上質な紙ですね。なにやら素敵な香りのする紅も引いてある様ですが」

「照れるぜ」

「ん? 何故契さんが照れるんです?」

「ご主人。この赤いのは契の血だよ」

「ほうほう、契さんの血ですか。……え?」

「つまりご主人は契の血を素敵な香りのする紅と評した訳だ。存外に情熱的だねご主人?」

「な、え、や、えぇっ!?」

 

 

 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら星をおちょくるナズーリン。

 イイ性格をしているな。

 まぁ神奈子以上に初々しい反応を見せるのだから弄りたくなるのも解る。

 そんな二人とは対照的なのが両脇のちびっこ二人。

 俺が血を流したと理解した途端ゆらりと怒りのオーラが立ち昇る。

 とは言え竜虎の様な猛々しいものではなく、子猫と子犬が前足を振り上げてがおーと威嚇しているくらいには可愛らしいものだったが。

 二人の頭を撫でてやると、多少落ち着いたのか怒気は発散された様だ。

 

 

「まぁ星の嬉し恥ずかしな感想は置いておくとして、だ。問題はそれが一体何なのか。ナズーリン、説明を頼む」

「任されたよ。さて、この紙切れだが今は何の変哲も無い只の紙切れだ。だが契がこれを見掛けた時は、これに何らかの式が付けられていた様だ」

「何らかの式、ですか?」

 

 

 軽く咳払いしながら星が尋ねる。

 聖は良く解っていないのか柔らかな雰囲気のまま、一輪と村紗は思案顔だ。

 

 

「陰陽術、と言い換えても良いだろう。契の話では少なくとも二つ。一つはこの紙切れに符呪された術を解呪すると対応して解呪した者へ危害を加えるものだ。……この紙切れに契の血が付着しているのは、そういう事さ」

「あぁ、怪我なら直ぐに治癒したから大丈夫だ。心配してくれて有難うな」

 

 

 聞いた途端に怪我が無いかとあちこちぺたぺたと触って確認するぬえと響子に苦笑と感謝を返す。

 小傘も驚いてはいるが、特に問題無いと解ってほっとしている。

 他の皆も安心した様子を見せるので、俺としては少々くすぐったさを覚える。

 大した怪我も無い上、多少の事なら瞬時に治ってしまうからな。

 

 

「契は見ての通り元気だから一先ずこの術式については思案の外へ置いておこうか。問題はもう一つの術式だね」

「何だったの? もう一つの術式って」

「残念ながらそれはまだ解っていないんだ。……そうだよね、契?」

「残念ながら、な。予想は出来るが」

「勿体ぶらずに教えてよ大将」

「そうだな、この紙切れだが……最初見付けた時は空に浮かんでいた。背後の空、振り向いても視界の端にギリギリ入るか入らないか、という位置だ。発見したのはここへ向かう山道で数回、先程小傘との逢引中に一回。正確な数は解らないが幾度も俺を追尾していたのは間違い無いだろう」

「追尾、ねぇ。色男は辛いってやつ?」

「追っ掛けが女性なら諸手を挙げて喜ぶ所なんだがな。ともあれこの紙切れに仕組まれた術式は恐らく監視、遠見、偵察、と言ったものじゃないかと俺は思う」

「その根拠は?」

「第一に、付かず離れずの距離で付いて来ていた事。幾度も隙と言うか、襲撃する好機は有った。しかし襲ってくるでも無く只漫然と追尾してきたのは紙切れに攻撃の術式が組まれていなかったからでは無いかと思う。次に、この紙切れが最初から最後まで付いてきていたと言うのが気になる。命蓮寺や村へ向かう者を確認したいので有れば、数箇所にこれと同じ様な紙切れを浮かべてそこを通った時に反応する術式を組めば良い。それをせずにこれ一枚を使い続けたのは相手が俺に執着する理由が有るからじゃないか?」

「ちょっと待って望月君」

 

 

 一輪が整った柳眉を寄せて疑問を呈する。

 美人はどんな表情も映えるな。

 と、少しばかり邪念を込めて見ていたのに気付いてかジト目を向けられた。

 

 

「邪な気が飛んで来たのはこの際無視するとして、何故望月君を監視していた紙切れがこれ一枚だけだと断言出来るの? 今言った様に幾つも用意して有って、中継させていたのかも知れないわよ?」

「確かに、その可能性は有るな。まぁこの紙切れが俺を付け狙っていたとする根拠は無いに等しい。俺の勘だからな」

「勘って……」

「馬鹿馬鹿しく思えるかも知れんが、聞いてくれ。俺は自身に向けられた攻撃や悪意、それに類似したものを時折感じ取れる事が有るんだ。後頭部の辺りを焼け付く様な感覚が走り抜ける。そうした感覚を、こいつから数回、全く同じ強さで感じたんだ。それでこいつの存在に気付いたって訳なんだが」

「ふむぅ……」

「良いじゃないか一輪。契がそう感じたのなら間違いは無いだろう。実際こうして紙切れの存在に気付いているのだから」

「いやまぁ、良いっちゃ良いけれど。と言うかナズ、貴方篭絡されてない?」

「恋は盲目と言うが、愛は甘美な罠なのだよ」

「いや、意味が解らないんだけど」

「ふふふ理解出来ないのは当然だよ何せ私の心は既に契が奪い去ってしまったからね! と言うかあの仄暗い瞳に見詰められて堕ちない女性等存在しないとも私も仏門に入って長いがここまで心を揺さ振られるとは思ってもいなかったよ今なら座禅組んでも雑念しか浮かばないね否寧ろ契の事しか考えられないのだから或る意味では一心に集中していると言えるのかも知れないな実に罪な人だよ契はふふふふふふ!」

「あ、駄目なやつだわコレ」

「ナズーリンは置いといて本題に入るとしよう」

「放置されると言うのも意外にゾクゾクくるね?」

 

 

 おかしい、当初見えていたクールキャラは何処へ消えたのか。

 廃テンションぶっぱ型ヒロインとは思わなかった。

 神奈子が前に似た様な台詞は口にしていたがアレはテンションに引き摺られたのとその場のノリでやっている節が有ったからな。

 それに引き換えナズーリンは恐らく素なのだろう。

 ……ひょっとして俺はとんでもない女の子に手を出してしまったのでは無かろうか。

 若干脳裏に不安が過ぎる。

 

 

「まぁ一先ず置いといて、だ。本題はここからだ」

「今後の対応、かしら?」

 

 

 それまで沈黙を保っていた聖が口を開く。

 雰囲気はぽややんとしたままだが、目の奥に光る意思に微塵も油断は無い。

 

 

「……そうだな。俺を狙っている者が居て、その目となっていた紙切れの術式を解呪したのだから、何かしらの行動を起こしてくると考えられる。反撃の術式を仕込んでいるのだからどうにも穏やかな相手では無さそうだ。術式を組んだ相手が直接乗り込んで来る事も有り得るだろう」

「確かに余り仲良くなれそうな雰囲気じゃないわねぇ」

「最悪の展開を予想すると……襲撃が有るかも知れない。そうなった場合、ここだけでなく村にも被害が出る。無差別に攻撃を仕掛けて来る様な相手だった場合、俺一人では皆を守り切れないだろう」

「そうねぇ、この手の術式を組めるのは陰陽師の方だし、陰陽師の方達は余り私達の事を快く思ってはいないでしょうから」

「そこで、だ。こう言った事を頼むのは心苦しいんだが……聖。有事の際はぬえや響子、小傘の事を頼んでも良いだろうか」

「狙われるのは恐らく契ちゃんだけ、それならこの子達を危害の及ぶ場所、言うなれば自分の側には置いておきたくは無いわよねぇ。だったらこの子達を一先ず預けて、自身は離れて戦場を移動させる。そんな所かしらぁ?」

 

 

 何の事も無さげに言う聖。

 こちらの目的をずばりと言い当ててしまうのは流石と言うべきか。

 無論、ここまで語った事が全て杞憂で、何も起こらないまま帰路へ着く可能性だって有る。

 考え過ぎだと笑われてしまった方が良い。

 

 

「……まぁ、最悪を想定したら、だ。そこまで神経を尖らせる事も無いだろう」

「それでも、万が一の時は責任を持って預かるわ。だから契ちゃんも安心してね」

「有難う、聖。恩に着る」

「何も無いのが一番だけどねぇ」

「はー……色々と考えるもんだねぇ大将も」

「流石に大丈夫じゃないかしら。姐さんも星も居るんだし、そんじょそこらの山賊程度なら直ぐ制圧出来ちゃうわよ」

「良く解りませんが寺と村の事は私に任せてください!」

「ふふふ何心配は要らないよ私と契の愛の力の前には全ての者が平伏せるのだからねいっそ契の為の国を作ってみるのも面白いかも知れないね毎日契を眺めていられる生活とかどうだろうかあぁ駄目だねそんな事をしたら私の心が高まり過ぎて性活になってしまいそうだ子供は何人欲しいんだい私は契が望むなら幾らでも応えてあげるともさぁ今宵は早速子作りに励もうじゃないかこの年で処女というのも恥ずかしいが契に捧げられると考えたら寧ろ今までの私良くやったと褒めてやりたい所だよふふふふふふふ!」

「うん、ちょっとナズ黙ろうか」

「あらあら、ナズったら」

「姐さんもあらあらじゃなく止めてよ!?」

 

 

 暴走するナズーリンに村紗と一輪がストップを掛けているが、アレは暫く止まらないだろうな。

 と言うかどうしてこんなキャラに。

 これは一度自分が無力な雌だと言う事をしっかり見詰め直す様に躾けてやった方が良いのかも知れん……っと、いかんいかん。

 また俺の中の鬼畜眼鏡が疼き始めた。

 最近どうも抑えが緩くなってきた気がするな。

 また諏訪子でも調教して発散しなくては。

 そんな風に思考を飛ばしていると、不意に両腕と胸に当たる感触が強くなった。

 視線を下げれば、ぬえ、響子、小傘が瞳に不安を宿している。

 

 

「契さん、だいじょぶ……だよね?」

「怖いのはヤダなぁ……」

「陰陽師の人って、妖怪を退治しちゃうんでしょ? そんな人達が来たら……」

 

 

 両手を回して無言で三人とも抱き締める。

 わぷっ、と三重奏が聞こえたが気にしない。

 俺の心音を聴かせる為に密着しているんだからな。

 体温を交わしながら心音を聴かせてやる事で赤ん坊が泣き止む様に、こうして身体を寄せる事は相手の不安を払拭する効果が有る。

 早速効果が出たらしく、強張っていた三人の身体からふっと力が抜けた。

 それぞれ脱力した声を上げながら凭れ掛かってくる。

 

 

「ふにゅ……♪」

「わふぅ……♪」

「はわぁ……♪」

「落ち着いたか?」

「あはは、有難う契くん。ちょっと不安だったけど、すっかり元気になっちゃった」

「何、お安い御用だ。ぬえも響子も、勿論小傘も、笑ってる顔が一番可愛いからな」

「……もぅ、契くんの女誑し」

 

 

 頬を赤く染めて身体を預ける小傘。

 両脇腹にはぬえと響子がしっかりとしがみ付いている。

 何やらチラチラ所では無く穴が空く程強い視線をナズーリンの方から感じるが、今この時間は三人娘に譲って貰おう。

 胸元に小傘の温もりを感じ、両手でちびっこ二人の頭を撫でながら、俺は言い知れぬ不安を思考から放り出した。

 

 

 ──願わくばこのまま何事も無く家に帰れると良いんだが。

 

 

 

 

 

 

 この時、普段の様に適当な事を考えて悪しき展開を回避出来る様にしなかった事を。

 多少無理をしてでもこの日の内に命蓮寺を後にしなかった事を。

 違和感を持った時点で紙切れを排除しなかった事を。

 俺は死ぬまで後悔し続ける事になる。

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