Cross Ballade(クロス・バラード) 特別編『至福』(けいおん!×School Daysシリーズ) 作:SPIRIT
原作:けいおん!
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結婚した平沢唯と伊藤誠の初夜の話です。
『かわ唯』とも『誠死ね』ともどちらでも思われて結構ですが、新婚夫婦らしく、みずみずしい形で描写したつもりです。
前作が『耽美』を目指したこともありましたし。
この小説のテーマソング
Uru『星の中の君』
(http://jp.channel.pandora.tv/channel/video.ptv?c1=&ch_userid=bruce90&prgid=53937364)
ぜひこの曲と一緒に読んでみてください。
ちなみにpixivにも載せています。
封を解いて、平沢唯と伊藤誠の結婚及び初夜の物語です。
新婚夫婦らしくみずみずしく描いたつもりなのですが……どうでしょう?
平沢唯は、目を見開いた。
そこには、典型的な日本庭園を思わせるミニサイズの植物と、小石が集まった枯山水。
向こうを見ると、外は満月の輝く夜で、白い灯りを照らすビルやコンビニの立ち並ぶ街の奥に、ずんぐりした黒緑色の山がそびえたっている。
ごとごとと電車の音が、断続的に響いていた。
ふと違和感を覚えたので、自分の体を見てみる。
一糸まとっていない。
いっと顔を真っ赤にして、周りを見回すと、自分の体は、深い青色の甕に入ったお湯に浸かっている。
どうやら、温泉に入ったまま寝てしまっていたようだ。
あ、あれ……どうなってるの……?
何でこんな風になっているのか訳がわからず、きょろきょろとあたりを見回す。
後ろを振り向くと、白いコンクリートにきれいなガラス窓が数枚建てられているが、部屋が見えないように朱色のカーテンが閉じられている。
ここは温泉旅館。
部屋の外の露天風呂にいることが、唯にも分かった。
「唯ちゃん、湯加減どう?」
聞きなれた男の声、王子のような好感の持てる声。
唯は、相手をよく知っていた。
「あ、あれ……マコちゃん……どうしてここにいるの……?」
相手、伊藤誠の姿はない。大方部屋の奥で待っているのだろう。
となると……。
旅館で好きな人と同じ部屋にいる。
これは一体……?
「ちょ……ちょっと待ってマコちゃん! もしかして私達、2人きりで同じ旅館の同じ部屋にいるってこと!? どうなってるの!?」
「やだなあ、唯ちゃん。俺達結婚して、こうして新婚旅行先の伊勢にいるんじゃないか」
あっけらかんとした、さわやかな声。
が……。
この一言で、唯の理性が吹き飛んだ。
「結婚んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!!???」
パニック状態に陥ってしまった。
「ゆ、唯ちゃん!?」
「ご、ごめんマコちゃん!! 何が何だかわからなくて!! ちょっと待っててね、風呂から出るから!!!」
裸で慌てて甕から飛び出し、ドアを開けると、左手の棚に白いバスタオルと、旅館専用の浴衣、それに下着がある。
体を拭いてピンク色の下着とブラをつけ、白い浴衣を羽織って黒い帯を締め、部屋に急いだ。
部屋は48平方メートルの和洋室、奥の畳スペースにはこげ茶で檜のちゃぶ台、左手の壁には黒いテレビ、手前に白と赤の2色ベッドが2つ、隣り合わせに置かれている。
奥の畳スペースで、誠が唯と同じく白い浴衣に黒い帯で胡坐姿、アホ毛を一本垂らした黒い短髪に、きれいな顔立ちを笑顔にして待っていた。
『伊藤唯』となった平沢唯は、ちゃぶ台を挟んで向かいに膝を崩して座り、ぐるぐるする頭を何とか落ち着けようとしている。
「どうかな、この旅館。唯ちゃんを喜ばせようと思って、伊勢が神秘的と思って新婚旅行先にしたし、宿泊先の旅館も最高なものを選んだんだけど」
誠は笑顔で唯に接するが、彼女は『誠と結婚した』という事実を急に突き付けられたため、頭が混乱して、
「ご、ごめん……。何が何だかわからなくて……。あっ、マコちゃん、桂さんとはどうなったの?」
「やだなあ、唯ちゃん」声は明るいが、誠の笑顔がやや曇り、俯き加減で「言葉(ことのは)とは、ずっと前に別れたの、覚えてないの?」
「え……?」
思わず目を見開いた。それまでの経緯には唯自身、何の記憶もなかった。
あんなに強く結ばれた2人だったのに。桂さんはマコちゃんなしでは生きられないと思えるぐらい、彼を愛していたのに……。
「そうか、そうなんだ……」
唯も力ない声でうなずく。きっと彼も、本当は不本意だったのだろう。
でも……。
あの桂さんに、自分は勝ったんだ。
そのことが、非常にうれしくもあった。
時間がたつにつれて、唯も少しずつ過去の記憶を思い出してきた。
結婚式で、桜ケ丘高校と榊野学園の卒業生達、それぞれおしゃれしてきた皆が、自分たち2人に大きな拍手を送ってきたこと。
自分は新婦として、おしろいを塗り、赤い口紅をして、赤地に南天の実が描かれた着物を着たこと。
慣れない服装で危うくこけそうになったこと。
続いてお色直しで、肩が露出するウェディングドレス、手には白い手袋とブーケの姿になったこと。
これも慣れなくて、歩くのに一苦労したこと。
新郎のマコちゃんが、黒い和服に灰色の袴を着たり、着替えて黒いスーツ姿になったりしたこと。
慣れない格好でも、落ち着いた足取りで自分の手を取って進んでいったこと。
りっちゃんと西園寺さんが、ゴールデンボンバーの『女々しくて』を『めでたくて』に変えて、思いっきり演奏したり踊ったりしたこと。
そして2人で「ここで本当の夫婦になろう」と申し合わせた、今回の伊勢旅行。
色のついていない檜、地味というのか素朴というのかわからない、伊勢神宮外宮の鳥居と境内の祠。
お昼に食べた『鴨とクレソンの鍋』の鴨肉の歯ごたえと、だしのたくさん入った汁のコク。
夕食にこの旅館で食べた、赤い伊勢海老。
生まれて初めて食べた。
一緒に沢山おつくりも乗せられ、ぷりっぷりの食感を、彼と共に楽しむことができた。
でも……。
あの榊野学祭から、結婚式に至るまでの時間はどこに行ったのだろう。
何の記憶もない。
それがどうも薄々気になったが、唯はそれ以上に気がかりなことを、誠に切り出してみる。
「ちょっと待って、マコちゃん……。もしかして、これから私達、『本当の夫婦』になるってこと?」
すると、誠も頬を染めて、
「まあ、そういうことだね……。こういう神秘的なところを舞台にした方がいいかなと思って、ここを新婚旅行先にしたんだけど……。天照大神様も、許してくれるかな?」
神なんか信じない誠の、意外な言葉。
唯の胸が、急にドキドキドキドキと高鳴った。頬が急に上気してきた。
男の人に自分の体を見られたことなんて、ほとんどない。せいぜい思いつくところでは、自分が本当に小さかったころ、父親と一緒にお風呂に入ったことぐらいだが、それすらぼんやりとしているのである。
「唯ちゃん?」
「わ、私、その……」唯は急に顔を耳元まで紅潮させて、「神様はともかく、私はマコちゃんになら、体見られてもいいかなと思う……わ、私……小さいころ、お父さん以外に裸見られたことないけれど……」
「そう……じゃあ、いいね……」
「うん、いいよ……。あ、でもその前に、灯り消してくれる? 恥ずかしいよ……」
「わかった」
誠は唯の手を引っ張って、手前のベッドにまで連れていく。
手の温かさにきゅんとなり、唯は思わず目を潤ませてしまった。
誠はベッド付近以外の灯りを全て消した。その灯りが黄色くささやかに、2人の体と寝床を照らす。
掛け布団をまくると、彼は唯の肩をつかみ、ベッドの白いシーツの上にやさしく押し倒した。
すると誠は、目を見開いてはっと息をのんだ。
唯の浴衣の裾がはだけ、彼女の白いうなじとピンクのブラ、その下のお椀型の胸が誠の目の前に晒されていた。
思わず両手で隠そうとするが、唯は必死に思いとどまる。
「あ、あの……」唯は蚊の鳴くような声で、「私の体……変じゃない……? それに男の人って、大きな胸が好きなんでしょ? その……澪ちゃんや桂さんのように」
「そんなことない……綺麗だよ……」
誠は頬を赤くしたまま、仰向けになった唯に顔を近づける。
「キスするの?」
「うん」
誠の返答に、唯は頷いて目を閉じた。
彼の柔らかい唇が、自分の唇に重なる。
5秒ぐらい唇がくっついた後、誠の温かい舌が、唯の唇をなめまわし始めた。
それに気づいて唯も思わず、彼の舌に舌を絡めていく。
男の体はがっちりしてるとわかってるけど、唇と舌だけは妙に柔らかい。
唯は自分の口を誠の口に強く押し付け、両腕を彼の大きな背中に回す。温もりが伝わってくる。
危うく息苦しくなってしまった。
「んんっ……んっ……ぷはあっ、はぁ、はぁ……」
ようやく、唇が離れた。お互いの口が糸を引く。
唯がしばらくひいひいした時、閉じていた目を開けようとしていた時だった。
「んっ……」
左耳に息を吹きかけられ、くすぐったさで唯の頭が思わずのけぞってしまう。
続いて誠が、耳の裏、耳朶、うなじと唇を這わしていく。
「あっ……ふぅん……」
ショートボブの髪を振り乱して、唯の頭が蠢く。誠の首に腕を回す。
痛みとくすぐったさの中間ぐらいの感触。
誠ははっとして、彼女の体から顔を離し、
「唯ちゃん、苦しい?」
「あ、ううん、苦しいんじゃない。……気持ちいいってのが、こういうことなのか分からないけど……もっと、味わいたい……」
「わかった、じゃあ、続けるね」
再び誠は、唯の首筋に口を押し当てる。うっとりとする唯。
動いていくたび誠の激しい息が肌に感じられ、疼痛と快感が唯の体を走り抜けていく。
「んんっ……っ……ふぅん……あっ……そこはぁ……」
胸からも同じような疼きを感じ始めた。
誠はブラ越しに、唯のお椀型の両胸を揉み解していた。
そうは言っても、布越しの刺激だから比較的弱いし、胸の形が変わる妙な感覚も味わえない。
「その……もどかしいから……直接……」
「わかった」
誠は頷くと、唯のブラジャーを上にずりあげ、直に胸をさすっていく。
「あ……っ……そうやって……やるんだ……んっ……いいっ……」
彼の長く細い指が蠢くたび、自分の柔らかい胸が、彼の思うがままに形を変えているのを唯は感じ取る。それと共に、『いた気持ちよさ』と呼べるような甘い感触が彼女を包み込む。
自分で弄ったことはあったけど、それと好きな人にされているのとでは、全然違っていた。
続いて一番敏感なピンク色の部分がつままれたり、それを挟むような形で胸を刺激されたりする。
両手に思わずぎゅっと力が入ってしまう。胸の先端も熱く硬く、より敏感になってくる。
「ああ……マコちゃん……いいよぉ……」
唯の胸が敏感になったのをすぐに察した誠は、彼女の胸の先端を口に入れて、なめまわしたり吸ったりする。
「んんっ……もっと……」
しばらく唯は、誠にされるがままになっていた。
気づくと、唯の浴衣の帯がほどかれ、前が開かれて下着だけの自分の姿が、誠の前に露になっているのに気づいた。茶色いショートボブの髪も乱れ、一部が目の前や鼻先、頬にかかっている。
それがさらに刺激的らしく、彼が生つばを飲み込んでいることに、すぐ気づく。
顔のみならず体全体から火が出るほど恥ずかしかったが、唯は必死に抑える。それに、見られてうれしい気もした。
「ま……待って……私にも、マコちゃんを見せて……」
唯は上体を起こし、白い浴衣を脱ぎ捨てると、片手で誠を制止して言う。
彼は思わず頬を染めたが、
「わかった」
と頷いて、彼女の横で立ち膝になって、自分の黒い帯に手をかけた。
唯は少し不満。
「待って、私の手でマコちゃんを見てみたい」
ねだるような声で、彼女は言ってみた。駄目かな、と思ったが、
「ああ、いいけど……大丈夫?」
「うん」
唯も立ち膝になり、満身の力を抜いた誠に手を差し伸べ、腰の黒い帯をほどく。
その後彼の浴衣を掴んで脱がし、一気にパンツ一丁にしてしまった。
「って、唯ちゃん……!」
「す、すごい……」
今度は唯が、ごくりとつばを飲み込んだ。
中肉中背だけど、女性にはないがっしりとした感じ。胸はきちんと四角い形を2つ作り出しているし、腹もたるんでおらず、腹筋がしっかりとついて、6つのブロックを形成している。
ふと、気になるものがあった。
彼が履いている、青地で白いスポット模様のトランクス。
その一部分が、テントのように盛り上がっている。思わずじっと見てしまう。
「うわあっ!」誠は思わず両手でその部分を抑え込み、顔を真っ赤にして「あ、あの……俺……!!」
「あ、わかるよ……自分で調べた……」唯はドキドキしながら見続け、「男の人のも、大きく硬くなるって……ど、どうしよう……一度だけなら……見たいような気も……」
「唯ちゃん……」
誠はパンツから手をどける。
「ああ、もう、やけ!!」
唯は誠のトランクスを掴むと、一気に膝のあたりまでずり下ろした。
もう一度そこを見ると、思わず、ひっ、となってしまう。
「マ……コちゃん」
誠のいきり立つものは、黒ずんだ茶色で、先端がビクン、ビクンと蠢動している。
思わず怖がってしまうが、同時に興味深い気持ちに、唯は包まれていった。
胸が再び、ドキドキしてきた。
かたや誠は、顔を紅潮させてその部分を隠すと、
「ああ、どうしよう……」
「わ、私はいいよ。マコちゃん、なら…………あ……っ……」
今度は自分の一番恥ずかしいところに刺激を感じ、唯は再びきつく目をつむる。
誠の片手が、彼女の下着の上を這い始めた。
再び唯はベッドの上に倒れこんでしまい、その横に誠が横たわった。トランクスを完全に脱いで。
彼の右人差し指と中指が、唯のショーツの上をまさぐる。
「マ……マコちゃん……んっ……手つき……やらしい……」
思わず自分の恥ずかしいところを隠そうと太腿を動かすが、誠の右手は巧みにそれを搔い潜り、唯の股間にある一番敏感な部分をクニュクニュとさすっていく。
「やらしいこと、してるんでしょ?」
「そ、そうだけど……んっ……だめ……あっ……そこ……感じ……っ……」
自分の一番恥ずかしい部分が熱くなり、ねっとりとした液があふれ出始めるのを感じた。
「マコちゃん……下着……汚れちゃうよ……」
「わかった。じゃあ、脱がすね……」
「お願いだから言わないで……あっ……」
下着のホックを外されて脱がされ、刺激でドロドロになった唯の秘所が露になる。
誠は頭を沈めて、それを直に見つめ、肌色の表皮を剥いてピンク色の部分を凝視した。
「すごい、ねとねと……びしょびしょになってる……こんなに熱くて……。唯ちゃんって、思ったよりえっちなんだな」
唯の顔がこれでもかというぐらい熱くなり、耐えきれず両手で顔を隠してしまった。
「いやぁぁ……言わないでぇぇ……!!」
「恥ずかしがっている唯ちゃんも、可愛いよ」
そう言って誠は、唯の貝のような割れ目に舌を這わしていく。
「あっ……やあっ……だめぇ……汚いよおっ……んんっ……んっ……んーっ!」
「すごい……唯ちゃんの……甘くておいしいよ……太腿もすべすべ」
唯の太腿のあたりも、優しく愛撫される。
思わず口に指をくわえ、人に聞かせられない嬌声を殺そうとする唯。頭は左右上下に不規則に回り、今まで以上の強い快感に翻弄されていく。口から唾液も流れ出た。
「んっ……んんっ……んんーっ……くうっ……あはあっ……くるうっ、いくうっ……!!」
口を弛緩させ、きつく目をつむり、体全体から汗を出しつつ、唯は全身を硬直させていく。
次の瞬間、びくびくと体が震え、意識が半分飛んでいった。
「はあ、はあ、はあ……いっちゃった……」
唯の全身の力が抜けた。
「ごめん、やりすぎちゃった、かな……」
「はあ……はあ……はあ……マコちゃん……今度は……マコちゃんが……気持ちよくなって……」
「え、それって……?」
「いいから、今度はマコちゃんが仰向けになって」
とりあえず指示通り、今度は誠が仰向けになる。
唯はベッドを這って誠の下半身のところに行き、彼のビクンビクンと動く、こげ茶でどす黒いものを見つめる。
手始めに彼女は、つんつんと突ついてみた。
「う……っ」
誠はそれだけで感じて、目をつむってしまう。
唯はずり上がったブラを外す。2人とも一糸まとわぬ姿になった。
「ええと、こうしたほうが気持ちいいんだよね、男の人って」
唯は自分のふっくらした鳩胸を2つ掴むと、誠の敏感な部分に挟み込んだ。
自分の柔らかいものが誠のものによってひしゃげ、唯は妙な感覚を覚える。
かたや誠は、熱くやわらかな感触を敏感に感じ、頬を赤くしてぞくぞくとなった。
唯は胸で誠の局所を挟んだまま、上下にすりすりとゆっくり動かしていく。
誠の黒い部分が、唯の白い胸で刺激を受けるのは、あまりにも色が対照的で違和感がある。
「うあ……あ……唯ちゃん……気持ちいいよ……」
「よかった。これ、本で読んで知ったの。マコちゃんに喜んでもらいたくて」唯はにっこりして、「もっと気持ちよくしてあげるね」
胸を下に滑り込ませると、唯は誠の大きく硬くなっている部分の先端を覗き込んだ。
ここだけこげ茶の皮がむけて、小さな切れ込みの入ったピンク色の部分がひょっこり顔を出している。キノコの傘のような形で、多少ねっとりとしていた。
茎の部分を白い胸で挟んだまま、唯はその先端をペロリ、ペロリと舐め始めた。
「あ……っ……唯ちゃん……」
続いて唯は、大きく口を開けると、誠の先端を口の中に入れてしまい、口腔でなめまわし始めた。
勿論胸での刺激も忘れない。
「凄い……柔らかくて……熱くて……」
「ろう……かなぁ……マコひゃ――」
ガリッ!!
「いっ!!?? 痛つーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
「わあああああああああああっ!! ま、マコちゃん、ごめん!!」
うっかり唯は、誠の敏感な部分を嚙んでしまった。
下半身を抑える誠に対し、唯は涙ぐみながら、
「もう私も大人なんだから、こんな時にドジらないと決めていたのに……大丈夫? 痛かったよね?」
誠の手をどけると、再び唯は、彼のピンク色をなめるところから始め、前より非常にゆっくりと刺激を与えた。
「ゆ……唯ちゃん……」
誠は必死な唯の頭に、手を優しく置いて撫でまわし、微笑を浮かべる。
「ありがとう、唯ちゃん。もういいんだ。俺と一緒に……なってくれるかな」
「うんっ!!」
唯の泣き顔がほころんだ。
「あ……」
誠はふと気になったものがあったらしく、ベッドを出ると机の棚を探って、肌色のものを持ってきた。
避妊器具だ。
「あ……やめてくれない?」
「え……」
「私、生の方が気持ちいいと聞いたから……」
「……。わかった」
多少誠は不安げな表情になるが、持ってきたものを机の上に置いた。
仰向けになった誠の腰に唯がまたいで座り、いよいよ準備体制となる。
唯が片手で誠の茶色い棒をつかんで、自分の中に入れようとする。が、
「うっ……痛い……」
ちょっと入れただけで、裂けるような痛みを感じてしまう。
思わず彼女は誠のいきり立つものを外し、自分の敏感な部分を何度も彼のにこすりつけた。ゆっくりと。
「唯ちゃん?」
「……っ……んっ……こうすると……気持ちいい……」
「唯ちゃんがそれでいいというなら、俺もそれでいいけど」
そうは言っても、誠の息遣いは荒い。彼自身もじれったいようだ。
局所同士をこすると、まるで指圧でツボを押されたかのような気持ちよさを感じる。
唯は何度も2人の敏感な部分をすり合わせて、しばらく快感を味わっていたが、同時に時間がたつにつれ、もどかしさが増長していった。
「ご、ごめん、やっぱり……これだけじゃ、駄目だった」
「唯ちゃん……本当にえっちだな」
「挿れたい……でも、やっぱり痛いのはいや……けど、私自身でマコちゃんとつながりたい……」
「うーん……」誠はちょっと考えてから、「これ、俺のハンカチだけど、咥えるといいかもしれない」
「あ、ありがとう……」
そうはいっても恐怖は、激しい欲望と共に湧きあがったままだ。
払いのけて、唯は誠の紺のハンカチを口にくわえ、左手で白いシーツを掴んだ。
右手で誠の大事な部分を取ると、一気に自分の中に入れていく。
「んっ……!! んんんんんんんんんんんんんんん……!!」
「ゆ、唯ちゃん!?」
誠のが自分の奥へ奥へと突き進むたび、裂けるような激しい痛み。
唯は歯を食いしばる。ハンカチが涎で濡れていき、きつくつむった目からは涙も流れ出した。
「んっ!! んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんっ!!!」
体のなかで、ぐしゃっ、という音が聞こえた気がした。
奥まで、入った。そこから液体がつうっとたれるのを感じた。
ハンカチが口から離れ、涙で崩れた顔が俯き加減になる。
「はあ、はあ、はあ、はあ……」
「う……っ、俺も、きついけど……唯ちゃん、大丈夫……?」
「痛いけど……嬉しい……」
痛みの中、必死に笑顔を作る唯。
誠は頬を赤くすると、上体を起こして左腕を唯の体に回した。
右手で再び唯の胸をむさぼり、もう一方の胸の先端に口をつけて、
「これで、どうかな……気がまぎれる?」
「んんっ……! んっ……いいよおっ……」
再び嬉しさと気持ちよさに包まれる唯。思わず誠の首に再び抱きついた。
ちゅうっ、ちゅうっ、もにゅもにゅと誠が胸を弄るたび、痛みよりも先ほどのいた気持ちよさが唯の感情を支配する。
それと共に、誠のものを入れた部分が、無意識にきゅうっと締まっていった。
「う……唯ちゃん……きつっ……」
「マコちゃん……」
「行くね」
「きて……」
誠は上体を起こした姿勢のまま、腰を上に振った。
「いたっ!」
思わず唯は顔をしかめた。しかしその痛みはちくりとしたもので、引き裂かれるような激しい痛みではない。
「ごめん。痛い……?」
動きを止められ、唯の中で切なさともどかしさが再び増え始めた。
「ううん、大丈夫……。もどかしいから、続けて……」
誠は頷くと、先ほどよりもゆっくりした動きで、より浅く腰を動かす。
「ん……」
痛みもあるが、このほうがいい。再び恍惚状態になった唯の表情を確認してから、誠はさっきよりも深く手早く唯を突いていく。
「あっ……んっ……マコちゃん……いいよぉ……」
少しずつ誠の動きが速く、大きくなっていく。
唯の目が再び据わり、表情はうっとり感がひどくなる。鼻にかかった甘えるような声は止まらなくなっていた。
先ほど感じていた痛みはほとんどなくなり、快感に包まれて唯も思わず腰を動かし始めていた。髪と胸がふわふわと揺れる。
「唯ちゃん……自分から動くなんて……うっ……」
「だって……あふっ……マコちゃんにも……気持ちよくなって……ほしいから……あっ……」
いつの間にか、2人の動きがピストンのように早くなっていき、それに比例してお互いの声が細く、高くなっていく。つながってる部分からぐちゃぐちゃという音もしてくる。
「マコちゃんは……んっ……気持ちいい……っ……?」
「うん……唯ちゃんが……締め付けてくれて……すごく……いいよ……。あっ……唯ちゃん……は……?」
「私は……あっ……マコちゃんが……きもち……いいのが……うんんっ……気持ちいい……から……あっっ……マコちゃ……」
誠は再び唯の胸の敏感な突起を吸い始め、もう一方をわしづかみにしてぐにょぐにょに揉み始めた。
強烈な刺激の前に、唯の腕の力が入り、誠が折れそうではないかという気さえした。
「あうっ……うん……ううんっっ……やあっ……気持ち……いっ……マコちゃんっ……マコちゃあんっ……」
誠の動きが最大限になり、それによって最早唯は、何が何やら訳が分からなくなっていた。茶色い髪を振り乱し、次から次へとくる感覚に頭を不規則に動かしていた。
「ああ……何が何だか……わからない……んっ……マコちゃん……キス……して……」
「わかった……ううっ……」
頭が前に傾いた唯の頬を掴むと、誠は彼女に接吻をし、再び唇の感触を舌で味わい始めた。
唯も誠を感じようと、舌を絡ませていく。
気が付くと2人とも全身から汗がにじみ、それを飛ばしている。グチュグチュという音もかなり大きくなっている。
だが、そんなことはお構いなしだ。
「んん……ん……ぷはあっ……あっ……んんっ……」
再び2人の口が離れ、糸を引く。限界はもう、すぐに来ていた。
「ああっ……マコちゃん……もうすぐ……私……私……」
「ああ……唯ちゃん……俺も……もう……」誠は唯の胸を再び愛撫しながらも、自分も限界に達してきていることを感じていた。「唯ちゃん……いい……?」
「うん……きて……お願い……んんっ……一緒に……一緒に……マコちゃん……マコちゃあんっ……」
最後の力を振り絞って、お互い動きが激しくなった。ぐちゃぐちゃぐちゃという音のリズムも早くなった。
2人の腕に、手に、これでもかというぐらい力が入る。
「うっ……あああああああああああああああっ……!!」
「ああああああああああああああああっ……!! あ…………」
ついに2人は爆発した。
「マコちゃんの、出てる、一杯……。お母さんに、なる……」
唯の中に入った誠のがはちきれ、白い液体が自分の中に飛んでいくのが感じ取れた。
彼女は半分意識を飛ばし、がっくりと彼の体にくずおれた。
誠も脱力して、ベッドの上にあおむけに倒れこんだ。
「はあ、はあ、はあ……」
2人とも全身の力が抜け、大の字になって息をする誠の右肩の上に、唯は頭を預けて倒れこんでいた。
予想はついていたが、2人とも全身が汗でぐっしょり濡れている。
誠ははっと気が付いて、
「唯ちゃん、寒くない?」
頭をもたげ、彼女の白い背中に、さっと分厚い布団をかけてあげた。
「ううん、大丈夫。……あ、このままにしてくれない? マコちゃんがつながっていないと、中、寂しい」
「あ……いいけど……きつくないかな、と思って」
彼は再び、布団の下で唯の背中に手を回した。寝床の電気を消して。
黒い闇の中、しばらく2人は、お互いの体を愛撫し、衣服という壁のない感触を楽しんだ。
「マコちゃんの……いっぱい出たね」
「あ、そうだね」
「欲しいなあ……赤ちゃん、いっぱい」
唯がそう言うと、急に誠の表情が陰り、うつむいた。
「マコちゃん?」
「いや……こんな俺に、父親が務まるのかな、と思って。いい加減で、優柔不断で、唯ちゃんを選ぶまで、さんざふらふらしていたのに……」
唯はそのことはどうでもよかった。最終的に彼が自分を選んでくれたのがうれしかった。
「ううん、マコちゃんが私を選んでくれたのが、とっても嬉しいよ、私は」にっこりと笑みを浮かべ、「そりゃあ、私もお母さんが務まるか、ちょっと不安ではあるけど。ドジだし、空気読めない発言は多いし」
「人は何よりも明るさだから。唯ちゃんの明るさなら、きっといいお母さんになれると思う。周りを屈託ない笑顔で和ませて、ギターを演奏して周りを感心させて。でも、俺は……」
誠は影のある表情のまま、少し言いためらった。
「マコちゃん?」
「……俺の、親父のことなんだけど……」
誠の言葉を聞いて、唯も、はっと息をのんだ。
あの榊野学祭で、自分を襲った男だ。
「あっ! ごめん!!」誠は慌てて両手を振り、「いやなこと、思い出しちゃったよね?」
「ううん、あのことはもういいの」唯は懸命に首を振った。誠の思いを、正面から受け止めたいと思った。「話して」
「俺の親父は女癖が悪くて、相手を妊娠させることに異様な執着心を抱いていた。そのくせ、俺も含めて生まれた子供達にはほとんどネグレクト同然の態度をとっていた。母さんがあいつの本性を知ってすぐ離婚したのも、わかるでしょ」
必死に唯は頷いた。唯の両親はオシドリを通り越して『ラブラブ夫婦』だ。唯が高校を卒業した今でも、よく2人きりで旅行をするのである。
自分と違って、理想的な家庭に恵まれなかった彼。それが自分のことを知って、どんな気持ちになっただろう。
「俺自身も自分の子供をネグレクトしたり、周りから愛されない人間に育てたりしたくない。でもね、親に虐待を受けた子供って、しばしば自分の子供にも同じことを繰り返すらしいんだ。自分でも意識しない間に」
「そんなの……マコちゃんはありえないよ。意識してれば」
「意識してもだめだと思う!」激高してしまう誠。唯はびくりとなる。「夏目漱石は生家と養家が没落して、どちらの両親からも虐待を受けていた。店の品物の間で寝かされてたとか、夜はカゴに入れられて店先に吊るされてたとか、今なら確実に通報レベルの扱いだった……。
そんな彼が大人になった時、彼も知らず知らずのうちに妻子に暴力を振るうようになった。見るに見かねた弟子の一人が、妻に離婚を勧めるようになったほど。
俺もあんなふうになってしまったら……!」
「そうなったら!」今度は唯が真剣な声を上げた。「私が、マコちゃんの思いを受け止めてあげたい!!」
「え……」
誠は思わず、ぽかんとしてしまう。
「あの沢越止のことで分かった。マコちゃんはずっと悩んでたんだって!! 誰か、そばにいて支える人間が必要なんだって!! 私ならなりたい!!」
「唯ちゃん……」誠はトーンを急に沈めて、「あの……唯ちゃんの気持ちはありがたいし、君とならきっとうまくやっていけると思ってる……。
でも、その……、
俺達がいくら頑張っても、子供が周りから愛される人間に育つかな……」
すると、唯はにっこりして、
「だから子育てって、面白いんじゃないかな?」
「え……?」
「もちろん、天賦の才というのもあると思う。
でも、私たちの育て方だけではなく、周りの環境、友人や先生によって、子供は何にでもなることができるんだと思う。
怒りんぼ、泣き虫、弱虫? 努力家、勉強家、勇者? それとも天才?」
「……『性相近し、習い相遠し』ってこと?」
「うん。
私は桜ケ丘軽音部のみんなやさわちゃんがいなければ、こんな風にはならなかったし、マコちゃんや、西園寺さん、桂さんがいなければ何にもなれなかった。もちろん憂やいたるちゃんや、お父さんやお母さんもいたからこんな風になれた。
マコちゃんだって、そうじゃないの?」
「俺は、そんなに褒められた人間じゃないけど……」誠はまた俯き加減になり、「それどころか、嫌なところばかりだよ……」
「マコちゃんは、いいところだらけだよ。何から言おうか迷うくらい」
そういって唯は、誠の頬にキスをした。
「え……唯ちゃん……」
「まずは顔。甘いマスクで王子のよう。2つ目に、手先が器用で料理、七宝焼き、シルバーアクセを軽々こなせちゃう」
「ちょ……ちょっと恥ずかしいよ……」
誠の頬が、再び赤くなる。
「そして、普段は優しく穏やかだけど、心の奥底には、熱く激しいものを持っている。そこが本当に少年みたい。
だからこそ西園寺さんや桂さん、澤永君だって今になるまで、ずっとマコちゃんと友達でいたじゃない。
勿論私だって、貴方の妻になって、本当の妻になれて、本当に良かったと思う!
だから、安心して進んでいこうよ!」
「唯ちゃん……」誠はようやく表情をほころばせ、「俺も、唯ちゃんと一緒に歩いていきたい。子供が出来ようと出来なかろうと、子供がどんなふうになろうと、唯ちゃんと一緒に進んでいきたい。
本当にそう思うよ」
その言葉を聞いて、唯の両眼に急に涙がたまる。
「うれしい……!! この言葉、聞きたかった……!! ありがとう!」
「ありがとう……。じゃ、寝ようか」
死が2人を分かつまで、きっとこれからも、人生山あり谷ありだろう。
でも、出来る限りのことをやって、2人で助け合って、少しずつステップを踏めばいい。
そう思いながら、至福の感情に包まれながら、2人は眠りについていった。
黄色くまばゆい光の中、唯はうっすらと目を開ける。
そこには、小学校3年ぐらい、白いシャツの上にメリハリの利いた紺のパーカーを着た子供が立っていた。
頭は茶髪。目は大きくつぶら。短髪にアホ毛を1本垂らした姿で、中性的な王子を思わせる顔。
どこかで見たことがある。
「唯誠(ゆいま)!」
「唯誠―!」
男と女の声がした。大方この子の両親だろう。
「あ……お父さん……お母さん……」
子供は声のした方を向く。
光の中から、1組の男女が子供に駆け寄ってくる。いかにも典型的な小学生の親という感じだ。
父親はいきなり子供の頬を張る。
パアン!
「!」
「何やってんだよ!! 家出なんて!! お父さんもお母さんも心配したんだぞ!!」
「お父さん……」
母親は子供の目のあたりまでしゃがみ、張られた頬をさすっている子供を、ぎゅっと胸のあたりで抱きしめた。その目に涙がいっぱいたまり、思いっきりあふれ出した。
「ほんと、心配したんだからね……」母親の声は、震えていた。「もう会えないかと思ってた……」
とたんに、子供のつぶらな目も潤んだ。
「僕は……僕は……お父さんとお母さんに、仲良くしてほしかった……」母親の胸の中で、子供は上ずった声ですすり泣いた。「いつもゴミ捨ての当番のこととか、テレビのチャンネルの奪い合いとかで、ちょっとした言葉のかけ違いとかで怒鳴り合ってるのが嫌だった……うるさかった……昔のお父さんとお母さんじゃない気がしたんだ……!」
「分かってる……」父親が子供の視線までかがみ、悲しげな表情で語りかけた。「家の書置きでお前の気持ちが分かったよ。俺も唯ちゃんも、一緒にいる時間が長くて、つい一緒にいることや、助け合ってることが当たり前のように感じてた。それがどれだけ大事なものなのかも気づかずに。
おまけにお互い、ついついだれててさ」
「私達は自堕落になってて、貴方の気持ちを考えてなかったのね……」母親が、子供を抱きしめたまま話す。「でも……私達も、ついつい易きに流されちゃうけど、本当はいい家庭を作りたいと思ってる。あなたに心地の良い居場所にしたいと思ってる」
「お父さん……お母さん……」
「そうだな。常々思うけど、結婚してそれで終わりってわけじゃないんだな。
いい夫婦関係を維持して、子供ができたら、きちんと周りに愛される人間にして送り出して。
死ぬまで、終わりはない。
言うは易く、行うは難しだけど、死ぬまでこの理想に近づこうと頑張るしかない」
「今の私達が、理想的な家庭を作れるかはちょっとわからないけど、必死に頑張るから」
「お父さん……お母さん……」子供は目をぬぐうと、無邪気に笑った。「もうこんなことしないから、お父さんもお母さんも、仲良くしてね。昔みたいに」
「うん、勿論さ」
ようやく父親は、にっこり微笑んだ。
「じゃあ、行こうよ、唯誠! マコちゃんも! 今日はカレーとウニクリームのスパゲティだから!!」
母親は涙を拭き、満面の笑顔で子供の手を引っ張って、踵を返す。
その時になって、唯は初めて気が付いた。
あの女性の笑顔……。茶髪ショートボブの頭。
多少顔にしわが生え、恰幅も良くて気づかなかったが、あの顔とどこかすっとぼけた感じは、間違いなく自分だ。
男性を見ると、見覚えのあるアホ毛に黒い短髪。王子を思わせる整った顔。
やはり多少太っているし、顔のしわで分からなかったが、あの姿は誠そのものだった。
じゃあ、あの男の子は……。
私とマコちゃんの子供……。
そう言えばあの子、茶髪とつぶらな目は自分に、髪型と顔立ちはマコちゃんに似ている。
わかった。
あれは、未来の私達。
待って……。
唯は思わず声を出そうとするが、出なかった。
3人に向かって手を伸ばすが、届かず、3人の姿は光の中へ消えていく。
そして唯自身も急に気が遠くなり、何もわからなくなってしまった。
唯の目が覚めた。
「う……ん、マコちゃん、おはよう。……って、あれ?」
寝返りを打った彼女は、目をこすりながら半身を起こすと、今までとは全然違う場所にいることに気付く。
そこには、見覚えのある白い天井と灯り。
部屋は和洋室ではなく、女の子らしい小物がそろったよく見覚えのある洋室だし、寝床もベッドが2つではなく、自分が乗っているベッドが1つだけ。
彼女の愛用の茶色いギター『ギー太』も窓際に置かれてあった。
「あ、あれ!? マコちゃん!?」
思わず首を振ってベッドの横を見てみるが、誠の姿はなかった。
それどころか、自分も裸ではなく、深緑色で『オーシャン』と書かれた、着慣れている緑のパジャマを着ている。
「あ、まさかここって……私の部屋……?」
今までの出来事は、全部自分が見た夢に過ぎなかったのだろうか。
いや、そんなのありえないよ!!
唯は蜘蛛の糸のような希望にすがる。
その思いを打ち砕いたのは、妹の声だった。
「お姉ちゃーん!」
その声とともに、妹の憂が部屋のドアを開けてくる。
「あ……憂……」
いつものように明るく張り切っている憂の声に対し、唯の声は急にしおたれた。
「今日は澪さんや伊藤君と一緒に、桜ケ丘高校でお茶会やるんでしょ? 遅れちゃうよ」
「あ、うん……急ぐから……」
これで今までのことが、すべて分かった。
すべてが夢だった。
つまり自分が誠と結婚したというのも、新婚旅行先で結ばれたというのも、自分の願望が生み出した幻に過ぎなかった。
そのことを甘受した唯は、がっかりと桜ケ丘高校へ向かっていった。
夢にしては、何かはっきりしてたんだけどな……。
今日もまた、桜ケ丘軽音部と榊野生徒達で一緒にティータイムがある。
桜ケ丘高校の校門にまで行ってくると、彼女は誠と出くわした。
「おはよう!」
「あ、おはようマコちゃ……あ」
誠の右腕には、桂言葉が離さないぞとばかりに、自分の腕を組ませていた。唯より大きな胸を、あからさまに彼の腕に押し付けて。
そこで唯も、あらためて認識した。
自分の好きな人は自分ではなく、桂さんを選んだということを。
そうだよね……桂さん美人だし、すっごく胸大きいし、私なんかより……。
言葉の姿を見て、さらに唯の気持ちが萎える。
そんな彼女に対して、言葉は一瞬冷笑的な笑みを向けたが、すぐににっこりとした表情で、
「おはようございます、平沢さん」
と言った。
「あ、おはよう、桂さん……」
力なくしゃべってしまう。
すると誠が、なだめるように口を開いてきた。
「ゆ……平沢さん、今日はムギさんがケーキ持ってく番なんだっけ」
「ちょ……平沢さんって……」
『平沢さん』という言葉が、今の自分と彼の距離を表していた。耐え切れなかった。
思わず唯は昂してしまい、無言でつかつかと誠に歩み寄り、彼の反対側の腕に抱きつこうとした。
誠が困惑して後ずさりし、言葉が眉をひそめた時、
さっ
唯の前に左腕を差し出して止めたのは、友人で同じ軽音部員の秋山澪だった。言葉と同じ、腰までかかる長髪がなびき、その吊り目は鋭い。
「……澪ちゃん……」
「伊藤はきちんと、恋人と親友の境目をきっちりつけようとしてるんだ。不満は持たない方がいい」
「だってだって」
「唯、こうしてお前自身が、伊藤と一緒にお茶できるんだ。それだけでもいいんじゃないかな」
「……」
唯は甘んじるをえなかった。
それを見て、澪の硬い表情が和らぎ、微笑む。
「ほんと、すみませんね、秋山さん」
「澪さんには榊野学祭から本当に世話になり通しです。ありがとうございます」
誠は苦笑しながら頭をかき、言葉はにこにこ笑いながら澪に感謝の言葉を伝えた。
思わずうつむいてしまう唯。
現実は厳しいなあ……。
唯がそう思っていると、彼が声をかけてくる。
「平沢さん、ぼやぼやしてると置いてくよ」
顔をあげると、誠が白い歯を出して満面の笑顔。
後の2人も、澪は彼女を見守るような微笑、言葉は少し冷笑的な笑みを見せる。
唯の表情もほころんだ。
「うん、今行くよ! マコちゃん!!」
まっ、いいか!
終わり
あとがき
ストーリー・キーワードは、『平沢唯と伊藤誠が結ばれるとしたら』。
ただ、ラブホテルや学校の屋上だと露骨すぎて描いてるこっちの気が萎えるというのが正直なところ。
僕自身は所帯を持つ気はないのですが、もしこういうことをするとしたら、ディズニーランド隣のロマンチックなホテルか、山紫水明の温泉旅館が理想的だと思っていました。
それと描きやすさを考えて、以前旅行に行った先の鬼怒川温泉旅館か伊勢の旅館を舞台にするか迷いましたが、神秘性と深さを考えて伊勢の旅館に決定。
本編との辻褄合わせ上、夢オチというのは最初から決まっていましたが。
ところどころに、渡辺淳一の『失楽園』のオマージュが入っています。
『鴨とクレソンの鍋』は松原凛子の好物なのですが、恋人久木祥一郎との結びつきの象徴、及び人生最後の食事として有名になっています。
また今回のサブタイトル『至福』も、失楽園の最後のサブタイトルから拝借しました。
唯と誠の結婚式の様子は、僕自身が参加した大学時代の先輩の結婚式をベースに描写。
(それにしても、ゴールデンボンバーの『女々しくて』は失恋ソングだから、結婚式にあってない気が……。)
事を済ませた後の唯と誠の台詞は、自分の理想の夫婦像を全てぶつけています。(まあ新婚夫婦という状態だし)
僕自身、両親の中が悪く、家にいても怒鳴り声が絶えず、なかなか居場所がなかったものでして。
そういう意味では、僕はむしろ誠の境遇に近かったんだろうなあ。
その中で僕自身が曲がらずに育ったのかどうかはまあわからないけれど、たとえどんな境遇に陥っても、支え合って生きていくのがいい夫婦かなと思って。
子供だってその中でどう育っていくか分からない。でも親は切っても切り離せず、与えてくれた環境の中でしっかりできることをやること。
少しずつ、親子夫婦で一歩ずつ進んでいくのがいい夫婦であり、親子、家族ではないかと僕は思っています。
そういう意味では僕の家族は家族とは言えなかった。
それでも僕自身は、教会や色々な人と知り合えて、安らぎの時間を持てて、悪くはないかな。
唯が見る幻影にはいろいろアイディアがありました。
没案になったのは、唯と誠が交接した後、誠は憂に包丁を突き立てて殺され、唯も頭部だけにされて憂に抱かれてどこかへと消えていくシーン。
もちろん残酷だし、せっかくの『至福』も台無しになるのでカット。
採用になった幻影は、唯と誠が多少凸凹しながらも、子供とともに一緒にいい家庭生活を過ごしているということを暗示しているもの……なのですが、実はこれにはもっと深い意味があったりします。それは秘密。
未来の2人が多少太っているというのは、小学生を子供に持つ両親となるとどうしてもそうならざるを得ないだろうという想像から。
今回テーマソングに選んだUruの『星の中の君』は、元々は有村架純主演の映画『夏美のホタル』の主題歌ですが、歌詞の内容が今回の小説にぴったりと思ったので選びました。
本当は中島みゆきの『糸』や中村中の『友達の詩』も考えていました。
『糸』は仰々しく、『友達の詩』の歌詞の内容は澪と誠の関係の方に合っているという理由で没になりましたが。
『星の中の君』の歌詞の内容は『唯の気持ち』とも『誠の気持ち』とも取れますが、どちらだと思うかは皆さんにお任せします。
Cross Balladeのスピンオフ、及び続編の前座という形なので、こういう形にはしたくないんですけれども、18禁という特性上、これも『戯作』。
読み返すとCross Balladeのストーリーとキャラクターを凝縮しているような気がするので、残念なんですけどね。
それでもなるべく多くの人に読んでくれればいいと思っています。
元々Cross Balladeシリーズはけいおん!とSchool Daysどちらも知らない人向けに描いたつもりなのですが、やはり両方知っている人しか読まないかな。
欲を言えば、この小説で『平沢唯×伊藤誠』のカップルを認めてくれる人が増えればいいかなと。
題材と想像が実れば『山中さわ子×澤永泰介』のカップルもやってみようかと思っています。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。