Z.E. 428年 1月10日、Z.E. 413年から15年続いた中央大陸(デプロイ大陸)の戦争は、地球から飛来した【グローバリーⅢ】の不時着後の混乱により、2年の停戦協定が結ばれた。
しかし、人々の祝杯の跡がまだ色濃く残る、わずか一ヶ月後。
空は再び、未知の【何か】によって焼き払われた。
倭国は、デプロイ大陸の南に位置する群島のアカツキ島に首都を置き、その軍備は自然と海洋主体となっていた。
決して技術力は高くなく、最新兵器の自国開発は困難であったが、豊かな海洋資源と浄水技術による【食料と水の供給能力】は、戦時下において帝国にとっても無視できない巨大な利益であった。
その見返りとして、ゼネバス帝国からは型落ちといえど比較的新しい機体の供与やライセンス生産が認められていたのである。
Z.E. 428年 2月5日
本来であれば、倭国の主力は巨大ゾイド【ビガザウロ】を旗艦とする二個護衛艦隊、そしてフロレシオスで編成された三個輸送艦隊が守りを固めている。
しかし、エネミーゾイドの母艦級【キューブ】の落下により、それら主力は全てヒルコ島へと出撃していった。
その四日後、Z.E. 428年 2月9日 午前11時30分。
アカツキ島は、突如出現したエネミーゾイドに包囲され、首都ヒノデは攻撃を受ける。
Z.E. 428年 2月10日 午前11時00分
今、燃える首都ヒノデを守れるのは、開拓時代から運用されてきた旧式を改造したゾイドと、供与されたばかりの数少ない機体のみであった。
海岸線を皇室近衛隊のシーパンツァー、沿岸警備隊のグランチュラ、ゲーターを中心に固め、市街地にモルガ、ブラキオス、ザットンを配置し、航空兵力としてシンカーが担っていたが、シーパンツァーとブラキオスを除いたゾイドは、開拓時から数十年建造され続けており、旧式化していたが数だけは多かった。
かつて宇宙移民調査船だった基地施設には、固定砲座もあり、活火山のように砲火の悲鳴をあげる。
その激しさは時折、施設を大きく揺らす。
ワダツミと呼ばれた宇宙調査船を改造した基地施設内にいても、怒号と悲鳴が聞こえてくる中、三人の若者の他に三十代半ばを過ぎた男が地下格納庫にいた。
その男は、ドレン・アサクラ。
オレンジ髪を刈り上げた2mを超える長身でカーキ色の軍服が張り裂けようとする程の筋骨の持ち主だが、覇気は無く現状を観察していた。
(技術伍長になって、初めてこの格納庫にきたなぁ。
俺が組み上げを担当していたゾイドはどこにあるんだ?)
やがて一人の軍高官と従兵が現れる。
初老であろう年相応の白髪交じりの黒髪の男で、ヤスジ・オオムラ大佐。
国防陸軍のカーキ色をした制服に身を包み、茶色い軍帽の赤い帯に、帽子章の桜花が輝く。
腰に凪いだ軍刀の意匠と、肩に除く紐と襟章が、位の高さを示していた。
彼は軍工廠のゾイド開発、とくに輸送関連の責任者だ。
「諸君、今は非常時である。
昨日の夜半からエネミーゾイドの襲撃を受け、すでに十二時間が経過している。
しかし、未だに敵はそこにいる。
よって、固有のゾイドと契約していない諸君らにも前線に向かって貰う」
そこで、オオムラ大佐は全員を見渡した。
「……が、安心したまえ。これは補給任務だ」
オオムラ大佐の視線の先、地下倉庫に鎮座していたのは、赤い要塞――重装甲重武装のスティラコサウルス型大型ゾイド【レッドホーン】の改造機だった。
「こいつは帝国から供与された試験機だ。
倭国では維持不能な電子兵装を剥ぎ取り、一機ごとに信頼性の高い実弾砲をねじ込んである。
これらの実戦データ収集もお前たちに課せられている。
コアの配置すら変えた我が開発部の力作、レッドホーンAP(攻撃輸送型)だ!
多少ガタは来ているが、歩く分には何も問題ない!」
目の前の六機はさらに異質だった。
兵員や物資を守りながら戦場を駆けるため、コアを後方に移し、胴体側面には不格好な輸送用ハッチが設けられている。
(……維持費が出ないから、実験機に手近な余剰武器を載せただけだろうに)
「……おいおい、コアをこんな後ろまで動かしたのか。とんだ外科手術だな。開発部の連中は、ゾイドをただの機械(トラック)だと思ってやがる」
ドレンは、レッドホーンの腹の下を覗き込み、苦笑いした。
ゾイドと交わされた【生命体としての扱い】という合意を、現場の都合が踏みにじっている歪さが、そこにはあった。
ドレンは説明を聞き流しながら、倭国軍の苦しい舞台裏を心中で毒づいた。
兵士たちは、その異様な姿に圧倒され、開いた口が塞がらない。
「大佐、一号機から四号機まで準備完了! カーゴに水、食料、医薬品、さらにワークスパイダー八機を搭載。トレーラーに弾薬コンテナも連結済みです!」
整備兵の報告が大佐の演説を遮った。
「よろしい。諸君、指令書を受け取り各機へ急げ! 友軍が物資を待っているぞ!」
ドレンの指令書には、ヒノデ防衛戦第三九補給大隊への補給指示書となっていて、担当地区は海岸線中央の激戦区T24だった。
配属通知には、ゾイド受領手続き書が添付されていて、開発部所属の第三九補給大隊への配属が相手の名前も無しに書かれていた。
駐機場のNoを頼りにゾイドのもとへと向かうと、ドレンにとって見覚えのあるレッドホーンAPの前に、半ば口を開けて端末と目の前のレッドホーンAPを見比べる少女がいた。
彼女は、まだ幼さの残る容姿に、陶器のように滑らかで青みがかった肌、深い海のような青い瞳を持つ少年のようでもあった。
顎のラインで切り揃えられた黒髪のボブカットは、一見すると軍規を守る真面目な学生に見える。
整備用のツナギを着崩し、汗を吸った丈の短いタンクトップの薄い膨らみと臍が見えており、足元にヘルメットとゴーグルが纏められ、襟元には技術少尉の階級章が縫い付けられていた。
「……少尉。
なにかありましたか?」
ドレンに声を掛けられたセナは、跳ねるように振り返ると姿勢を正して敬礼した。
その拍子に黒髪がふわりと揺れ、内側に隠されていた鮮やかな【水色(シアン)】のインナーカラーが、一瞬だけ閃光のように覗いた。
「国防動員法二条、国防命令八十一号により、
全国民に動員令が発令され、出征することになりました。
セナ・ササツカ技術少尉です」
ドレンに声を掛けられたセナは、姿勢を正すとドレンに敬礼する。
「国防軍技術工廠第三開発部第三九補給大隊のドレン・アサクラ伍長です。
……しかし若い少尉だな。
戦場には不釣り合いな技術士官ってことは、技術学校の学生か?」
ドレンが、セナに向かい答礼と共に自然体に戻ると、手を差し出しながら言った。
「本機レッドホーンAPへの配属となりました。
操縦訓練はシミュレーターで数時間程度しかありませんので、オペレーター室で私も支援します。
……飛び級で技術大学卒業前でして、今年の六月で十五になります。
私は、二時間前に少尉と言われて、今日軍事施設に入ったので、伍長に頼りきりになるかと」
セナがそう言って、大男のドレンを見上げる。
「準備ができているなら、ササツカ少尉もオペレーター室で準備してくれ」
ドレンは、内心で溜息を吐きながらセナに粗雑な対応でそう言い放つ。
(俺はいつから子守役になったんだ?
どうにも、やりきれないなぁ……)
そう考えながら、レッドホーンAPの側面ハッチから内部に入る。
ドレンの後ろから、積載物の資料に目を通していたセナもついて中へと入る。
食料や水タンクがパレットごと並び、それらを【ワークスパイダー】が整理していた。
【ワークスパイダー】は蜘蛛型ゾイド【グランチュラ】の地形を選ばない運用性を活かして【ヘリック共和国】と【倭国】で開発した、全長60cm全高48cmの極小作業ゾイドで、作業や警備だけでなく、さまざまな用途で使われている。
側面ハッチの脇にタラップがあり、破損したのかタラップに歪みや溶接の跡が残っていた。
天井は高く、キャットウォークの高さから、二階の床を抜いて格納庫の高さを確保している。
天井から下がる固定用装具や、天井クレーンが見て取れる。
二階に昇ると、階層の中央は金網で仕切られ、金網と壁の間の通路が2階を囲むようになっていた。
通路沿いに簡素な二段ベッドが進行方向に対して両側面に設置されていた。
二階の進行方向後方、機体中央部に簡易トイレ、シャワー室、簡易キッチンなどの水回りが集まる。
二階の進行方向前方にはコクピットに繋がるハッチの手前に、オペレーター室があった。
中は広く、席は二つあり、機材が多いが三人でも入れそうな広さだった。
ただ、ここも部屋の中に真新しさはなく、金属臭に人臭さが混じっていた。
「ここがオペレーター室ですね」
セナはそう言ってオペレーター室に入ると、端末を起動させ、複数のモニターに機体の概略図とダメージコントロールが表示された。その数値を見た瞬間、彼女は再び声を震わせた。
「伍長……いえ、ドレン技術伍長。このレッドホーンAP、基本パラメータがやはり異常です!
コアを無理やり後方に移したせいで、脚部の姿勢制御に常に限界近い負荷がかかっています。これでは歩くだけでエネルギーを浪費してしまいます!」
震える声で告げるセナに、ドレンはニヤリと笑った。
「へっ、開発部のエリート様たちが考えた【力作】だからな。
大佐殿は歩く分には問題ねぇと仰ったが……あのアカデミックな連中は、輸送能力を稼ぐためにバランスを捨て、電子兵装を剥いで重い実弾砲をねじ込んだ。
……おかげで俺たちの相棒は、歩くたびに悲鳴を上げるデブになっちまったってわけだ」
通常ゾイドの操縦はコクピットで行う、それにはゾイドコアに人の意思を伝達する手段として、操縦桿やペダル、操作パネルを組み合わせたコンバットシステムが用いられるが、大型ゾイドでは操作を分業化するためにオペレーター室が別で設けられていた。
セナはしばらく呆然とした後、唇を噛み、
「……了解しました。設計上の欠陥は、私の管理(コントロール)で可能な限り相殺します。最善を尽くします」と口にした。
「さて、俺はコクピットに行くか」
伍長が少尉にとる態度ではないのだが、ドレンはその場を後にした。
(まあ、さっきまで学生だったんだものなぁ)
レッドホーンAP内部の二階、前方方向にある重厚な扉を開けて、首の中にある通路を抜けると縦列複座の操縦席があった。
(複座ってことは、俺が操縦しても火器管制は別になる想定か?)
ドレンは懸念を抱きながら前席の電源を入れ、コンバットシステムを起動させる。
「ギギギ……ガガッ……!」
無理な重心移動と過積載に喘ぐ駆動系から、鉄と鉄が悲鳴を上げて擦れ合うような、重苦しいうめき声が機内に響き渡る。
≪グゥゥゥ≫
レッドホーンのコアも出力をあげていくが、漏れる声は重苦しい。
(まいったな。
こういう複雑な操縦はエリートさん用だろ!
……仕方ない、基本は自動迎撃にして操縦に専念するか)
操縦者一人でも確かに武器が使えるが、訓練なしで全てをこなすには難易度が高すぎた。
<いつまでちんたらしとる! 他の機体は既に出た、前線に物資を運べ!!>
無線通信で、オオムラ大佐からの檄が飛ぶ。ドレンがモニター越しに周囲を見渡すと、確かに他の三機は既に出口を抜けるところだった。
「了解。これよりレッドホーンAP、出撃する」
<健闘を祈る。……その図体だ、無理はさせるなよ、ドレン>
オオムラからの返答と共に、機体周囲の警告ランプが点灯した。
≪グルルォォ≫
レッドホーンの目が輝くと、低い唸り声が響く。
その声に追い立てられるように、残っていた作業員は道を作るように退去する。
Z.E. 428年 2月10日 午後1時00分
「ササツカ少尉、準備時間は無いようだ。何かあれば連絡してくれ」
<……了解。最善を尽くします>
機内放送でドレンが伝えると、セナから応答が入る。
「やれやれ。挨拶もろくにしちゃいないが……相棒、よろしくな」
ドレンはコンソールを軽く撫で、操縦桿を握り込んだ。
レッドホーンAPのゾイドコアがそれに応えるように出力を上げる。
無理な重心移動と過積載に喘ぐ駆動系が、鉄と鉄を擦り合わせるような重苦しい悲鳴を上げたが、それでも巨大な金属生命体は一歩、また一歩と力強く踏み出した。
牽引するトレーラーに勢いがつくと、時速20kmで格納庫を出る。背後で分厚い装甲板が重低音を立てて閉まった。
基地施設から北側に軍港があり、通常は国防軍の誇る艦隊がいるが、今は一個フロレシオス輸送艦隊とシンカー二個護衛航空隊が待機しているはずだった。
しかし輸送艦の機銃も利用しつつ、護衛艦は沖合でエネミーゾイドの【ボール】と【フナムシ】に挟まれ【ハエ】を相手に交戦していた。
エネミーゾイドの名前は、ゾイドを生物として扱う都合で人類が便宜上、旧地球の生物に準えて名付けたコードネームである。
フナムシは平たい金属の塊で、空を飛べない水陸両用エネミーゾイド。
モルガのように低い姿勢で、水中も移動する。
地上用の35ミリビーム砲と水陸両用のフォノンメーザー砲も脅威だが、近距離でのレーダーカッターに加えて、取り付くと自爆する厄介者だった。
ハエは飛翔型のエネミーゾイドで、20ミリ連装ビーム砲が主武装であるが、エネルギーシールドを装備しているので、地上から迎撃するのが困難で、急降下で爆弾の代わりにビームを落とす。
ボールは球状のエネミーゾイドで、フナムシとハエが小型ゾイド相当なら、ボールは大型ゾイド相当の指揮官型。
小回りが効かないが、球体側面に105ミリレールキャノンが一基の計二基、球体中央に小口径荷電粒子砲、電磁スクリーン、エネルギーシールドを持つ。
電磁スクリーンによって、レーダー探査、レーザー照準を無効化され、エネルギーシールドを展開しつつ接近され、荷電粒子砲でコロニーを破壊する危険な存在だった。
そんな相手にまだ交戦を続けているが、北部からフナムシが上陸し、第二防衛線の沿岸警備隊と衝突していた。
また、首都上空には東から飛来するハエが襲い掛かり、ブラキオス防空隊が対空砲を撃ちあげる。
そして、ドレンが向かう中央、西部では既にフナムシが上陸し、近衛師団と沿岸警備隊、義勇兵の混成部隊が圧力に負けて後退し始めていた。
<義勇兵は堀を作れ!
土砂は壁に使う。砂でも連中の砲撃を避けられる!!>
<こちらシーパンツァー第二連隊。
弾をくれ、ミサイルが尽きた!>
<ハエが降りてきている、防空隊なにやってる!>
無線から聞こえてくるのは、規律を失った怒声と罵倒だった。
(これT24は敵のど真ん中じゃねぇか。
指示貰って補給部隊に渡したら、とんずらしよ)
ドレンは内心で毒づきながらも、指示を仰ぐべく通信を入れる。
「こちら、第三九補給大隊レッドホーンAP。物資をT24に運搬中。責任者は応答願いたい」
途端に無線が静まり、驚愕の声が上がった。
<おいおい!マジで補給に来たのかよ>
<どんだけ持ってきた!
グランチュラのが無いとか言うなよ>
(あー、やべ混乱させちまったか?)
ドレンがそう考えていた時に、指揮官らしき相手が通信に出る。
<こちら第四連隊、連隊長ヨノミヤだ。補給に感謝する。
だが、T24は既に放棄した。
地点を、現在防備を固めているS26に変更されたい>
壮年の男性が通信越しで、そう伝えてきた。
(本当なら相手を確認するんだが、……ここは死線だから指示に従おう)
「了解した。
ハエが煩くてあと一時間は掛かるが、必ず届ける」
ドレンが少し格好つけてそう返した。
レッドホーンAPは、赤い塗装が目立ち周囲からもそこにいるのが解る。
当然ハエもそれを見つけて急降下を始め、レッドホーンの背面にある【七六式七糎半野戦高射砲】が自動迎撃を開始する。
お返しとばかりに、ハエの攻撃が装甲にあたるも、正面装甲にあたりダメージにはならなかった。
帝国から届いてわずか一ヶ月。
本来ならもっと時間をかけて心を通わせるはずだったが、敵は待ってくれなかった。
レッドホーンのコアが、慣れない魔改造の負荷と急な実戦に、悲鳴のような振動を上げて抗議する。
「悪いな相棒、だがやらないと此方がやられてしまうんだよ」
ドレンがそう言ってなだめるも、レッドホーンAPの動きは緩慢だった。
そんな、レッドホーンAPの攻撃は、エネルギーシールドで防がれ、三機のうち二機が上空に戻るも、一機を次の斉射で撃墜する。
上空に逃げる敵を、追いかけるシンカーが機体を揺らしレッドホーンの戦果を称賛する。
「なんか申し訳ないな……」
操縦桿を握り、大まかな攻撃指示しかだしていないのに、撃墜スコアがでてしまいシンカーのパイロットに申し訳ない気持ちになっていた。
Z.E. 428年 2月10日 午後2時15分
――アカツキ島S26地点
前線をシーパンツァーが固め、敵の所在をゲーターが探し、遊撃部隊としてグランチュラが動く、S26に最前線の野戦陣地が構築されていた。
少し下がると拠点周囲では民間ゾイドが、堀と土塁を築いている。
拠点になっていたのは、補給部隊所属のブラキオス。
ハエの攻撃を受け、擱座したそれを前線司令部にしていた。
戦況は押されているようで、情報が飛び交っている。
「ほんとうに来やがった!」
誰かの呟きだが、砲弾や火線の只中を重い足取りでトレーラーまで曳いて来ている赤い巨体はすぐ見つかった。
「何をぼさっとしている!
物資を下ろす人員を用意しろ!!
負傷者も帰る支度だ」
壮年の黒い髪をした男が、土にまみれながら周囲を叱咤する。
その言葉に、民間ゾイドに連絡を入れあつめながら、戦闘中のゾイドに補給する準備が始まる。
「少尉。
俺は操縦席を離れられないから、代わりに降りて挨拶してきてくれ、補給手順は向こうに任せる」
ドレンは周囲の様子から面倒になり、セナに押し付けた。
<しかし、私は……>
セナは学生であることと、軍教育を受けておらず、なにより男の集団に行くことを躊躇した。
「ワークスパイダーを連れて行っていいし、なにかあれば助けに行くよ。
ただ、敵の前で操縦席は離れられない」
ドレンは、不安気な表情から察したがそう言って押し切った。
ハッチが開き、セナが外に出たのを確認すると、遠巻きに敵が近づくのがレーダーに映った。
「……時間稼ぎならいいか」
《グルルォォ》
ドレンの呟きに同意するように、低い唸り声をレッドホーンがあげる。
レッドホーンAPの【全天候自己誘導ミサイルランチャー】から放たれるミサイルの着弾点を、二個集団に合わせて放った。
その後、【七七式十五糎加農】に榴弾を装填し、集団になっている所に等間隔で撃ち続ける。
遠巻きに、二発のミサイル効果範囲にいた三機のフナムシが撃破され、周囲にいたものもダメージで行動が遅くなっていた。
別の場所では、榴弾を受け撃破されなくとも、周囲のフナムシも含めて侵攻速度が遅くなり、シーパンツァーの集中砲火に沈んでいた。
――少し遡り
「私は国防軍技術工廠第三開発部第三九補給大隊レッドホーンAP付セナ・ササツカ技術少尉であります。
補給要請に従い、物資を届けに参りました」
レッドホーンAPの正面ハッチが降り、ワークスパイダーを従えて現れた少女に、周囲の将兵は唖然とした。
「先程の声の主とは違うな。
……私が第四連隊を預かっているヨノミヤだ」
ヨノミヤ大佐の鋭い眼光を前に、セナの顔が強張る。
その時、レッドホーンAPからミサイルが発射され、続けて七七式十五糎加農が火を噴いた。
「今のは?」
「……本機の操縦士、ドレン・アサクラ伍長です!
敵を前に操縦席を離れられないため、私が代理で参りました」
ヨノミヤ大佐の呟きに、セナは居住まいを正して答えた。
「なるほど、そういうことか」
セナの言葉を受けてそう呟くと、連絡兵がやってくる。
「U21とS20から、戦線の穴に支援砲撃を感謝すると第二連隊、第三連隊から連絡が入っています。
それと、第二連隊が体制を整えるためZ25まで後退すると」
通信兵はそう伝えると、直立不動になる。
ヨノミヤの顔は最初驚きと喜びだったが、最後は怒りの形相になっていた。
「Z25だと? まったくコロニーを背後にして逃げ場など無いぞ、あのバカ。
……第二連隊には我々と合流するように伝えてくれ、補給も来ているとな」
ヨノミヤの言葉に、連絡兵は走り去る。
「さて、補給物資の荷下ろしは始めてもいいのだろうか?」
ヨノミヤは優し気にセナに尋ねた。
「勿論です。
トレーラーの装甲コンテナに弾薬、補修資材。
レッドホーンAP内に水、食料、医薬品、……こちらが明細になります」
従兵が受け取ろうとしたら、先にヨノミヤがそれを手に取る。
「……充分だ。
早速取り掛からせよう。
荷下ろしの後はどうするのかね」
「負傷者を連れて帰還した後のことはわかりません」
ヨノミヤの言葉に、セナは正直に答えた。
「では、また補給要請を名指しでさせてもらうとしよう。
受けてくれるかね」
「はい」
補給物資の明細に目を細めると、にこやかに頷き注文を付けると、セナは普通に返事をした。
周囲がぎょっとしたが、ヨノミヤが笑うと安堵した様子で作業を再開する。
その間も、レッドホーンAPの対空攻撃や対地攻撃支援は止まらなかった。
レッドホーンAPが荷下ろしを始めて一時間が経った頃、荷物の代わりに負傷者が運ばれ、コクピットにいても血の匂いが漂っていた。
(砲身の放熱まであと少しか……敵が多いな、ん……あれ?)
ドレンの目に、レーダーに存在しない巨大な物体が視界に入った。
反応はすぐに消えたが、奇妙だとカメラで見える最大望遠の距離にあるものを見ると、【ボール】がいた。
ボールは名前の由来通り球体であるが、強力な電磁スクリーンと装甲、長射程の荷電粒子砲を備えた厄介な怪物である。
「こちら補給大隊レッドホーンAP。
本機より最大望遠にて大型エネミーゾイド【ボール】を目視確認、ボールはこちらに対して旋回中、これより本機の全力砲撃を開始する。
作業中の者は注意されたし、あとササツカ少尉はオペレーター室に戻ってくれ」
機外放送で、ボール接近の報と本機が砲撃を行うことを告げた。
その間にも、ハエの対処と物資搬出、搬入状況、残弾確認も行っている。
ドレンは、ササツカ少尉が戻るまでの間に機体の向きをボールへとゆっくりと動かし、主砲に特殊徹甲弾を装填する。
まもなく、ササツカ少尉がコクピットに現れる。
「お待たせしました」
「ササツカ少尉。
後ろの席についてくれ、機体の制御なんかは俺が面倒をみるから、火器管制を頼む。
弾種は特殊徹甲弾、10発。
敵は電磁スクリーンを展開し、こちらの自動照準は使えない。
ナナ式(ナナしき)の有効射程は約26000m、敵との相対距離25000、余裕で有効射程圏内だ。
最大望遠で映した相手の中心点、特に荷電粒子発射口を目視で狙ってくれ」
「わかりました」
セナに指示を出すと、砲身に電圧をいつもより多く掛ける。
「ナナ式カノン、発射用意良し!」
すべての準備が整ったと、宣言する。
じりじりと、無言の時間が過ぎる。
旋回しながらも接近してきているボールに、他からも攻撃を加えている様子で、その攻撃が薄い青い膜に防がれていた。
「ナナ式カノン、発射!」
汗を滝のように流しながら、数分前の自分が想像していなかった事態にササツカ少尉が躊躇していると、ドレンの声がコクピットに木霊した。
それに合わせ、セナは照準を合わせてあった【七七式十五糎加農(52口径150mmキャノン)】を撃ちだした。
一発目が逸れた後、三発目で薄い膜を大きくゆがませ、五発目で貫通する。
そこからは、吸い込まれるようにボールの装甲をノックする。
「残弾ゼロ……。あ、ええと、次発装填(リロード)を要求します!
ドレン伍長、次、早くっ!」
セナの悲鳴に似た声が響く。
「榴弾を装填する。
残弾24発撃ちまくれ」
ドレンが操作し、機体の弾倉から徹甲榴弾が装填される。
「装填確認!
照準規正(ボアサイティング)完了。次弾、斉射(サルヴォ)に移行します!」
興奮しているのか、セナは射撃体勢が整うと、ボールに空いた穴に榴弾を撃ちこんだ。
その時、ボールから小口径荷電粒子砲が放たれ、レッドホーンの左側面を焼く。
遅れて、後方のトレーラー付近で爆発を起こした。
《ギャルルグォオオ》
レッドホーンは苦しみを吠えて伝えるが、その足は崩れずに踏みとどまる。
ゾイドコアが加熱しているのかコアの動悸がコクピットを揺らし、レッドホーンの荒い呼吸(排気音)が伝わる。
「左舷、装甲表面温度が規定値を突破(オーバーヒート)! ゾイドコアの共振係数も危険域です! ドレン伍長、この子、もう泣きそうなくらい熱くなってます……っ!」
後部座席からセナの絶叫のような報告がコクピットに響く。
「頼むぜ相棒、少し耐えてくれ」
ドレンは操縦桿から伝わるレッドホーンの苦しげな脈動を宥めるように呟いた。
最新のビームは撃てずとも、この重厚な質量弾(実弾)だけは、金属砂の嵐の中でも裏切らない。
それらの対応と咆哮の少し後、レッドホーンの姿勢が安定化したタイミングで、撃ち放たれた榴弾が、発射直前の荷電粒子砲の砲口へと吸い込まれるように着弾した。
内部でエネルギーが暴走し、球体のエネミーゾイドは内側から弾け飛んだ。
金属砂で光学兵器が減衰する中、質量弾だけが物理的な破壊力を維持し、かの敵に対して有効な攻撃手段と証明された瞬間だった。
金属砂が舞い、最新の光学兵器が減衰・屈折するこの星の戦場において、愚直なまでの質量弾(実弾)だけが、絶対的な物理破壊力を維持していた。
「ハッ、教科書通りにいかないのが戦場だ。なあ、少尉?」
ドレンの言葉に、セナは計算外の戦果を前にして、ただ喉を鳴らすことしかできなかった。
20km離れた場所でも判る大噴火が夜空を焼き、数瞬の静寂の後、遅れてやってきた衝撃波がレッドホーンの装甲を激しく叩いた。
その衝撃が伝わるより早く、機体はセンサーの警告音を待たず、本能的に脚を踏ん張って身を縮めた。
機械の自動制御ではなく、生き物としての防衛本能がドレンの操作に先んじたのだ
爆発の余韻が消え、外では歓声が上がる。
「砲は冷却中だが、弾はもうない。
移動可能な状態にあれば問題ないだろう」
「……了解、しました。私も、異常ありません」
本来は少尉であるセナが伍長のドレンに報告すべき場面だが、今の二人にはその逆転が自然だった。
(なんとか生き残ったか……)
荷電粒子の光を見た時にかいた嫌な汗を拭い、ドレンは安堵の息を吐いた。
静寂が訪れたコクピットに、外部ハッチが開く重低音が響いた。
「ご苦労だったな。ドレン・アサクラ伍長、それにササツカ少尉」
いつの間にか、ヨノミヤ大佐がコクピットの入り口に立っていた。
土にまみれた軍服のまま、彼は満足げに頷いている。
「ご挨拶が遅れ申し訳ありません!
第三開発部第三九補給大隊、ドレン・アサクラ伍長です!」
ドレンは弾かれたように立ち上がり、慣れない敬礼を捧げた。
「皇室近衛第四連隊、連隊長のヨノミヤだ。
……あの【ボール】を実弾で仕留めるとはな。救援に感謝する」
そう言って、大佐はドレンの肩を叩いた。
その後、確認された被害は深刻だった。
ボールの荷電粒子砲はトレーラーの外装をドロドロに溶かし、積載されていた予備弾薬の一部が誘爆。
トレーラーは装甲コンテナの形を留めているものの、荷台が歪み、自走(牽引)は不可能な状態となっていた。
幸い、負傷者をレッドホーンAPの強固な装甲内に収容していたため、人的被害が最小限に抑えられたのは奇跡と言えた。
「本部に問い合わせたのだが、資材を取りに来るなら、追加の補給は可能だそうだ。
……機体の被害も深刻だが、伍長、また頼めるかね?」
ヨノミヤ大佐は、ドレンの顔を覗き込むように尋ねた。
(いや、こっちはボロボロなんだ。
戻ったら即整備だし、丸一日は休ませてもらうぜ……)
ドレンは内心で毒づきながらも、大佐の眼光に押されて言葉を飲み込んだ。
「……了解しました。多少の整備は必要ですが、歩く(運ぶ)だけならやれるでしょう」
「そうか。
ならば、ついでにと言っては何だが、擱座していたブラキオスの帰還支援を頼む。
ようやく修理が終わったところでな。……実は、あれには私の娘が乗っているのだ」
フナムシ×7個集団=4小隊*6機*7個集団=168
ハエ×6個集団=4小隊*6機*6機=144
第一連隊 本体+3中隊(シーパンツァー×6)×4=24
第一から第四で96機
絵図で工夫できればもう少し数が解るようにします。