目的の場所まで来たドレンが見渡すと、大型ゾイドが並ぶ中に、それらと比較して一回り以上も小柄な、水陸両用のヤドカリ型ゾイド【シーパンツァー】があった。
そのシーパンツァーの近くにいた研究員とドレンの目が合う。
「多分あれじゃないか?」
ドレンがそう言いながら、セナに指を指して教える。
「多分そうですね。
行ってみましょう」
その言葉で、セナとドレンはゾイドが犇めく中を進んでいった。
「私は、第一開発部兵器開発課クラモチ大尉だ。
失礼ながら、セナ・ササツカ少尉かな?」
「はい。
私がセナ・ササツカ少尉であります大尉」
セナは、初対面の大尉がいきなり自分を指名して声をかけてきたことに驚いた。
「驚かせて申し訳ない。
私は技術士官として技術部に入ったが、同じ年にアサクラも居てね。
話にも聞いていたから、彼と連れ立っていれば、消去法で君がササツカ少尉だと分かったんだよ。
……もっとも、彼は全ての開発部を梯子しているから、我々研究者にはあまり受けが良くないんだがね」
「おしゃべりが過ぎるのでは大尉殿?」
ドレンが呆れたように割って入り、苦虫を潰したような顔のクラモチを制した。
「少尉は機体受領と説明を受けに来たのですよ」
「うん、まあ確かにそうだな」
クラモチはそう言うと、近くにいた部下と思われる男に合図を出し、シーパンツァーに掛けられていた布を剥ぐ。
現れたのは、赤黒い装甲色の分厚く硬いカニ爪のような超硬度マニュピレーターと、水中翼、地上では足となる脚部。
本体は黒光りする半円の外殻に覆われている。
そして、見慣れない装備がついていた。
「これが、シーパンツァー重砲型だ。
大きな差として、【大出力ビーム砲】から実体弾の【七六式七糎半野戦高射砲】に換装、自動装填装置と弾倉も専用に開発し、水中使用も問題ない。
【三連装魚雷ポッド】は、【七八式三連装誘導魚雷ポッド】に換装、搭載可能弾種は【ホーミング魚雷】と、【七八式水陸両用誘導魚雷】になる。
これまでの魚雷では水中戦だけに対応していたが、これで地上戦でもこの武装が運用可能になる。
機体の両側面中央部に、側面ウェポンベースを取り付け、電磁ブースターとマクサー二〇ミリビーム砲を装備した。
この電磁ブースターで重武装化による重量増加分を地上・水中の両面で補填している。
コックピットは、水密仕様に換装し、上部と前方に増加装甲を追加した。
専用設計にしたことで、共通コックピットでは収まりきらなかった独自の火器管制システムを組み込んである」
クラモチはそこまで言うと、セナを見た。
「シーパンツァーは、確かに水陸両用ですが高射砲は必要なんですか?
あと、七八式三連装誘導魚雷ポッドは弾倉交換式でしょうか?」
「まず、高射砲の話をしよう。
我が国の主力はシーパンツァーだが、対空能力を持った装備は、【十二連装小型ミサイルランチャー】だけだ。
そして、他の陸上運用する機体の開発を第三開発部が遅らせたおかげで、ブラキオスが防空を担う始末となっている。
そこでだ、量産されているシーパンツァーに第三開発部が試作した高射砲を装備すれば、煩いハエを落とし、後方から砲撃で前線を支援する優秀な支援機になると考えたわけだ。
あとは、七八式三連装誘導魚雷ポッドの件だな。
これは装填式となっている。
比較評価中のホーミング魚雷ランチャーは弾倉交換式だが、今は他の者がつかっているから換装は無理だ」
「ありがとうございます」
クラモチの話を聞くと、セナはどうしようかと悩んでいた。
「とりあえず、乗って火を入れたらどうだ。軽く動かして稼働確認すればいい。
受領証のサインもそのあとだ」
「そうですね……。クラモチ大尉、機体に上がって稼働確認をさせてください」
ドレンの促しに、セナは意を決したように顔を上げた。
「ああ、勿論だ」
クラモチはシーパンツァーHの側面に内蔵された昇降用ラダーを引き出すと、先に上甲板へ上がり、セナがそれに続いた。
ハッチ上部の灰色の装甲が前方に跳ね上がると、その下に厳重な水密ハッチが姿を現す。
促されるまま、セナがハッチを開いて内部へ滑り込むと、そこは外部を直接見る窓が一切ない、密閉されたモニター室のようだった。
全周囲モニターが、沈黙したままセナを取り囲んでいる
「マニュアルは渡すから一度みてくれ」
クラモチがそう言うと、ハッチを閉じて自分は機体から降りる。
「これがシーパンツァーのコクピット」
セナは呟くとマニュアルを開きながら、慎重に触れていった。
「まだ根に持っているのか?」
クラモチが、機体を観察していたドレンに声を掛けた。
「よろしいのですか大尉、今は引き渡し中では?」
声を掛けてきたクラモチに、表情を変えずにドレンは返した。
「はぐらかすなよ」
「はぁ…………別に根には持っていない。
技術部に入って、ゾイドに触れて有頂天だった俺が招いた結果だ」
クラモチの言葉に、少し間をおいてドレンは遠い目をして言った。
「帰ってくる気はないのか?」
「それは出来ないな、小さいが妙なプライドとかあるし、恥の上塗りはもう沢山だ。
ただ、心残りは減らしておくかな。
少尉の事しばらく頼めるか、ちょっと会いに行ってくる」
クラモチは自分の問い掛けに、真剣に返すドレンを見ていた。
「わかった。
なにか手伝うか?」
「大丈夫だ。
それより適当な所で少尉を休ませてやってくれ」
クラモチの問い掛けに、ドレンはそう言ってその場を後にする。
(まったく嫌な奴にあった。
正義感が強くていい奴なんだがなぁ)
その後、ドレンは第一開発部の因縁じみた相手といた。
「いきなり訪ねてきたと思ったら、どういうつもりだ!」
その男に連れられ第一開発部の研究フロアの一室に来ていた。
そして第一開発部のトシキ・ヒラサワ大佐がドレンの前にいた。
彼はグレーの髪に青緑色の隻眼の男で、ツナギにシャツを着ているが暑さから大きく気崩しており、先程まで整備に走り回っており濃い茶色の肌が覗いていた。
「ヒラサワ大佐。……二時間後に北部へ出撃します。
死ぬ前に、あの時のことを謝罪しに来ました。自分なりの、ケジメです」
ドレンが深く頭を下げると、ヒラサワの拳がその頬を跳ね上げた。
「ふざけるな! 死にに行くからと、一方的に終わらせるつもりか!」
荒い息をつきながら、ヒラサワは隻眼でドレンを睨みつけた。
「……俺も忙しい。生きて戻れ。その時に、たっぷりと話を聞いてやる」
殴られた痛みと共に、ドレンは皮肉にも少しだけ心が軽くなるのを感じていた。
(はぁ、俺もなんでこんなことしたんだか……。
一般兵で入った俺でもやれると信じて、技術者として、ゾイドの【声】をもっと近くで聞きたかっただけなんだがな)
ヒラサワが立ち去るのを目で追いかけながら内心で愚痴る。
「……ちっ、相変わらず重てぇ拳だ」
ドレンは腫れ始めた頬をさすりながら、休憩室へと向かう。 謝罪などというガラにもない真似をしたが、不思議と足取りは、基地に滑り込んだ時よりも軽くなっていた。
Z.E. 428年 2月11日 午前2時00分
第三三整備格納庫に、ドレンが顔を出すと
人が集まっていた。
「おう、若造。
ちょうどいい時に来たな。
少しはいい顔になったじゃないか」
オオムラ大佐は、ツナギ姿でドレンに声を掛ける。
「ご心配をおかけしました」
ドレンはそう言って敬礼する。
「やめい、気持ち悪い。
そうだ、レッドホーンAPの整備は終わっているぞ、出る前に見ておけ。
……まったく、お前ら集まれ」
心底嫌そうにオオムラはドレンに返すと、様子を伺っていたセナや周囲にいる者を呼び寄せる。
「お前らの小隊長になるセナ・ササツカ少尉だ。
そして、ササツカ少尉。
今日からお前の隊に入る隊員を紹介してやる。
手前から、ヨウコ・イザワ伍長。
徴兵された後、個人所有のグライドラーを第二開発部で戦闘用に改造していたそうだ」
紹介されたのは、長い黒髪に薄緑の目と肌を、恥ずかしげもなく晒している少女だった。
「よろしくな。
……こんな空に飛ぶなんて、あたしも終わりかなぁ」
ぶっきらぼうに挨拶をすると、愚痴がこぼれた。
「次はアカネ・ナシザキ。
沿岸警備部隊に所属していたが、薬物取引で捕まり、司法取引で小隊に入ることになる。
階級は二等兵、乗機はブラキオスとなる」
薄青い肌から海族とわかるが、黒髪を嫌うように、髪全体を冷たいアイスブルーに染め上げている。
セナやヨウコのような乳臭さが無く、成熟途中の二十代であろうと見てとれ、胸の膨らみも大きかった。
ただ、首には逃亡阻止を目的とした首輪があり、武器の隠匿を防ぐためほぼ下着姿で、私物の着用すら許されない。
それが【司法取引】という名の強制労働の現実を見せつけていた。
「……よろしく」
アカネは一言いうと黙り込んだ。
「さて、もう時間は無いから細かい説明は事前に話したから移動中に、ササツカ少尉かアサクラ曹長から聞けばいい。
まず、物資だが装甲トレーラーは在庫が切れたから、整備用トレーラーに食料や水を乗せて、弾薬はレッドホーンAPに積んである。
移動中攻撃を受けても、レッドホーンAPの装甲なら耐えられるだろう。
それと、中隊の件だが臨時として本来なら五つめの開発部の部隊コードを割り当て五〇一中隊としてササツカ少尉に中隊長を務めて貰う。
アサクラ曹長は副長を務めるように。
首都防空隊のブラキオスから三機の小隊、あと沿岸警備の生き残りをかき集めた小隊の三小隊編成となる。
目的地には、編成中の本隊が向かうのでそれまでに陣地構築と防衛をするように」
オオムラがそういうと、セナに視線が集まった。
セナがドレンを見上げて頷いた。
「セナ・ササツカ少尉。
五〇一中隊、拝命いたします」
セナはそう言って、オオムラに返した。
「それでは、全機出撃せよ!」
そのオオムラの檄で全体が動き出した。
「ササツカ少尉、イザワのグライドラーは先行させずにトレーラーに乗せよう。
少尉とナシザキがトレーラーの脇を固める形で進みたいがどうだ?」
<わかりました。
私もあの群れの中に、突っ込ませるのはどうかと考えていたので>
ドレンが、セナに意見を伝えるとそれに同意がすぐに返り、先に出ようとしていた、ヨウコのグライドラーが整備格納庫の入り口で止まっていた。
<え、まだ出なくていいの?>
ヨウコの呟きが、隊内無線から漏れていた。
Z.E. 428年 2月11日 午前2時30分
地下格納庫からレッドホーンAPを先頭にして、基地内に出てくる。
重苦しい音を立てるトレーラーには、水鳥型ゾイドグライドラーが乗っており、遅れて出てきたブラキオスとシーパンツァーHが脇を固めた。
基地施設の出口には、ブラキオスとグランチュラ、ゲーターが集まっていた。
<こちら陣地構築に向かう五〇一中隊。
中隊長のセナ・ササツカ少尉です。
支援の小隊でしょうか?>
セナが相手に呼びかける。
<そうだ、〇四一、〇四二沿岸警備隊の残存部隊、俺はこの部隊を預かるアキオ・ヒナダ曹長だ。
編成はグランチュラ三機、ゲーター一機>
<了解、暫定で沿岸警備小隊と呼称します>
<わかりやすいな、了解した>
セナが沿岸警備小隊の隊長と話を付けると、別の者からも連絡が入る。
<こちらは首都防空隊から選出されたブラキオス三機の小隊だ。
小隊長は私、ムウ・クルゼ曹長だ>
<了解しました。
暫定で、防空小隊と呼称します>
<了解した。
我々もわかりやすくていいな>
三つの小隊が合流した後、沿岸警備小隊が前方警戒、防空小隊が最後尾となる隊列で中隊が移動を開始する。
<なあ、アサクラ曹長。
今回はどういう段取りで進んでいるんだ?>
ヨウコが、隊内通信でそう尋ねてきた。
(ここで少尉に答えさせて、しどろもどろになられちゃ困る。
……ここは俺が【現場の知恵】として被せておくか)
「首都の北部、軍港のある方向からフナムシが南下している。
まだ、軍港の制圧が終わっていないからだろうから進行速度は遅い。
なので、基地から一時間およそ20kmの位置に防衛拠点を作り、後続の本隊が来るまで防衛するわけだ」
ドレンは、状況を整理しながら説明する。
<それで、防衛拠点はどうやって作るんだ?
俺らも編成されただけで、指示に従えとしか聞いてなくてね>
隊内通信に割り込んできたのは、沿岸警備隊のヒナダだった。
会話の最中にも、空を飛ぶハエに向けて対空砲が断続的に吠え、ブラキオスやレッドホーンの機体をわずかに震わせる。
<我々も、同じだ。
できれば教えて貰いたい>
そう言ってきたのは、クルゼだった。
モニター越しにセナも聞きたがっている様子だった。
「俺が引いている整備トレーラーを防衛拠点中心として、正面にレッドホーンAPを配置すれば設営時間を短くできる。
トレーラーの周囲に防空隊、正面にシーパンツァーHとブラキオス、直掩にグライドラー。
沿岸警備隊は作業と海岸線側の配置だろうか?
そのうえで、小型ゾイドの防御として海岸線側の土塁を築ければいいが、後は場所の問題だな」
<そうですね。
配置は状況に合わせ現地で再確認するとして、その方法で行きましょう>
<それなら、俺らが海岸線側に土塁作るか?>
<作業や機動性を求められても困るところだったが、そういう話なら私達も問題ない>
ドレンの考えに、それぞれが納得し話が進んでいった。
Z.E. 428年 2月11日 午前4時00分
臨時編成の五〇一中隊は、予定よりも少し奥のエリアAB18まで進めていた。
これは基地司令部からの指示で、軍港から退去する味方部隊の撤退支援を目的としていた。
この撤退の殿をしているのは第三九補給大隊の第三中隊第一支援小隊のレッドホーンAPという事も知らされていた。
「この辺でいいだろう、防風林造成地で土塁代わりになるし、これ以上進むと戦場に突入してしまうぞ」
<確かに場所もちょうどいいですね。
私は司令部に連絡するので、トレーラーの切り離しと、レッドホーンAPから荷物を運び出してください。
防空隊とイザワ伍長のグライドラーは防空をお願いします>
ドレンがそう言うと、セナはあらかじめ話していた手順を指示する。
「了解した。
トレーラーを切り離すが、沿岸警備隊の視点から見てこの位置で良いだろうか?」
<問題ないだろう。
どっちに寄せてもハエは落ちて来るし、海岸線迄の距離もあるうえ、防風林もある>
ドレンの問い掛けに、ヒナダはそう返した。
「了解した。
トレーラーの牽引を解除する。
ヒナダ曹長、俺は荷物をトレーラーに運び出すから、あとは頼んだ」
<わかった。
出来るだけ早くしてくれよ>
ドレンがコクピットからの操作でトレーラーとの牽引装置を解除し、ゾイドとトレーラーの間に空間をあける。
そして、後を沿岸警備隊ヒナダに任せて、全ハッチを開放して操縦席を離れる。
(やっぱり一人で扱うモノじゃないよなこれ)
心で愚痴りながら、オペレーター室から搭載してきたワークスパイダーのうち、待機中の機体に起動を指示する。
「ワークスパイダーは荷物をトレーラーに運び出してくれ」
ドレンの指示を受けたワークスパイダーは、弾薬をパレットごとレッドホーンAPの外に運び出すとトレーラーに向かう。
その様子をドレンがオペレーター室と格納庫を行き来し、自分の目で見ながら進捗を確認する。
ドレンはワークスパイダーに指示を出しながら、ふと、下着に近い恰好のまま機体の影で待機していたアカネに目を止めた。
その視線に気づき、アカネは首輪をなぞりながら、表情を消してドレンを見返す。
「……アサクラ曹長。何かご命令でしょうか」
ドレンは無言でレッドホーンAPの予備備品箱をあさると、油汚れのひどい、だが厚手のツナギを一着、アカネの足元に放り投げた。
「着ろ。……現場じゃ、その薄っぺらな布切れ一丁で火花を浴びれば即座に戦力外だ。中隊長殿に、初陣で負傷兵の世話なんて手間をかけさせるな」
「ですが、私は司法取引の身。私物の着用は……」
アカネが戸惑うと、ドレンは周囲の兵士たち(沿岸警備隊など)に聞こえるような、わざとらしい大きな声で吐き捨てた。
「これは貸与品だ! 陣地構築が終わるまでのな。
終わったら、洗濯して俺のところに返しに来い。
……汚れが落ちてなきゃ、代金は貴様の給料から引いておくからな」
ドレンのその露骨に【厳しい上司】を装った物言いに、周囲の兵士たちは「へっ、アサクラ曹長も人使いが荒いぜ」と笑い、それ以上関心を持たなくなった。
(……貸与、ですか)
アカネは、ドレンが自分に「言い訳」を与えてくれたことを悟った。 ただの優しさではなく、軍律を逆手に取った保護。彼女は黙ってツナギを拾い上げると、首輪が隠れるように深く袖を通した。
「……了解しました。作業後、必ず返しに伺います。曹長」
南の島で暑苦しいなか飛行服をはだけていたヨウコは慌ただしく着込み、ゴーグルとヘルメット、マスクをつける。
「こちら、イザワ。
グライドラーは偵察のため、離陸します」
<了解。
無理はしないでエネミーゾイドの位置が分かればいいので>
セナはそう言ってヨウコに返した。
<なんて電波障害だ、うちのゲーターが電子戦を仕掛けられていると対応しているが、巻 き上げられた砂で普通の機体じゃ、レーダーに映りもしねぇ>
沿岸警備隊のヒナダからそんな愚痴がこぼれた。
<……グライドラーとの通信に考慮して少しゲーターを前進させて、レーザー通信の中継をお願いします>
セナがそう言ってゲーターを動かす。
<ハエにたかられたら高度を落として、直進しないように俺たちの所に来てくれ、ハエを 落としてやる>
ブラキオス防空隊のクルゼからも励ましの通信が入った。
「了解。
グライドラー離陸!」
目標地点についてから、トレーラーから降りていたグライドラーが飛翔した。
すぐに高度が5000mに到達するが、周囲にいたエネミーゾイド【ハエ】はそれを見逃さなかった。
「やっぱりハエばかり!
ええと、地上の様子を……」
3700mから7000mの間でハエの攻撃を小さな旋回飛行で逸らしながら港側に向かい様子を探る。
「ササツカ少尉、最大望遠での映像を送ります。
ノイズが多くレーダー系は殆ど役に立ちませんが、熱センサーの反応では港から接近するなにかがあります」
<了解、映像確認しました。
やはり距離があるとノイズがひどいですね……運び出しを急ぎましょう。
念のため、レッドホーンAPの右側に私が、左側にブラキオスをもう配置してしまいます。
よろしいですね?>
ヨウコの通信を受け取ったセナは映像を見てそう判断すると、指示を出した。
<了解した。
沿岸警備隊は、念のため追加の土塁構築中だが、ゲーターには電子戦を継続して頼んでいる>
<我々も異存ない、イザワ伍長。
もう少し旋回をゆっくりとしてくれ、【ビームキャノン】が狙いにくい>
続く沿岸警備隊と防空隊から聞こえてくる話に、ヨウコは冷や汗をかく。
(ふざけんな!
尻掘られそうになってんのに!!
アタシら【風の民(シルフィード)】の身体じゃなきゃ、こんな加速で内臓が破裂してるよ!!)
港側から味方の上空へと戻ったヨウコは、後方からの火線に当たるまいと、機体を旋回させ小回りの良さで、三機のハエを凌いでいた。
そんな中、地上から放たれた火線がハエ二体をしとめる。
<無理をするなよ。
我々も支援する>
防空隊からまた通信が入り、ヨウコは素直に喜んだ。
「ありがとうよ」
そんな中、港の方から激しい閃光が発生する。
グライドラーの操縦桿を操作し、港へと視界を広げた。
そこには、つい先ごろまで避難してきた人々も、殿を務めていたはずのレッドホーンAPも存在しておらず、砂がガラス化したのであろう光の反射と、港だった施設が倒壊する姿があった。
(うそじゃん・・・)
ヨウコは、速力をあげて港へとグライドラーを急がせた。
<イザワ伍長、何があったの!
すごい光があったけど>
セナの焦ったような声が無線から聞こえる。
他にも似たような声が隊内で飛び交う。
<落ち着け、おそらくボールの荷電粒子砲だろう。
少し前に撃たれたからな、察しも付くさ。
……大方、港ごと【掃除】されたか。どのみち、俺たちがやることは変わらねぇよ>
少し遅れて無線に入ってきた声は、落ち着いていた。
不思議と冷静になったヨウコは、見たままを報告した。
「港は、何かの攻撃を受けて崩壊しているのが見える。
熱反応は真っ赤で役に立たない。
映像だけだとなにも……どこにも見えない」
<了解した。
よく教えてくれた。帰ってきて直掩を頼む。
あと、ボールが見えたら教えてくれ>
アサクラ曹長の声だとヨウコが気が付いた時には、話は終わっていた。
(ボール、丸いのだったはず。
多分いない、洋上かな)
そして警告音が鳴った。
新たなハエ三機が寄ってきて、ヨウコは四機に追いかけられる。
「後ろに武器がないのはなぜなんだよぉ!」
叫びながら、ヨウコは反射的に操縦桿を蹴り飛ばすように操作した。
(死ぬもんか、あんなスカした年下の大尉や、食えない曹長より先に死んでたまるかってんだ……!)
その絶叫に近い、必死な通信をスピーカー越しに聞き流しながら――ドレンは一度、コクピットへと戻った。
(荷物の運び出しは、このまま任せてもよさそうだ)
搬出状況を確認していたドレンは、計器類の状態をチェックし始める。
その後、思い出したくない荷電粒子の光を見てドレンの頭に港が撃たれたのだと確信した。
焦るセナの後を引き継ぎ、ヨウコに状況を聞くと予想通りだった。
「ボールによって港を破壊されたのは痛手だが、そもそも放棄が決まっていたし、ボールの荷電粒子砲は再チャージにとても時間がかかる。
慰めにしかならんが少なくとも、すぐに俺達が撃たれる心配はなくなったとそう考えよう」
ドレンは無線越しで委縮しているであろう面々にそう言った。
<すみません、取り乱しました>
セナはそう伝えてきた。
「気にするな、問題は敵の出方だが、おそらくフナムシも荷電粒子に巻き込まれているはずだ。
近くに来ればイザワ伍長から連絡が入るだろうし、レッドホーンAP、ゲーターでも捕捉できるはず。
陣地を維持して、もうしばらく待とう」