Z.E. 428年 2月14日 午後6時00分
肌にへばりつく軍服の感触が、どうしようもなく不快だった。
日中の作業を終えても、このアカツキ島を支配する熱気は一向に引く気配がない。
瓦礫の山と化した廃墟での野営は、過酷の一言に尽きる。
亜熱帯特有の湿った風が肌にまとわりつき、日中に蓄積された輻射熱が、夜になっても容赦なく私たちを焦がしていく。
増員された整備班のための天幕内は蒸し風呂状態で、兵士たちは絶え間なく流れる汗を拭うことさえ諦めかけていた。
そんな中、多目的トレーラーと共に持ち込まれた【レッドホーンC】の居住性は、この極限環境において別世界のようだった。
「これはすごいわ! 外とは天国と地獄の差ね!」
レッドホーンCのオペレーター室。
アヤメ・フジエダ中佐の声が弾む。その横では、妹のカエデ少佐も感心したように頷いていた。
「ここなら執務も滞りなく行えそうです。
ねえソウエンジ少佐、今夜はここを使わせてもらってもいいかしら?」
強力な空調設備によって冷やされた快適な空間に、二人は安心したような表情を浮かべている。
上官である彼女たちが、泥と汗にまみれた外の世界から離れ、安らぎを求めるのは当然のことだ。
……けれど、その悪気のない明るさが、今の私には酷く息苦しかった。
(……やめて)
胸の奥で、黒い澱のような感情が渦巻く。
彼女たちの背後にある【政治】の匂いが、私を苛立たせる。
第四開発部が新設される第五開発部に私を差し出したのは、あなたたち情報部を牽制するための【防諜】名目の人身御供だ。
厄介払いされた元・天才研究者。それが私の正体。
「……了解いたしました」
私は意識して、感情を押し殺した声を出す。
「では、お二人が使用できるようセキュリティ設定を変更します。機密保持の手順がありますので、数分ほど外でお待ちいただけますか」
「ええ、分かったわ。よろしく頼むわね」
アヤメ中佐たちは疑うことなく頷き、足取り軽く通路へと出て行く。
私は重厚な防音扉のスイッチを押し、二人の姿が見えなくなるのを待ってからロックをかけた。
閉ざされた扉の向こう。
モニター越しに見る二人の背中は、残酷なほどに屈託がなく、楽しげだった。
(……無能な指揮官だと、笑いたければ笑えばいい)
開発室に籠りきりだった私に、部隊指揮のノウハウなどあるはずがない。
それでも、私はここに立つしかないのだ。
かつて開発方針で揉めた時、泥をかぶって私を守ってくれたあの人のように。
私はただの捨て駒では終わらない。
あの人と一緒に這いつくばってでも生き残る。
天才・クロエの名を、こんな掃き溜めで終わらせたりはしないんだから。
数分後。私はセキュリティ設定の変更を終えた(という体裁で)ハッチのロックを解除し、アヤメ中佐たちを再び招き入れた。
その後、私はレッドホーンCの生活用水を入れ替えるため、人の気配がない海岸線へと機体を移動させる。
Z.E. 428年 2月14日 午後6時00分
同刻、港郊外の砂浜――。
第五開発部の拠点予定地、通称「旧第三貯蔵区画の廃墟」。
崩れ落ちたコンクリートの残骸と錆びついた鉄骨の墓場から、ドレン操る【レッドホーンAP】は【複数のモルガ】と共に、生活用水を入れ替える給水任務を受け、人の気配がない海岸線へと移動していた。
通常ならただ排水するだけの【古くなった水】だが、真水の貴重なこの世界において、基地施設もないこの場所では、天からの恵みにも等しい資源だった。
巨大な角を持つ深紅の恐竜型ゾイド、レッドホーンAP。
その巨体が、足を立たせたまま止まっている。
その腹の下、太い後脚の隙間から、白い湯気が立ち上っていた。
「……よし、循環ポンプ接続完了。排水弁、開放」
ドレン・アサクラ特務少尉は、愛機の後部にある腹の下でスパナを回し、装甲板の下に隠れていたパネルを開けると、レバーを操作し満足げに頷いた。
ボシュウゥッ! という排気音と共に、レッドホーンの腹部ハッチから伸びたパイプの先――即席で組まれたシャワーヘッドから、勢いよく湯が噴き出す。
「おぉっ!
すげぇ、本当にお湯だ!」
「ドレン様、マジですか!
ここでシャワー浴びれるんですか!?」
その光景に歓声を上げたのは、奴隷兵のハンス・クラフトとフリッツ・ヴェーバーだった。
一日中、瓦礫撤去と整備で泥と油にまみれた彼らにとって、それは砂漠のオアシスにも等しい。
だが、ドレンは釘を刺すように、パイプの根本をスパナで叩いた。
「勘違いするなよ。こいつはただの湯じゃねぇ。俺が設計した【アサクラ式・循環型汚水濾過モジュール】を通した、ゾイドの冷却水だ」
「れ、冷却水……?」
「ああ。ゾイドのコアが生み出す熱で温められた、言わば【体液】みたいなもんだ。濾過してるから人体に害はねぇが、飲めたもんじゃねぇぞ」
ドレンの説明に、二人は顔を見合わせたが、背に腹は代えられない。
早速、天幕で覆われた簡易シャワー室――といっても、レッドホーンの脚と脚の間にシートを張っただけのものだが――に、順番待ちの列ができる。
まずは女性陣からだ。
ハンナ、エルザ、ミナのリリエンタール三姉妹に加え、ラミレス姉妹、マルガレーテ、トルーデたちが、着替えを持って天幕の中へと消えていく。
そして、オーバーサイズシャツと下着を脱ぎながら、油にまみれた身体を洗い始める。
その直後だった。
ハンスとフリッツが、整備用モルガの影で何やらコソコソと動き始めたのは。
「おいフリッツ、あそこのシート、隙間があるぞ」
「ハンス、お前が行けよ。俺はここから望遠レンズで……」
「馬鹿野郎、レンズが光ったらバレるだろ! 肉眼こそ至高なんだよ」
男たちの浅ましい欲望が渦巻く中、二人が匍匐前進でレッドホーンの脚元へ近づこうとした、その時である。
――ジャキッ。
金属的な作動音と共に、レッドホーンの腹部装甲が開く。そこから飛び出したのは、多脚作業用小型ゾイド、ワークスパイダーだ。
蜘蛛のような形状をしたその機械は、正確無比な動作で二人の目の前に着地すると、溶接用のアームを【カチカチ】と威嚇するように鳴らした。
「うわあああっ!?」
「で、出たぁ! 隊長の番犬だ!」
「……おい、お前ら」
頭上から降ってきたドレンの低い声に、二人は凍りついたように動きを止める。
見上げれば、レッドホーンの背中の上で、ドレンが冷ややかな視線を下ろしていた。
「俺のレッドホーンには、周囲360度を監視する近接防御センサーがついている。エネミーゾイド対策だが……まさか最初に引っかかるのが味方の馬鹿どもとはな」
「す、すみません! 魔が差しました!」
「周辺警戒に戻れ。次やったら、そのワークスパイダーで鼻の穴を溶接してやる」
蜘蛛の子を散らすように逃げていく男たちを見送り、ドレンは溜息をついた。
やれやれ、と肩を回しながら、彼は足元の装甲板に腰を下ろす。シートの向こうからは、女たちの楽しげな声と、水音が聞こえてくる。
その水音には、独特の響きがあった。
普通の水道水ではない。粘度調整剤を含んだ冷却水は、肌にまとわりつくような重さがある。
そして匂い。
濾過されているとはいえ、そこには微かなオイルの香りと、金属が焦げたようなオゾンの臭い、そして何より――この巨大な金属生命体が発する【生温かい熱】が含まれている。
それはまるで、獣の体液で体を洗うような、背徳的で原始的な行為だった。
「……ふん。清潔好きな連中には耐えられねぇだろうがな」
ドレンは独りごちて、レッドホーンの装甲を愛おしげに撫でた。
この鉄の塊の中で、食い、寝て、排泄し、そして戦う。
それは、ゾイド乗りにとっての日常であり、ドレンにとっては【家】そのものだった。
やがて、サッパリとした顔の女性陣が戻ってくる。
シャワーを終えた女たちは、シェル・モルガに服を引っかけ、下着だけの姿で次の仕事にとりかかる。
「お待たせ。次はあんたたちの番だよ」
「周辺警戒は私がやるわ。ミナ、モルガを出して」
「うん、おねぇちゃん」
交代でモルガに乗り込んだエルザとミナが、手慣れた様子で展開する。
フリッツとハンスは「待ってました」とばかりにコクピットを飛び出し、残り湯となったシャワーへと突撃した。
男たちの入浴は実に荒っぽい。
石鹸もそこそこに泥を落とし、シャワーを頭から浴びて雄叫びを上げる。
それを横目に、女たちがシェル・モルガやキャリー・モルガに積んできたトレーラーで使う水タンクに新しい水を補給し終えた頃。
闇の向こうから、重厚な駆動音と共に巨大な影が現れた。
クロエの駆る【レッドホーンC】だ。
こちらも同様に、水の入れ替えと休息のためにやって来たのだろう。
だが、あちらの居住区画には、第五開発部の大隊長様が滞在しているはずだ。
野外シャワーで燥ぐ自分たちとは違い、空調の効いた個室で優雅なバスタイムを楽しんでいるに違いない――彼女たちはそんな羨望の眼差しで、到着した僚機を見上げるのだった。
Z.E. 428年 2月14日 午後6時30分
――クロエ視点、港郊外の砂浜。
到着後、私はコックピットの外へと踏み出す。
背後で重厚な防音扉が閉まる音がした。
居住区画から話し声一つ漏れてこない。
おそらく拡張されたオペレーター室にこもっているのだろう。
今の彼女たちに、談笑しているような余裕などなく、ただ静まり返ったその厚い鉄の壁が、私たち現場の人間と、采配を振るう彼女たちとの決定的な【断絶】を示しているようで、酷く冷たく感じられた。
私は小さく息を吐くと、そこから少し離れた場所に停まっている【レッドホーンAP】の方へと歩を進める。
換気のためだろうか、大きく開け放たれた後部ハッチから、白い湯気と明かりが夜闇に漏れ出しているのが見えた。
私はその明かりを横目に、機体の脇へと回り込む。
側面にある昇降用ハッチのタラップを登り、機内へと足を踏み入れた。
そこ――【一階・倉庫区画】は、外の冷たい空気とは無縁の、むせ返るような熱気と、鼻をつくオイルと鉄の匂いが充満していた。
薄暗い空間にはコンテナや予備弾薬、そして巨大な水タンクが所狭しと積まれている。
ふと天井を見上げれば、金網状のキャットウォーク越しに、上階の明かりが漏れてくるのが見えた。
あそこが【二階・メインストリート】――居住区画だ。
手すりに洗濯物が干され、ハンモックが揺れるその場所からは、何やら声が降り注いでくる。この「灼熱の倉庫」とは対照的な、人の営みの気配。
「……機密保持の設定(ワーク)は終わりか? ソウエンジ少佐」
倉庫の片隅、資材ボックスに腰掛けていたドレンが、こちらに気づいて声をかけてくる。
周囲では、ワークスパイダーたちが忙しなく動き回り、パイプラインを点検していた。
彼は私のついた【嘘(口実)】を察し、あくまで業務の確認という体裁を崩さなかった。
私は彼の隣に歩み寄ると、軽く両手を広げてみせる。
「ええ、一通りはね。……少し休憩をもらうわ。あちらは静かすぎて、息が詰まるの」
「ハッ、違ぇねぇ。こっちは泥と汗の吹き溜まりだが、嘘はねぇ」
ドレンはニヤリと笑うと、手元の水筒を放り投げてきた。
私はそれを胸元で受け止め、キャップをひねって直接口をつける。
濾過された水特有の金気臭さが口いっぱいに広がる。けれど、今の私にはその不味さが、自分が生きている証のように感じられた。
その時、頭上のキャットウォークから、カンカンと軽い足音が響いた。
見上げれば、手すりから身を乗り出すようにして、エルザがこちらを見下ろしている。
「あら、少佐。いらしてたんですか」
「ええ、お邪魔しているわ。……それで、どう? ニルスの様子は」
私の問いに、エルザは困ったように眉を下げ、自身の背後――二階通路の奥へと視線を向けた。
「熱は下がりましたけど、まだ身体が重いみたいで。……それに、あの子ったら頑固で」
「頑固?」
「『僕は寝てばかりで役に立っていないから、貴重な水を使うわけにはいかない』って。汗でドロドロなのに、着替えも拒否してベッドで丸くなってるんです」
それを聞いたドレンが、呆れたようにため息をついた。
「……あの馬鹿。奴隷根性が染み付いてやがる」
「言っても聞かないんです。ドレン様から言ってやってください」
ドレンは億劫そうに腰を上げると、ドスドスと床を鳴らして昇降階段の方へと歩き出す。
私もその後ろについていく。
階段を上り、二階の「メインストリート」へ。
そこはプライバシーなど欠片もない、雑多な空間だった。通路の壁面には二段ベッドが埋め込まれ、天井からはハンモックがぶら下がっている。
その一角、埋め込まれたベッドにカーテンを付けただけの簡易医務スペースで、白い生き物が小さく盛り上がっていた。
ドレンは無造作にそのカーテンを引く。
「ひゃっ!? ド、ドレン様……!?」
現れたのは、汗と脂で髪を張り付かせ、顔色を悪くしたニルスだった。
彼はドレンの姿を見ると、慌てて身を起こそうとして――よろめいて倒れ込む。
「……あぁ? なにしてんだ、こいつ」
「……白いのが、落ちてきた」
その騒ぎに、通路の奥から歩いてきた二人の女兵士――ラミレス姉妹のレイラとレイシーが足を止めてそう言った。
シャワーの順番待ちだろうか、それともただ涼んでいるだけか。この蒸し風呂のような機内において、彼女たちは憚ることなく下着姿で歩き回っていた。
姉のレイラは不機嫌そうに眉をひそめ、妹のレイシーは姉の背後から、珍しい虫でも見るような目でニルスを見下ろしている。
昨日拾われたばかりの【野良犬】たちは、飼い主以外には牙を隠そうともしない。
「す、すみません……僕、また寝てて……ハンスさんたちは働いてるのに……」
「お前は病人だ。大人しく寝てろと言いたいとこだが……その臭いじゃ、傷の治りも遅くなるぞ」
「でも、水は貴重ですし……僕なんかが……」
下着姿の女たちに見下ろされながらウジウジと言い訳をするニルスに、ドレンは鼻を鳴らす。
そして次の瞬間、彼はニルスの身体を軽々と――まるで米袋か何かのように担ぎ上げた。
「わ、わわっ!? ご、ご主人様!?」
「しかたねぇ奴だな、問答無用だ。俺が運んでやるから、後部のシャワーユニットでクモ助にその汚ねぇ身体あらって貰え」
「え、あ、あのっ!」
「暴れるな、落とすぞ」
ドレンはニルスの抵抗など意に介さず、通路を塞いでいるラミレス姉妹を睨みつける。
「邪魔だ。どけ」
「っ! ……はい、ご主人様」
ドレンの低い声に、レイラは即座に表情を変えて壁際へ退く。妹のレイシーも慌ててそれに倣った。
二人は媚びるような視線でドレンを見送り、担がれていくニルスには興味なさげな視線を投げる。
「……変なの」
「……うん、もやしみたい」
ラミレス姉妹はそう言って見送った。
ドレンは大股で後方の水回りエリアへと歩いていく。
その頼もしくも乱暴な背中を見送りながら、エルザがふふっと小さく笑った。
「……良いご主人様ですね」
「ええ。……本当にね」
エルザにそう返すと、私は手の中の水筒を軽く掲げ、残った水を煽って、低い天井を見上げた。
ここには泥と油しかないけれど、確かに【体温】があった。
Z.E. 428年 2月14日 午後6時40分
ドレンに担がれて連行され、言いつけ通りにクモ助と呼ばれたワークスパイダーへ引き渡されてから数分。
主はニルスをここに放り込むと、さっさと業務に戻っていってしまった。
シャワーブースを満たす蒸気が、半透明のビニールカーテンを白く曇らせていた。
ニルスは壁に手をつき、頭上から降り注ぐ湯水に身を任せている。火照った肌の上を、小型のワークスパイダーが這い回っていた。機械仕掛けの節足が、石鹸の泡とともに背中のラインをなぞり、丁寧に汗を洗い流していく。
「……はぁ」
漏れ出る吐息は、湯の熱さのせいだけではない。
デザインチャイルドとして作られた身体が、節操もなく興奮してしまう。
気分を変えようと視点を変えると、カーテン越しのぼやけた視界――わずか一メートルほどの狭い通路を挟んだ向かい側には、この部屋の生活のすべてが詰まっていた。
右手のトイレでは、ワークスパイダーが便器の中にアームを突っ込み、幾何学的な動きで清掃を行っている。その隣、左手のキッチンでも、別の個体がシンクの汚れを拭き取っていた。
そして、すぐ真横の壁には、静かに回転するドラム式洗濯機が埋め込まれている。
中では、先ほど脱いだばかりのオーバーサイズのシャツと下着が、たっぷりの温水と洗剤で洗われていた。
他の奴隷たちは、野外で即席のシャワーで自分の身体と一緒に衣服を踏み洗いさせられていると聞く。だが、ニルスの「抜け殻」は、こうして専用の機械によって丁寧にケアされていた。
(……ドレン様)
脳裏に焼き付いているのは、あの圧倒的な【男】の姿だ。
鋼のような肉体、自信に満ちた低い声、戦場で培われたであろう威圧感。
自分にはない、荒々しくも完成されたオスとしての強さ。
ただその姿を思い浮かべるだけで、作られた身体の奥が熱く疼くような感覚に襲われる。
背中を洗うワークスパイダーの無機質な感触が、今はひどく艶めかしく感じられた。
機械に身体を委ね、されるがままになりながら、ニルスはドレンのたくましい腕に抱かれる幻影を重ね合わせる。
「あぁ……ドレン、様……」
洗濯機が回る低周波の音と、ワークスパイダーたちの駆動音。それらが、思わず口をついて出た名前と、高鳴る心臓の鼓動に混じり合い、狭いシャワーブースの中で反響していた。
青臭い匂いと共に、シャワーブースに落ちた粘度の高いものが、足元の金網の下で『ズルル』と吸われる。
ニルスはまだ湿り気の残る身体を拭くと、ハッチの横に無造作に置かれた着替えへと手を伸ばした。
支給されたのは、肌触りの悪い合成布で作られた部屋着だ。
しかも、サイズが全く合っていない。
袖を通したタンクトップは、ニルスの肩幅に対してあまりに大きく、動くたびに片方の肩がずり落ちて鎖骨を露わにする。下に穿いたトランクスも同様で、ゴム紐こそ腰に引っかかっているものの、裾は太腿の半ばまであり、まるでスカートのように隙間だらけだった。
「……動きにくいな」
ぶつぶつと独り言を漏らしながら、ふらつく身体をワークスパイダーに支えられて、ニルスはトランクスの紐を結び直す。
その時だった。
『ピ、ガッ……』
洗濯機のモーター音に混じって、乾いた電子音が微かに響いた。
通路との境は、目の前の薄いシャワーカーテン一枚だけだ。この音が、洗濯機の工程が変わった合図なのか、ワークスパイダーが何かに接触した音なのか、それとも――。
音の正体を掴みかねて、ニルスが動きを止めた瞬間。
シャッ!
「ニルス、準備はいい?」
予兆もなくシャワーカーテンが乱暴に開け放たれ、ニルスはびくりと肩を震わせた。
立っていたのは、ラミレス姉妹だ。
何の音か考える暇さえ与えず、二人は狭いシャワーブースに土足で踏み込んでくると、逃げ場を塞ぐようにニルスの左右を固める。
「あら、そんな格好で呆けてるなんて。まだ興奮が冷めてないのかしら」
レイラの視線が、だらしなく衣服を着崩したニルスの姿を値踏みするように舐め回しながら鼻で何かを嗅ぎ取る。
その視線の先には、トランクスを小さく持ちあげる逸物があった。
「さあ、行きましょう。ドレン様がお待ちかねよ」
「え……?」
「ベッドに連れて行け」との命令を受けて来たのだろう。
ニルスは抵抗することなく、大きなタンクトップの裾を揺らしながら、二人の監視官に挟まれるようにして通路へと連れ出された。