※この作品はR-18です。

好色平凡な男がゾイドに乗る   作:触手スライム

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21話 鉄屑の船団

 

 

「それでも、今の状況だとやらない訳にもいかないのよ」

 アヤメ・フジエダ中佐は、手元の水筒からアルミのカップに注がれた、ろ過されただけの生ぬるい水を一口含み、決定事項としてその作戦を口にした。

 

 それに続くように、進行役のカエデ・フジエダ少佐が、感情の読めない事務的な口調で決定事項を告げる。

「作戦予定日はZ.E. 428年 2月20日 2000。本作戦は他の島嶼への攻勢と時を合わせて実施されます」

 モニターには、アカツキ島周辺の地図と、複雑な矢印が記されたシミュレーション映像が表示されている。

「ビガザウロASも本作戦に参加しますが……今回は一機だけの参加となります」

 カエデの言葉に、ドレンが眉をひそめた。

「……一機ですか? 二機あったはずでしょう。ドックに生き残ってたやつが」

「他の上陸部隊との兼ね合いです。南東方面――フタバ島、セオリ島、イシ島方面の上陸作戦に、もう一機のビガザウロASと民間輸送ゾイド、台船のほぼ全てが優先的に回されました」

 カエデが淡々と説明する。南東方面の攻略には物量が必要と判断され、輸送力がそちらに吸い上げられたのだ。

 さらに悪いことに、民間から徴用した輸送ゾイドまでもが、南東方面の作戦に投入されてしまったという。

「つまり、私たちが使えるまともな輸送ゾイドは一機だけ。……大隊の全戦力を運ぶには、圧倒的に足りないわね」

 クロエが事実を口にする。

「そこで、不足分を補うために――基地にある古い大型トレーラーを中心に、こちらへ移管手続きを行いました」

 カエデがキーを叩くと、画面上に無骨なトレーラーの3Dモデルが表示された。

 先ほど、ドレンたちが港で見た古びた車両群だ。

「現在、港で改修を進めていますがこれらにフロートを取り付け、陸戦ゾイドを積載し、洋上を曳航する形で移動します」

「……本気ですか。あのボロを船にするつもりですか? フロートが付くのは知ってるが、あいつで外洋を渡るなんて正気じゃない」

 ドレンが呆れたように声を上げる。

 フロートによる水上航行自体は倭国では珍しくないが、廃車寸前のトレーラーで外洋を渡るとなれば話は別だ。

「ええ。名付けて【鉄屑の船団】作戦よ。ロマンがあるでしょう?」

 アヤメは微笑むが、その目は笑っていない。

「上陸時の戦闘を考慮し、曳航役には馬力のあるブラキオスを使用します。シーパンツァーHとグライドラーは、護衛として周囲を警戒しつつ随伴する形になります」

 画面上のシミュレーターでは、波に揺られるトレーラーと、それを懸命に引っ張るブラキオスの姿が再現されていた。

「移動時間は半日を想定しています。……天候が荒れないことを祈りましょう」

 

「次に、作戦目標の詳細説明に移ります」

 クロエが前に出て、モニターの地図を操作する。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「三日前の航空偵察によると、敵戦力としてフナムシ三個集団、ハエ二個集団が確認されています」

 地図上のマーカーが点滅し、敵の配置状況が示される。

「今回の攻略は、マルワ島、そしてツキ島へと続く連続した攻略戦になります」

 ポインターがマルワ島を指し示す。

「マルワ島奪還の本隊は、【U-30】地点から皇室近衛第四連隊が務めます」

「近衛ですか? ……また大層な連中が出てきましたね」

 ドレンが露骨に驚いた顔をした。レッドホーンAP(実験機)でセナと向かった先にいた部隊だ。

 当時、彼らは礼儀正しく振る舞っていたが、ヨノミヤ大佐も人の出来た相手で自分達を買ってくれていたことを思い出す。

「彼らが正面から攻める間、私たち第五一大隊の任務はここ【AP-20】地点です」

 地図上の、マルワ島の東側の海岸線にマーカーが打たれた。

「第五一大隊はマルワ島の東に上陸し、補給拠点を設営。

 そこから本隊への遠距離火力支援を行います」

「火力支援……。後ろから撃ってろってことか」

「ええ。マルワ島攻略後は、その東に作られた拠点で再補給を行い――そのまま、次のツキ島への上陸に向かいます」

 矢印がマルワ島から、隣のツキ島へと伸びる。

 

「その際は、ビガザウロASによる強襲上陸を行い、後方から火力支援を行います」

 クロエは一度言葉を切り、重要な事項として付け加えた。

「なお、両島での戦闘にて大型エネミーのボールが出現した場合は、第五一大隊がこれを撃破するものとします」

 

 

「編成と装備について補足します」

 カエデがビガザウロASのスペックデータを表示させる。

「今回使用するビガザウロASですが、先の戦闘で武装の大半が破損しており、自衛戦力が皆無です」

「丸腰での輸送ですか。いい的ですね」

 ドレンが呆れたように言うと、クロエが引き取った。

「ええ。だから、私のレッドホーンCがビガザウロの甲板に常駐し、固定砲台として護衛を務めます。フジエダ中佐、ならびにフジエダ少佐も私の機体に搭乗して指揮を執ることになります」

 そして、クロエはドレンに向き直った。

「ドレン特務少尉。

 貴官には、曳航する特大型トレーラーへの【推進器取り付け】を命じます」

「推進器?」

「ええ。ただ引っ張るだけでは遅すぎるわ。

 シンカーの推進器をトレーラーに取り付けて、推力を補助させるの。

 ……できるわね?」

「……無茶を言いますね。だが、やらないと沈むならやるしかありませんか」

 ドレンは溜息交じりに了承した。

 

「具体的な指示を出します。よく聞いて」

 クロエがモニターを操作し、トレーラーの設計図を展開した。

「まず、各トレーラーの左右に大型フロートを溶接固定。さらに、車体下部にはバラストタンクを増設し、重心を下げて転覆を防ぎます」

 設計図上のトレーラーに、次々とパーツが書き加えられていく。

「そして、先ほどドレン少尉に命じた【推進補助】についてですが……制御はトメ・カガネ技術曹長のグランチュラから有線で行います。

 彼女には、船団の【機関長】としてトレーラーに乗ってもらいます」

「なるほど。あの守銭奴ならやりかねないな」

 ドレンは苦笑した。トメの技術力なら、この無茶なパズルを組み上げるだろう。

 

「ハードウェアの準備と並行して、組織面も刷新します」

 カエデが別のウインドウを開く。

「先日の会議にて決定した編成案が、第五開発部として正式に承認されました。

 第五一大隊の編成は、次のように決まりました」

 

■第五一大隊 編成

 

【大隊本部】

・レッドホーンAP指揮官機(サイズ4)

  操縦:クロエ・ソウエンジ少佐

【第五〇一実験中隊・本隊】(陸海空混成)

・シーパンツァーH(サイズ2) 中隊長:セナ・ササツカ中尉

・グライドラー(サイズ2) ヨウコ・イザワ伍長

・ブラキオス(サイズ3) アカネ・ナシザキ軍曹

 

【第一小隊】(陸戦・戦闘部隊)

・レッドホーンAP(サイズ4)

  小隊長:ドレン・アサクラ特務少尉

  火器管制:レイラ・ラミレス二等兵

  オペレーター:レイシー・ラミレス二等兵

  庶務兼オペレーター:ニルス・カフカ二等兵

・ガイサックTP(サイズ2)×2

  ライアン・バークス伍長、エマ・ウィルソン伍長

・マルダーTP(サイズ2)ケイト・グッドマン少尉

・ゲルダーTP(サイズ2)×2

  カミラ・フォン・アイゼンガルド少尉、エイラ・ヨルゲンセン軍曹

・グランチュラCE(サイズ2)トメ・カガネ技術曹長

 

【第二小隊】(補給・支援部隊)

・マルダー先行試作型(サイズ2)

  小隊長(操縦・火器管制):ミサト・カグラ曹長

  通信・電子:マルガレーテ・アドラー伍長

・キャリア・モルガ(サイズ2)×3

  エルザ・リリエンタール二等兵、ミナ・リリエンタール二等兵、ハンス・クラフト伍長

・シェル・モルガ(サイズ2) 

 トルーデ・クライン衛生伍長、ハンナ・リリエンタール二等兵

・ワーク・モルガ(サイズ2) フリッツ・ヴェーバー伍長

 

「……傭兵連中は、俺の第一小隊預かりか」

 ドレンがリストを見て、改めてその負担の大きさに唸る。

 会議で決まったこととはいえ、一癖も二癖もある傭兵たちに加え、あのトメまでも自分の指揮下となると、胃が痛くなる思いだ。

 

「そして、ミサト曹長は第二小隊長として、補給部隊の指揮を執ることになります」

「了解しました」

 クロエの説明にミサトは短く頷いた。彼女の実務能力を考えれば妥当な配置だ。

 カエデは一度区切り、画面を海上マップへと戻した。

「第五一大隊の編成は以上です。……では、この編成に基づき、これから海上輸送の編成を説明します」

 

 カエデが新たなデータをモニターに表示させる。

 映し出されたのは、優雅な装飾が施された近衛のエンブレムだった。

「皇室近衛第四連隊より、【特別支援隊】が派遣されます。

 彼らは後方支援および、作戦の広報活動(プロパガンダ)を任務としています」

 

■皇室近衛第四連隊 特別支援隊 編成

【本隊】(広報支援・曳航補助)

・ブラキオス(サイズ3)×4

  中隊長:サクラ・ヨノミヤ中尉

 

【第一小隊】(広報支援・航空)

・シンカー(サイズ2)×3

  小隊長:ヒダマ・ツボミ少尉

 

【第二小隊】(広報部隊・撮影班)

・ブラキオス戦術観測型(サイズ3)×2 ※随伴撮影用

・シンカー戦術観測型(サイズ2)×2  ※航空撮影用

 

「サクラ・ヨノミヤ……」

 ドレンがその名前を見て、少し嫌そうに鼻を鳴らした。

「あの時の帰還行軍で護衛した、あのお嬢様か。

 ……相変わらずツボミって護衛も一緒みたいだな」

「ええ。彼女たちはあなた達の曳航を補助しつつ、その進軍の様子を映像に収めるために随伴します」

 クロエの言葉をアヤメが補足する。

「……要するに、私たちの戦いを【絵になるドキュメンタリー】として国中に配信したいのよ」

「その一環として、広報部より具体的な要請が来ています」

 カエデが視線をセナに向けた。

「【悲劇の島を奪還する英雄たち】の象徴として、上陸作戦時にはササツカ中尉のシーパンツァーHの勇姿を撮影することになります。

 そのため、ササツカ中尉。

 洋上移動時は撮影の被写体としてビガザウロASの方に乗船してください」

「……えっ、私をですか?」

 セナが戸惑ったように声を上げる。

「ええ。貴女は【急造のゾイドで大型エネミーを撃破した可憐な乙女】として、既に上層部がプロパガンダの広告塔に据えていますからね」

 クロエが淡々と事実を告げる。

「国民は英雄(アイドル)を求めているの。……悪いけど、ピエロを演じてちょうだい」

「……わかりました。お受けします」

 セナは少し複雑な表情を浮かべながらも、以前オオムラ大佐に言われた言葉を思い出し、覚悟を決めたように頷いた。

 

 

「続いて、洋上移動時の配置図(フォーメーション)を表示します」

 カエデがキーを叩くと、モニター上に連結されたトレーラー群の配置図が展開された。

 先頭のブラキオスから二本のワイヤーが伸び、そこから二列の船団がぶら下がる形になっている。

 

「船団の推進力(メインエンジン)となるのは、アカネ軍曹のブラキオスです。ここから左右に列索を伸ばし、計六台のトレーラーを二列縦隊で曳航します」

 

 カエデがポインターで左側の列を指し示す。

 

【左列(主力・機関・防空)】

「まず、左列の先頭――【一号車(特大型整備トレーラー)】。ここには、ドレン少尉のレッドホーンAPと、トメ曹長のグランチュラ改を積載します」

「……俺とあの守銭奴が同じ船かよ」

 ドレンが顔をしかめる。

「ええ。この一号車には、例の【推進器(ロケットブースター)】が増設されています。トメ曹長がグランチュラから有線接続でエンジンの出力を調整し、ドレン少尉の機体がその反動を抑えつつ、重り(アンカー)の役割を果たします」

「なるほど。俺は重石で、トメがスロットルってわけですか」

「その後方の【二号車(特大型長物運搬トレーラー)】にはゲルダー二機を配置し、即応射撃を担当。【三号車(大型貨物トレーラー)】にはマルダー二機を配置し、対空警戒を行います」

 

 続いて、ポインターが右側の列へと移動する。

 

【右列(輸送・護衛・居住)】

「右列の先頭――【四号車(大型貨物トレーラー)】。ここにはミサト曹長指揮下のモルガ部隊三機を積載します」

「……了解」

 ミサトがメモを取る。長い車体を持つモルガを運ぶには、この四十メートル級トレーラーが必要不可欠だ。

「続く【五号車(大型貨物トレーラー)】にはガイサック二機と、予備弾薬や資材を積載。

 【六号車(多目的トレーラー)】は最後尾となるため、軽量な多目的トレーラーを使用し、ここには【居住コンテナ】を載せます」

「居住コンテナ?」

「ええ。移動は半日に及びます。

 パイロットの疲労を軽減するため、交代で休息を取るためのスペースです」

 クロエが補足する。

「バランスは計算済みよ。

 左列に重量級と機関を集め、右列に長尺物と資材を配置した。……見てくれは悪いけど、機能的な配置だわ」

 

「上陸ポイントは、座標【AO-20】周辺の砂浜です」

 カエデが淡々と説明する。

「ここは遠浅の砂浜で、大型トレーラーの揚陸および展開に適しています。

 第五一大隊はここに上陸後、直ちに橋頭保を築き、本隊への補給拠点を設営します」

「砂浜か……。見通しはいいが、遮蔽物が何もないぞ」

 ドレンが懸念を示す。身を隠す場所のない平地は、敵の砲撃があれば格好の的だ。

「三日前の航空偵察では、この海岸付近に大型エネミーの反応はありませんでした。

 確認されたのはフナムシとハエのみです」

「……大型はなしか。あの【浮遊要塞(ボール)】がいないならマシだな」

 ドレンが少しだけ安堵したように息を吐く。

「ええ。小型種相手なら、見通しの良さは逆に有利に働きます。

 接近される前に、こちらの火力で殲滅可能です」

 クロエが自信ありげに断言する。

「敵の主力は正面の近衛連隊に向いているはずよ。私たちはその隙に、手薄な裏口から堂々と上陸し、拠点を確保する。……単純明快な作戦ね」

「なるほど。教科書通りの【標準的な上陸作戦】ってわけか」

 ドレンは納得したように頷いた。

 

 Z.E. 428年 2月15日 午後6時00分

 

 作戦会議が終了し、ドレンたちが退室した後、ヒノデ基地の一角にある情報部の執務室では、別の「作戦」が動き出そうとしていた。

「第五一大隊の投入案……通称『鉄屑の船団』計画、承認されたか」

 男の一人が、煙草の煙を吐き出しながら冷ややかに呟く。

「ああ。大規模な奪還作戦の裏だ。第五開発部の『実験部隊』がどう動こうと、本隊の騒ぎにかき消される」

 

 別の男が資料を机に放り投げた。

 表紙には【■作戦名:傭兵暗殺作戦■】と記されており、その横には第五一大隊に配属された傭兵たちの顔写真が並べられている。

「帝国と共和国のパイロットども……。名目は支援だが、腹の中は我が国の【特殊徹甲弾】と【対エネミー戦術データ】を狙うスパイだ。

 奴らはこの戦闘でデータを完成させ、本国へ持ち帰るつもりだろう」

「泳がせてはおけんが、公然と処分すれば外交問題になる。……そこでだ」

 男は地図上のマルワ島にある東海岸【AO-20】地点を指でなぞり、歪んだ笑みを浮かべた。

「今回の作戦を利用する。奴らに十分な戦闘データを取らせた後、【激戦による不幸な戦死】として処理する」

「なるほど。技術流出を阻止しつつ、奴らが機体(ログ)に残した”完成したデータ”だけは我々が回収するというわけか。

 ……まさに【死人に口なし】だな」

 男は納得したように頷いた。

 機体は我が軍の所有物だ。

 パイロットさえ消えれば、中のデータは合法的に回収できる。

「具体的な手口はどうする?」

 実行役の男が尋ねる。

「退路を断つ。上陸用のいかだ(フロート)を細工し、敵のド真ん中で座礁させる。あるいは遠隔で爆破して帰れなくしてもいい」

「近衛のサクラ中尉や本隊への連絡は?」

「遅らせろ。”敵の勢力が予想以上に強い”などと偽情報を流し、意図的に合流を阻止するんだ」

「……自国兵も巻き添えになりますが」

「国益を守るための【許容可能な損害(コラテラル・ダメージ)】だ。

 ……彼らには、名誉ある戦死者として**この国の礎(いしずえ)**になってもらおう」

 

 ☨

 

 Z.E. 428年 2月15日 午後7時00分

 

 日が落ちても気温は下がらず、亜熱帯特有のねっとりとした湿気が肌にまとわりつく。

 星明かりの下、アカツキ島の港は、昼間とは違う熱気に包まれていた。

 潮の香りに、溶接のスパーク臭とオイルの臭いが混じり合う。

 

「……というわけだ。上の連中は簡単に【引っ張れ】と言うが、今のままじゃブラキオスの過負荷(オーバーロード)で参っちまう」

 会議から戻ったドレンは、作業着姿の整備班長――トメに状況を伝えていた。

 港には、フロート(浮き)を増設された六両のトレーラーが、列車のように連結されて並んでいる。

 ゴムタイヤなどではない、無骨な鉄の車輪(ソリッド)が並ぶその姿は、まさに「鉄屑の船団」だった。

 巨大なコンテナを積載する【特大型整備トレーラー】。

 これを満載状態で、さらに他のトレーラーも連結して曳航する作戦は、動力的に限界すれすれだった。

 

「はん、無茶を言うねぇ。海流に逆らってそんな重量物を曳航すれば、ブラキオスの接続基部が千切れちまうよ」

 トメは油にまみれた手で、腰から下げた金属製の水筒を煽った。

 中に入っているのは、ろ過されただけの生ぬるい真水だ。だが、この蒸し暑い作業場では、それさえも生命線だった。

 

「だが、やるんだろ? ドレン」

「ああ。やらないと全員、フナムシの餌だ。

 ……そこで、命令通り、こいつを使う」

 ドレンが指差したのは、【シンカー】が部品単位に解体された山だった。

「シンカーの推進器(ブースター)が生きてる。こいつを特大型トレーラーの船尾に直付けして、補助動力にする」

「なるほどね。ブラキオスは舵取りに専念させて、推力は荷物自身に出させるってわけか」

 トメはニヤリと笑い、愛用のスパナを回した。

 

「いいだろう。推進器の同調制御(シンクロ)は私(わたし)がやる。素人が組むと、推力バランスが狂ってその場で回転しちまうからな」

「ああ、頼む。……トメ、お前の腕なら安心だ」

「ふん、相変わらず調子のいい男だね。……おい、若いのも手を動かせ!

 夜明けまでに仕上げるぞ!」

 トメの檄が飛び、整備員たちが慌ただしく走り回る。

 彼女自身も、愛機グランチュラ改の制御系を調整するため、コックピットへと潜り込んでいった。

 

 その横では、ブラキオスの最終調整が行われていた。

「特務少尉……牽引装置(ヒッチ)周辺の清掃と注油、終わったわ。補強材の準備も万端よ」

 アカネは油で汚れたウエスを手に、主人に報告を行った。

 彼女にできるのは、ドレンが作業しやすい環境を整えることだけだ。

「よし。……ここからは俺がやる」

 ドレンは携帯端末を操作し、ブラキオスの背骨にあたるメインフレームの設計データを呼び出した。

「全機、作業開始。指定座標に補強材を固定。フレームへの深層溶接を開始しろ」

 ドレンの指示が飛ぶと、周囲で待機していた三機のワークスパイダーが、まるで生き物のように一斉にブラキオスの巨体へと取り付いた。

 一機が多脚を駆使して垂直な装甲面に張り付き、人間の腕では到底持ち上がらない分厚い装甲板を正確に保持する。

 残る二機がその隙間を埋めるように潜り込み、内蔵された工業用レーザーを照射した。

 夜の港を昼間のような光が焼き、激しい火花が滝となって地面を叩く。

 数十トンの負荷に耐えうる【牽引装置の焼き付け】という巨大工事が、ドレンの管理する緻密なプログラムと、ゾイドたちの自律的な連携によって、軍事基地のドックさながらの精度で進められていく。

 さらに水中推進器の冷却系バイパス作業も、ワークスパイダーの精密なマニピュレータによって行われた。

 複雑に絡み合う人工筋肉の隙間を縫うようなその作業は、本職のメカニックであるドレンが最適解を導き出し、それを忠実な作業員であるゾイドが完遂させる、彼らにしかできない芸当だ。

 

 しばらくして、ドレンは保護メガネを外して息を吐いた。

 

「終わったぞ。……これで多少の無理は効くはずだ」

「はい。……お疲れ様、特務少尉」

 アカネがすぐに水筒を差し出す。ドレンはそれを受け取り、ぬるい水を喉に流し込んだ。

 彼女は自分の命そのものであるブラキオスを、誰よりも信頼するその手で完璧に仕上げてもらった。

 寄る辺ない自分を救い上げた男への、揺るぎない忠誠がその瞳には宿っていた。

 

 




洋上移動イメージ
            【進行方向】
              ↑
    [牽引] ブラキオス(アカネ)
              |
        ┏━━━━━┻━━━━━┓
      (左列索)       (右列索)
        ┃           ┃
【1号車:特大型整備】(40m)  【4号車:特大型長物】(40m)
 [積載] RH・グランチュラ     [積載] モルガ×3
 (超重量級・推進器付き)     (超長尺物)
        ┃           ┃
【2号車:大型貨物】(25m)   【5号車:大型貨物】(25m)
 [積載] ゲルダー×2        [積載] ガイサック×2
 (戦闘即応)           +予備弾薬・資材
        ┃           ┃
【3号車:大型貨物】(25m)   【6号車:多目的】(16m)
 [積載] マルダー×2        [積載] 居住コンテナ
 (対空警戒)           (軽量・最後尾)
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