※この作品はR-18です。

好色平凡な男がゾイドに乗る   作:触手スライム

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22話 鉄屑の船団(それぞれの準備)

 

 Z.E. 428年 2月16日 午前9時00分

 

 アカツキ島、港湾施設【旧第三貯蔵区画の廃墟】。

 朝からの作業が一区切りつき、湿った海風が吹き抜ける日陰で、トメ・カガネ曹長が油で汚れた軍手を外して休憩をとっていた。

 

 そこへ、少し遠慮がちにニルス・カフカ二等兵が近づいてくる。

「あの……カガネ曹長。今、少しだけお時間いいですか?」

「ん? なんだいニルス。藪から棒に改まって」

 トメは水筒のぬるい水を一口煽ると、怪訝そうな、しかし邪険ではない視線を向けた。

「その、この部隊……【第五開発部】について、少し教えてほしくて。

 僕たちみたいな奴隷兵がいたり、傭兵の方がいたり、編成がすごくバラバラじゃないですか。これって、軍の組織として普通なのかなって」

「あぁ、なるほどねぇ。お前さんは配属されて日が浅いから、不思議に思うのも無理はないか」

 

 トメは納得したように頷き、ニルスの隣に腰を下ろすよう顎でしゃくった。

「いいかい。そもそも私(わたし)らが所属する【第五開発部】ってのは、一言で言えば【実験の請負人】なんだよ」

「実験の、請負人……ですか?」

「そうさ。これまでは第一開発部が海、第二が空、第三が陸と補給、第四が装備……ってな具合に、それぞれの部で開発から実験まで全部やってたんだ。

 だけど、それじゃ効率が悪いってんで、実験運用を順次、この第五開発部が請け負う形になったのさ」

 トメは停泊中のレッドホーンや、整備中の機体群を指さす。

 

「だから、私(わたし)ら第五〇一実験中隊は【初期の混成部隊】……平たく言えば【何でも屋】なんだよ。

 テストする機体や目的に合わせて編成が変わるから、お前さんの言う通り変な組み合わせでもおかしくないし、必要なら別の部隊が作られることもある」

「はあ……。じゃあ、上の【第五一大隊】っていうのは?」

「ありゃあ【管理・指揮する箱】さ」

 トメは空っぽの空中で箱を作るジェスチャーをした。

「元々、軍の管理で識別用の数が当てられるんだが、第五開発部は【500】が割り当てられている。

 そして中隊は、第五開発部直属になる。

 第五開発部の、一番目の実験中隊だから第五〇一実験中隊。

 実働部隊全体を管理する本部機能が第五一大隊」

「なるほど、だから501とか510なんですね」

 

「そう。開発課は【五二】、補給課は【五三】みたいにね。勿論、他の開発部も似たようなもんだ。

 第五開発部が特殊なのは、部隊管理は任務や作戦ごとに中隊を入れ替える権限を持っててね。

 例えば他の課、そうだな……補給課が中隊を借りたくなったら、今ある中隊から選抜して【第五三(補給)大隊】みたいに組むこともできるんだよ」

「なるほど……。だから固定された形じゃなくて、こんなに色々な人がいるんですね」

 ニルスは腑に落ちた様子で、忙しなく動く部隊の姿を改めて見つめ直した。

 

 

Z.E.428年 2月16日 午前10時00分

 

 レッドホーンAPの内部、備品室。

 本来は予備パーツや清掃用具を放り込んでおくための狭いスペースを、無理やり「作戦会議室」として使用しているため、人口密度は限界に近かった。

 主催者であるミサト・カグラ曹長を中心に、マルガレーテら各班長としての【伍長】たち、ハンナと娘のリリエンタール姉妹やラミレス姉妹といった奴隷兵たち、そしてライアンら傭兵組がひしめき合っている。

「これより、対エネミーゾイド講習を行う」

 ミサトの冷静な声が、熱気のこもる室内に響く。

 特に初めて実戦に参加する奴隷兵や、中央大陸での戦闘経験しかなくエネミーゾイドを知らない傭兵たちに向けた、直近の戦訓共有会だ。

 ミサトは壁に設置されたモニターに表示された、粗い映像データを指し示す。

 

「まずは【フナムシ】。倭国での通称だが、この水陸両用の多脚型は厄介だ。

 外殻が硬く、小口径弾では有効打になりにくい。主な攻撃手段はビームだが、最も警戒すべきは取り付いてからの【自爆】だ」

「自爆……!?」

 最前列で聞いていたミナが息を呑む。

「ああ。至近距離で張り付かれたら終わりだと思え。距離を取って戦うのが鉄則だ」

 

 ミサトはモニターの画像を切り替える。

「次は飛行型の【ハエ】。こいつはエネルギーシールドを持っていて、小口径の対空砲火では簡単に撃ち抜けない。

 攻撃はビームによる急降下射撃で、コクピットをピンポイントで狙ってくる。ただ、直撃さえ避ければ大抵は装甲で防げる。パニックにならず対処しろ」

 

 そして、最後に不気味な球体のシルエットを表示させた。

「最後は【ボール】。潜水と浮遊が可能で、大型だ。

 こいつの荷電粒子砲はチャージに時間がかかるが、威力は極大。基地施設すら蒸発させる。

 さらに推定105ミリのレールガンを装備しており、射程は10km程だ。電磁スクリーンを展開しているためレーダーや電波での照準は不可能。常時ではないが、エネルギーシールドで並みの攻撃は無効化される」

 傭兵の一人、ライアンが手を挙げた。

「そのシールドってのは、ビーム兵器なら抜けるのか?」

「試作ビーム兵器を試したデータがあるが……シールドで減衰したあと拡散してしまい、効果はなかったそうだ」

 その言葉に、室内の空気が重くなる。

「カグラ曹長、質問よろしいかしら?

 ……撃破したと聞いたけれど、弱点くらいは教えてもらえるのかしら?」

「その詳細については第四開発部の管轄だ」

 エイラの質問にミサトは表情を変えずにさらりと流した。

「今は【倒せる手段はある】とだけ覚えておけばいい。現場で遭遇したら、指示に従え」

 ボール撃破の鍵となった特殊徹甲弾の存在は、まだ一般兵には伏せられている情報だった。

 

 ☨

 

 同時刻、外の作業現場ではトメたちが大忙しだった。

「ほらケイト、そっちのフロートの油圧クランプを強制ロックしな!」

「わかってますよトメさん!

 でもこれ、ジョイントの公差が微妙に外れてるんです!」

「四の五の言わない! パワーレンチを叩き込んで無理やり噛み合わせな!

 夜明けまでに浮力の取れねぇ機材は、海じゃあただの重りなんだよ!」

 トメとケイトは、シンカーの推進器やフロートの取り付け作業に追われている。

 上陸作戦に使う特大型整備トレーラーを、即席の上陸用舟艇に仕立て上げるための突貫工事だ。

 

 ☨

 

 波打ち際では、アカネが操縦するブラキオスが、改造途中のトレーラーを牽引して海に入っていた。

<どう? ちゃんと浮いてる?>

 アカネの声が通信機から飛ぶ。

「ええ、浮力は問題なさそうですね。バランスも悪くありません」

 補助のためにシーパンツァーHで海に入っているセナが答える。

 トレーラーの上には、グライドラーに乗ったヨウコが待機しており、高い位置からの視点でチェックしていた。

 本来は基地内の舗装路用である無骨な鉄輪(ソリッド)が、濡れた砂利を無理やり噛み砕き、嫌な金属音を響かせながら海中へと引きずり込まれていく。

<こっちからも問題なし。ただ、波が高いとちょっと怖いかもね>

 アカネは慎重にブラキオスを動かし、少しばかりの曳航テストを試みた。

 

 ☨

 

 一方、陸側の集積所ではドレンがワークスパイダーを指揮していた。

「よし、次! そのコンテナはC型へ、残りの弾薬はAPの砲弾庫だ!」

 ドレンは今回の上陸作戦では使用しない特大型整備トレーラーを作業台代わりに使い、レッドホーンAPとCの後脚上部にある砲弾庫へ、次々と弾薬を積み込ませていく。

 誰よりも汗をかき、現場で怒鳴り声を上げる姿は、将校というより現場監督のそれだった。

 

 ☨

 

 一通りの作業と講習を終えた後、ミサトたちはシミュレーション演習へと移行した。

 実際に上陸訓練を行う時間的余裕も燃料もないため、図面とシミュレーター上での机上演習だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「いいか、今回のマルワ島東海岸【AP-20】への上陸作戦、手順を確認する」

 ミサトが地図上に駒を置く。

「敵戦力予測は、我が国の編成にあわせている。前方にフナムシ一個集団、6機約12ポイントのようにだ。ハエ一個集団も同様だ」

 

 彼女は順序立てて説明を続ける。

「まず、ササツカ中尉のシーパンツァーHが先行し、進路を確保。

 イザワ伍長のグライドラーは上空から航空支援を行う。

 続いてナシザキ軍曹のブラキオスが前進。可能な範囲で攻撃を行い、敵を牽制する」

 

 駒を海岸線へと進める。

「岩や小石の混じる礫浜に乗り上げた時点で、各ゾイドはトレーラーから発進。

 この時、レッドホーンAPは特大型トレーラーを奥まで牽引する。

 他の機体が上陸する中、ブラキオスが前に出て戦線に参加。その間にレッドホーンAPが車両を引き上げる。

 尾部の電磁石式牽引装置を使う形だ」

 

 ミサトはドレンや傭兵たちの駒を配置した。

「上陸後は、アサクラ特務少尉率いる第一小隊が敵の前面に出て、本隊は水際防衛に当たる。

 最終的に【AM-20】から【AL-17】付近まで前進。

 攻略部隊本隊の補給拠点として、山を背にした陣形を展開する」

 

「……以上だ。各自、この動きを頭に叩き込んでおけ」

 ミサトの言葉に、全員が真剣な表情で頷いた。

 実戦形式の訓練はできない。このイメージトレーニングだけが、本番での生存率を握っていた。

 

 

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