Z.E. 428年 2月18日 午後11時50分
作戦開始後、海中でエネミーゾイド【フナムシ】と遭遇戦になった近衛第四連隊は、周囲に偵察分隊を配置しながら慎重に進み【L-46】に到達していた。
<大佐。周囲を偵察している複数の分隊から、マルワ島の東側が照明弾で昼のような明るさになっていると報告が入っています。
また、周囲のエネミーゾイドが東側へと移動を開始しているようです>
報告を受けたのは、この連隊を指揮するユウジ・ヨノミヤだった。
「そのような作戦は聞いていないが、敵がいないというのであれば好都合だ。
予定を繰り上げ、【L-27】の上陸地点に急ぐ。
くれぐれも、海洋プラントを巻き込まないよう、上陸後は地上戦のみを行う」
<了解しました。 すぐに伝達します>
ヨノミヤの指示を受けたシーパンツァーが他の部隊へと移動する。
その傍らで、ヨノミヤは娘、サクラ・ヨノミヤの事を考えていた。
「……せめて生きて帰れよ」
☨
同時刻、特別支援隊。
海中では【フナムシ】に追い付かれ、海上に出ると【ハエ】が急降下を仕掛けてくる地獄のような戦場に、サクラ・ヨノミヤはいた。
海中を真っ直ぐ進んでいた近衛とは違い、上陸と撮影のために浅瀬で停止していたのがあだとなった。
海中を真っ直ぐ突っ込んでくる【フナムシ】は、冗談のような低速の魚雷のような動きを見せるが、中型ゾイドのブラキオスで避けるには小回りが効かず、厄介な相手だった。だが、もっと厄介なのは味方だった。
「左舷急降下来たわよ!
射線あわせなさい、ビームキャノン砲を上空に斉射!!」
海中に逃げようともせず、最低限の自衛装備で応戦しつつ陸上の様子を観察し続ける広報部のシンカー戦術観測機とブラキオス戦術観測型。
この存在が、部隊の連携を乱していた。
<ヨノミヤ中尉。上陸地点に支援砲撃を要請する>
唐突に、広報部の機体からそんな要請が来た。
相手は特殊なパイロットスーツで顔が見えないが、大尉の階級だけははっきりと見えていた。
「ッ! ……そんな状況ではないと考えます。
貴方達のおかげでエネミーゾイドは集まっていますが、上陸は順調でむしろ私達は逃げ場を失いかけています。
丘の心配をする前に、合流か撤退をする場面です」
<我々はそう考えていない、ヨノミヤ中尉。
あなたの任務は我々の支援だ、早く砲撃をしなさい>
「……各機、上陸部隊を支援します。
目標統制はなし。接近中のハエとフナムシに向かい砲撃を行います。
撃て!」
コクピット内のモニターに映る敵が群れてくる状況に、これ以上の問答は出来ないと判断して、サクラは五〇一実験中隊の方向へと砲撃を行う。
☨
Z.E. 428年 2月18日 午後11時50分
レッドホーンAPが海岸から多目的トレーラーを牽引している時だった。
推定で特別支援隊のいる方向から、ビーム砲が海岸周辺に着弾する。
<ええ! あの人たち撃ってきているよ!!>
ヨウコの悲鳴にも似た声が、雨が降ったことでクリアな通信が出来るようになった今響いてきた。
<そんなっ!私達がいることはわかっているのに>
<ちっ>
いつもより冷静さを欠いたセナとアカネが引きずられるように反応する。
<セナ!南正面水中にフナムシの反応が七つ
こっちはハエと特別支援隊からなぜかこっちにきているフナムシを攻撃するから!>
アカネの通信の後に、ブラキオスがビームキャノンを撃つが急降下してくるハエの前をかすめる。
そのままブラキオスがハエのビーム爆撃を受けるも稼働に支障はなく、そのまま正面機銃とビームを2連射でフナムシが爆散することを確認する。
<このぉ!>
シーパンツァーHの【七八式三連装誘導魚雷ポッド】から三発の魚雷が発射され、海中のフナムシを追跡する。
続けて【七六式七糎半野戦高射砲】の砲撃が行われ、水柱が立つ。
二人はいつもより興奮しているようにも見えるが、海の浅瀬に入って来たフナムシに向かい、シーパンツァーHの砲撃と、ブラキオスのビーム砲が交互に攻撃を加え、一部では残骸が山になっていた。
「騒ぐな。
あっちも戦闘中だ、そんなこともある。
それよりもイザワ伍長。周辺のハエが群れてきているぞ、レッドホーンAPとマルダーTPの対空砲火に上手く誘いこめ」
<あ、うん。うりゃぁ>
ヨウコの声と共に、十二機のハエが雲の上から現れる。
<撃ち落とす>
機内通信でレイラがそう言うと、レッドホーンAPの【80mm地対空2連装ビーム砲】が連射される。
シールドが目視できるように展開され六機に命中したが、落下したのは2機だった。
少し遅れてミサトが搭乗するマルダーTPから【十二連装小型ミサイルランチャー】からの対空ミサイルが連射され、【ビームキャノン砲】【七六式七糎半野戦高射砲】が追撃の咆哮をあげる。
これにより六機のハエが撃墜された。
予想よりも撃墜数が少ないのは、ミサト搭乗のマルダーTPが補助脚で地面に固定されたため、横方向への回転ができなくなり、射撃に制限が加わっているためだった。
☨
<おい、これどうすんだ?
目の前のやつがどんどん増えているんだが>
ライアンがこぼしたのは、【AM-20】で遭遇したフナムシ六機の後ろから、フナムシがさらに追加され続けるという悪夢だった。
<だまって砲撃を続けろ、崩れたら逃げ場はないぞ>
<ちょっと、マルダーの対地火力支援もっと頂戴よ>
カミラがライアンのボヤキに反応しながら、正面から接近してくるフナムシに向かい態勢を低くする。
エイラはケイトに火力支援をねだるが、返事はない。
カミラとエイラのゲルダーTPから残弾を気にしている余裕が無いというほど、火山のように砲火が放たれる。
正面からのビーム砲やフォノンメーザー砲を受けても頑丈なゲルダーは、【七八式三連装誘導魚雷ランチャー】から放たれる【七八式水陸両用誘導魚雷】で数機のフナムシを粉々にし、【七六式七糎半野戦高射砲(砲塔型)】で中距離の相手に榴弾を放り込んでいた。
<……だまって。この機体は一人で運用しているしハエの応戦で手一杯>
少し遅れて返事を返してきたケイトは、何かを操作しながらのようで、その証拠にケイトのマルダーTPは補助脚で固定した状態で、何度目かの対空迎撃を行う。
ライアンとエマのガイサックは、カミラとエイラが作った敵の隙間から【マ式三十粍粒子砲弐型】で防衛ラインを抜けようとするフナムシの侵攻を押しとどめ、抜けてくる敵には、そのハサミで頭を潰していた。
ケイトはマルダーTPを補助脚を一度解除して旋回すると補助脚を展開する。
群がるハエにめがけて【十二連装小型ミサイルランチャー】の対空ミサイル、【ビームキャノン砲】【七六式七糎半野戦高射砲】を使うだけで手一杯に追い込まれていた。
それでも、ハエのビーム爆撃は止まらずに数発を受けているが増加装甲のおかげでケイトの搭乗するマルダーTPは無事だった。
☨
「グッドマン少尉、敵の数は?」
<現在、レーダー上でフナムシが推定50。ハエもほぼ同じ>
(まずいな、これは補給が出来ねぇと詰む)
ドレンにはそんな考えがうかんだ。
「中尉、【AM-20】の戦線が維持できなくなる。
レッドホーンAPをまわして、【AL-21】まで戦線をおしあげ、【AM-20】に補給拠点を設ける案を提案する。
いまの状況で海岸からのフナムシが増加すると抑えようがなくなる。
この位置から動くべきだ」
<それでは、作戦が……やりましょう>
ドレンの提案に、セナは作戦目的について考えを一瞬めぐらせたが、不思議と高揚するいまの自分がそれを押し流した。
Z.E.428年2月19日午前1時30分
「聞いていたな。これよりレッドホーンAPの火力支援を全力で行う。
その後、特大型整備トレーラーを牽引しながら進めるだけ【AM-20】に移動し、戦線を押し上げる。
補給が必要な機体は、カガネ曹長から補給を受けろ。
モルガは他のトレーラーの移動と、補給の支援、海岸との連絡役に走れ」
ドレンがそこまで言うとレッドホーンAPが射撃体勢を取る。
「レイラ、広範囲に榴弾を降らせるが距離は近い。
出力30%で撃て」
<わかった>
機内通信でレイラに出力調整を話すと、しばらくして【試作八〇式電磁投射砲】が連射される。
僅かにずれたが、それでも十発の榴弾は周囲の敵を吹き飛ばす。
砲撃の後に、レッドホーンAPは特大型整備トレーラーとグランチュラCEを伴って移動を開始する。
「レッドホーンAPが到着次第、ゲルダーTPとガイサックTPで臨時小隊を作り、戦線をあげるからな」
☨
「嘘でしょう」
ヨウコは何度目か判らない冷や汗を流す。
ちらりと計器に目をやれば、敵機ばかりでロックオンが外れない。
数十条ものビームが、絶え間なく視界を横切っていく。
ぶ厚い雨雲を抜けると、そこにも新たなハエが二個集団十二機見えた。
「くッ」
急降下などグライドラーの仕様にはないが、すでに追い駆けてくるハエ相手には逃げの一手しかなかった。
たまに地上攻撃に向かうハエを撃つ以外に、グライドラーからの攻撃をする余裕もない。
「お客さん連れてきたよ」
空元気で、そう言いながらミサト・カグラの操縦するマルダーTPの射線に飛び込む。
振り返る余裕はない。
水面に降りてしまいたいという思いを振り切りながら上昇し、低空旋回しながら地上を狙うハエを少し探ると、空の追いかけっこが始まる。
☨
Z.E. 428年 2月19日 午前1時30分
慌ただしく五〇一中隊が動く中で、特別支援隊には余裕はなくなっていた。
「くそぅ。シンカー隊、もう少しハエを抑えてくれ」
<やっているが既にホーミング魚雷も、小型対空ミサイルも尽きた。海中より撤退を!>
シンカー隊の指揮をしているヒダマ・ツボミの部下からの報告という事は、余程に追い詰められている証拠だろう。
「各機てっ(撤退)」
<ヨノミヤ中尉。君らは我々の安全を確保するのが仕事だろう。
それがどうしたことだ、我々の機体をエネミーゾイドの攻撃が掠めているではないか>
「それがどうかしましたか?
我々が防衛しているからこそ、皆さんはまだ生きているのです。
そもそも照明弾や閃光弾を使わなければ」
<だまれ! 貴官の行動には問題が多すぎる、戻ったら覚悟しておけ。
撤退だ!……丁度いい名誉挽回の機会としてサクラ・ヨノミヤ中尉、武門の生きざまを見せて貰いましょう>
その通信の後、広報部のシンカーやブラキオスは急ぐ様に水中へと逃げ込み、離れていく。
その後ろに、エネミーゾイドを連れて。
「貴方達も撤退しなさい」
サクラは部下にそう言うと、敵の多い中へとブラキオスで突入。
ビームとビームキャノンを連射し、自分はここにいると喧伝する。
空を飛んでいたシンカーも瞬く間に一機のみとなる。
<お嬢様>
「ヒダマ、貴方も逃げていいのよ」
<いえ、私はお嬢様と共に。
それよりも、生き残るべきです。
上陸した五〇一実験中隊は奥に進もうとしていますが、
この近くにいるエネミーゾイドの中に取り残されれば、私達に生き残る可能性は激減します。
どうか、生き残る覚悟を決めて下さい>
その間にも、襲い来るハエやフナムシに対応していたが、ついに限界点を超えてしまう。
フナムシの爆発がサクラのブラキオスで発生した。
爆風の下から現れたのは、首がないブラキオスだった。