Z.E. 428年 2月19日 午前1時30分
見渡す限り黒い海だが、セナの操るシーパンツァーHのセンサーには、魚雷のように水面下を進んでくる機影が次から次へと増えていくのが見えていた。
激しい砲撃を受けながら接近してくるそれは、海岸に勢いよく這い上がり、その姿を露わにした。
モルガと同じ大きさのエネミーゾイド【フナムシ】だ。
「マルダーTPは後退しつつ支援を継続して下さい。
モルガは牽引の準備ができるまでフナムシに攻撃を」
徐々に後ろへと後退しつつ、セナのシーパンツァーHは砲撃をやめる暇がない。
目と鼻の先に着弾すれば、数体のフナムシを巻き込むが、その脇から新たなフナムシが海岸に這い上がってくる。
既に魚雷は尽き、【七六式七糎半野戦高射砲】と予備武装の【マクサー20mmビーム砲】で対応しているが効果は薄い。
水圧に耐えるための厚い甲殻は、モルガの装甲並みに硬く、小口径のビームをほとんど弾いてしまうのだ。
シーパンツァーHの隣からビーム砲が放たれて、フナムシが爆散する。
アカネの搭乗するブラキオスは、空に牽制の【ビームキャノン】を放ちながら、正面にビーム砲を撃ち続けていた。
<セナ、そろそろ弾(たま)がないんでしょ。 後方に下がって>
アカネの声が無線機越しに聞こえてくる。
セナは周囲の状況を確認する。
モルガの【20mmガトリング砲】で作られた弾幕は、少しだがフナムシの上陸をせき止めていた。
<やってやる!やってやる!!>
<うぁああ>
エルザとミナのモルガが、正面にでたフナムシに向かい【20mmガトリング砲】の砲撃をやめない。
その裏では、ハンスとフリッツが最後の大型トレーラー二両の牽引を始めていた。
その時、海岸の向こう側からビーム砲が着弾する。
<申し訳ないのだけど、私達もご一緒できるかしら>
水蒸気の中から現れたのは、首のないブラキオスだった。
☨
Z.E. 428年 2月19日 午前2時30分
【AM-20】にドレンのレッドホーンAPが到着する。
<特務少尉。特別支援隊が合流して来ました>
「あん? ササツカ中尉、そちらの状況が差し迫っているなら、そいつらと合流後こっちに向かって移動してくれ。
できるだけトレーラーの補給物資は無事に届けてもらえると助かる」
<わかりました>
海岸線でトレーラーを運び出すまでの殿をしていた、セナ・ササツカ中尉のシーパンツァーHと、アカネ・ナシザキ軍曹のブラキオスでは、海面から出てくるフナムシと上空からビームを落とすハエの相手をするのは、マルダーTPの支援があってもそろそろ厳しくなるだろうとドレンは、予想していた。
「各機、弾の状態はどうだ?」
ドレンは、ずっと戦線を支えてきた傭兵たちにそう声をかけた。
<カミラだ、ゲルダーの砲弾は残り僅か。補給をしたい>
<こっちも同じ、ランチャーに一発もらったから整備もお願い>
カミラとエイラからの返答は、疲れている様子でいつもの切れが少し弱かった。
<ライアンだ、装甲板が一つ飛んでいったのと【20mm対空機関砲】がなくなった>
<エマ機、被弾は無いけど対空砲のたまが切れたわ>
ライアンとエマも若干の疲れの色をみせていた。
「わかった。
カミラとエイラのゲルダーTPは下がって補給と整備を受けろ。
二人が下がっている間はレッドホーンAPが前にでて戦線を支える。
ライアンとエマは二人が戻ったら補給だ」
<<<<了解>>>>
「レイラ、対空砲は自動にしておけ、ただ主砲が狙われそうになったら制御を奪ってハエを落とせ。
主砲の出力は10%で撃てばいい、至近での攻撃になる。
エネルギーバランスと砲身温度と残弾管理はレイシーお前が見ろ」
ドレンがレッドホーンAPを最前線に出しながら、機内通信で二人に指示する。
レッドホーンAPが去った場所では、特大型整備トレーラーを起動させて整備の準備をする傍ら、グランチュラCEが動き回りサブアームで弾薬やランチャーのパーツを用意している。
そこに入れ替わるようにしてゲルダー二機が入ってくる。
<砲身やられた奴は大型整備トレーラーに入りな!
砲弾(たま)だけでいいやつは多目的トレーラーだよ!!
トルーデ、ぼさっとすんな。さっさと海岸に現状報告に向かいな>
トメの声が通信機から雷鳴の様に響く。
☨
海岸線から現れた特別支援隊。
その隊長機のブラキオスと、第一小隊のシンカーだけが現れた不気味さをセナは感じていた。
海岸から現れたサクラ・ヨノミヤのブラキオスと合流し、ヒダマ・ツボミの操るシンカーは、ヨウコのグライドラーを追いかけていった。
セナは今は協力しないと、と考えてはいるがつい口に出してしまう。
「なんで照明弾なんてあげたんですか?」
セナは、サクラのブラキオスの側面にまわり、【マクサー20mmビーム砲】だけとなった装備でフナムシを攻撃しながら、徐々に後退していた。
<私達の意思ではないけど、ごめんなさい。
今はそれしか言えないわ>
サクラはビーム砲を正面に撃ちながら、ビームキャノンを精度の悪くなった照準でハエに撃ち放つ。
最初こそ首がなくなったブラキオスとの邂逅だったが一旦合流すると決まれば、それなりの連携をみせていた。
その間、アカネは無言でビーム砲とビームキャノンを撃ち続けていた。
<ササツカ中尉、これ以上は危険です。
マルダーTPのレーダーがフナムシの集団を三つ、新たに確認した。
ハエの密度も上がっている、トレーラーの最終も出たことだし、一度後退すべきだ>
マルダーTPの弾も切れているのか、ビームキャノンだけの支援砲撃が続いていて、その機体に搭乗しているミサト・カグラ曹長からの進言だった。
空にいるグライドラーとシンカーは、地上支援どころではなく二機ですれ違いざまにお互いを追跡するハエをねらうこともむずかしくなっていた。
「後退します。急ぎましょう」
☨
Z.E. 428年 2月19日 午前3時00分
マルワ島の【L-27】地点。
数十を超えるシーパンツァーが海中から上陸を行っていた。
「全隊、基地施設、街にとりのこされている住民の救助が今回の任務ではあるが、可能な限り施設破壊はせずエネミーゾイドの殲滅を行え!
突撃!!」
近衛第四連隊のヨノミヤ大佐の号令で、シーパンツァーは一斉に前進を開始する。
☨
Z.E. 428年 2月19日 午前3時15分
第五〇一実験中隊が補給地点とした【AM-20】と戦闘をしている、【AL-21】はそれほど遠くないが、夜であること雨と風が強まっていることから、数倍もの距離を感じていた。
<待たせた>
<まったく、すこしは減らしておいて欲しかったわ>
カミラとエイラが戦線に戻ると開口一番がそれだった。
「安心しろよ。おかわりはまだ続くみたいだぞ」
ドレンの言葉を受けたようにハエがゲルダー二機に急降下を仕掛けるが、【20ミリ対空機関砲】で撃墜されていた。
<ハエが弱くなってない?>
「推測だが、雨風を受けてエネルギーシールドに不備が出ているんだろうな、さっきからおもしろいように落ちる」
エイラの言葉にドレンが憶測交じりの考えを返す。
「ともかく、バークス伍長とウィルソン伍長、グッドマン少尉も一度整備に戻れ。
向こうの状況次第じゃ、海岸線に支援に行ってくれ」
<今度は海かよ>
<泣き言わない。 後ろから急に襲われるよりまし>
ライアンの言葉に、エマが返す。
<弾もないし、下がるね>
ガイサックTPのライアンに続きエマがぬけ、ケイトが言葉を残しマルダーTPが後退していく。
<少尉、榴弾の予備弾薬の数がそろそろ>
機内通信でレイラがそう伝えてくる。
「発砲の間隔を開けて、なんとか持たせろ。
正面の【20mm機関砲】の制御貰うぞ、抜けた連中の分は正面から受けねぇとな」
<了解>
冗談とも思えるフナムシが、ビームを乱射しながら突撃をしてくる。
フナムシの使うビームではびくともしないレッドホーンは≪グオォォォ≫と咆哮をあげる。
そして、レッドホーンAPの20mm機関砲が火を噴くとフナムシの進軍は止まってしまう。
フナムシも一撃では沈まないが、脚が止まればゲルダー二機のいい的で、次々に【七八式水陸両用誘導魚雷】の餌食となり、周囲を巻き込んで爆散していく。
☨
Z.E. 428年 2月19日 午前3時45分
<後ろからこんなに来ていたのかよ>
ライアンがそうぼやく。
海岸からのトレーラーの到着が遅いとトメから言われたライアンとエマが、補給を受けたとすぐに向かうと、トレーラー二両を引くモルガと、それを追いかけるモルガの姿があった。
少し距離を置いて、ビームキャノンを空に撃ち続けるマルダーTP。
後退しているが、フナムシとハエの圧力に負けつつあるブラキオス二機とシーパンツァーHだった。
トレーラーと弾の無いマルダーTP、シーパンツァーHを先に後退させる。
<マジで最悪>
エマはそう言いながら海岸から来たであろうフナムシに火線を集中させる。
<いいから撃ちまくりなさいよ>
二人の会話に割り込み、そう言ってきたのはアカネだ。
数発爆撃を貰ったのか、ビームキャノンの根本から煙が出ているが、アカネは気にもしていない様子で、ビーム砲とビームキャノンを正面に集中させている。
首のないブラキオスも同様で、必死に押しとどめようとしていた。
☨
Z.E. 428年 2月19日 午前4時00分
「ん?あれって!?」
ヨウコは無言になって、落とされないように空を飛んでいたが、すこし明るくなってきた空に見たくない異物をみた。
「ボール!」
無理にでもと旋回してもう一度、確認しようとして、もう一度おなじ物をみてしまう。
「うそ!
ボールが二つ!?」
<どうした、急に飛び方が変わったが>
無線越しに、さっき知り合ったヒダマ・ツボミの声が聞こえて来る。
「ボールがいる。
ちゃんと観測できてないけど、たぶん【AB-29】と【AT-2】。
【AB-29】の方が近い、一度だけ接近してみる」
<了解した。後方は何とかしよう>
グライドラーは一気に上昇すると、シンカーがそれに追従する。
高度を稼いだあと、そのままボールに接近するつもりだった。