荒れ狂う波に揺れるビガザウロASのハッチへ、ドレンたちは悪態をつきながら機体を滑り込ませた。
格納庫に収容された第五〇一中隊と特別支援隊の機体が並べられ、到着を待たずに機体整備が始まる。
第五〇一中隊の中隊長であるセナのシーパンツァーHは、ドレンのレッドホーンAPと共に、最後に乗り込んだ。
誘導された位置に駐機させると、セナの身体が求める水を飲んだが、頭がさえているが怠くなっているのを感じていた。
「本当に、この後も続けられるの?」
セナは一人呟いた。
その呟きに答えるように、クロエ・ソウエンジ少佐の通信が入る。
それは中隊各機のコクピットに繋がっていた。
<通信越しで申し訳ないのだけど、私の機体は甲板に固定されているので、半潜航状態のビガザウロには入れません。 そのため、このまま作戦説明を行います>
彼女の乗るレッドホーンCは、武装を持たないビガザウロASの【代用砲台】として飛行甲板に固定されており、そこから動くことができないのだ。
<状況から説明します。
低気圧は現在も発達しながら進んでいます。
マルワ等の市街地及び軍施設は奪還しましたが、エネミーゾイドもまだ残っている為、近衛第四連隊はマルワ島に残り、残敵を掃討します。
また、消失(ロスト)したボール級ですが、依然として行方は不明です。
海中に潜伏し、我々を待ち伏せしている可能性が高いと考えて行動してください>
モニターに荒れた海図が表示される。
<荒天による揺れを抑えるため、ビガザウロは半潜航状態で北上中。
現在、ビガザウロの護衛に、近衛第四連隊から二個小隊がついています。
上陸地点は、【R-30】。
島の南部にある街と軍施設からほど近い海岸になる。
主力は五〇一中隊、他の戦力はビガザウロASを中心に展開します>
「少佐、我々の隊のみで作戦を行うのですか?
近衛連隊は?」
セナがクロエに疑問をぶつける。
<マルワ島の残敵掃討のために近衛連隊の大部分が残ります。
そのうえで、ビガザウロASの護衛に随伴するのはシーパンツァー二個小隊となりました>
セナの問いにクロエが答えた。
<私達はどうすれば良いのでしょうか?>
サクラ・ヨノミヤ中尉が問いかけた。
<……上からは五〇一中隊と行動を共にするようにと指示を受けているわ。
ただ、損傷が激しいようだし、ツボミ少尉のみの参加でも問題ありません>
<……いえ、私も参加いたします>
<わかりました>
サクラとクロエのやり取りが終わる。
<二時間後には作戦が始まります。それまでは休息をとりなさい>
通信が切れる。
<お前ら、ぼさっとするな。
時間が出来たんだ、整備は任せても休息はしっかり取れよ。
戦闘糧食だして胃に流し込んでおけ。
次がいつになるかなんてわからないぞ>
セナが何も考えられずにいると、ドレンのぶっきらぼうな言葉が飛び込んで来た。
ドレンの檄が飛び、隊員たちは重い体を動かして機体を降りる。
整備兵たちがレッドホーンAPやシーパンツァーH等に群がり、火花を散らし始める中、パイロットたちはレッドホーンAPの前脚の間――開かれた前方スロープ付近に集まって車座になった。
☨
「おい、これでよく生き残ったな」
「爪の交換が必要だ、シーパンツァーの予備パーツ持ってこい」
ドレンが外に出ると整備士たちの怒号と火花が響く中、パイロットたちは携帯食を口に運んでいた。
レイラやレイシーは比較的ましであったが、エルザとミナは食事をする手が止まっていた。
そんな二人に母親のハンナが声をかけ水筒の水を交換している。
ハンスとフリッツも似たように、食事が進んでいない様子だった。
ミサトは何も言わずに、食事をとっている。
マルガレーテは生気を失いかけている。
セナは、ヨウコにじゃれつかれて何とか笑顔が出ている様子で、アカネはレッドホーンAPの太い前脚の装甲に背を預けて食事をとっている。
(こいつらは、あの薬が効いているから精神がもっているが、後数時間もしたら虚脱感で使い物にならなくなるんじゃないか?)
彼らをみたドレン・アサクラは、そう疑念をもち、数時間で戦いを終わらせないといけないと考えた。
ドレンは食べかけの携帯食を乱暴に飲み込むと、少し離れた場所で休んでいる集団に向かう。
「おう。 おまえら、次の上陸時だが俺と一緒に先陣を切ってもらうぞ」
「……ほう?」
ドレンの言葉に、カミラが反応する。
「俺のレッドホーンAPと、アイゼンガルド少尉、ヨルゲンセン軍曹のゲルダーTPで盾となり、道を開く。
側面をバークス、ウィルソン伍長のガイサックTPで固める。
グッドマン少尉は後続の第二小隊と一緒に降りてくればいい」
「……まじかよぉ」
「いいだろう、ゲルダーTPの装甲ならばフナムシ程度ならば物の数ではない」
ドレンの話に、ライアンは項垂れながら呪詛を吐き、カミラは堂々と受け入れた。
ドレンはそれだけ言うと、セナの所に今の話を伝えに向かう。
☨
Z.E. 428年 2月19日 午後9時30分
ツキ島の【R-30】地点に到着すると、エネミーゾイドが待ち構えていた。
<こんな嵐のなか飛ぶのは嫌だぁ>
<雲の上を飛んでボールの探査をするだけでいいんですよ?>
緊張感が漂う中、気が抜けるようなことを言うヨウコに、セナが苦笑混じりに声を掛けた。
<嵐の精霊が暴れる時に飛ぶと、酷い目に合うんす>
「イザワ伍長。今回は僚機もつくんだろ? また飯奢ってやるから、いってくれ」
ヨウコの言葉に、ドレンがため息交じりに会話に参加する。
<……うぅぅ、わかったっす>
ヨウコのその言葉のあと、格納庫のエレベーターがあがり、ヨウコの乗るグライドラーは飛行甲板に着くと風に揉まれながら飛んでいった。
それを追いかけるように、ヒダマ・ツボミ少尉のシンカーが離陸する。
<腕はいいんだが>
ヒダマの呟きがため息交じりにドレンに聞こえた気がした。
その頃水中では、ビガザウロASの巨体に十二体のフナムシが魚雷の様に進んできており、迎撃のため近衛第四連隊のシーパンツァーがフナムシと戦闘を繰り広げていた。
その中をビガザウロASはフナムシの自爆攻撃と荒波に揺さぶられながら、礫浜をあがる。
水中からビガザウロASの巨体が姿を表すと、陸上のフナムシからビームが襲い掛かるが、構わずに正面のハッチが開きスロープができる。
ハッチには、レッドホーンAPとゲルダーTPが並んでおり、フナムシの攻撃を受け止めると反撃の砲撃を行う。
先頭を駆けるのは赤いレッドホーンAPとゲルダーTP。
その後ろから、シーパンツァーHとブラキオス、ガイサックTP、マルダーTPと続いていた。
「予想通りのお出迎えだが、ハエはいないようだ」
レッドホーンの巨体が無数のビームを浴びながらも、悠然とフナムシを蹴散らし咆哮をあげる。
<こうも雨が強いと、レーザーの通りが悪くなるな!>
ガイサックTPに乗るライアンから愚痴のような言葉が出る。
共和国のマクサー社が生産しているビーム砲を改良したマ式三十粍粒子砲弐型などは、効果が減衰しているようで、クロー(ハサミ型のマニピュレーター)での格闘戦が主体になりつつあった。
<私、近接戦は苦手なのに>
エマのガイサックは、フナムシに押されるが横からの砲撃でフナムシが吹き飛ぶ。
<ふん。この程度の相手、ゲルダーの正面火力の相手にもならん>
カミラは言いながらゲルダーTPを器用に操作し、フナムシの群れに穴をあける。
吐き出される七八式水陸両用誘導魚雷は、陸上ではロケット弾のように飛翔し、水中では魚雷となるものだが、雨などものともせずに着弾点周辺を吹き飛ばしていた。
<あなたの得意な機体でしょうに、【蟲女(バグ)】さん>
<くぅぅぅ>
エイラの言葉にエマは唸る事しかできなかった。
その後ろでは、マルダーTP二機から【七八式水陸両用誘導魚雷】と【ビームキャノン砲】による対地制圧射撃が行われていた。
ケイトのマルダーTPと、ミサトとマルガレーテが乗る同型機だ。
「おしゃべりしている暇はないぞ。
……中尉、上陸は想定どおりに進捗。
先行して飛んでいったイザワ伍長からのボール発見の報告はまだないが、ビガザウロASの護衛は任せて、街か軍施設に向かった方がよくないか?」
<なにか上手く行きすぎている気がしませんか?
気象条件もあるのでしょうけど、抵抗が弱いような>
「それなら前衛に俺の第一小隊、中衛にカグラ曹長の第二小隊、最後に中尉の本隊が続く形にするか?」
<特務少尉の案に私も同意します。
ここに留まっても時間を浪費するだけです、まずは街に到達することを優先すべきだ>
<……わかりました。
少佐には私から報告しますので、特務少尉は先行してください。
カグラ曹長は支援砲撃をお願いします>
「了解した」
<こちらも了解した。モルガには移動の準備をさせておく。
……クラフト、ヴェーバー伍長は、特大型整備トレーラーを牽引して降りてこい。
リリエンタール姉妹は、多目的トレーラーを牽引しろ。
クライン伍長のシェル・モルガは要救助者に備えておけ>
内陸部に向かうように第一小隊が戦線を押し上げる中、ミサトの指示を受け、ビガザウロAS内に待機していたモルガたちが動き出す。トレーラーが落下しないように、二機がかりで慎重に降下作業を開始した。
<お前ら、トレーラーを落とすんじゃないよ!
先導側はスロープの中央からはずれるな!!
制動側はトレーラーに勢いが出ないように引っ張り続けな>
特大型整備トレーラーの傍には、トメのグランチュラCEがついており声を出す余裕もないパイロット達に発破をかけていた。
今の彼らは戦闘などできない。ただ「荷物を安全に降ろす」という、この場における最難関の任務を遂行していた。
そのスロープの先では、波打ち際から這い上がってくるフナムシに、セナの操るシーパンツァーHとアカネのブラキオス、サクラの首無しブラキオスが砲撃を加えていた。