稲辺アンジェリカの娘、レイアが背伸びをしながら桐山家の呼び鈴のボタンを押した。レイアは待ち遠しいのか足踏みをしながら玄関が開くのを今か今かと待っている。これでも大分行儀は良くなった。以前であれば、呼び鈴など目もくれず門扉を勝手に開き、玄関のドアノブをガチャガチャ鳴らし「開かない!開かない!」とアンジェリカに助けを求めていた。
レイアはアンジェリカと、夫の輝政との間に出来た二人いる子供のうちの長女である。もう一人はアンジェリカの腕の中ですやすやと眠っている。
レイアは、アンジェリカと同じく、先祖から受け継いだ、輝くハニーブロンドの髪をキャップに押し込み、薄手のTシャツの上にパーカーを着ていた。下は膝丈のジーンズに走りやすいスニーカー。
まるで男の子の格好である。勿論親の目もあるがレイアはとても可愛らしい。輝政とアンジェリカの親族親戚一同を並べ、その中から一番いい体のパーツを選りすぐって最高のバランスで配置した、というのは言い過ぎかもしれないが、集団の中にあってもとても目立つ容姿をしている。手も足もスラリと長く、角度によっては金色に輝いて見える瞳は、体に収まりきらない生命力が溢れているようだ。本当はもっと長く伸ばしたいと思っている、肩口まで伸ばした髪は、レイアと相談を繰り返した妥協の結果だ。まだ本当の意味で女性らしさが体に出ていないのに、男の子の格好をしていても、誰がどうみても女の子にしか見えない。
活発で格好いい、とても可愛い女の子。
そんなところに落ち着く。
しかしアンジェリカとしては少し残念に思う。。せっかくの女の子なのだから着飾るとまではいかなくても可愛い服を着てもらって二人でオシャレを楽しんでみたかったのだ。
髪の長さを何度も話し合ったように、服装についても話あっている。以前はスカートも着ていた。でもよく破いていた。どうやら喧嘩で破いたらしい。原因は春君だった。
春君はレイアの一番の友達だ。といってもレイアの友達は春君しかいない。春君もそうだろう。喋らずぼーっとしている事の多い春君はよくからかわれた。集団で春君をからかうのだ。集団でのこういった行為は直ぐにいじめに発展する。
無邪気な子供のすることだから。こんな事をいう人は子供の事を何も知らない人だ。そして殆どが当事者ではない。
子供は無邪気ではない。ちゃんと計算して行動している。誰が強いか、どっちが有利か。あいつは弱い。俺達は強い。黙らしてしまえば誰にも分からない。
レイアには子供の計算も、大人の理屈も関係なかった。注意されようが、怒られようが春君をからかう者全員を例外なく殴った。その中には保育士や教師も含まれた。当然問題になるが、後ろめたさがあるため最終的に相手が折れる。その代わり付き合いは無くなる。
格闘経験など一切ないのにレイアは強い。小学生の高学年程度なら複数に囲まれても怪我一つ負わないらしい。らしいというのはアンジェリカはレイアが喧嘩をするところを見たことがないからだ。服が破れているのを見て成る程と思うだけだ。
アンジェリカは小さい頃から体は弱かったが、親族家族に格闘家が多く、自然と日常的に怪我をする人を多く見ている。子供の喧嘩大いに結構。元気があってよろしい。しかしアンジェリカの常識は日本の常識とずれている。怪我をした子の親が当然怒鳴り込んでくる。
こういう時、レイアに聞いた話と随分と違う話を、いつも相手の親から聞かされる。レイアが嘘をついているのか、相手が嘘をついているのか。当然レイアを信じた。それに春君の事でレイアは嘘をつかない。
輝政が問い詰めると必ずボロが出た。決定的な怪我をしてないこともあって、お互い様でしたで解決が多い。
レイアと春君の出会いは春君が幼稚園に入る少し前の事だった。引っ越して間もない頃で輝政とレイアと三人で近所を散歩していた時だった。気がつくとレイアがいない。慌てて探すと公園のベンチに座っていた。その横には男の子。それが春君。ぼーっとしている春君の手を握り二人で空を眺めていた。
大人は大人同士。差し障りのない会話でお茶を濁していた。
帰る段になって秋奈が春君に声をかけた。秋奈に挨拶をしてさぁ私達も帰ろうとなった時、またレイアがいない。春君と手をつなぎ春君と一緒に歩いていた。家に帰るよう諭しても手を離さない。少し強引な手に出ると春君に抱きついて離れない。
困ったなとなった所に秋奈が「家に来ますか?」と言い出した。時間も時間なので当然断った。すると「子供を一日預かりましょう」という。今もだが秋奈は昔からふわふわしているところがある。人様の子供を預かるという事は大変な事だ。もし何かあれば責任問題に発展する事もある。それにお互いどこの誰か未だに知らない関係だ。「じゃあ、ご両親もご一緒に」。呆気に取られる内にあれよあれよと自宅に誘われた。
この日からお互いの家を行き来する家族ぐるみの付き合いが始まる。これにより日本に友人のいなかったアンジェリカは七つ年上の秋奈との年齢を超えた得難い知己を得る事になった。この件についてはレイアに深く感謝している。
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桐山家の玄関のドアが開いた。
「おばさまこんにちは!はるー!きたわよー!」
キャップを脱いで頭をぺこり。レイアは挨拶もそこそこに急いで家の奥に駆けていった。
感謝してるんだけどねぇ。
いつものことだが苦笑いが出てしまう。郷に従って躾はしているが春君の事になるとなかなか難しい。
「ふふっ。いつも元気ね。アンジーいらっしゃい。輝明君もこんにちは。ささ。入って入ってー。」
親友となって既に長い。。引きつった笑顔でアンジェリカが何を考えているか分かっている。そんな事気にしないでと言わんばかりに秋奈はアンジェリカを歓迎する。
二人で世間話をしながらリビングに向かうとレイアの元気が声が聞こえてくる。
「それでね!パパはやっぱり昨日もママを虐めてたの!パパがママの上に乗ってママが泣いてもう駄目死んじゃう!って何度も言ってるのに全然許してあげないのよ!酷いと思わない!?そしたらママがぐったりしてるのにママをひっくり返して背中に乗るの!ママもパパの虐めに泣きながら我慢してたんだけど動かなくなったの!私怖くなってママを助けにいったわ!そしたらママ白目になって口から涎が一杯でてたの!息はしてたから安心したんだけど頭に来たからパパにママを虐めるな!って言ったんだけどパパはママを虐めてないよって嘘つくの!嘘ついちゃいけないっていつも言ってるパパが嘘ついてるのよ!」
アンジェリカは頭に血が昇ってくるのがはっきりと分かった。多分、顔は真っ赤だろう。
昔、病弱だったアンジェリカはレイアを身籠ってから急に元気になった。子供も難しいと言われていたがレイアはびっくりするくらい安産だった。第二子の輝明は少し時間が空いてしまったがもう一人は産みたいと思っている。レイアを産んでからホルモンバランスが崩れたせいなのか、生理前の一定期間、どうしても輝政が欲しくなってしまう。最近わかった事だが声も人より大きいらしい。
寝かしつけてから気を付けてはいるのだが、レイアはタイミング悪く起きてしまうことが何度かあった。
小学生三年生と言えば、性に関する知識を持つものも多くなる年頃だ。完全に理解できなくともなんとなく理解できてしまう年頃でもある。女の子の情報ネットワークを舐めてはいけない。
レイアは親の行為を何度も見ているに関わらず、非常に性の知識に乏しい。他の事に関しては大人顔負けの時もあるのに。
アンジェリカは真っ赤になった顔を壁で隠しつつ、輝明をあやす。
レイアには感謝している。感謝しているけど。
稲辺アンジェリカの悩みは今日も晴れない。
設定メモ
桐山家
夏彦(35) 夏君 父 結婚するまで童貞 リーマン
秋奈(35) 秋奈さん 母 おっとり 同処女 専業主婦 ゴムゴムの実
春 (10) 春 長男 ぼけー 無口 小三
冬至(08) 冬ちゃん 次男 よく喋る 活発 小一
稲辺家
輝政 (32) 輝政 父 やり手 会社経営
アンジェリカ(28) アンジー 母 昔病弱 半押し掛け 専業主婦 生一本主義
レイア(10) イア 長女 喧嘩超つおい おぼこい 小三
輝明 (01) 輝ちゃん 長男 赤ちゃん 一歳ちょい