今回スケベありません。すみません。
前後編の予定が、前中後と別れます。
最後にアンケートがあります。よろしくお願いします。
「──と、ここからは応用になるけど」
「はい」
「この時に陣形を変える、と」
鎮守府庁舎内、西日の差し込むとある会議室。
天板の広い机の上には鎮守府近海域の図が広がり、2つの異なる色をした凸型の駒が複数並べられている。
それらを前に肩を並べるのは、腕を組みウンウン唸る俺と、余裕の表れた笑みを浮かべつつこちらへ語りかける嶋田さんだ。
「変則的だが、ここで重巡を前に出せば──」
彼女は図上の駒を棒で押し、ゆっくりと敵対する駒を指し示す。
コツリ、と天板を小突く音が、静かな室内に響いた。
「──相手の隙を突くことができる」
「なるほど……」
つまるところ、俺は今嶋田さんから、先程行われた演習の解説兼、図上での再現演習をして頂いている訳だ。
正直、かなり為になる。民間上がりでなんとか基礎を固めて指揮をしているような俺にとって、でかい鎮守府をまとめる提督達のような応用力を学べる機会なんて、幾らあっても足りないくらいだからな。
今日一日を共にしていたお互いの秘書艦は、今は隣の部屋で休憩させている。北上はともかく、吹雪はもうかなりヘトヘトな感があったし。
そんな訳で、俺は嶋田さんと二人っきりで会議室に詰めていた。
何はともあれ集中集中。少しでも技術を盗まないと……と言いたい所だが、そうは問屋が卸さない。
駒を動かすために身体を机へ乗り出す嶋田さんが視界に入る度、思わずそちらへ目が行ってしまうのだ。
すらりと自然なラインを描く背筋、純白の制服の下から丸みを主張する肢体、艷やかな黒髪の揺れるポニーテールと、その下に覗くうなじ。そして凛とした顔つきに、笑みを絶やさないその表情。
とてつもない美人だ。それも、艦娘達と並んでも遜色ないくらいに。
「ここを……ん? どうかしたかい」
「あっ、いえ……」
俺の視線に気付いたのか、身を乗り出した姿勢のまま振り返り、こちらを見上げて疑問を口にする嶋田さん。
小首を傾げる彼女の仕草に、大人びた外見とのギャップを感じてドキッとしつつ、対して俺のその感情がバレていないかと若干ヒヤッとしながらも準備していた質問を口にした。
「その……ここの動きの意味は?」
「そこか。よく気付いたね」
ほっ……。危ない危ない。気付かれてはいないみたいだ。
この世界に来てから触れ合った人──グイグイ来る明石とか、お淑やかに俺を肯定してくれる鳳翔とかと違って、あくまで等身大に俺を扱ってくれる人は正直ありがたい。
……でもやっぱ、前世のおっさんの顔が脳裏にチラつくんだよなあ……。
「……中佐、聞いているかい」
「す、すみません」
そんな考えを巡らせているうちに、目の前のことが疎かになっていたらしい。
いけないいけない。俺は少しでも雑念を捨てられるよう海域図に一層近付いて、嶋田さんを視界の隅に追いやった。
†
「暇だよ〜。暇〜ヒマ〜」
「まあまあ……。折角お時間を頂けたんですから、しっかり休みましょうよ」
実際の所、ぶーたれる北上を宥める吹雪という、ただでさえ疲れていた吹雪の心労を余計に重ねる光景が広がっていたのだが。
「中佐さんとお話ししたい。あわよくばしっぽりしけ込みたい〜。嶋田提督ずる〜い」
「欲望ダダ漏れじゃないですか……」
「あ、そういえば吹雪さあ」
「はい?」
備品の椅子に逆座りで
「中佐さんの秘書艦って事はさあ……シたの? 色々と」
「した? って……?」
「ほら……」
彼女の言葉に理解が及ばず、一時は頭にクエスチョンマークを浮かべた吹雪。しかしその反応に若干白けた北上が、手を輪っかにして上下するハンドサインを見せると、ようやく吹雪はハッとして、顔を真っ赤にしつつ北上に吠える。
「し、シてませんっ!」
「ええ〜。やっぱこの鎮守府、不能者しかいないよぉ」
「不能じゃないですよ!!」
やれやれといった仕草を見せ、北上は続ける。
「こないだの横須賀の集まりの時に、鳳翔も似たようなこと言ってたなあ。んでさ、アタシが夜這いすればって焚き付けたっけ」
「え? 鳳翔さ……夜這いっ!?」
鳳翔の名前が出てきたことにリアクションする間もなく、続いて口を衝いて出た単語に吹雪は驚愕する。
怒ったり青ざめたり、吹雪の百面相が余程面白いのか、いつの間にか北上の口角は限界まで釣り上がっていた。
「よ、夜這いって……」
「ん? うん。 鳳翔と中佐さん、同じ部屋で一泊するんだからヤっちゃえー……ってね。それで──」
「そ、それで……?」
「翌朝の鳳翔、ツヤっツヤだったなあ。キラ付け完了って感じで」
「な──ッ!!」
北上の発言に、吹雪は驚愕のまま硬直する。
しかし微動だにしない身体とは対照的に、その脳内は激しく活性化していた。無数の電撃が四方へと走る。これまでの鳳翔に関する疑惑や噂が全て一本の線となって繋がり、遂には完璧な推理として出来上がっていったのだ。
ついでに脳破壊も行われた。
「そういう……事だったんだ……!」
「……んん? ショックなの吹雪? 吹雪ー? おーい……なんだよ、つまんない」
吹雪は目を見開いたままわなわなと震え、北上の声が聞こえていないようだった。
「ふぁ〜。ヤりたいな〜……」
もう少しからかうつもりだった相手が反応しなくなってしまった北上。しばらくして興味を無くした彼女から、つまらなさそうなあくびが一つ漏れる。そうして再び背もたれにぐでりと寄りかかると、ぼけっとした表情で頬杖をついたのだった。
それから室内に静寂が訪れ、時間だけが流れていった。
†
鎮守府庁舎の前で、俺と吹雪は朝と同じ様に立っていた。……いや、正直言うと吹雪の疲労が限界か。なんだか灰になっているような……。しかも、俺をちらりと見ては涙を滲ませている……? これは無理矢理にでも休ませる必要があるかもしれないな。
まあそんな俺達は置いといて。
陽が沈んで間もなくといった頃合い、空で紺と朱が層になっているその下で、今まさに公用車に乗り込もうとしているのは嶋田大佐だ。それは今日の一大イベントの終わりを意味していた。
「本日はありがとうございました」
「ああ、こちらとしてもいい刺激になったよ」
珍しく提督らしいことをした一日を振り返りつつ、一礼して彼女の言葉を聞く。
……と、大佐に続いてドアノブに手を掛けた北上がこちらに振り返ってひらひらと手を振った。
「バイバイ中佐さん。奥手な嶋田提督だけど仲良くしてやってね〜」
「こ、こらっ!」
ウィンドウを下げ、車内から顔を出してこちらへ話しかける北上。彼女の言葉に、嶋田さんの余裕たっぷりな表情が一瞬にして焦りに変わった。
「中佐すまない、こいつ余計なことを……」
「はるばるアナタに会いに来たのに、仕事の話しかしないんだから世話ないよねえ。ねえ中佐さん、この人の
「済まない! 車出してくれ! それじゃ、また!」
「は、はい……?」
「んむ〜!」
茹でダコみたいな顔色の大佐に口を押さえられた北上。
車内に引きずり込まれた彼女の姿を、せり上がるウィンドウのスモークがすっかり隠してしまったところで、公用車は走り出した。艦娘輸送車も後に続く。
何というか……フリーダムな艦娘だなあ……。
「あんな秘書艦あり……?」
隣で吹雪がボソリと呟いている。……俺もそう思うよ。
嶋田さんのあんな顔を引き出せるのは、彼女しか居ないだろうな。
†
最後に北上が言いかけたのは何だろう?と小首を傾げつつ踵を返す。まあそれはさておき、ようやく肩の荷が下りたって感じでほっと息をついた。
腹も減ったし、早速食堂へ……といきたいところだけど、俺達は一旦そこを素通りした。
まず向かったのは執務室。これから、この鎮守府に電撃着任した3人の艦娘と合流するんだ。運用に関しての諸々の書類仕事を済まさないといけないわけで、彼女たちにはそこで待機してもらっている。
まだ遠くに見える、廊下と執務室を隔てる古めかしい扉。その向こうからは、複数のくぐもった声が漏れ聞こえていた。
歩みを進めて近付くほど、少しずつ鮮明になってゆく。
『なーなー。オトコって、佐渡様達オンナとどう違うわけー?』
『知らないの佐渡ちゃん。鹿島さんが教えてくれるよ』
『わ、私!? えーっと……その、身体に……大事なものが
『そうなのか!? なにがついてるんだ!?』
……なんだろう、何を言っているかは分からないけど、佐渡が元気な事だけは伝わってくる。
『大事なものってぇと、心臓か!? 心臓が2つあるのか!?』
『違うよ佐渡ちゃん。 っふふ、鹿島さんが正解を教えてくれるって』
『ええっ!? その……ち、ちん……』
ガチャリ。 結局何の話だか分からないままに、俺は執務室の扉を開く。
「お待たせお待たせ。それじゃあ着任の手続きを──」
「ちんち──ほええええーっ!!」
「うわぁ!?」
入室した途端、奇声を上げてビクーンと飛び上がる鹿島。
なんだよ!? 視界に飛び込んでくる彼女にこっちまでビックリしたじゃないか。
その足元でこっちに顔を向けるのは、しいたけ目をした佐渡と、口元に緩やかな弧を描く対馬だ。
……何が何だか分からないが、きっと子守が大変なんだろうことは伝わってきたぞ。
「……お疲れ鹿島」
「へっ……?? は、はい」
「ん、司令っ! 司令にだけある大事なものを見せてくれよー!」
彼女を労う俺の足元に、佐渡が駆け寄って抱きついてきた。手袋を嵌めた小さな手でスラックスの端を掴むと、揺らすように引っ張りながらおねだりをし始める。リズムよくグイグイと揺れるちびっ子の瞳は、先程と変わらずキラッキラとしていた。……で、俺にだけある大事なものってなんだ?
「階級章のこと?」
「え? かいきゅう……? うーん多分ちーがーうー!」
俺の返事が気に食わないらしく、大きく首を振る佐渡。
彼女が欲しかった答えは階級章じゃないらしい。なんのことだよ。
「こら、佐渡ちゃん! 司令官に抱きつかないの! 上官だし、それに男性なのよ」
「えー、なんで!」
「なんでも!」
俺の後ろに控えていた吹雪が、海防艦の視線の高さに合わせて膝を突き、珍しくまともな顔をして佐渡を注意する。彼女の表情は、まさにお姉ちゃん、といったものだった。
流石吹雪型の長女だ。からかうと真っ赤になるところも、真っ直ぐな瞳で人を叱るのも、生来の生真面目さから来るものなんだろうな。
うんうん。真面目なお姉ちゃんに肌を見せたりして性的にからかうのたまんねぇや。……いけない、つい心の声が。
俺はそんな内心をおくびにも出さず、未だ足に引っ付く佐渡に優しく声をかけた。
「今はお仕事の時間だからな。今じゃなければ良いよ。その時にもっとお話ししような」
「し、司令官……」
「うー……しょうがねえ。約束な!」
視線を逸らし、頬を膨らませてぶーたれる佐渡。その手はスラックスから離され、吹雪に導かれるままに鹿島と対馬のもとに引き下がった。
よし、ようやく話の続きができる。
「落ち着いたところで、3人の着任手続きと行こう。さ、そっちに座ってもらって」
「はい!」
「はぁい、ふふ」
「おう」
†
諸々の用紙に各自名前を記入してもらい、書いたそばから秘書艦の手に渡り、最終的に執務机へ届いたものに俺が決裁の判子を押していく。そんなルーティンが幾度となく繰り返される。
綺麗な筆跡が鹿島で、所々が丸みを帯びて女の子らしさ全開なのが対馬、そして筆圧の強さがはっきりと伝わってくるゴリゴリの字が佐渡だ。すげえ、癖字だけでどんな人間なのかが分かってしまいそう。
「これで最後、と」
ポン、と押印した最後の一枚を、山積みになった書類の束の一番上に置く。疲れた。ファイリングは明日だ明日。
あんなに元気だった佐渡も、単純作業の繰り返しは相当堪えたらしい。ソファーに座っていた姿勢から身を投げだして、隣の鹿島の膝を枕に倒れ込んでいる。
「3人ともお疲れ様」
提督こそ、と気を遣う鹿島に笑顔を返し、俺は席を立つ。
「よし、それじゃあ食堂で飯だな。その後の入浴・就寝だけど、大浴場の場所は吹雪に──」
「司令と入るっ!」
俺の台詞に割り込むように、佐渡が大声を上げて起き上がった。
「お仕事の時間は終わった。 じゃあさっきの約束! 佐渡様に司令の秘密を全部教えてくれんだろ?」
「こっこら佐渡ちゃん、お話なら食事中にでも……」
「鹿島さんが言ったんだ、メシは静かに食べなさいって!」
「うっ……」
「いいよな司令! お願い!」
八重歯を隠さず、溌溂とした笑顔でこっちを見る佐渡。彼女を宥める鹿島も言いくるめ、その瞳の決意は固そうだ。
うーん、折れるしか無いか。別に嫌じゃないし。
「分かった、そうしよう」
「し、司令官っ!」
「いっひひ! そうこなくっちゃ!」
ただし、俺はこの時間の大浴場に入れない。基本的には艦娘たちのための施設だから、男の俺が入れるタイミングは非常に限定的だ。この間朝潮と遭遇したような、朝の時間とかな。
となると、佐渡と一緒に過ごせる場所といえば、提督に割り振られた私室の小さな風呂しかない。
「俺の私室の小さな風呂になるけど、いいか?」
「うん!」
上等だぜ、と佐渡がガッツポーズを構える。その隣で、しなりとソファーに腰掛ける対馬も口を開いた。
「司令、対馬もご一緒⋯⋯したいです」
「つ、対馬ちゃん!?」
驚く鹿島を横目に、対馬の目はまっすぐこちらを見ている。
そうだよな。着任したばっかりなのに、唯一気軽く話せる佐渡と離れ離れにはなりたくないんだろう。うんうん。心細いよな。
「分かった。対馬も一緒に入ろう」
「うふふ。お願いします」
手を頬に添え、穏やかに目を細める対馬。
対して佐渡は、そうと決まれば、と八重歯を覗かせて悪戯っぽく笑い、ソファーから跳ねるように飛び降りると、
この二人、すっごい対照的な仕草をするよなあ。どちらも愛らしい。
「よっしゃ! 司令、対馬!はやく行こうぜぇ! ひひっ!」
「はいよ」
「ふふ」
びしっ、と執務室の扉を指差す佐渡。俺も対馬もそれに応じるように、席から立ち上がった。
まだ腰を下ろしたままの鹿島と吹雪は、お互い見合わせてから俺に目を向ける。その瞳は困惑の色を滲ませていた。
「提督さん、よろしいんですか……? 男性とお風呂⋯⋯?」
「い、いいなぁ……」
狼狽える二人の美少女を置いて、チビっ子二人と俺は歩みを進めるのだった。
次回、お風呂回。
迷ってることがあるのでアンケート取らせて下さい。お願いします……。
"興奮する"を選んだ方、海防艦二人からどんな手出しをされたら理想かを是非感想欄で教えて下さい。優勢の場合、構想の範囲内で一番スケベだと思ったシチュを採用させて頂くかもしれません。
提督は海防艦に
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興奮する
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興奮しない