ダビデ案件駄目絶対! と最後のマスターは叫んだ 作:Schuld
「どうやらマスターには前の女が居るらしいわ」
「は?」
緊急会議、と称して呼び出されたカルデアの空き部屋にて、マスター一番の盾を自認するマシュ・キリエライトは中々に間抜けな顔をさらしていた。
というのも、くそ真面目なトーンと真剣そうな表情で“議長”と書かれた三角錐――態々作ったのだろうか――がある席に着いた女王メイヴのせいである。
「あの、メイヴさん。徐に何を?」
「だから、マスターは既に別の女のモノになっていたのよ!!」
つい先日、アメリカでの縁もあって召喚された女王メイヴは、椅子を蹴立てて立ち上がりながら、力強く拳を握りしめた。その発言の過激さに、マシュと同じくこの部屋に召集された幾人かのサーヴァントが椅子を蹴立てて立ち上がった。
「そんな!? そんなことはありえません! 何故ならますたぁは、わたくしが24時間絶えず警護しているのですから!!」
「はい!! 清姫さんと出動を補い合うよう相互監視しているので、絶対にありえないかと……!!」
初っぱなからマスター過激派の二人が発狂し始めた。元から狂っている感がある、周回の女王清姫――尚、普段は危険性からレクター博士並みの拘束がなされている模様――と、自称見守り警護勢たる静謐のハサンだ。
マシュは一瞬頭を冷やし、こいつらをどうした物かと盾に手を伸ばしかけたが、ここでぶん殴っても恐らく加熱した議場はどうにもなるまいと思って手を止めた。徒労に体力を使うのも馬鹿らしい。大きな本題は、この後に控えているのだろうから。
何故なら、この場にはマスターに粉を掛けようとしている女人ばかりが集められているのだから。
「そ、そんなこと、俺はどーでもいいんだが、俺はどーでもいいんだが! あ、あの馬鹿が何だって!?」
そして、その中には秘めたる――これでも隠しているつもりなのだ、当人は――思いを抱いた面々も含まれていた。夏にはボードで海を駆けてテンションのネジを外し、普段は剣を振るってマスターに奉公する離反者が裏声を上げた。
「受け容れられない面々のためにもハッキリ言いましょう……マスターはドエロ調教の経験者よ。私の魂が、そう告げているわ」
暴れ始めたバーサーカーを鎮圧にかかっていた面々を含め、更に空気が冷え込んだ。言うに事欠いてドエロ調教である。それも、あらゆる淫蕩を貪ったと称して過言ではないケルトビッチの言なら妙に信憑性があるので、冗談にしても性質が悪すぎる。
否、当人の顔は真面目なので、きっと冗談ではないのだろう。ケルトは冗談も洒脱も嫌いではないが、他人を殊更不快にさせる冗談を繰るほど人間が歪んでいないのだ。ただちょっと、人生の芸風が他の文明圏と違うだけなのである。
「し、証拠があるなら是非とも教えて貰いたい物だが……」
おひげの逞しい竜騎兵としての肖像が残る、しかしここでは不定形カテゴリーのシュバリエが震え声で問うた。普段は忠誠がどうこう、マシュだけが盾では云々いって側に侍っている不定形グループだが、ここに引っ張り出されたということは“そういうこと”に違いあるまい。
「それはね……マスターにピアス痕があったのよ」
「は?」
何だそれだけかよ、というしらけた空気が場に満ちた。ピアスは何処の文明圏にもある文化であるし、男性でもピアスホールは珍しくもなんともない。カルデアでもピアスを身につけて居る男性サーヴァントはそこそこ居るし、近年でもオシャレとしては比較的メジャーなもの。一つ数百円のピアッサーで気軽に開けることもできるので、たったそれだけでドエロ調教に結びつけるというのは飛躍が過ぎた。
「普通のピアス痕じゃないわ……軟骨ピアスよ」
その一言で反応は分かれる。知識がある者は戦慄し、無い者は首を傾げる。
軟骨ピアスは耳の軟骨に穴を開けて通すピアスであり、耳たぶと比べると難易度が高い傾向にあり、場所によってはドマゾ御用達と言われるほど苦痛を伴うこともある。メイヴは、ここ数年付けていないからか塞がり掛かっていたホールをめざとく見つけたと言うのだ。
「あれはかなり上級者向けの位置にあったわ……具体的に言うと、多分スパ氏でも軽く悶えるレベルよ」
マジかよ、という驚愕が議場を震撼させた。あの苦痛を燃料として動く圧制者絶対殺すマンが痛がるとか、箪笥に小指の比じゃねぇぞと普段の暴れっぷりをよく知る彼女たちだからこその衝撃を受ける。
「その上、私の敏感な目は見逃さなかったわ……」
唾を呑む音の多重奏。スーパーケルトビッチの眼力を、最早この場の誰もが疑っていなかった。そして、敬愛する主人の恥ずかしい過去への期待と、聞きたくないが聞いておかねばというよく分からない義務感――或いは知的好奇心――から誰も逃げることができない。恋した相手が過去にどんな仕打ちを受けていたかなど、普通の心根ではまともに聞いてはいられまい。
「立香の舌にもホールがあったことを……」
かくして議場は沸騰、否、爆発した。
流石に誰でも分かる。舌へのピアスはちょっとおかしい。パンクな趣味の持ち主だったならまだしも、かなり純朴な立香には似合わないし、持ち込んでいる音楽プレーヤーにもそういった音楽は殆どなかった。立ち振る舞いや言動、時折漏れる思い出話にもそういった層との付き合いはなく、普通に高校生していたようなエピソードばかりだ。
それが舌ピアス? おかしいとしか言いようがあるまい。
「ピアスはね、一つ開けると増えるのよね、自然と……二つ三つと」
もしかしたら乳首にも……。
メイヴの言葉を聞いて、数人のサーヴァントが卒倒して倒れた。清姫は白目を剥き、静謐のハサンは褐色の顔でも分かるほど血の気を引かせ、マシュは泡を吹いた。
単にマスターがドマゾだったというだけの話であれば、こうにはならなかったであろう。中にはサディズムに造詣が深いサーヴァントも居るし、マゾヒズムの裏側はサディズムであることから、何時だって責める側に転向することもあると期待する者も居ただろう。
が、流石に気に入った相手が過去に誰かのモノだったという内容が伴えば、ご覧の通りだ。あのぽやっとした笑顔や、戦場での堂々とした立ち姿が似合う少年が過去に受けた仕打ち、囁いた言葉、刻まれた何かを思えば心穏やかには居られない。
心の中に息づいていた大事な何かにトドメが刺され、別の何かに変質していく。
ある者は邪な願いを抱いた。既に誰かが作ったものを上書きして、自分好みにしてしまいたいと。
ある者は心を痛め、その過去を埋めて忘れさせてしまいたいと思った。己の持ち得る全うではない力を用いたとしても。
そしてある者は…………。
NTRされるのが嫌という電波を立香が受信して始まったという妄想なので、先だって立香がアレな目に遭っていたらというお話。続きません。
というよりも、酔って書き連ねた五万文字程度のテキストも尽きたので、どうしたものでしょうかねー。