待て待て待て、まるで意味が分からんぞ?何で原稿?何でそれを読むのが飛龍さんなの?
狼狽える俺を見て悟がクックッと笑う、お前は空がやろうとしている事の意図が分かると言うのか?
「戦治郎を奮い立たせるような内容の原稿を書いて、それを戦治郎の頭の中に間違いなく入れる為に龍美さんとまるっきりそっくりな飛龍に読ませて聞かせるって魂胆かぁ……、今の戦治郎に話を聞いてもらえるのが親友であるおめぇと飛龍くらいしかいねぇが……」
「俺はなるべく早めにアレを仕上げたいところだからな……」
そう言って空はカーテンが閉められたベッドの方に視線を送る、空の視線の先に何があるのか気になるところだが、それよりも先に1つ言わせてくれ……
悟はさっきの空のあの短いセリフだけで、空の考えてる事マジで理解してやがったのかよぉっ!!!毎回毎回インテリ組だけで話進めて俺達を置いてけぼりにするのいい加減止めてよぉっ!!!
心の中で叫んでちょっとスッキリしたところで、空の視線の先にあるカーテンを少しだけ開けてベッドの上を見てみる。そこには上腕を半分くらいから切断されている長月が眠っていたのだった
「空にはおめぇが来る前に見せてたんだわぁ、こいつの義手を作るように頼む為になぁ」
「侵食と拒絶反応、この2つの問題を解決するにはこうするしかなかったみたいだからな……。このままでは何かと不便だろうし、何よりその姿があまりにも痛々し過ぎる……」
なるほど、飛龍さんに原稿読ませようとしてるのは長月さんの義手を作る時間を作る為だったのか……、確かにこのままにしておくのは流石に可哀想だからな……
「これで空が飛龍に原稿を読ませようとしていた理由は理解出来たかぁ?光太郎よぉ」
ああ、よぉく分かったとチキショウ!改めて聞かれた件と言い、さっき笑った件と言い、地味に腹立つなもうっ!
「んでさっき原稿仕上げるって言ってたがよぉ、原稿仕上げる時間も正直もったいねぇんじゃねかと思うからよぉ、いっそ海賊団からの寄せ書きみたいにするってのはどうだぁ?あいつの肩にどんだけの命が乗っかってるか自覚させて奮い立たせる事も出来るが、逆にそれに圧し潰されて立ち直れなくなる可能性もあるけどなぁ」
一か八かの賭けじゃないかそれ……、でも時間が惜しい現状ではやる価値はあるか……
「それでいこう、それならばシゲと護に早めに書いてもらえばこちらを手伝ってもらえるかもしれないからな」
「そんじゃあ海賊団の連中に協力取り付ける為にも、今から説明会といきますかねぇ」
そう言って空と悟は医務室から出ていく、俺はそんな2人を追うようにして医務室から出て行ったのだが、その時俺達3人は気付いていなかった……、長月が眠っているベッドの反対側に置かれたベッドの上に動く影があった事に……
「っとまあ、これが戦治郎が今こうなっている原因ってわけなんだわぁ」
戦治郎のトラウマの説明をこう言って〆る悟、それを聞いたメンバーは全員静かに俯いてしまい、説明会を開催したこの拠点の会議室は完全にお通夜ムードになってしまっていた……。どうすんだよこれ……
因みに、悟は戦治郎の実家が金持ちだった事は伏せていた。それが原因で戦治郎に偏見を抱いたり萎縮されても困るだろうとの事だった
「アニキにそんな過去があったのか……、アニキはそういうのとは無縁だと思ってたんだけどな……」
そう呟くのは母親から育児放棄されていたシゲ、あいつの普段の立ち振る舞いを見ていたら過去にそんな事があったなんて想像出来ないよな……
「大好きなお母さんの死、そして攫われて殺されかけたなんてなったら誰でもそうなっちゃうわよねぇ……」
そう言って溜息を吐くのは愛する妻が国際テロリスト集団の指導者になってしまった挙句、その妻に自らの手でトドメを刺した剛さん、俺が同じ状況になったら間違いなく立ち直れなかったと思います……
因みに、アリーさんの件はこの話になる前に剛さんが全員に話してくれた。フラリンを問い詰めている時あんなに必死だったのはそういう事だったんだな……。それにフラリンのところにあった武器の数々の事を考えると、既に行動を開始しているみたいなので早く何とかしないと世界が大変な事になってしまう……っ!
「お母さんの葬儀中に攫われたせいで、その2つの出来事が根っこのところで複雑に絡まってしまっているんですね、だからお母さんにそっくりな長門さんの姿を見たり声を聞いたりしただけであんなになってしまうのか……」
自分の料理の腕に嫉妬した兄とその取り巻きに長期間執拗に虐められ続けた翔が言う、しかも2つ同時に想起してしまうから、精神的なダメージは相当大きいみたいなんだよな……
「ボスが見ちゃったのは搬送されている長門の姿でしたっけ?これホント大丈夫なんですかね?ボロボロになっている長門見たせいで余計にダメージ与えちゃったりしちゃったりしません?」
集団暴行事件を引き起こして逮捕されたのがきっかけで頭のネジが外れた自分のファンにストーキングされた司が言う、そう言えばそうだったな……、それが原因で症状が悪化していないか心配になってきた……
「そう言われると気になるところだなぁ……、だが今の俺達にそれを調べるような時間はねぇ、とっとと立ち直って作戦に参加してもらわねぇと色々な事が手遅れになりかねねぇからなぁ」
2度の火事で数多くの大切なものを失い、炎に対して絶大な恐怖心を抱えてしまっている悟が言う、泊地の件、マダガスカルの件、そしてさっき剛さんが話してくれたアリーさんの件……、どれも早急に何とかしたい案件ばかりだからな、戦治郎には何としてでも立ち直ってもらわなければ……
……って言うかさ、ここまでで発言した人皆何かしら心に抱えている人ばかりなのは気のせいなのか……?いや、俺もその1人になるんだろうけどさ……
「そういうわけで、あいつを奮い立たせる為に今から海賊団のメンバーには戦治郎宛ての寄せ書きを書いてもらおうと思っている。シゲと護は早めに書いてくれ、長月の義手を作るのを手伝って欲しいからな」
「うっへぇ、俺そういうの苦手なんだけどなぁ……」
「ぶつくさ文句言ってないでさっさと書くッスよ」
なんだかんだ言いながらすぐに寄せ書きを書いた工廠組は、すぐに工廠へと向かい作業を開始した
「あの、私も書いた方がいいのかな?」
そう質問してくるのは神風さん、この娘は戦治郎と面識がないわけではないが……
「いや、海賊団だけって事になっているんだけど……、もしかして書きたいの?」
神風さんに聞いてみると、彼女はコクリと静かに頷く
「皆さんには助けてもらった恩があるし、望を助けるのに協力してくれると言ってくれたから……。だからこう……、救出作戦一緒に頑張りましょう!みたいなのを書いておこうかなって」
なるほど、そういう事なら止めるわけにもいかないな。それに今やらないといけない事を書いておくと奮い立つきっかけになるかもしれないからな
「分かった、そう言う事なら……はい、どうぞ」
俺のところに回って来た寄せ書きに、自分の分を書いてから神風さんに手渡す。彼女は一礼してからそれを受け取ると、すぐに寄せ書きを書き始める
「あの~……、私達は書かなくていいんですか?」
恐る恐る尋ねてくる蒼龍さん、大本営組か~……
「いや、流石に大本営組はいいよ。あいつが蹲ってる姿しか見てないだろうからね……」
「だが飛龍、おめぇには一仕事あるぞぉ。おめぇにはこの寄せ書きを戦治郎の部屋の前で読んでもらうって大役がなぁ」
俺のセリフに続いて悟が言う
「何で私っ!?」
突然の指名に目を丸くして驚く飛龍さん、俺達はそんな飛龍さんを落ち着かせながら細かい事情を説明するのであった