私は海賊団の皆が書いた寄せ書きを両手で抱えながら、光太郎さんに教えられた通りに通路を走り、戦治郎さんとやらの部屋へと向かっていた。私が何故こんな事になっているかについては少しだけ時間を遡る……
私が何故皆が書いた寄せ書きを戦治郎さんの部屋の前で読む事になっているのかについて、光太郎さんと悟さんから説明を受けたわけなんだけど……
「また東から来たよっ!……ってこれは……」
2人が私を説得している最中に拠点周辺に哨戒機を飛ばしていた翔さんがそう叫ぶ
「今度はさっきと違って本気で来てるみたいだね……その数72、中には空母や戦艦の娘もいるね……」
目を閉じ、俯きながら続ける翔さん。何だろう?さっきから翔さんが纏っている雰囲気がジワジワと変化していってるような……?
「な、72隻じゃとっ!?」
「さっき12隻倒したからって、いきなり増やし過ぎじゃないっ?!」
利根と蒼龍が相手の数に驚き叫ぶ、綾波と妙高の方を見てみると2人も叫びこそしなかったもののやっぱり動揺してるみたいね……
まあ、正直に言えば私も動揺してるんだよね。私達を倒す為だけにそんな大軍を送りつけてくる泊地の提督の正気を疑いながら、この戦いに本当に勝てるのかどうか不安になってしまう……。どうしよう、多門丸……
「神風さん達の泊地の提督さんは、きっと狂っているんだろうね……」
そんな最中翔さんが唐突にボソリと呟いた、先程徐々に変化していると思った雰囲気も今は完全に変化を終えたようで、今彼が纏っている雰囲気は激しい怒りに染め上げられていた
「そうでもなければ……、こんな多くの人にこんな酷い仕打ちをするなんてあり得ない……っ!」
顔を上げ目を見開く翔さん、その瞳は薄紅色から血のような赤に……って怖っ!翔さんの目めっちゃ怖いよっ!何がどうしたらこんなに怖い目になるのっ?!教えて多門丸っ!!!
「翔、その中に長月さんみたいに助けられそうな子はいるか?」
光太郎さんが翔さんに尋ねるも、翔さんは静かに横に首を振るだけだった……
「だったら早いとこ行こうぜ、そしてすぐにあいつらを楽にしてやろうぜ」
「そうだな、俺達の手であいつらをこの生き地獄から解放してやろう」
そう言って立ち上がる摩耶と木曾、それを皮切りに他の海賊団の面々も次々と立ち上がっていく……。龍驤と阿武隈の2人は私達と同じように動揺しているんだけど、それ以外のメンバーがこの状況に全く動じていないように見えたのは気のせい……?
「光太郎よぉ、今回は泊地襲撃の予行練習って事でおめぇが仕切れ」
悟さんが口元をニヤニヤさせながら光太郎さんに提案しているんだけど、この人目が笑ってないんですけどっ!?翔さんと同レベルで怖いよっ?!助けて多門丸っ!!!
「分かった、それじゃあ……翔は残ってペット衆と一緒に拠点からの支援を頼む、輝は拠点から少し前に出て俺達を突破した奴らを片っ端から叩き潰してくれ。飛龍さんは悪いけど戦治郎の方をお願いね。それ以外の皆は前線であの娘達を鎮めてあげるんだ!いいねっ!?」
\了解っ!/
「っと飛龍さん、戦治郎の部屋はここを出てから…………、……そこが戦治郎の部屋になってるからね。それじゃ戦治郎の事よろしくねっ!」
光太郎さんは戦治郎さんの部屋の場所を私に教えるなり、すぐに部屋を飛び出して行ってしまった……
こんな感じで話の流れでやらざるを得なくなっちゃったんだよね、流石にこればっかりは仕方ないとようやく私は観念したわけよ……
戦治郎さんの部屋に向かっている最中に、寄せ書きにどんな事が書いてあるのか見させてもらったんだけど、その内容からこの人がどんな人物なのかちょっとだけ分かったような気がした
命を救ってくれた事や色々な事を教えてくれた事への感謝、多くの戦いを共に乗り越えた事で培われた信頼、次の作戦も一緒に頑張ろうと言う意気込み、困っている時に力になってあげたいと言う思いがこの寄せ書きからヒシヒシと伝わって来る
この人はそれだけ皆から愛されているんだ、そしてこの人はそんな皆を愛している……、そんな関係がつい羨ましくなって
「こんな人が提督だったらな~……」
ついそんな事を呟いてしまう……
そんな事を考えていると、どうやら目的地へ辿り着いたようだ。遂にこの時が来たか……、そう思うとなんだか緊張してきちゃった……
だからと言ってここで退くわけにはいかない、海賊団の皆の気持ちを無駄にしないように、戦治郎さんにしっかりと伝える為にもここは私が頑張らないとねっ!行くよ多門丸っ!!!
扉の前で気合を入れた私は、寄せ書きに書かれた内容を読み始める……
寄せ書きを読み終えてしばらく経ったけど戦治郎さんの方に動きはない、部屋の扉は閉まったままだ……
しかし私は諦めなかった、何としてでも戦治郎さんを立ち直らせると約束したんだからね!その場で戦治郎さんにかけるべき言葉を考え、頭の中でまとめ上げてから声に出そうとしたところで、カツカツと言う音を通路に響かせながら誰かがこちらに向かってくるのに気づいた……
確か今皆はこちらに向かって来ている泊地の艦隊と戦う為に出払っていたはずだけど……、一体誰だろう?
そう思い、音がする方へ視線を向けると……
「え……っ!」
驚きのあまり、つい声を出してしまった……
誰かが俺の部屋の前で何かを言っている……、内容からすると寄せ書きみてぇだな……
恐らく悟か誰かの入れ知恵だな……、俺を元気づけ奮い立たせようとしている海賊団の皆の気持ちがその内容から伝わって来る……
しかし、今はそれどころじゃねぇんだ……。長門のあの姿を見た時に思い出しちまった母さんの最後の顔が……、殺意丸出しのおっさん達の姿がどうしても頭から離れてくれねぇ……
もう2度と母さんに会えないと言う事実がとてつもなく悲しくて……、一切面識がないはずのおっさん達にありったけの憎悪と殺意を真正面からぶつけられたのがあまりにも恐ろしくて……、指先1本すらまともに動かせねぇくらいに身体に力が入らねぇ……
急に目の前の景色が変わる、ここは……病室……?
病室の中心にはベッドがあり、そのベッドの上には物言わぬ母さんの姿があって……
どうして逝っちゃったんだよ……、まだ向こうに行くのは早すぎるだろう……。もっといっぱい色んな事を教えて欲しかったのに……、伝えたかった事全然伝えきれてなかったのに……、何で無理なんてしちゃったんだよ……
「う……ぐぅ……」
駄目だ、涙が止まらねぇ……。こんな姿あいつらには見せられねぇ……、そんな事は分かってんのに身体が全くいう事を聞いてくれねぇ……。情けねぇ……、ホント情けねぇよ……
そんな事を考えていると、場面が切り替わる。廃工場……、またあいつらか……!
「あが……っ!ぁぁ……」
嫌だ……
嫌だいやだイヤダ……っ!
イヤダヤメロクルナコワイタスケテ……ッ!!!
「戦治郎」
唐突に声が聞こえる、その瞬間目の前の景色は拠点の俺の部屋に戻っていた……
その声には聞き覚えがあった、絶対に忘れる事の出来ない、今の俺が聞きたくて聞きたくて仕方がなかった懐かしいあの声だ……。しかし何故……?この声はもう2度と聞けないはずなのに……
「よく聞け、戦治郎」
また声が聞こえた……ああ、このセリフはよく聞いたな……、懐かしい……、本当に懐かしいな……
「母さん……?」
俺はつい、その声の持ち主にそう声をかけてしまったのであった……