「幼いお前達を残してこの世を去ってしまったのは本当にすまなかった……、総一さんにもお前達にも寂しい思いをさせてしまったな……」
そう言って私の前で本当に申し訳なさそうな表情をしているのは、大日本帝国軍海軍元帥の秘書艦及び大本営直属主力艦隊旗艦、そしてこの騒動の発端となった人物である長門その人だった
彼女は私が海賊団の寄せ書きを読み上げた後に突然現れて、何処で見つけたのか杖を突きながら戦治郎さんの部屋の前に歩み寄って来て、扉の方へ向かって話し始めたのだ
「私の事を忘れないでいてくれているのはとても嬉しい……、だが今のお前は何だ?いつまでもウジウジウジウジと……、情けないと思わないのかっ!?」
まるで本当に戦治郎さんのお母さんのように言葉を紡ぐ長門、正直今目の前で何が起こっているのか分からないよ……
何故長門が戦治郎さんの名前を知っているの?何故戦治郎さんのお母さんの事を知っているの?何故長門は戦治郎さんのお母さんのように振舞いながら話してるの?本当に訳が分からないよ……
「故人を思う事と過去を引き摺る事を取り違えるなっ!今のお前の姿は私が望んだ姿なのか?!違うだろうっ!私はお前に何を願ったか、忘れてしまったのかっ!?」
私が混乱している最中、長門がどんどんヒートアップしていく……。これで本当に大丈夫なの……?そこのとこどうなのさ、多門丸?
「忘れたと言うのならば、今ここで改めて言ってやろうっ!」
長門がそう叫んだ直後、部屋の扉が勢いよく開き中から戦治郎さんが姿を現した
そして
「「お前はとても優しい子だった、その優しさで如何なる争い事も治められるような強い男になってくれ」」
2人共落ち着いた声で戦治郎さんのお母さんが、戦治郎さんに遺した最後の願いを斉唱していた
「……ご迷惑を御掛けしました」
「気にするな、それにその言葉は他にも言うべき相手がいるのではないか?」
2人は視線を合わせて会話している、どうやら戦治郎さんは立ち直ってくれたみたい。よかったよかった……
ところで、この扉って開き戸だったよね……?何で折戸みたいになってるの……?
扉の方から聞こえて来る言葉は俺の耳に届くなり、俺の心の中へと入り込み響き渡る……
その言葉は俺の中の悲しみを見る見るうちに溶かし尽くし、恐怖を次々と追い払って行った……
ああ……本当に情けないな……、こうやって言われるまで母さんが言っていた事忘れてるなんてよぉ……
母さんは最後に俺に何と言った?俺に一体何を望んだ?
そんな事を考えながら、俺は1歩、また1歩と扉の方へと歩みを進める
扉の目の前に来たところで
「忘れたと言うのならば、今ここで改めて言ってやろうっ!」
扉の前の人物はそう叫んだ、母さんが俺に望んだ事……、それは……っ!
俺はその声に合わせるように勢いよく扉を開けた……んだが、そういやここの扉は開き戸だったな……。母さんの声聞いたもんだから、つい勘違いして実家の自室の襖開ける感覚で扉開けちゃったZE!
扉がバスの出入口みたいな形になっちゃったけど、そんな事気にせず目の前の女性の目を見ながら、俺は母さんの最後の言葉を声にする
「「お前はとても優しい子だった、その優しさで如何なる争い事も治められるような強い男になってくれ」」
目の前の女性……、母さんと寸分の狂い無く同じ姿をしている艦娘、戦艦長門の声と俺の声が重なったのだった……
互いに自己紹介をし、飛龍から皆の寄せ書きを受け取り部屋に飾っている時に飛龍が長門に話しかけていた
「ところでさ、長門は何で戦治郎さんの名前とか戦治郎さんのお母さんの事を知っていたの?」
「ああその事か、それは私が丁度目を覚ましたところで空と悟と光太郎……だったか?その3人が戦治郎の母親の事について話し始めたのを聞いてしまってな……。その……すまない、悪気はなかったんだ……」
そう言って頬を掻いた後、頭を下げる長門
「いや、気にすんなって。むしろおめぇが俺のケツ引っ叩いてくれなかったら復帰にもっと時間かかってたかもだからな、だから頭を上げてくれ。そして本当にありがとうな、長門」
俺はそう言って長門に頭を下げる
「ちょっと~、私も寄せ書き頑張って読んだんですけど~?それについては何かないの~?」
その光景を見ていた飛龍が茶化すように言ってくる
「ああ、飛龍もありがとうな。皆の気持ちは確かに俺に届いた、これはホント飛龍のおかげだな。もしおめぇか空じゃなかったら寄せ書きの内容も俺の耳に届いてなかったかもだからな」
そう言って、今度は飛龍に頭を下げる。飛龍は冗談のつもりで言ったみたいだったので、俺が本当に頭を下げるとこを見て慌てふためいていた
「そろそろいいか?今の状況については、さっきの3人が医務室から出た時の扉が閉まる音で目を覚ました長月から教えてもらったのだが……」
そこで1度言葉を切る長門、よく見ると杖を持っていない方の手で強く握り拳を作っている……
「このような僻地でそのような非人道的行為を隠れてやっている事が許せん……っ!もしそんな事が今公表されようものならば、その罪を全て現大本営になすりつけられ元帥は失脚し大本営は強硬派に乗っ取られてしまうだろう。そうなる前にその泊地の提督を軍法会議に引きずり出し、この問題を解決せねばなるまい……っ!」
今何かすげぇ不穏な単語が聞こえた気がするんだが……?
「ちょっち待て、強硬派に乗っ取られるだと?」
「ええ、今の日本海軍は強硬派が幅を利かせているのよ……。元帥が頑張ってくれているおかげでなんとか穏健派も少数ではあるけどいるって感じ……」
これは不味いな……、もし俺達が日本に着く前に強硬派に大本営を乗っ取られたら、俺が提督になるってのも叶わなくなっちまうじゃねぇか……
「強硬派の多くはブラック鎮守府と呼ばれるような運用がされているらしくてな……、元帥はその対応で忙殺されている……」
「そんな事してる間に新しいブラック鎮守府が生まれちゃったりして、ホントいたちごっこって感じになってるよね~……」
「その状態を何とかしねぇと、マダガスカルの件やソロモンの件がどうにかなったとしても、和平なんて夢のまた夢って感じか……」
俺がそう言うと2人は静かに頷いた、話聞いてる限りだとどっかにえらく小賢しいブラ鎮の大元みたいなのがあるっぽいな……、普通の鎮守府をブラ鎮に染め上げている何かが……
「これについては後で皆に話しておくべきだろうな、今後に関わる話になるだろうからな。今はそれよりも目の前の事だ、拠点からおめぇら以外の気配がしねぇから何か起こってるっぽいんだが……、皆はどうした?」
「それなんだけど……」
そう言って飛龍が今皆が何処にいるかを話し始める
「敵襲、それも72隻もこちらに向かって来ているだとっ!?」
「72隻ねぇ……」
飛龍の話を聞いて長門が驚く、俺の方はその……ねぇ……?
「皆は無事なのかっ?!」「俺の取り分残ってっかな~……?」
長門と俺の声が重なる、しかし内容が全然違うので不協和音みたいになっていた。俺の発言を聞いた2人は目を丸くしながら俺の方を見る
「フェロー諸島の話くらい聞いてるんじゃねぇのか?俺達海賊団はあれの立役者なんだぜ?72匹程度に早々後れを取るかっての」
それを聞いた2人は驚愕したまま固まってしまった、アクセル達には俺達の事は伏せてもらっているが、こいつらにだったら話してもいいだろうと思って話してみたんだが……
「え……、あ……、す、すまない、取り乱してしまった……。それは兎も角、私達も向かうべきではないか?お前の復活を皆に知らせるべきだと思うからな」
立ち直った長門が言う、確かにその通りだわな、うん。寄せ書きまで書いて俺を元気づけようとした皆に俺が元気になったの教えてやらないとな!
「んだな、って事でちょっち行って来るわ~」
そう言って俺はこの場を去ろうとしたが……
「待ってくれ、私も同行したい、高速修復材の使用許可をもらえないか?」
長門がそう言って俺を呼び止める、う~ん……バケツか~……
「バケツの使用許可は悟の管轄なんだよな~……、とてつもない緊急事態じゃない限り使うなって言われたし~……」
「え?何でダメなの?バケツってこういう時使うものじゃないの?」
飛龍が問う、まあそうなんだろうけどさぁ……、事情知ったらどうなるかな~……?
「悟がバケツの成分調べたらしくてな、その結果あれは新陳代謝を活性化させる働きがあるのが分かったんだ。それでまぁ……、使いすぎるとすげぇ勢いで老化が進むからって理由で早々使用許可が下りなくなったんだわ……。確か19歳の娘が週2か3ペースで1年間バケツ使ったら、実年齢20歳で身体年齢60歳前後になるとかなんとか……」
「分かった、私今後バケツ使うのやめる」
ですよね~……、長門も表情を引き攣らせていた……
「っとまあそんな事情で悪いが、長門は長月と留守番頼むわ。そんで行くぞ飛龍、あいつら蹴散らして俺の復活祭やんぞ!」
俺はそう言って皆がいるであろう戦場へと向かうのだった