「ハァ……、ハァ……、うぅ~……! とったどー!!!」
初出撃の初戦闘で初勝利を飾った漣の最初のコメントがこちら
激しく身体を動かした事もあり、肩で息をしているもののその表情は明るい
今までテレビや教本の中でしか見た事のなかった深海棲艦と現実で初めて対峙し勝利したのだ嬉しくないわけがないだろう
「漣! ヘイ! ヘイ!」
そう言って漣にハイタッチを求める戦治郎、大五郎もそれに倣う
「ご主人様ヘイ! ゴロちゃんもヘイ! 見てくれました? これが漣の本気って奴ですよ~にゃはははは~!」
ここで初めて漣が戦治郎の事をご主人様と呼ぶ、ついでに大五郎にゴロちゃんというあだ名も付いた、ようやく心開いてくれた感じか……、内心喜ぶものの鎮守府に戻った後周りにどう説明するか悩む事となった
「ホントよくやったな漣、だがさっき上手くいったからって次も上手くいくとは限らねぇから慢心と油断だけはしてくれんなよ? それで大怪我した奴、死んだ奴を俺らは掃いて捨てる程見てきたからな、特に死んだ奴なんてマジで凄惨な結末迎えてたかんなぁ……、俺らの知ってる顔の中からそんな奴が出るのだけはゴメンだからな、肝に銘じとけよ?」
戦治郎が真顔で言ってくる、その表情と雰囲気からそれらが真実であり戦治郎の本心である事は容易に察する事が出来た
「は、ハイご主人様! 漣、肝に銘じます!」
若干気圧されながらも答える漣、そりゃ大きな火傷痕がある顔が急に真顔になったりしたら見慣れたとしてもやっぱりビビる
「それは兎も角、ホント頑張ったなぁ、初戦闘で完全勝利は凄ぇわ、帰ったら間宮のアイス奢るくらいはやんねぇとな!」
そう言いながら戦治郎は漣の頭を優しく撫でる、それがまた本当に心地良くて何時までもこの時間が続けばいいのにとすら思うほどであった
しかし、それも長くは続かなかった
「旦那、ちょっといいか?」
「鷲四郎か、どうした? さっき戻ってこいっつったのに戻って来てねぇみたいだが何かあったか?」
どうやら偵察からまだ戻っていない鷲四郎からの通信のようだ、戦治郎は漣の頭を撫でるのを中断して鷲四郎との通信に集中する、漣がかなり残念そうな顔をしていたように見えた気がするが気のせいにしておく
「あったっちゃぁあったな、いい知らせと悪い知らせがあるがどっちから聞く?」
「普通だったらいい方から聞くもんだろうな、まあ俺はそんなんクソ喰らえだから悪い方から頼むわ」
「OK、じゃあ悪い方な、そこからかなり離れたところでドロップ艦と思わしき艦娘がドンパチやってるようだ、方角はそっちから見て11時方向だ、漣の嬢ちゃんよりもちっこいみたいだから恐らく駆逐艦の艦娘か? 相手と数も質も違うからか圧倒的に劣勢だな、沈むのも時間の問題かもな」
「はい旗艦交代! 旗艦俺! 大五郎は漣をパイルダーオンしろ! それとハコもすぐにでも使える状態にしとけ! 方角は11時方向な! よーいドンで行くぞ! 漣、落っこちないように大五郎の首のどっちでもいいからしっかりしがみついとけよっ!!!」
矢継ぎ早に指示を飛ばす戦治郎、言葉こそふざけた感じはするがその表情は真剣そのものである
「え? え? ひゃぁ!」
「ごめんな~漣~、どうやら急ぐみたいだぁよ~、すっごく揺れるけど勘弁してくんろ~」
大五郎はそう言って漣をひょいっと持ち上げて自分の2つある頭の間におろす、漣は大五郎の上に乗せられた直後すぐに右の首にしがみつく、高さがあって現在進行形で怖いのもあるが、大五郎の口から凄く揺れると忠告があった事で鎮守府で乗せてもらった時よりも激しく揺れるのだろうと簡単に想像出来たからだ
「よっしゃ準備いいな?! いくぞっ!」
「あ、ちょっと待ってまだ心の準備がっ!!!」
準備万端と言わんばかりに戦治郎はクラウチングスタートの体制に入り、大五郎は両腕に力を込め始める、そして今から何が起こるか想像もつかない漣が大五郎の上で騒ぐ
「よーい……」
「いやー!!! 待って待って待ってーーー!!! 怖い怖い怖いーーーーー!!!!!」
先程言った合図を出し始める戦治郎、脚を伸ばし尻を天に突き出すような体制になりレザーパンツを穿いているせいもあってヒップラインが強調されちょっとセクシー、更にヒートアップする漣、そして漣の悲痛な叫びも空しく
「ドンッ!!!」
合図と共に1人の鬼と少女を乗せたその従者が勢いよく海面を蹴り、或いはその巨大な両腕を叩きつけ駆け出す、その様は正に烈風の如く
「ぎゃあああぁぁーーーっ!!! 速い速い速すぎですってえええぇぇーーー!!! 助けてええぇぇーーー!!! 死ぬうううぅぅーーー!!!」
漣が絶叫を上げる、見た目はどう見ても低速戦艦のはずなのにとんでもない速度で海面を駆けて抜けて行く戦治郎と大五郎、もし振り落とされれば絶対に無事ではいられないだろうと察した漣は全身全霊の力を込めて大五郎の首にしがみつく、どうやったらこんな速度が出せるのだろう
「目ぇ開けてたら酔うかもしんねぇからしっかりと目ぇ閉じておくだぁよ~」
口調こそのんびり、しかし走る速度が尋常じゃない、しかも忠告通りめっちゃ揺れる、ここは大人しくいう事を聞いて目を閉じておこう……
「間に合えぇぇぇーーーっ!!!」
戦治郎は魂の咆哮を上げながらひたすらに海面を蹴って進む、例え名前も顔も知らないとは言え誰かがピンチである事を知ってしまった以上、見て見ぬ振りをする事は出来ない、それをやってしまえば自分を永遠に許せなくなってしまう
戦治郎達はひたすら走る、今正に消えてしまいそうな命を救い出す為に
初めて艦娘を見たのは呉に住んでいたときだった
父が転勤する事が非常に多く、友達が出来たとしてもすぐに転校する事になって、転校したすぐは友達とよくメールなどのやり取りをしていたがそれもすぐになくなって何度も寂しい思いをする事になった
それを全て父のせいにして私は何度も父に噛み付いた、その度に父は「ごめん」「すまない」と謝っていた、そんな父に噛み付く事しか出来ない自分が余りにも惨めに思えて仕方がなかった
そんな私を不憫に思った父が、ある日家族で出掛けようと提案し向かった先は呉鎮守府、目的は呉鎮守府で行われる観艦式を見に行く事だった
初めて見る本物の艦娘に、私はとても感動し魅かれていった
特に大和と呼ばれる艦娘を見たとき、とてつもない憧れを抱いた
如何なる敵をも薙ぎ払う事が出来そうな巨大な砲、如何なる攻撃からも民を、己を守り徹す事が出来そうなその強固な装甲、そしてそれらを纏う女性の美しさ、正に大和撫子と言えるだろう
柄にもなく興奮して、父と母に何度も大和の事を語っていたのは今でも覚えている、それが両親との最後の会話だったのだから
その帰り道でそれは起こった、呉の街にけたたましいサイレンが響き渡り住人に避難勧告が出された、運悪く海沿いの道で渋滞に捕まり立ち往生している時にそれは現れた
突如として現れた深海棲艦の攻撃で、私達家族が乗っていた自動車は吹き飛ばされてしまい、その後どうなったのかは分からない、目を覚ました時は病院のベッド上だった、そこで両親が亡くなった事を聞かされた
私だけが生き残ってしまった……
その後、父の実家がある熊本に移り住む事になった、祖父母は私を温かく迎えてくれた
それからというもの、私は己を徹底的に鍛えた、深海棲艦に復讐する為に……
艤装の使用資格を取り、密かに独学で戦術などを学び独自の戦闘訓練を行う毎日
艤装を購入するとき、私は祖父母に嘘をついてしまった、艤装競技を始めたいと言って祖父母を騙してしまった、軍に入りたいと言ったときに激しく反対されてしまった為こういう手段を取らざるを得なかったのだ
艤装購入後あまり私と話をしなくなったあたり、恐らく祖父母も薄々この事に感づいていたのだろう
そして今日、私が住んでいる街であのときのようにサイレンが鳴り響いた
私は祖父母の静止を振り切って艤装を装着し海に向かって走り出す、両親の仇である深海棲艦を討つ為に……
だが、どうやらそれも叶いそうにない、今の私は主砲と魚雷発射管を破壊され抵抗する手段もなければ、機関部もやられてまともに動けない状態になっていた
相手は4隻、旗艦と思わしき軽巡ホ級1隻に駆逐ハ級が1隻、駆逐ロ級2隻という構成だ、相手の数が多いだけでなく軽巡もいるのだから絶望的な状況である
こちらの艤装は威力を上げる為の改造を施しはしたが、結局リミッターを外す事が出来なかったので水風船から硬式テニスボールに上がった程度、焼け石に水である
碌に動けなくなった私に対して、奴らは遊んでいるのだろうか私を直接狙わず至近弾でジワジワと攻めてくる
普通の人だったら、ここで神様にお祈りでもしている事だろう、だけど私はそんな事はしない、祖父母を騙し静止を振り切ってこの場所に立った私が神様なんかに縋るなど許されないのだ……
「私が沈むなんて……認めない……認めないんだから……」
こんな私でも最後くらい強がっても罰は当たらないだろう、そう思っていた時
「ずぁああああらっしゃあああぁぁぁーーー!!!」
訳が分からない叫び声を上げながら何かがとてつもない速度でこちらに突っ込んで来たかと思えば、私の身体を有無も言わさず抱き上げてUターンし始める
「要救助者、とったどー!」
未だ理解が追い付かない頭をフル回転させて状況を整理しようとしたとき、私を抱き上げ大声を張り上げながら海上を走る存在と目が合う、相手は私に優しく微笑みかけてくれていたが私はそれどころじゃない、目を見開き表情が凍り付く
戦艦水鬼、私が必死になって集めた資料の中に書かれていた現在の深海棲艦の最上位クラスに数えられる個体が私を助けてくれたようなのだ
一体何が起こっているの?! 何故この戦艦水鬼は私を助けたの!? 深海棲艦は人類の敵のはずなのに!!
そんな事を考えていたら、戦艦水鬼がまた叫ぶ
「大五郎! ハコ展開しろ!!!」
その先にいたのは、私と同じ駆逐艦と思わしき艦娘を頭の間に乗せた戦艦水鬼の艤装、それも資料にあったものより明らかに巨大で有り得ないくらいに武装したものが待ち構えていた
「おお~、分かっただぁよご主人~!」
そう言って艤装は海面に座り込み、背負ったコンテナ状のものを展開し始めた、というか艤装が喋った!
「うわっ! なんじゃこりゃ!?」
艤装の頭の間で物凄く虚ろな目をしていた艦娘が艤装の背中に視線を向けると同時に驚いたように目を見開く
展開されたコンテナの中には様々な機械と作業台、給油機のようなものに薬品棚に診察ベッドにバスタブのようなものが入っていたのだ
「漣! 俺を追っかけてきた連中に挨拶してやれっ!」
「え?! あっ、ほ、ほいさっさー!」
そう言って艤装から飛び降りて戦闘態勢に入る漣と呼ばれた艦娘、戦艦水鬼はというと艤装の背後に回り込み展開されたコンテナの上に乗る
「よっし、そんじゃ艤装外せ!」
戦艦水鬼が私に向かってそう言ってくる、全く意図が分からない
「何で私が深海棲艦であるあんたなんかの言う事聞かないといけないのよ! そもそも何するつもりよ?!」
この設備を見てまさかとは思っている、しかし現実を受け入れる事が出来ない、助けてくれたのだろう相手につい噛み付いてしまう
「これ見たら想像は付くだろ! おめぇの艤装修理すんだよ! だからとっとと艤装外せ! んでその間そこのベッドで休んどけ! いいな!?」
この戦艦水鬼、艤装の修理が出来ると言うのか?!
どうするか考える、もしかしたらこの設備はダミーで艤装を外したところで私を始末しに来るのではないか? しかし抵抗しようにも艤装はボロボロで使い物にならない
……ついさっき死を覚悟した事を思い出し、何もかもがどうでもよくなってしまった
結局、言われるがまま艤装を外して戦艦水鬼に渡す、そして私はベッドに腰を掛けて作業を見守る事にした
「うっし、そんじゃ作業開始! 妖精さん達、サポート頼む!」
戦艦水鬼がそう言うと、コンテナのいたるところから妖精さん達が姿を現し戦艦水鬼の作業の手伝いを始める
「えっ!? 貴方何で妖精さん達と協力して作業が出来るの?! 深海棲艦と妖精さんは敵対してるんじゃなかったの!?」
「俺らはちょっち特別でな、っと、なんじゃこりゃ!? おめぇこの艤装ちっとばっかしいじっただろ、何のために威力上げてんだよこれ……」
こいつ、私の艤装の中見てすぐに改造してるのに気づいた……!
「べ、別にいいじゃない! あんたに関係ないでしょ!」
「おめぇがやったのは違法改造だかんな、普通だったらお縄だぞ」
作業をしながら私の改造を違法と指摘してくる、そんな事くらい分かっている……!
「まあ、何があったかは今は聞かん、……ここをこうしてっと……」
あんなにボロボロだった私の艤装がみるみるうちに修理されていく、この戦艦水鬼は一体何者なのだ……
「確かこのあたりにあったはずなんだけどな~、っとめっけた!」
ボロボロになっていたのが嘘のように修復され、新品かと思うほどに綺麗になっている私の艤装から戦艦水鬼が何かを取り出した
「……それは何?」
「民間用艤装に付けられたリミッター、それを……、こうじゃ!」
そういうなり戦艦水鬼はリミッターと呼んだものを握り潰し破壊した、どういう握力しているんだこいつは……
「これで、この艤装は軍用のと同じ威力が出せるようになったわけだが、どうする?」
軍用と同じ威力……、つまり深海棲艦とまともに渡り合える力が今の私の艤装にある……、しかしそれは今の私が使えば違法改造より更に重い罪を犯す事になる……
「そんなの決まってるじゃない! 使うわよ! 例えどんな罪を犯したとしてもお父さんとお母さんの仇を、深海棲艦を討つ! 私はその為にここにいるの!」
私はもう止まらない、誰にも止めさせない! 誰に何と言われようと私は戦うんだ! 両親の仇を取り、深海棲艦を滅ぼし、世界に平和が戻るまで戦い続けてやるんだ!
「なるほど、仇討ちねぇ……、それもご両親の……、ところで、俺も深海棲艦になると思うんだがそれはどうするよ?」
「あんたの事は保留よ、一応助けてくれたわけだし、私に戦う力もくれた、でもまあ、お礼は言わないわ」
本当は一言くらいお礼を言いたいが、相手が何者なのか分からない以上下手な事はしない方がいいだろう
「せかせか、ああ、そういや自己紹介まだだったな」
「いらないわ、いつ戦う事になるか分からない相手の名前なんて知るだけ無駄よ」
「そう言うな、おめぇにとっても俺にとっても悪い話にはならんだろうからな、って事で俺は長門 戦治郎ってんだ」
戦治郎って、姿は女性なのに男みたいな名前しているのね、こいつ……
「姿形はこんなだが、これでも提督やってんだぜ? 軍学もしっかり卒業してな」
はぁっ?! 何言ってんのこいつ、深海棲艦が提督!?
「嘘でしょ!?」
「マジで、まあ今日稼働したばっかだけどな、聞いた事ないか? 佐賀に新しく出来た鎮守府の事」
噂で聞いた事がある、確か長門屋鎮守府だったか……、ってそれまさか自分の苗字からとったとか言わないわよね?
「んで、今日は初期艦の漣と初出撃してたとこなんだよな、そんでおめぇがピンチって事で急遽駆けつけて来たってわけ」
本気で私の事を助けるつもりだったのか……
「本当はよぉ、助けた後民間用艤装で出てくんなって注意して終わりにするつもりだったんだが、おめぇの話聞いて気が変わった」
「気が変わった? 何? 私をどうしようって言うの?」
まさかと思った、だが敢えて言わない
「おめぇ、ウチ来る気ねぇか? もし来てくれりゃあおめぇの仇討ちも手伝ってやる、燃料や弾薬もそう簡単に手に入るもんじゃねぇだろう? それにその艤装の件も何とか出来る、軍に入りゃあ軍用艤装使うのが当たり前になんだからなぁ、どうよ? 悪かねぇだろ?」
「あんた、リミッター外したのはそれが狙いだったって言うの?」
手口が悪質過ぎる、だが……
「さあ、何の事やら、んで、どうすんよ? 来るのか? 来ねぇのか?」
「いいわ、行ってあげる、あんたの事思う存分利用させてもらうわよ、覚悟しときなさい!」
「はん! 上等だ! 気が済むまで利用しやがれ!」
本当に都合のいい話だ、助けてくれた上に力もくれた、それどころか進むべき道も居場所も何もかも……
「っと、話がまとまったところで自己紹介してくれ、名前も分からん奴に俺の背中も仲間も預けらんねぇからな(ホントは知ってんだけどな、うん……)」
「いいわ、覚えておきなさい、霞よ、ガンガン行くわよ」
「霞だな、OK覚えた、んじゃあ早速でわりぃがさっきおめぇが戦ってた奴らを今から潰す、手伝え」
「いいわ、やってやろうじゃない! さっきあいつらが私にやってくれた仕打ち、100万倍にして返してやるわ!」
洋上簡易拠点(通称ハコ)
大五郎が背負う巨大なコンテナ状の装備
展開すると十字架状に広がり、中には艤装などを修理する為の機械や作業台、艦娘の怪我の治療や応急処置をする為の薬品棚と診察ベッド、高速修復材を使用する為のバスタブ、補給をする為の給油機や鋼材、ボーキサイト、弾薬を入れるタンクなどが入っている
展開している最中は大五郎が固定砲台と化す
ゲームシステムっぽくいくと1フェイズ(航空戦とか開幕雷撃とか砲撃戦とかのアレ)終了毎に艦娘1人を1段階(大破→中破、小破→全快みたいに)回復させられる事が出来る+洋上補給の効果