さて、大本営組を中心とした特訓が始まって2日が経った
特訓の内容は至ってシンプルなもので、長門さんを除いた大本営組+龍驤さんと阿武隈さんの計7人が長門屋3強+三羽烏と演習すると言うものである。いくら時間が無いからとはいえ、流石にこの6人を相手にすると言うのは少々酷なような気がした……
心が押し潰されてしまいそうなくらいの殺気をガンガン出しながら突っ込んで来る戦治郎とシゲに、その2人とは対称的に一切感情の類を感じさせず、次の手を全く予測させずに攻撃を仕掛ける事で恐怖感を煽る空と通、時に意味深な事を言ったり嘘の情報を流したりして揺さぶりをかけまくる剛さんと護……。果たしてこれは精神鍛錬と言えるのだろうか……?
それとは別に長月さんのリハビリも同時に行われていた、空達が作り上げた義手は普通に動かす分は問題なく動き、すぐに身体に馴染んでくれたそうだ。……普通に動かす分はね……
「照準を合わせるのが中々難しいな……」
そう呟きながら再度前方にある的に向かって砲撃を開始する長月さん、その手には主砲が握られてはいなかった……
そう、今長月さんは義手に内蔵されている主砲で砲撃しているのだ……。ベースになっているのは何処で仕入れたのか知らないけど、C型砲なんだとか……
それ以外で注目するとしたら、指先から25mm単装機銃が出る事とナデシコのエステバリスが使うワイヤードフィストが使える事か……。初期案はロケットパンチだったらしいが、戻って来なくなったら大変だと言う理由でこっちに切り替えたんだとか……
その装甲と耐久性も凄まじく、戦艦主砲も殴って弾けるとか何処のアニメ版の戦艦4姉妹の長女だよとか言いたくなったよ……
外見は本当に普通の腕、義手の表面に張り付けた人工スキンは悟監修の下作ったそうなので、かなり精巧なものとなっていたからぱっと見でこれが義手であると判断出来なくなっている
「しかし、こいつはいいな。あの不気味な腕がこんな代物に変わるとは……、世の中何が起こるか本当に分からんものだな……」
砲撃の手を止め、義手を眺めながら長月さんがそう言った。どうやら本人は満足しているようだ
「長月の言う通りだな、私もまさか改二になれるとは思ってもみなかったからな……」
長月さんの言葉にそう返すのは長門さん、今の彼女の姿は改二のそれになっている。あの話し合いからしばらくしたところで、妖精さんが設計図を仕上げて戦治郎のところへ持って来てくれたのである
戦治郎はそれを受け取るとすぐに工廠組を連れて工廠に向かい、長門さんの艤装の改修をした後に戦治郎用のガトリング砲と対戦艦ライフル、大五郎用のガトリング砲に姉様用のガトリング砲とガトリング砲開発祭を開催していた
名前は41cm砲ベースが『ヨイチさん』、46cm砲ベースが『シロクさん』、3号砲ベースが『3号さん』、対戦艦ライフルは『対戦艦ライフル46』となっているそうだ
尚、姉様が使っていたハタチさんは改二改修記念と言う事で、長門さんにプレゼントされたそうだ。それを受け取った長門さんは非常に困惑したとかなんとか……
「しかし、ここの連中には心底驚かされてばかりいるな、あのようなとんでもない代物を作るわ、戦いになれば鬼神の如き戦いぶりをするわ……」
「後方支援も凄まじいものがあるな……、修理と補給は迅速、美味い食事で全体の士気を上げ、怪我人や病人の処置も的確……、何とも恐ろしい艦隊だな……」
これは褒められてると受け取ってもいいんだよね……?
「怪我と言えば……光太郎、あの悟と言う男は一体何者なんだ?私といい長月といい、高速修復材を使わずに治療を行えば回復にはもっと時間がかかるはずだろう?なのにどちらもたった2日程度でほぼ全快と言えるほどに回復している。彼は何か特殊な力でも持っているのか?」
特殊な力……?通が忍術使うようになった感じの力の事だろうか?まあ確かに長門さんが言うように2人の回復速度は異常と言えるレベルで早いんだよな……、まさか悟も通みたいな何かに目覚めたのだろうか……?
「いや、少なくとも俺はそう言った話は聞いた事ないな……」
「そうか……、変な事を聞いて済まなかったな」
気にしないで下さい、長門さんにはそう返しておいたけどこうやって聞かれるとこっちが気になってきてしまって仕方がないな……、後で悟本人に聞いてみるか……
そんな事を考えていると、どうやら演習の方は決着が着いたようだ。……あぁ、やっぱりあいつらには勝てなかったか……、まあそれでも初日と比べたら随分と喰らい付いていたみたいだから、これなら何とかなりそうだな
長門さんと長月さんの方も、今日の様子を見てる限りだと恐らく明日には完治する事だろう。そうなると、遂に泊地に乗り込めると言うわけか……。明日泊地に向かい望ちゃん達を無事に救出する……、そう考えるだけで気分が昂ってくるな……っ!!!
俺は演習を終えてこちらに戻って来る戦治郎達を眺めながら、そんな事を考えていた
「長門達の異常なまでの回復速度……、やっぱこいつが原因なんだろうなぁ……」
俺はそう呟いて自分の手のひらを眺める、その手のひらはぼんやりと淡い緑色の光を発している
これに気付いたのはラリ子との戦闘が終わった後だったか……、戦治郎の治療をしている時に自分の手が発光している事に気付いたわけだ。それを最初に見た時はそりゃぁもう驚いたもんだ、まあすぐに気持ちを切り替えて戦治郎の治療を続行したわけなんだが……
その後の戦治郎の回復が、俺が予想したものよりもずっと早かったのである。これはどういう事かと考えていた時、戦治郎の治療中ずっと自分の手が発光していた事を思い出したのだ
その時はまだ確信を持てなかったのだが、今回の件で分かった、こりゃ通の奴と同じだと
「この状態で治療や手術を行えば、対象の回復速度が通常よりも早くなるかぁ……、まるでバケツみてぇな能力だなおい……。まあお誂え向きだなぁ、それにこいつはバケツみてぇに老化を促進しねぇと来たもんだからなぁ」
バケツは新陳代謝を活性化させて怪我の回復を早める、その為凄まじい勢いで細胞が老化してしまう危険性があるのだが、こいつにはそれがない。そのあたりについてはラリ子戦以降に治療を行った奴らから健診とか言って色々検査させてもらって調べが付いてるからな
「通が忍術で、俺が回復の促進ねぇ……。中々面白れぇプレゼントじゃねぇかおい……。この力は有効に使わせてもらうぜぇ、クソッタレな神様よぉ」
両親を炎に飲まれたあの日から、俺は神なんてものの存在を信じなくなっていたんだが、この力を手に入れた喜びをぶつける相手がいなかった為、取り敢えず存在するはずのない神とやらにぶつけておくことにした
この力があれば、傷ついた大切な仲間達や泊地に囚われているであろう艦娘達、そして名前も顔も知らない多くの命が救える事だろう……
「くぁっはっはぁ!いいぜいいぜぇ……この能力ぅ……、覚悟していやがれぇ世界中の傷病者共よぉ……、俺がこの手で楽にしてやっからなぁ……っ!!!かぁあっはっはっはっはっはぁっ!!!」
昂る気持ちが抑えきれず、そんな事を誰もいない医務室で独りで叫び、狂ったように高笑いする俺。傍から見たら心配される事間違いなしだがこればっかりは仕方がねぇよなぁっ!!!
……今は取り敢えずそっとしておいてやろう……
悟に能力の有無について聞きに医務室行ったらこれだからな……、外の方に声ダダ漏れだぞ……。しかし悟も能力持ってたのか~……、何か羨ましい……。俺も何か能力が欲しいな~……出来れば人命救助に関わる感じの奴をな~……
俺はそんな事を考えながら、医務室の扉の前から静かに立ち去るのであった
尚、悟のこの件は結局皆にバレ、悟は幼馴染組からしばらくの間叫んでいた内容でからかわれる事となった