「ん~……」
目的を達成し鎮守府に戻る戦治郎一行、その帰り道で漣が何か考え事をしていたのか難しい顔をして唸っていた、尚、現在漣と霞は大五郎の首の上に乗っかって移動している
「どったよ漣~? 何か腑に落ちねぇ事でもあったか?」
ハコの中からタオルを取り出してホ級の返り血で塗れた顔を拭う戦治郎が漣に問いかける
「いえ、カスミンを助ける前にシューさんがいい知らせと悪い知らせって言ってたじゃないですか~、悪い知らせはカスミンの事だったけどいい知らせって何だったのかな~?って思っただけですよ~」
本当は深海棲艦の青い血液と戦治郎達の関連性の方が気になるが、そっちは鎮守府に戻ってからでも遅くはないかと思い直し、鷲四郎のいい知らせの内容は何だったかを聞いてみる事にした
「あ~、そういやそうだ、んで鷲四郎、あれなんだったんだ?」
そう言って戦治郎はさっきと同じように右腕を伸ばして鷲四郎を発艦させる、その光景を見てギョっとする霞、早いうちにそういうの慣れておかないと鎮守府帰ったら苦労するぞぃ、心の中で先輩面する漣であった
「あれか? あれは旦那が着替えてるときホ級がターゲットだって言ってたじゃねぇか、確か手頃な人型、もしくはそれに近い姿のがホ級くらいしかいなさそうだったからとか言ってただろ? その事だ」
「あ~あ~あ~、はいはいはい、言ってたわなうん、それとこの海域のボスがホ級みたいだったからついでに殺って海域解放しようってのも狙ってたわな、霞の事で忘れてたわメンゴ」
そうだったそうだったとど忘れしていた事を笑って誤魔化そうとしていたが、ふと1つだけ分からない事があったので漣が質問する
「手頃な人型? 駆逐艦じゃダメだったんですか?」
「ああ、出来れば人型かそれに近いのが都合良かったな、だってよぉおめぇ、駆逐艦みいたいなのぶった斬って青い血がブシャーって出てきてもあんま不思議に思わねぇだろ? イカだって血ぃ青いんだし」
なるほど、深海棲艦の血液の色が青いという事実により信憑性を持たせたいから、人型からかけ離れた駆逐艦より人型や人型に近い形の深海棲艦の血を見せた方がいいと判断したというわけか
「待ちなさい、貴方達はそれで納得出来るんでしょうけど私は一体どういう事なのかサッパリ分からないんだけどっ?! それに鷲四郎と大五郎だっけ? こいつらが人の言葉を話せる理由も教えなさいよっ!?」
「ん~? カスミンは今の話分かんなかった~?」
ニヤニヤしながら漣が言う、ああそうだった、そういえばまだ霞にこちらの事情を碌に話していなかった、とは言っても漣もまだ鎮守府にいる他の連中ほど事情を教えてもらってないから偉そうな事言える立場ではないのだが
「丁度いい機会だし、霞ともある程度情報共有しとくか、って事で漣、質問してけ」
「ほいさっさ~、いきますよご主人様~!」
「え? 何? 何が始まるの?」
状況が呑み込めず困惑する霞、そんな霞の事など気にも留めず2人は一問一答を開始する
「お名前は?」 「長門 戦治郎です、ってコレハコの中で教えた」
「おいくつですか?」 「32です」 「うっそだろお前っ!?」 「マジだよ……」
「ご職業は?」 「佐賀の長門屋鎮守府で提督やってます、階級は少佐、今年軍学卒業したばっかです」
「軍学校に入学した理由は?」 「大本営の元帥から直々にスカウトされたけど提督業がよく分からなかったのでそれを学ぶ為です」
「スカウトされるまでは何をしていましたか?」 「海賊です、それも深海棲艦とブラック鎮守府相手に」
「具体的にはどのような事を?」 「深海棲艦の輸送部隊や補給拠点を襲撃したり、輸送任務や海域解放に勤しむ艦娘を手伝ったり、ドロップ艦やブラ鎮の艦娘助けたりしてました」
こんな調子で漣が出す質問に戦治郎が回答していく形で情報共有を行ったのだった、中にはどうでもよさそうな質問もあったが、そういうのは悉くスルーされていた
「とまあこんなとこだ、分かったか霞?」
「何か頭が痛くなってきたわ……、ホントバカばっかり……」
質問の答えの殆どが霞の想像を遥かに超えたものばかりだった為、脳が悲鳴を上げたようだ
「そういえば、深海棲艦の血と俺らの関連性にまだ触れてなかったな」
戦治郎が唐突に言う、そう、深海棲艦の青い血と戦治郎達の関連性は先程から非常に気になっていた、鎮守府に戻ってから聞こうと後回しにしていたが向こうから来るのであれば今聞いてしまおう
「そうですそうです、結局、あれってどういう意味があったんですか?」
「こういう事……だっ!!!」
そう言って戦治郎は目にも留まらぬ速さで背中の刀を抜き、自分の左腕を浅く斬りつける
「へっ!?」 「なっ?!」
戦治郎自ら付けた刀傷、そこから滲み出ては滴り落ちる雫の色はそれはそれは目の覚めるような赤い色……、人間と全く変わらない真っ赤な血が流れていたのだ
「どういう事よっ!? 深海棲艦の血は青いんでしょ?! 何であんたの血は赤いの!?? 分かる様に説明しなさいっ!!!」
「……、ゴロちゃん達がご主人様のペットの生まれ変わりと聞いてから予想してましたが、ご主人様達も何らかの生まれ変わりだったって事でいいんでしょうか?」
混乱極まり捲し立てる霞、大五郎から聞いた話から立てた推測が事実である事を確認する為に戦治郎に問う漣
「ああ、俺や長門屋鎮守府にいる深海棲艦になってる奴は皆生まれ変わりだな、太郎丸は犬、弥七は虎だから除外されるがそれ以外の人型は皆元人間だ、但し、この世界の人間じゃぁねぇ」
「あっちの世界とかこっちの世界と言っていましたもんね、ここは違う世界だー!って気づいた切っ掛けは何だったんですか?」
「自分達以外の深海棲艦に攻撃された事だな、そもそも、俺達が生きていた世界には深海棲艦も艦娘も実在はしてなかった、ゲームや漫画の登場人物としてはいたがな」
深海棲艦も艦娘もいない世界……、漣達が生まれた頃には既に深海棲艦が海上を跋扈し、それを艦娘がやっつけるのが当たり前だった為、2人にはとても想像出来ない世界だった、そして自分達が戦治郎達にとって架空の存在である事、それが2人に重くのしかかってきた
「まあ、こっちの世界だと深海棲艦も艦娘もいて当たり前のようだがな、目ぇ覚ましたら海の上、なんやかんややってたら深海棲艦来て攻撃してくるんだもんなぁ、最初めっちゃビビったぞ……」
当時の事を思い出し、ばつの悪い表情をする戦治郎
「ご主人様達が知っているけどこっちにいなかったとか、知らないけどいた艦娘ってのはありました?」
「俺達が知ってる艦娘は大本営と軍学いる間に調べた限りだと日本とドイツの艦娘は全員いたな、ドイツ艦娘に至っては共同戦線張ったし」
ドイツ艦娘と共同戦線? カスガダマ沖で大本営の艦娘と共同戦線張ったってのは戦治郎から聞いたが、ドイツ艦娘とも協力していたのか……
「あんた達、一体何処にいたのよ……」
「北海だ、ドイツとかイギリスとかノルウェーとかに挟まれてる海な、そのド真ん中にいたわ」
「ヨーロッパから日本に来たんですかっ?! どんだけ距離あると思ってるんですか!?」
「HAHAHA! ソロモン海あたりで航路間違えてハワイまで行っちゃったんだZE!!!」
「あんた達バカじゃないの?! すぐ戻ろうとか思わなかったわけ!?」
「だってそのハワイが襲撃されててなぁ……、救援しに行ったらこうなったわけだが」
そう言って自分の火傷痕を指差す戦治郎
この世界のハワイは、深海棲艦の出現により観光事業がめちゃくちゃにされてしまった為、それを打破する為に一部を兵器開発の研究所にしていたのだった、恐らく深海棲艦に襲撃されたのもそれが関係していたのだろう
「それだけ苛烈な戦いだったって事……?」
霞が真剣な顔つきで聞いてくる、恐らく自分もそういう戦いを経験するのだろうと思い集中して話を聞こうとする
「いや、助けに行ったら敵と思われてな、要救助者にそこで開発していた兵器で撃たれてこうなって治んなくなったんだわ」
霞だけでなく漣も呆れ返っていた、それってそういう理由で付いた傷なのかよ、と……
「まあ、その甲斐あってハワイと連絡付くようになってそこで開発した兵器を艦娘用に改良したのがその後の大規模作戦で大いに役立ったみたいだからな、この傷はその兵器の完成に貢献出来た証って事にしてるわ」
そういえばそういう話があったな、2人はその頃の事を思い出す
ある日を境に、深海棲艦に自己再生能力が備わり、一定時間が経つと今まで負わせたダメージが綺麗になくなってしまうという出来事があったのだ
大本営はそれにかなり苦しめられるが、突如音信不通だったハワイから連絡が入りそれを何とか出来そうな兵器の開発に成功したという情報を手に入れたのだ
そのデータをハワイから譲ってもらい、艦娘でも扱えるように改良し艤装に搭載した結果自己再生を封じる事に成功したのであった
戦治郎はどうやら助けに行ったにも関わらず開発中の兵器の実験台にされてしまったようだ、少々可哀想に思える
「そういえば、あんたは私達の事知っていたのよね? 何であの時自己紹介させたの?」
話の方向を変えようと霞が尋ねる
「いきなり現れた奴がいきなり自分の名前言い当ててきたらこえぇじゃねぇか、そういう事」
考えてみたら当たり前の事だった、見るからに強そうな深海棲艦が大丈夫か霞っ!?とか言ってきたら間違いなく困惑するだろう、ちょっと恥ずかしい
「ご主人様、ご主人様達にとって漣達はやっぱりゲームのキャラなんでしょうか……?」
艦娘がゲームや漫画のキャラと聞いたとき抱いた不安をぶつける漣、その顔はとても暗いものであった、自分達の存在は彼らにとってその程度のものでしかないのだろうか? 下手をすれば道具以下として扱われてしまうのだろうかという不安が漣の心を支配していた、恐らく霞も表には出していないが同じような心境だろう、もしこの不安が現実となって襲い掛かってきても耐えられるように覚悟を決めて戦治郎に聞く
「はぁ? 俺らの世界では2次元のキャラかもしんねぇけど、おめぇらは今ここにいるだろ? だったら実在する人物だろうが、つかその理論だと俺も架空の存在じゃねぇか、しかも生まれ変わりとかよりオカルティックな奴になっちまう」
さらりと返す戦治郎、更に彼は言葉を続ける
「おめぇらを架空の存在だと思うって事は俺も架空の存在だと思う事、自分を否定する事になっちまわねぇか? 俺そういうの大っ嫌いなんだわ、つかさ、今のおめぇらは架空だろうが現実だろうが俺の仲間じゃねぇか、俺は俺を信じてくれる奴を否定したくねぇ、もしおめぇらの存在を否定する奴いたら俺達に言えよ? 生まれ落ちた事後悔させてやっからな!」
黙り込む2人、どんな言葉を紡げばいいか分からなくなっていた、ただ分かっているのは戦治郎が自分達をちゃんと人として見てくれると約束してくれた事が嬉しい、ただそれだけ
「さって、難しい事はここまで、そろそろ鎮守府につくぞ~」
気付けば鎮守府が見えるところまで来ていた、いくつかの人影も見える、どうやら出迎えに来てくれたようだ
無事に帰ってこれたんだ、自分達が帰るべき場所へ……