「そう言えば、悟さんは何で私を探していたんですか?こういうのは普通秘書艦の加賀さんとか当たると思うんですけど……」
手術室へ向かうその道中で明石が俺に尋ねて来た、まあ普通に考えりゃそんな疑問も浮かぶわな
「おめぇは秘書艦が加賀だって知ってるからそう言えるんだろうよぉ、俺達はさっきここに来たばっかで誰がここの秘書艦で、そいつが何処にいるのか全く知らねぇんだぜぇ?」
俺がそう指摘したところで気が付く明石、そもそも俺達はここの提督にとっては招かれざる客なのだ、自分が提督の~、こちらは秘書艦の~ってな感じの挨拶なんてやってるはずもないのだからな
「それによぉ、この世界の艦娘の仕様を知っているのなら、おめぇが工学関係だけでなく医学についても精通してるってのは簡単に予想出来るんだぜぇ?」
そう、この世界の艦娘は艤装と言う兵器を装備した普通の人間の女性なんだから、戦えば艤装だけでなく人間の方も怪我をする可能性だって十分あるのだ。この世界の入渠は艤装の修理だけでなく、艤装を使う人間の治療も行わなければならないので、それらを担当する明石は機械の事だけでなく医学的知識と技術も身に付けていなければならないはずだ
「んで、ここの提督がやっている事は薬学と医学が関わっているはずなんだわぁ、そうなると提督が医学の心得があるおめぇに何かしらの手伝いをさせた可能性が十分考えられるんだわぁ……、そこのところどうなんだぁ?」
俺の推理を聞いた明石は目を丸くして驚いてやがらぁ、この反応を見る限り多分俺の推理は当たりなのだろう
「お見事です……、悟さんの言う通り私は最初のあたりの1、2回は提督の手伝いをしました……、ですがそれ以降は私が耐えられなくなって手伝いを拒否するようになったんです……」
明石はそう言うとポツリポツリと話し始める、まるで自分がやった事を俺に懺悔するように、異形艦娘達に許しを乞うように……、仕舞いにゃ嗚咽混ざりでごめんなさいを繰り返す始末……
俺はそんな明石の頭に手を置き、慰めるようにその頭を優しく撫でる
「その気持ち、ぜってぇ忘れんじゃねぇぞぉ。てめぇがやった事を悔む為でなく、落とし前をつける為にだぁ」
俺がそう言うと、明石は涙を流しながら頻りに頷く。俺は明石が落ち着くまでの間ずっとその頭を撫で続けるのだった
「ご迷惑をおかけしました……、さっきので時間取っちゃいましたね、それでは改めて先に進みましょう」
そう言って再び手術室に向かって歩き出す明石、その表情は先程までと打って変わって覚悟を決めた凛々しいものになっていた
「確か悟さんは手術室で提督を待ち伏せると言っていましたが、提督が今この状況で本当に手術室に来る可能性はあるのでしょうか?」
「間違いなく来るだろうよぉ、実験体を補充する為になぁ」
俺は明石の疑問に答えたんだが、明石の方はよく分からないって感じの顔をしていやがった
「ここの提督にとって、ここの艦娘は深海化抑制薬の実験をする為のモルモットに過ぎねぇんだろうよぉ。そんで今俺達の手によってそのモルモットが全滅したわけだぁ、そうなると薬の実験どころじゃなくなっちまうだろう?だから今からモルモットを補充する為に移植手術を行うだろうって思ったんだわぁ」
「なるほど……、でもそうなると悟さん達の事放置する事になるじゃないですか、移植手術中に悟さん達が乱入してくる可能性は考えてないんでしょうか?」
「恐らく望が俺達全員を確実に始末すると思ってんだろうよぉ、まあそうは問屋が卸さんってなぁ。こっちは前回戦った時手酷くやられてんだからなぁ、対策も練ってるみてぇだしその為の準備も万全、それに望と因縁がある奴がやる気に満ち溢れてやがるもんだからこっちが負けるビジョンが全く見えねぇんだよなぁ」
俺はそう言ってクックッと笑う、それを聞いた明石は引きつった表情でそうですか、と短く答えていた
「っと話をしている間に問題の手術室に……って、え……っ!?」
明石はそう言って前方を指差すが、その直後に驚愕の表情を浮かべて固まってしまった。明石の反応を見る限り、件の手術室に到着したようなのだが様子がおかしいようだ。俺は明石のリアクションを不審に思い、その指が指し示す方向に目を向けると……
「手術中……ねぇ……」
手術室の入口にある手術中のランプが点灯していた、それはつまり既に提督は誰かをここに連れて来て、移植手術を始めたという事に他ならない
「まさかもう提督が行動を開始したのっ!?だったら急g「嫌あああぁぁぁーーーっ!!!」この声は龍鳳さんっ?!悟さん、急がないと龍鳳さんがっ!」
「分かってるっ!行くぞ明石ぃっ!」
そう言って俺達は走り出し、手術室の扉に手をかけたのだが……
「ちょっ!?扉が開かないっ!内側から鍵をかけられてるのっ!?」
明石の言う通り、手術室の扉は鍵でもかけてあるのか押しても引いても横にスライドさせようとしても開かなかった、明石が体当たりをしたところで扉はびくともしない
「退けっ!」
俺はそう叫んで明石を退かし、オベロニウム製メスを取り出すや否や扉を滅多切りにして蹴りを入れる。すると扉は細切れになって飛んでいき、俺達は無事手術室の中へ侵入する事に成功した
その中には手術台に両手足を固定された龍鳳と、見知らぬ男の姿があった
「龍鳳さん!無事ですかっ!?」
「明石さんっ!って隣にいるのは潜水棲姫っ!?」
明石は龍鳳に向けて大声で呼び掛け、それに反応した龍鳳は首だけ動かしてこちらを見るなり驚き硬直する。今の状況で深海棲艦もクソもねぇだろうがよぉ……
「うるさいですよ明石、扉を破壊してまで何の用ですか?」
淡々とした声で明石に用件を尋ねる男、恐らくこいつがこの泊地の提督なのだろう……。提督はこちらへ一切視線を向ける事無く、手術の準備でもしているのか手をせわしなく動かしている
「用があるのは俺の方なんだよなぁ、おめぇがここの提督かぁ?」
提督の背中に俺が問い掛ける、だが提督は俺の言葉が聞こえなかったのかこちらを向こうともせず、麻酔と思わしき注射器を片手に龍鳳に近付いた
それを見るなり、俺はすぐに数本の縫合糸を取り出し注射器を持っている提督の腕目掛けて投げ飛ばし、1本は注射器に巻きつけて注射器を破壊、それ以外のものは提督の腕に巻きつけて提督が腕を自由に動かせないように拘束した
「シカトしてんじゃねぇよぉ、もう1度聞く、おめぇがここの提督なんだよなぁ?」
俺がそう言うと、ようやく提督と思わしき男はこちらを見るのだった。その顔はまるで髭を剃った翁の能面でも付けてるのかと思うような、感情の籠っていない不気味な笑顔だった
「……こんな事をするという事は、貴方はアレクサンドラさんの関係者ではありませんね?」
ちょっと待て、話が噛み合っていない云々はさて置いて、何かとんでもねぇ奴の名前が聞こえなかったか?アレクサンドラって確か剛さんの嫁さんの名前だったと記憶してんだが……、こりゃぁこいつに聞かねぇといけねぇ事が増えちまったなぁ……
「アレクサンドラさんの関係者ではないとなれば、ただの侵入者……。望は一体何をしているのでしょう」
こいつがそう言った刹那、外から大きな爆発音が聞こえた。恐らく光太郎達が望に何かやったんだろう
「望なら俺の仲間が相手してるぜぇ、さっきの音もそいつらが何かやったんだろうなぁ」
「そうですか、ならば仕方がないですね」
提督と思わしき男はそう言って、俺に拘束されていない手をズボンのポケットに突っ込み、その中にある何かを操作しているようだった
「おい、何して……」
俺が何をしたのか聞こうとした瞬間、手術室の壁を突き破って何かがこの手術室に侵入して来た
「おいおいおい……、マジかよぉ……」
手術室に侵入してきた奴の姿を見た俺は、思わずそんな言葉を呟いた
その姿は今まで見た異形の中でもトップクラスに異質なものだった
正面から見れば長門型戦艦の艦娘、後ろから見れば戦艦水鬼、足は長門型艦娘のそれなのだが踵の部分が戦艦水鬼の爪先になっており、腕は4本生えていた
「行きなさい戦艦宿儺(せんかんすくな)、そいつを始末しなさい」
奴がそう言うと、戦艦宿儺と呼ばれた化物は咆哮を上げて俺に襲い掛かって来たのであった