全く……、こんなのアリかよ……。俺は心の中で悪態をつきながら、突如手術室に乱入してきた戦艦宿儺とやらと激しい攻防戦を繰り広げていた
いつもだったら戦艦空母は潜水艦の餌と言い切るところなのだが、今回ばかりはそうはいかない。今こいつと戦っている場所は陸の上なのである、潜水艦らしく潜行して身を隠し魚雷で仕留めるなんて真似が出来ないのだ
お互い姿を晒したままでの殴り合いとなると、例え転生個体であったとしても耐久と装甲が脆弱な潜水艦である俺の方が圧倒的に不利なのである
更に言えば、ある意味龍鳳が人質に取られているようなものなので迂闊な事が出来ないと来ている
「望だけでなくこんなもんまで準備してるとはなぁ……」
提督の腕に縫合糸を巻き付けたまま、戦艦宿儺の攻撃をかろうじて捌きながら俺がそう呟く
「この娘についてはたまたまですよ、廃人になってしまった彼女の代わりをどうするか考えている時に、丁度いいタイミングで主力艦隊の娘達が望を連れてきましたからね」
俺の呟きが聞こえていたのか、あの野郎が返答してきた。この娘が廃人化……?こいつはこの娘に一体何をしたんだ?そしてこいつは艦娘が廃人化するような事を望にやったって言うのか……?そこまで考えたところで、望がヤク漬けにされていたって話を思い出す
恐らく廃人化の原因は何らかの薬のテストなのだろう……、内容的に抑制薬関係ではなさそうだ、もし抑制薬の実験だったら転生個体とはいえ深海棲艦の望でやる必要がないからな……
そんな事を考えていたら、提督の奴が聞いてもいねぇのに独りで話し始めた
どうやらこの娘と望は、提督が剛さんの嫁さんから頼まれて作っていた身体能力の上昇と激しい高揚感を与える薬の実験台にされていたようだ。そして望を使って薬のテストをしていた際、ソロモン方面へ向かった望が戦艦水鬼を生け捕りにしたんだとか……
そんでこの提督、生け捕りにした戦艦水鬼を廃人化した艦娘にほぼ丸ごと移植したとか言いやがった……、こいつ一体何考えてやがんだ……?
「その結果、彼女はこの通り自力で行動出来るくらいに回復したのですよ。まあ精神が安定していないようなので、依頼の前金代わりにもらった首輪を付けて何とか落ち着かせている状態なのですけどね」
この状態を回復したと言い切るその勇気には感服するわ……、つかあの首輪は剛さんの嫁さんが作った代物だったか……、少々手こずるだろうが護ならきっと何とかしてくれる事だろう。剛さんの嫁さん製ミサイルの時も何とかしてたからな、あいつ
「しかし、アレクサンドラさんには本当に感謝しなければいけませんね、彼女のおかげでこうやって深海化抑制薬を作る事が出来るのですから」
相変わらず能面じみた笑顔を貼り付けたままそう語る提督、こっちの薬も剛さんの嫁さんが関わっていたか……。俺がそんな事を考えてながら戦艦宿儺の相手をしてる間も、提督はまた独りで語り始める
そもそも、この提督が何故深海化抑制薬なんてものを作ろうとしたのか……。それはこの提督のミスから始まったんだとか……
この提督、自身の判断ミスであろうことか指輪を渡した艦娘を沈めてしまったとか言いやがった
そんでしばらくの間その悲しみに明け暮れていると、ある日1匹の深海棲艦が泊地に向かってきたんだとか
何とか気力を振り絞り深海棲艦を迎え撃つように艦娘達に指示を出し、戦闘を開始したそうなのだが、その最中に通信機に通信が入ったんだとよ。……嫁艦とイチャつく為だけに準備した専用の通信機にな……
そこから聞こえたのは沈んだと思っていた嫁艦の声と激しい爆発音、そして先程泊地に近付いて来た深海棲艦を討伐する為に送り出した艦隊の旗艦を務める艦娘の声……
そこで提督は気が付いたんだとよ、泊地に近付いて来た深海棲艦が自分の嫁艦の成れの果てだって事にな……
それに気付いてからすぐに攻撃中止を呼び掛けるも間に合わず、自分の嫁艦だった深海棲艦は海の底へと姿を消していったんだとか
「艦娘が深海棲艦になると言う噂は聞いた事がありました、その時は所詮噂と切り捨てていましたが、まさか本当にそうなるとは思いもしませんでしたよ……」
それからと言うもの、提督はその現象を調査していたそうだが、結局何も分からず仕舞いだったそうで……
「途方に暮れていたその時でしたよ、彼女が私の前に姿を現したのは……」
執務室で独り頭を抱えていた時に、いつの間にか執務室の中に入って来ていた剛さんの嫁さんに声をかけられたんだそうな
「最初は本当に驚いたものです、彼女は泊地のレーダーをかいくぐり執務室に音も無く侵入していたのですからね。誰かを呼ぼうとしても身体が言う事を聞いてくれませんでしたよ、あまりの恐ろしさでね……」
あまりの恐怖で身動きが取れなくなった提督に向かって、剛さんの嫁さんはとある取引を持ち掛けて来たそうだ
「私の腕を見込んで作って欲しい薬がある、もし作ってくれるのならば私が欲しがっている情報を提供する……でしたね……。その話を聞いた私は縋る様に承諾しましたね、何としてでも艦娘の深海棲艦化を止めたくて必死でしたので」
その日から、この泊地の艦娘達の地獄が始まった……
「移植の件も、彼女の提案なんですよ。わざわざ轟沈するのを待つよりもそうした方が早いと言う事でした、実際にその通りだったので本当に彼女には驚かされましたよ」
まさかそこも剛さんの嫁さん絡みだったとは……、冗談抜きでやべぇ奴じゃねぇか、剛さんの嫁さんはよぉ……
「他にもあるんですよ?彼女の素晴らしい提案は……、艦娘の補充方法についてもそうでしたね。後遺症に悩まされる艦娘を集めれば、大本営からの派遣を待つよりも多くの艦娘を短時間で集める事が出来るとかですね。彼女は本当に素晴らしい方ですよ、前金の首輪の件も、まるでこうなる事を知っていたかのようでしたしね」
こいつ、剛さんの嫁さんの傀儡に成り果ててねぇか……?滅茶苦茶都合よく使われてるような気がするんだが……
まあ精神的に弱ってたところを付け入られたんだからこうもなるか……
「こうして彼女の助言と私の努力の結果が、近い内に実を結ぼうとしているんですよ。そうなればきっと多くの艦娘を深海棲艦化の恐怖から解放する事が出来る、私はそう信じています。多くの艦娘を救う為にも、私はより一層頑張らなければなりません」
「その為の犠牲は仕方ねぇってかぁ?てめぇの自己満足の為に殺された艦娘達は、今のセリフを聞いて何を思ってるんだろうなぁ?」
戦艦宿儺と提督の気を引くために、俺は適度に宿儺を攻撃しながら提督にそう投げかけた
「殺された?貴方はおかしな事を言いますね、彼女達はここにいるではないですか」
そう言って辺りを見回す提督、……今度戦治郎に言っておかねぇといけねぇな、長門屋の求人に霊能力者と薬剤師を追加しておけってな……
「深海抑制薬が完成した時には、貴女も私にきっと微笑みかけてくれる……、そうでしょう?」
そう言って提督は自身の隣にいると思い込んでいる誰かに視線を送っていた……、正直超怖ぇ……、この時も能面笑顔のままだからより一層恐怖が掻き立てられる……
「さて、お喋りはこのあたりにしておきましょう。私は今から新しい実験体を作らなければいけませんから……ね……?」
提督はそう言って手術台の方へ向き直ったのだが、先程までそこにいた龍鳳の姿が見えなくなっていた
「……どういう事ですか?」
「たぁっはっはっはぁっ!てめぇがダラダラ喋ってる間に、龍鳳は明石が連れて行ったぞぉ、話に熱中し過ぎなんだよばぁかぁっ!!!かぁっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃぁっ!!!」
先程俺が言った通り、俺が宿儺と提督の注意を引き付けている間に、明石に目配せして龍鳳の救助と避難を頼んでおいたのだ
「これで周りを気にせず戦えるってもんだぜぇ……、てめぇら、覚悟は出来てるかぁ?」
俺はニヤリと獰猛な笑みを浮かべながら、提督と宿儺をしっかりと捕捉する。そんな俺を見た提督は
「やりなさい」
短くそう告げて、俺に宿儺をけしかけてきた
「さぁ……、手術の時間だぁ……」
俺は咆哮を上げながら突進してくる宿儺を見据えながら手術開始を宣言し、手に持てるだけのオベロニウム製メスを持って宿儺を迎え撃つのであった