さて、龍鳳を無事解放しこれでようやく暴れられると言うわけだ
もしあのまま全力で戦闘しようものならば、大体龍鳳が酷い目に遭うのが目に見えていたからな……
全力で戦闘をする場合、両手を使わなければいけない状況になる可能性があるので、いつまでも提督の腕を縫合糸で拘束しているわけにもいかない。だが龍鳳が拘束されたままの状態で提督の腕の拘束を解除したら、提督は間違いなく龍鳳に移植手術を敢行していただろう……
それを防ぐ為にも、提督の腕は明石が龍鳳を助け出すまで拘束し続けなければならなかったのだ
だったら提督を縫合糸でぐるぐる巻きにしたらよかったんじゃないかって?咄嗟にやった事だったのに加えてそれが出来るような距離じゃなかったから仕方がないんだよ
それに提督の注意を引き付けるには、こっちの方が都合がよかったんだよなぁ。適当なタイミングで、適度な力で縫合糸を引っ張ったりして俺の方に意識を向けさせたり、提督の腕を拘束している都合で片腕が使えないってのを敢えて見せつけて、少々不利そうな俺に戦艦宿儺を差し向けるよう誘導したりするのになぁ
後はまあ提督の拘束云々とは別に、全力戦闘による流れ弾での被害も考えなければいけないな。龍鳳は拘束されてるから回避行動なんて出来るわけがねぇんだ、俺のメスが龍鳳にブッ刺さったり、宿儺の攻撃が直撃する可能性が十分ある。多分宿儺のパンチとか喰らったら俺も龍鳳も挽肉になっちまうだろうよぉ……
「―――――!!!」
そんな事を考えていると、生物が出せるとは到底思えないような声で咆哮を上げながら、宿儺が俺の方へと突っ込んで来るなり4本ある腕の内右の2本を使って殴りかかって来た
俺は提督の腕を拘束していた縫合糸を引き戻し、宿儺のパンチを回避しながらすれ違い様にメスを投擲、その腕にメスを突き立てる
「おっ投げたメスはしっかり刺さったようだなぁ、戦艦だから弾かれると思っていたがこれなら俺でもいけそうな気がしてきたわぁ」
宿儺に対して煽るように言うが、ぶっちゃけこれは割と本気の素の安堵の言葉だったりする。もしさっきの攻撃が通用しなかった場合、俺に残されてる手札は魚雷だけになってしまうからだ
これを期に俺の猛攻が始まる、距離を取ってはメスをばら撒き、距離を詰められれば回避しながらカウンター気味にメスを投擲、1度相手の腕に縫合糸を巻き付けてから壁を蹴り、遠心力を使って背後に回り込もうとしたが相手に縫合糸を力任せに引き千切られて失敗、危うく自爆するところだった
「貴方も中々しぶといですね」
「こんな知性も技術もねぇ、力任せに腕を振り回してるだけの奴に後れを取るわきゃねぇだろうがよぉ。俺は何時から闘牛士になったんだぁ?とか思っちまったわぁ」
今まで傍観していた提督が口を開きそう呟いた、それに対して俺は軽口で返答してやった。まあそんな事が言えるのは偏に宿儺が射撃武器を持っていないからなんだがな、もし射撃武器なんか使って来てたらここまで有利に事を運べなかっただろうな
「なるほど……、ならばこうしましょう」
提督の奴はそう言うと、ポケットの中からスイッチのようなものを取り出してそれを指で強く押し込んだ。恐らくそのスイッチは先程宿儺を呼び出す時に使ったのと同じものだろう、実際提督の手に握られたそれにはスイッチが2つ付いており、提督がポケットから取り出した時には既に片方は押し込まれた状態だったんだからなぁ……
……ってちょっと待て、それはつまりあれか?おかわり注文したって事なのか?だったら不味くないか……?いや、もしかしたら追加注文の方も宿儺と同じで接近戦しか出来ない奴かもしれない、そうであって欲しいものだ……
そんな俺の淡い期待は粉々に打ち砕かれた……
宿儺が突き破った壁からまた何かが姿を現したのだ、それも宿儺が開けた穴を拡げるようにして……
「艤装の方もあんのかよぉ……、しかも厄介なもんまで背負っちゃってまぁ……」
そう、先程この部屋に入って来たのは戦艦水鬼の艤装、しかもその艤装が長門型の艤装を背負っているのである
「本体の方は構造の都合上艤装が装備出来ないから、艤装の方に装備させましたってかぁ?」
思わずそう呟く、宿儺は後頭部にも顔がある為、艤装の排煙が後ろの顔に直撃し視界が遮られて後ろにも顔がある事の有利性を活かせそうになかったり、顔の位置は別々でも身体は1つなので、裏の顔が排煙を吸い込んで咽た場合表の方にも影響が出てしまう可能性から艤装を撤廃したと思っていたところでこれだったからな……
「「―――――!!!」」
宿儺と艤装が同時に吼え、宿儺が俺目掛けて突進して来た。俺はそれを先程までと同様に回避してメスを叩き込もうとするが……
「―――――!!!」
艤装の方が咆哮を上げながら砲撃してきたのだ、それも回避行動が終わった直後の俺を狙い澄ましたようにだ
それに気付いた俺は急いで縫合糸を飛ばして適度な大きさの機材に巻きつけるなり、縫合糸を引っ張り機材を引き寄せて盾にする
「ぐぅっ!」
機材を盾にしたおかげで直撃は何とか避ける事が出来たが、俺の身体は爆風で吹き飛ばされた後、壁際にある薬品棚に叩きつけられてしまった
流石は戦艦ってところか……、一撃が重い事重い事……。もし直撃なんてしていたら俺の身体なんて1発でバラバラになっていただろうなぁ……
そんな事を考えていると、またもや宿儺が俺の方へと突っ込んで来た
「そう何度も同じ手は食わねぇってんだよぉっ!」
俺はそう叫び、近くに転がっていた薬品の入った瓶を宿儺へと投げつけた。この瓶は俺が爆風で吹き飛ばされ薬品棚に叩きつけられた拍子に、棚から落ちて来たものである。落下の衝撃で割れてないのは、棚に背中を預けて床に尻を突いていた俺の身体がクッションになったからだ
俺の予想外の行動に対してすぐに反応出来なかったからか、瓶は宿儺の顔面に直撃し……
「―――――っ!!?」
悲鳴じみた咆哮を上げながら目を押さえながら勢いよく仰け反る
「あっひゃっひゃっ!効くだろぉ?そいつは目に入ると失明の危険性があんだぜぇ?」
俺が宿儺に投げつけたのは消毒用の過酸化水素水、一般的にはオキシドールと呼ばれている薬品である
「――っ!?――?!――!??」
宿儺はその目に襲い掛かる刺激から逃れようと必死になって腕で目を擦るのだが、どうやら瓶の破片も一緒に入ったようで、宿儺が目を擦れば擦るほど刺激が増し、仕舞いには目から血が流れ始めていた
本体がこんな状態になってしまったせいで、艤装の方は暴走しそこかしこに砲撃をし始める。その砲弾が何度か提督を掠めるが、提督はそれに対して全く動揺していないようだった
「艤装を出せば有利になると思っていたみてぇだが、そんな事ぁ無かったなぁ。まあこればっかりは運が悪かったと諦めなぁ」
俺はそう言いながら天井に向けて縫合糸を飛ばし、針が天井に刺さったのを確認したところで手首に付けているドラムで縫合糸を巻き取りながら上昇を開始、ある程度の高さになったところで制止して今度は前後に身体を揺らして振り子運動を始める
「このくらいの高さから落とせば、ちゃんと仕事してくれるよなぁ?」
俺はそう呟きながら空いた手に艤装を展開し、魚雷発射管に魚雷を装填する。そして振り子運動を続けながら宿儺と艤装に狙いを定めて……
「こいつぁとっておきだ、遠慮せず持って逝きなぁ」
俺は先程装填した魚雷を全て宿儺と艤装の頭上に投下し急いで目を閉じる、流石にこの状態でゲロを吐くのは格好がつかねぇからなぁ……。そんな下らない事を考えていると下の方から爆発音が聞こえる、どうやら投下した魚雷は俺の思惑通り起爆したようだ
目を開き下の方を見てみると、ボロボロになって床に倒れている宿儺と艤装の姿があった。どちらも身体の一部が欠損していたりするところを見ると、また起き上がって襲い掛かって来ると言う心配はなさそうだ
「さて……とぉ」
縫合糸を完全に巻き取り天井に刺さった針を回収し、落下しながらそう呟いて床に着地する。天井から床まで結構な高さがあったと思うが、それでもちょっと足が痺れる程度で済んだ我が身に薄ら寒いものを感じた、深海棲艦の身体はスゲェなぁ……
「さぁ、次は何を見せてくれるんだぁ?その様子だとまだ何か隠してんだろぉ?それともあれかぁ?今ので打ち止めでその態度はハッタリだったりすんのかぁ?なぁ、どうなんだぁ?提督さんよぉ……」
俺は提督にメスを向けながらそう言った、この提督、宿儺がやられても相変わらず能面笑顔のままだったもんから、きっとまだ何か隠し玉があると思ったのだ
「まさか戦艦宿儺を倒してしまうとは……、恐れ入りました……」
そう言って提督は懐から何かを取り出した、あれは……無針注射器か……?
「ですが、このまま素直に貴方に捕まる気はありません。先程貴方が望んだ通り見せて差し上げますよ、私の切り札を……」
そう言って提督は自身の首筋に無心注射器を押し当てボタンを押す、ウッと声こそ漏らせど表情はやはり変わる事も無く能面スマイルのままだった
「おい、今何をしやがったんだぁ?その無針注射器の中身は何なんだぁ?」
注射器の中身が気になり提督に尋ねる俺、すると提督は身を震わせながらとんでもない事を言いやがった
「あの注射器の中身ですか……?あれは深海棲艦の血液ですよ……」
まさかこいつの切り札が自身に移植する事だったとはなぁ……、輸血も臓器移植の1つになるから、これも深海棲艦の血液を自分に移植したと言えるだろう……
そんな事を考える俺の目の前で、提督の身体に変化が起き始めるのだった……