「もう、いつまでも泣いてないでシャキッとしなよ~」
望ちゃんの無事を確認して、つい感極まって泣いてしまった俺に対して飛龍が言う
確かに飛龍が言う通り、こんなみっともない姿をいつまでも皆に晒しているわけにもいかないな。そう思って俺は涙を拭い立ち上がる
「光太郎さん、大丈夫なんですか?」
「心配させてごめんね蒼龍さん、そして飛龍さんもありがとう」
俺の事を心配そうに見ていた蒼龍さんと、俺の事を激励してくれた飛龍さんに礼を言い、俺は改めて望ちゃんと話をしようと思ったのだが、どうやら彼女は俺が立ち直る前に何処かに移動したようだ
望ちゃんは何処に行ったのか、視線を巡らせ探してみる。長月さんと皐月ちゃんに身振り手振りで何かを伝えようとしている文月ちゃんや、涙を流しながら抱き合ってこの場で改めて再会を喜ぶ妙高さんと羽黒さんの姿が目に映るが今はスルー……、そしてようやく目当ての人物である望ちゃんを見つけ出すと、俺はゆっくりとそちらの方へと歩き出す
「これは……一体……」
悟の緑色に発光する手を腰に当てられた加賀さんがそう呟く、残念ながらさっき来たばかりの俺にも今の状況がどういう事なのか分からない為、俺が加賀さんの疑問を解決する事は出来ない……
「本来ならこの状態で手術するのが確実なんだがよぉ、生憎ここにはその為の道具もなけりゃぁそんな事出来る環境でもねぇ。だが異形艦娘だった奴らに処置してる間にこの力が強化されたみてぇでなぁ、時間こそ多少かかるがこれだけでも治療そのものは出来るようになりやがったんだわぁ」
何それ凄い……、つまり今の悟は二足歩行する人体限定の入渠ドックになってるって事か?しかも今の口振りからすると、その能力は使えば使うほどパワーアップするみたいだから……、その内歩くバケツになる可能性もあるって事か?
「凄い……手を当てるだけで治療するなんて……」
その光景を目をキラキラさせながら見ている望ちゃんが言う、確かにこの能力は凄いけどここまで目を輝かせるほどのものなのだろうか……?
「悟さんの治療を食い入るように見てるわね……、確か望ってお医者さんになりたいかったんだっけ?尊敬するお医者さんがいるとか言ってなかった?」
「そう!私も先生みたいな立派なお医者さんになって、病気や怪我で苦しんでる人をたくさん救いたいって思ってたの!でも……」
ふと神風さんがキラ付けされた望ちゃんにそんな事を尋ねると、望ちゃんは最初のあたりは元気一杯に答えるんだけど、途中から先程までの元気は何処へ行ったのかといった感じに消沈してしまう
「私も立派なお医者さんになろうと思って一杯勉強してたんだけど、それが原因で寝不足になって……。それであの日、遂に無理が祟って机の上で眠っちゃって、火事に気付くのが遅れて逃げ遅れちゃって……」
望ちゃんはその目に涙を浮かべながらそう語る、この娘が逃げ遅れた原因はそういう事だったのか……、……いや、理由はどうあれ俺がこの娘を助け出しさえすれば、この娘はこんな辛い目に遭わずに済んだはずなんだ……
「……ごめんね、望ちゃん……」
このタイミングで言うべきではないと分かっているものの、つい彼女に対しての謝罪の言葉が俺の口から零れ落ちる
「え……?」
「俺がもっとしっかりしてれば……、周囲の状況を確認しながら君の下に向かっていれば……、君にこんな辛い思いをさせずに済んだはずなのに……、君を救助出来たはずなのに……。本当にごめんね……」
1度口から零してしまうと、もう自分の意思では止める事が出来なくなり、俺は俺の心の底から次から次へと溢れ出してくる後悔の念を言葉に乗せて、望ちゃんに向かってただひたすら頭を下げて謝罪するのであった
「え、えっと……光太郎さん……?」
「これはどういう事かしら……、いえ、その前に貴方達が一体何者なのかについて聞かなければいけないわね……、輝に聞いても他の奴に聞けと言われてはぐらかされてしまったし……」
俺の様子を見た望ちゃんと加賀さんが困惑しながら口々に言う
「そう言う事なら私が説明しますよ」
通がそう言ってまず自分達……転生個体の事について話し始め、それから俺達が泊地に来た経緯、そして最後に俺と望ちゃんの関係について話をするのだった
「そう言う事だったんですね……」
「なるほど……、だから彼はこんな事になっているのね……」
状況を飲み込んだ2人が沈痛な面持ちで俺の方を見る、そして……
「光太郎さん、顔を上げて下さい」
望ちゃんの言葉に反応し、俺は彼女の言葉通りに頭を上げる
「光太郎さんが私を助けようとしていた気持ちは、今ので十分伝わりました。でもこの件で一番悪いのは私なんです、私が無理をしたせいで逃げ遅れてしまった……、言わば自業自得なんです。だから光太郎さんがそんなに気に病む必要なんて……」
「異議ありッスっ!!!」
望ちゃんが俺に語りかけている最中に、護の奴が異議を唱える
「その件は望ちゃんも悪くないッスよ、一番の悪はその火災を起こした人物のはずッス、そう思わないッスか?悟さん」
「あぁそうだなぁ、護の言う通り一番悪ぃのは火災の原因を作った俺になるわなぁ……。俺が余計な事しなけりゃぁ望が死ぬ事もなけりゃぁ光太郎がハイパーを辞める事も無かったはず……」
「待ったっ!!!」
護に促されて悟が発言するのだが、今度は通の奴がその発言に待ったをかける。尚この悟の発言を聞いた望ちゃんは、驚愕のあまり目を見開いて固まっている
「確かにあの放火事件の遠因は悟さんにあったかもしれません……、ですが実際に火を放ったのは悟さんではなく、悟さんの事を逆恨みした元上司とその人達の指示を受けて放火を実行したその人達の部下ではないですか。ですからここにいる誰かが悪いのではなく、ここにいる誰もがあの火災の被害者……違いますか?」
確かに通の言う通りなのかもしれない……、だが俺はそれを聞いてもまだ納得出来ないでいた……
「そう……ですね……」
不意に静まり返ったこの状況を打ち破るかのように望ちゃんの声が聞こえる、そして望ちゃんは俺の目を見ながら言葉を紡ぐ
「通さんが言うように、私も、先生も、そして光太郎さんも……、皆が被害者なんですから、この事を光太郎さんだけで思い悩む必要なんてないんですよ。それに……」
望ちゃんはそこで1度言葉を区切り……
「光太郎さんはおかしくなっていた私を助ける為に、必死になって頑張ってくれたんですよね?そのおかげで私はこうやって無事に神風と再会する事が出来たんです。私を、皆の事を助けてくれて本当にありがとうございます」
そう言って俺に対して頭を下げる望ちゃん、俺はその言葉を聞き、その姿を見るなり……
「あ~あ~、ま~た光太郎さん泣き出しちゃったッスよ~っと」
「いいんですよこれで、しばらくそっとしておきましょう」
あれだけ泣いたにも関わらず、またも涙腺が決壊し泣き出してしまった……。ホントみっともねぇなぁ、俺……
「ぅおおおぉぉぉーーーいっ!!!」
そんな事を考えていると、遠くから俺達を呼ぶ声が聞こえて来る。何事かとそちらを見ると、何かを小脇に抱えた戦治郎がこちらに手を振りながら向かって来ていたのだ。その後ろには他の皆の姿も見える
「あの化物の件、ホントに妖精さんが何とかしてくれたぞっ!!!」
俺達の下に駆け寄って来た戦治郎が、そう言いながら抱えていたものを俺達に見せて来る。それは透明な立方体で、中にはあの提督だったものの頭部が入っているではないかっ!
「これ、この樹脂なんだけど、妖精さん達がオリジナルのコアを運搬する際に使う奴らしいんだわ!そのおかげでこの通り!問題なく触れるようになったぞっ!!!」
「運用目的が運用目的なだけあって、凄まじく頑丈で且つ耐熱性にも優れているようだ」
「おかげで俺がめっちゃ苦労したんですけどね……、これ溶かすのに30万度の熱を加えにゃなんねぇとか……、必要な熱量もそうですけど皆が熱にやられないようにすんのも大変でしたよ……」
未知の物体を持ってはしゃぐ戦治郎に、その物体の性質を解説する空、そして何かとんでもない事を口走るシゲ。そのせいでさっきまでのシリアスな空気がお亡くなりになられた……
「っと、その様子を見ると望ちゃんの方も大丈夫っぽいな!って事は二正面作戦によるマダガスカルとアムステルダム泊地の同時攻略戦は成功って事だなっ!!!」
こうして、戦治郎の宣言によりこの二正面作戦は成功という事で幕を閉じるのであった