青空英語教室
ここはインド洋の東側、穏健派深海棲艦の総本山があると言うソロモン諸島へ向かうその道中である
本来ならば直接ソロモン諸島へと向かうべきなのだろうが、肝心のソロモン諸島は現在地から遥か遠く、余りにも遠すぎて途中で誰かが倒れてしまわないか心配になる、それほどまでに遠いところにあるのである
故に俺達長門屋海賊団は一度オーストラリア西部に上陸し、休憩と補給を済ませてから再びソロモンを目指す事になったのだ
俺は俺の艦載機に生まれ変わったペットの猫達を哨戒機として発艦させ、周囲を警戒しているのだが……
「皆本当に飲み込みが早いわね~、これならアタシも教え甲斐があるわ~♪」
戦治郎の艤装である元熊の大五郎の背中に取り付けられた兵装である洋上簡易拠点、通称ハコの上に設置されたホワイトボードの前に立つ剛さんが言う
現在、長門屋海賊団の一部は移動しながら剛さんを講師とし、英語の勉強をしているのである
マダガスカルにいる港湾棲姫、通称ワンコの拠点を訪問した際、南方棲鬼の転生個体である糞漏らしが英語しか喋らなかった為、仲間の一部が会話の内容を聞いただけでは理解出来なかったのである
その状況を目にした戦治郎が、もしかしたら転生個体の中には糞漏らしのように英語しか話せない輩がいるかもしれないと懸念した為、海賊団のメンバーには英語の読み書きと聞き取りをマスターしてもらう事になったのである
最初は戦治郎が講師で俺がそのサポートをする予定だったのだが……
「あら、戦ちゃんが皆に英語を教えるの?だったらアタシは裏方に回っておこうかしら?」
「「剛先生、本日は何卒よろしくお願い致します」」
剛さんのこの言葉を聞いた戦治郎と俺は角度45度のお辞儀をしながら、剛さんに講師役をお願いするのだった。高々1ヵ月ほどアメリカに留学していた俺達と、1度アメリカ国籍を取得し20年近くアメリカに住んでいた剛さん、どちらが講師として相応しいかは火を見るよりも明らかである
その結果、剛さんのサポート役は戦治郎が担当する事になり、俺は手が空いたのでこうやって哨戒機を飛ばしているのである
こうして、稲田 剛先生をお迎えして青空勉強会が開催されているのだが……
「んで、これが加賀さんと輝さんが2人で一緒に加賀岬歌った時の奴ッスね」
『ちょっと待て!俺はお前らが歌うような曲歌えねぇぞっ!?』
『問題ないわ、私が先に1番を歌うから輝はそれの真似をしながら2番を歌えばいいのよ』
『いやそれ無茶振りもいいとこだろうがよっ?!?』
翔の水上バイクに乗った護が宴会の時に撮影した動画をHMDから伸びるコードを接続したタブレットを使って再生し、通、神通、不知火、龍鳳の4人がその動画を見ていたのだ
「これは本当に酷い無茶振りでしたね……」
「自分、これ聞いた時は笑い死ぬかと思ったッスよ~」
動画を見てその時の様子を思い出しながら会話をする不知火と護
『\デデン!/』
『始まったわ、準備はいい?』
『……あっこの曲?この曲ならそらで歌えるわ、いいよなこの曲!俺の好みド真ん中なんだわ!』
「この時は流石に私も大笑いしてしまいましたよ……」
「この後の加賀さんずっとキラキラしてましたよね~、気のせいか結ってる髪もピョコピョコ動いてたような……」
タブレットから輝と加賀が歌う加賀岬が聞こえる中、今度は通と龍鳳がそんな会話をしていた
ここにいるメンバーは既に英語の読み書き聞き取りをしっかり身に付けている為、勉強会への参加を免除されているのだ。この5人の他にも光太郎と悟、そして翔も免除されている
光太郎と悟は兎も角、神通と龍鳳は日本海軍の方で教えられたようで、通は刑事と言う仕事の都合上外国人の相手をする事があった為覚えたそうだ。不知火については剛さんが銃器の扱い方を教えるついでに教えていたそうだ
そして予想外だったのは護と翔の2人、翔は料理の研究の為に英語のレシピを読み漁ったり実際に現地に行ったりしていたらいつの間にか覚えていたと言い、護はプログラミングやSt〇amのゲームを漁っていたら覚えたなどと言う……
「あの、歌っている時の私……、おかしいところはありませんでしたか……?」
「いいえ全く、むしろ私の方がおかしかったのではないでしょうか……?」
俺の耳に神通と通のやり取りが聞こえてくる、少なくとも俺からしたらどちらもおかしなところはなかったと思う。それよりも通の方は既に知っていたからそうでもなかったが、神通の歌唱力の高さに驚かされたのを今でも覚えている
「そろそろいいッスか?そんでこれが悟さんがエグゼイドの社長の曲歌ったとこッスね」
「悟さんの奴ですかっ!?見せて下さい見せて下さいっ!!!」
護のセリフに即座に反応した龍鳳が、タブレットにガップリとかぶりついた。それでは他の奴らが見る事が出来なくなるのではなかろうか……?
「ああ~……、歌ってる悟さん本当にカッコ良いな~……。護さん、この動画を後でコピーして譲ってもらえませんか?」
「いいッスよ~、後でUSBにでもコピーしとくッス」
「……最前列で見ていたのによぉ、それでも満足出来なかったって言う気かぁ……?」
龍鳳と護のやり取りが聞こえたのだろうか、光太郎のリヴァイアサンの後ろに乗っている悟がそう呟いていた。想い人との思い出はいくらあっても足りないものだろうし、これだけ愛されているなら別に問題ないだろう、俺もこのくらい翔鶴に思われたいものだ……
……いや、それよりもだ……
「誰か1人くらい俺の手伝いをしてもいいと思うのだがな……」
そうは思うのだが、楽しんでいるところを邪魔するのも忍びない為俺は誰にも聞こえないよう独りそう呟くのだった
今回は短いです……