さて、戦治郎に渡された地図の通りに進んで行ったわけだがちょっとした問題が発生した
喫煙所に誰もいないのである
喫煙所、場所は工廠の裏から少し離れたところにあり非常に簡素な作りになっていた
ベンチ4つがスタンド灰皿3つを挟むように設置してあり、申し訳程度の屋根が取り付けられていた、飲み物の自動販売機が3台置いてあるが取り扱っているのがコーヒーが多めで他はスポーツドリンクにエナジードリンク、栄養ドリンクとお茶とミネラルウォーターなどという実用性に尖ったようなラインナップであった
「ありゃ~、タイミングが悪かったんですかね~」
「どうするの? ここで待つ? 私はまだここの鎮守府の事よく分からないから案内してもらいながら探しても別に構わないのだけど」
霞がそう言ってくる、しかし漣は
「ここは下手に歩き回らずに待ってみましょう、行き違いになる可能性もありますし、何よりさっきお風呂入っちゃいましたからね~、歩き回って汗かいたりしてもう1回入るハメになるものどうかと思いますから~」
本音を言えばもうあまり動きたくないのである、大本営からトラックに揺られて佐賀まで来て、鎮守府の中を歩き回りながら頭をフル回転させていたところに出撃までやったのだ、疲れないはずがないのだ
「そう、ならそうしましょう。それにしても、シゲと護だったかしら? こいつらもあの司みたいな奴じゃないでしょうね……?」
霞が若干の不安を抱いて聞いてくる、今の霞の中では深海棲艦になっちゃった人達は皆問題児という印象なのだろう、火傷痕とタトゥーの入った提督に嘘吐き暴力医者、見境なしのナンパ師、うん、問題児しかいねぇ、早いところ光太郎と翔と望を紹介してやるべきだと思う
「司さんは何と言うか凄いキャラしてましたが、漣が知ってる人の中にはかなりマトモな人もいたんですよね~、そっちである事を願うばかりですよ……」
こんな感じで霞と会話しているところにこちらに近づいてくる何者かの気配を感じる
漣がその方向へ視線を向けると作業ツナギを着た深海棲艦が2人、会話をしながらこちらに近づいてくる、霞も漣につられてそちらを見てギョッとする
作業ツナギの深海棲艦はこちらの視線に気付いたのか会話を止めてこちらに顔を向けて眉を顰め、そのまま歩みを止めずにこちらに向かってくる
「あん? 漣と霞? 漣は初期艦だって聞いてたが霞なんて聞いてねぇぞ? おいマモ、おめぇは何か聞いてたか?」
2人組の片割れの重巡棲姫が相方に尋ねる
「シゲが聞いてないなら自分も聞いてないッスよ、ていうか何でこんなヤニ臭いとこいるんスかね?」
答えるのはマモと呼ばれた防空棲姫、何か語尾が特徴的だ
「えっと、貴方達がシゲさんと護さんですか?」
「んあ? 自分らの事誰かに聞いたんッスか?」
「はい、ご主人様からお二人に挨拶してこいと言われましてですね~、本当は建造する為に工廠行ったときに空さんと一緒に挨拶する予定だったらしいのですが運悪くお2人が席を外してる間に着いてしまいまして~」
「ご主人様って……、あぁそっか漣はこうだったな、なるほどアニキに聞いたわけだな」
アニキ? このシゲと思われる重巡棲姫がアニキと言っているのは戦治郎の事だろうか? そして戦治郎の事をアニキ呼びしてるのはどういう事だ? まさか本当に兄弟だったりするのだろうか?
「あ~、漣~、シゲはテンチョー……じゃなくって戦治郎さんの事アニキって呼んでるッスけど血の繋がりはねぇッスよ~、まあ戦治郎さんの弟と中学一緒だったりするんスけどね、自分達」
ああ、そういう事か、戦治郎の事に敬意を込めてアニキと呼んでるのか、つかテンチョーってなんだ、そして戦治郎には弟がいたのか……
「っと、そういや名乗ってなかったな、俺は愛宕山 重雄(あたごやま しげお)ってんだ、まあ皆シゲって呼んでるからそっちで呼んでくれて構わねぇ、工廠で原動機関係の作業担当してるわ、艤装や艦載機だけでなく普段の足に使う車やバイクも受け付けてるから何かあったら言ってくれ、アニキや空さんほどじゃねぇがしっかり直してやんよ」
そう言いながら煙草を咥え火を点けるシゲ、その手つきからかなり吸い慣れてる感じがした
「自分は秋月 護(あきづき まもる)ッス、担当は家電やプログラミング、電探なんかも自分がやってるッスよ~、趣味でゲーム作ってたりするッスから興味あったら自分の部屋に来て欲しいッス、テストプレイとかしてくれたら嬉しいッスね」
そう言って護もシゲ同様煙草に火を点ける、こちらはシゲよりぎこちなく感じた、しかし趣味でゲーム作れるのか……、瑞鶴が聞いたら喜びそうである
「おめぇがその話したら瑞鶴がめっちゃ食い付いてきたよな? あの瑞鶴ゲーマーだったりするのか?」
おおう既に話していたか、移動中もずっとゲームやってたみたいだから相当好きなんだろうとは思っていたが……
「ありゃゲーマーっていうよりもゲーオタッスね、自分の同志になり得るッス」
そう語る護の顔がちょっと嬉しそうである、趣味が同じ異性だからといったところだろうか
「話戻るけど、漣はまあ聞いてたから分かるけど霞は何でここにいるんだ?」
おっと、シゲは霞の事が気になるようだ
「私は有明海で戦ってるところをあいつに勧誘されて付いてきたのよ、軍への正式な加入手続きは今やってるみたいだから明日には加入する事になると思うわ」
「ああ、まだ軍入ったわけじゃねぇからあいつ呼びなのな……、まあいい、着任したらちゃんと直せよ」
「そのくらい心配しなくても分かっているわ」
そりゃアニキって慕ってる人をあいつ呼ばわりはちょっと思うところあるだろうな、まあ霞の事だからそのあたりはしっかりしてくれるとお姉ちゃん信じてる
「そういえば、シゲさんは山を殴ってボーキサイトの鉱脈発見したそうですが~、それマジなんです?」
「え……? 何それどういう事?」
やっぱり霞が驚いた、いや、これは誰だって驚く、自分だってそうだったのだから……
「ああ~、あれか、あれはマジだ、空さんみたいにポッカリ穴開けられねぇかな~?って思ってやったらボーキの鉱脈出てきてな、あれはビビったな~……」
遠い目をしてシゲが言う、うん、その前に空がなんだって? ポッカリ穴開ける? 山に? シゲは粉砕だと聞いたが空はそれ以上をやらかせるの? ホントあの人何なの?
「待ちなさい、その空って奴は何者なのよっ!? 山に穴開けるっておかしいでしょ?!」
「霞ちゃ~ん、空さんは蟻の巣ほじくり返して石油と温泉掘り当てるような人ッスからいちいち驚いてたら心労で倒れっちまうッスよ~」
「やっぱり司と同レベルの奴もいるのね……、ほんとどうなってるのよこの鎮守府……」
霞が肩を落としていう、まあ、そうなりますよね~、っていうか石油は聞いたけど温泉は初耳だ、入渠ドックのお湯ってまさかその温泉のだったりするのだろうか
「空さんといいシゲさんといいご主人様といい、何をどうしたらそんな事出来るんでしょ?」
「ん~、カラテ=パワー?」
シゲが答える、なんじゃそりゃ、空手やってたら皆あんなに強くなれるとでもいうのか?
「テンチョーはどっちかって言うと剣術じゃないッスか? 通と同門だったと聞いてるッスけど」
「一応、昔はアニキも俺らと同じ道場で空手やってたそうだがな、結局剣術の方とったみたいだけどよ」
通イズ誰? もしかして川内と夜戦してたって人なのか? というか戦治郎は空手に剣術と色々やっていたのか、ホ級が凄惨な姿になってしまったのはそれが原因? 他にも何かありそうだが……
「シゲは途中で破門にされたッスよね? 族の喧嘩で使ったとかで」
おいィ? 族の喧嘩? シゲは何やってたんだ? どういう経緯でそんな事になった?
「おい馬鹿やめろ」
「結局、集会してるとこに迷い込んじゃったテンチョー達に喧嘩売って返り討ちにされた挙句メンバーの殆どが逮捕されて実質解散になったんスよね? 暴走チーム『大天狗』の元総長の愛宕山 重雄さん?」
「やめろおおお!!! 俺の古傷を抉るなあああっ!!! 黒歴史を掘り返すなあああっ!!!」
シゲまさかの元ヤン、それを平然とバラす護、何ともいとも容易く行われるえげつない行為である事か……
「てか、テンチョーってご主人様の事かな? ご主人様達って事は複数いたって事ですよね? 空さんはいるとして他は誰だったんでしょ?」
「悟さんと光太郎さん、それに輝さんッスね、この5人は幼馴染らしいッスよ?」
輝って確か執務室の掃除と修繕頼まれてた人だったっけ? こちらもまだ会ってなかったなぁ……、そんであの面子+αが幼馴染と……、何かものっそいやんちゃしてそうなイメージしか湧かない
「んで、シゲはその後バイクに乗って単騎で修理工場に乗り込んだところ、バイクのメンテナンスとかの腕買われて晴れて従業員になりましたとさ、おしまいッス」
戦治郎と空にバイクの状態を褒めちぎられて、悟が追撃した後光太郎に諭されて最終的に丸め込まれてしまった感が凄いです
視界の隅に膝を抱えるシゲが見えたが気にしない
「因みに自分はコミケでテンチョーと空さんと知り合った後、コミケの資金稼ぎのバイト探してるところを勧誘されたッス、あの2人自分のゲームのファンだったらしいッスからね、後にサークルに加入してくれたッス」
まさかのコミケ、まさかの同人サークル、自分が好きなゲームの生みの親を雇用するとかどんな感じだろうな~、ダメだ、色々あり過ぎて上手く突っ込めない……
「こっちでもコミケみたいなのやってるみたいッスから、機会見て参加したいところッスね~」
こっちでもやるつもりなのか、もしサークル参加出来たらそのときは一緒に連れて行ってくださいお願いします
「っと、そういやここの深海勢と会うのは俺らで最後か?」
復帰したシゲが聞いてくる、立ち直り早いッスね
「いえ~、さっき話に出てきた通さんと輝さんですっけ? それに剛さんに藤きっちゃんとか言う人に会ってないですね~、他には誰かいるんでしょうか?」
「剛さんはもうそろそろ帰って来そうッスね、埠頭で待ってたら会えるかもしれないッス、通は~、今日非番だったッスよね?」
「だな、まあ明日になったら会えるだろうよ、輝さんと藤吉か~……、執務室の修繕の後の予定とか聞いてねぇし、こっちも明日でいいんじゃね?」
おおう、情報提供は非常に助かる、剛という人がそろそろ戻ってきそうという事だから、時間があるようなら向かってもよさそうだ、そう思って時計を確認してみればヒトロクマルマル、まだまだ大丈夫そうだ
「そういえば、ゴロちゃんやシューさんみたいに艤装や艦載機になっちゃった人っているんですか?」
「人……はいねぇな、大体そこらになるのはペットとか動物……ってあああっ!」
シゲが唐突に声を上げる、霞が驚いてビクリとなっていた可愛い
「すまん! お前らの事忘れてた!」
そういってシゲは腹部から艤装を展開する、一体何事かと思ったが話の流れ的に……
「シゲェ、俺達の事忘れるとかひでぇじゃねぇか」
「シゲさぁん、しっかりしてくださいよぉ~……」
腹部の艤装が喋る、もうゴロちゃんで慣れたからこの程度では驚かないぞ!
「紹介する、俺の艤装になっちまったクロとゲータだ」
「おう、シゲに飼われていたクロってもんだ、よろしくな嬢ちゃん達」
「同じくシゲさんのペットのゲータです、こんな姿ですけど仲良くしてくださいね?」
クロが若干ワルっぽくてゲータが大人しい感じの子だ、喋る以外は至って普通って感じだ
「おお~、シゲさんもペット飼っていたんですか~ 因みにこの子達は元は何だったんですか?」
これも多分耐えれるはず! ゴロちゃんがヒグマ、シューさんが白頭鷲、弥七がベンガルトラ、これ以上はきっとないはず!
「クロがイリエワニ、ゲータはアメリカアリゲーターだ、どうよ? かっけぇだろ?」
「ぶぼっほぉっ!!!」
思いっきり噴き出す漣、霞に至っては白目を剥いて倒れてしまった
「いくら爬虫類が好きだからって、ワニ飼うのはどうかと思うッスよね~、自分とシゲ、翔、空さんに悟さんはテンチョーの家に住んでたんッスけどシゲがワニ飼った関係でコミケ仲間とか家に呼べなくなっちまったんスよ~? 酷いと思わないッスか~?」
「うっせうっせ! 大五郎も弥七も大概だろうがよぉ!」
いや~、爬虫類は流石にキツイッス……