「おめぇら全員いるな~?……よし、いるみたいだから全員バスに乗り込め~」
光太郎が運転するバスから降りて来た戦治郎が、海賊団のメンバーが全員揃っている事を確認した後、バスに乗り込むよう促す
戦治郎と光太郎は早い時間からバスを購入する為に出掛け、残った俺達は戦治郎達が戻るまでの間ヤマグチ水産についての情報を集める事にしたのだ
その結果新たに分かった事がいくつかあった
1つ目はヤマグチ水産の本社がここ、パースにある事
2つ目はヤマグチ水産はオーストラリア西部で日本食のチェーン店を展開している事
3つ目はヤマグチ水産の社員は、社長の顔を知らないという事
そして最後のはヤマグチ水産と直接関係あるかどうかは不明だが、オーストラリアの人々の多くが深海棲艦との共存を望んでいる事である
「……以上が俺達の方でヤマグチ水産について調べた結果だ」
「本社がここにあったのか……、まあ直接出向いて話聞こうとしたら騒ぎにしかなんねぇだろうから、取り敢えず1つ目についてはスルーだな」
バスで移動を開始したのに合わせて俺が調査結果を戦治郎に報告したところ、戦治郎は本社については無視する方向で行く事を決めたようだ。確かに、ここで俺達が本社に行って社長に会わせろなどと言うと、警備員が飛んで来る事間違いなしだからな……
「2つ目について補足なんですけど、そのチェーン店はオーストラリア東部を避けているのかと思うくらいに、東部に出店していないんだそうです」
「東部を避けているね~……、まるでソロモン諸島を避けているって感じだな~……」
龍鳳の補足を聞いた戦治郎がそう呟く、もしかしたらそのチェーン店には東部の人間に見られては不味いものがあるのかもしれないな……
「3つ目の自分の会社のトップの顔を知らないって、どんな会社だよそれ……。でかい会社ならまだしも、ヤマグチ水産は急成長してるとは言え最近出来た会社なんでしょ?そういうのって起こり得るの?」
「漁業とかやってる現場の人間が言ってるんならまだ多少は分かる話だが、聞いてる限りだと本社にいる奴も知らないっぽいなこれ、これは流石におかしいと思うわ……」
バスを運転しながら光太郎が戦治郎にそう聞いたところ、戦治郎はそれに対して率直な感想を述べていた。社員にも顔を見せない社長か……、ますますきな臭い感じがしてきたな……
「それよりも、オーストラリアの多くの方が深海棲艦との共存を望んでいるのが気になりますね……」
「これに関しては何とも言えねぇな~……、俺達の立場からしたら嬉しい限りなんだが、その考えに至った理由について全く分からないのがな~……。東の方で激しくドンパチやってる相手を受け入れるって、簡単な事じゃないだろうに……」
「もしかしたら、この件にヤマグチ水産が関わってる可能性があるかもしれないッスね~。洗脳だとかイメージ操作だとかやってる可能性も否定出来ないッス」
瑞穂の言葉に戦治郎が答え、それに続くように護が可能性の話をする。イメージ操作は兎も角、洗脳は少し無理があるような気がしないでもない、だがチェーン店の食事に何か薬物を混ぜ込めば或いは……。……もしこれが事実だったら翔が本気で怒りそうだな、食べ物を冒涜するなと言った具合にな……
この話し合いの後、何度か休憩しながら情報収集をしたのだが、結果は今出ている事以上の事は何も分からないのだった……
それからしばらくすると、戦治郎が最後方の席で横になって眠り始める。戦治郎曰く……
「俺、空と同室だったんだけどさ、こいつ寝言で翔鶴の事口説いてたんだぜ?それもしっかりと言葉が聞き取れるくらいの音量で……。それがもううるさくてうるさくて……、だから全然眠れてねぇのよ……」
確かに翔鶴と再会する夢を見て、シミュレーションした事を夢の中で実行していたが……、まさか寝言として口から出ていたとは……、不覚……
その後戦治郎を起こさないように静かにしていると……
「皆!あれ!あれ見て!」
そう言って天津風が窓の外を指差しながら大声を上げる、何事かと思い外を見てみると……
「あれは……、割烹アンダーゲート……っ!」
天津風が指差した先にあったのは、先程話に出ていたヤマグチ水産が展開しているチェーン店である『割烹アンダーゲート』の看板だった
割烹アンダーゲートは、ヤマグチ水産が提供する新鮮な魚介類を使って作った日本食を楽しめる飲食店で、深海棲艦が原因で漁獲量が激減し高級食材となっていた魚介類を気軽に食べられる事で有名になったらしく、次々と店舗とファンを増やしているのだとか……
「例のチェーン店か……、……時間も丁度いいしあそこで話聞くついでに飯でも食うか」
先程の天津風の声で目を覚ましたと思われる戦治郎がそんな事を提案する
「バスで乗り込んで大丈夫なんですかねぇ?駐車場なかったらどうするんです?」
「あ~……、電話で確認取ってみっか……、ついでに席の予約もしとこっと……って事で光太郎、電話あるとこに行ってくれ!」
戦治郎の提案を聞いた司が懸念している事を戦治郎に尋ねると、戦治郎はそう言って件のチェーン店に確認と予約の電話を入れる為に光太郎に指示を飛ばす
「そう言うと思ってそれっぽいところ見つけておいたよ」
どうやら光太郎はそれを見越して運転していたようで、電話がありそうな場所はすぐに見つかり、そこにバスを停めると戦治郎にアンダーゲートの電話番号が記載されたメモを渡して戦治郎をバスから降ろすのだった
「予約、とったどおおおぉぉぉーーーっ!!!」
戻って来た戦治郎がそう叫び、それを聞いた光太郎はすぐにバスをアンダーゲートへ向けて発進させる。どうやらその店には宴会用の席があるらしく、大型の車両も駐車出来る駐車場も完備しているとの事だった
「ところで、何でアンダーゲートって名前なんだろうな?」
道中で摩耶がそんな事を言う、これはまだまだ英語教室をやる必要がありそうだな……
「摩耶ちゃ~ん、アンダーって日本語だとなんて言うか分かるぅ?」
「アンダーは下だろ?それくらいはあたしでも分かるぜ!」
「じゃあゲートは?」
「門だろ?」
「確かにゲートは門って意味もあるけど、それ以外にも関って意味もあるのよ~?」
「関……、下の関ねぇ……。……ん?下の関……?下の関……下関……って!?」
「そういう事よ、山口水産の割烹下関。ここの社長ってどれだけ山口県が好きなのかしらねぇ?因みに~、下関市の隣には長門市があるわよ~♪」
摩耶と剛さんがこんなやり取りをしていた、その光景を見ていた者は笑いを堪えていたり苦笑を浮かべていたりと様々な反応をしていたのだった。尚長門市のくだりの時、剛さんは戦治郎の方へ視線を向けていた
俺達のバスがアンダーゲートの駐車場に入ると、店内から店員が出て来てこちらへ向かって来た
「おっ店員さんがお出迎え……ってはぁっ!?」
その様子を見ていたシゲが急に声を上げて驚き、皆がシゲの視線の先を目で追うと愕然とし固まってしまう。当然の事ながら、俺も驚愕し動けなくなってしまった者の内の1人である
「いらっしゃいませ!ようこそおいでくださいました!」
こちらへお辞儀しながら対応する店員、それは店員としては問題ないのだ……。問題なのは店員の姿である……
「今からお席の方へご案内させて頂きますね、どうぞ付いて来て下さい!」
「いやごめん、ちょっち待って?これはどういう事?説明プリーズ」
俺達を案内する為に踵を返した店員に向かって戦治郎がそう言った
「どうかなさいましたか?」
戦治郎に対して、店員が不思議そうな顔をして尋ねる
「いやね?おっちゃんすっごく気になる事があってね?……何で君ここで飲食店の店員やってるの?君深海棲艦だよね?」
戦治郎が店員にそう尋ねる、そう、この店員は何処からどう見ても割烹着に身を包んだ深海棲艦の戦艦ル級だったのだ……
「厳密には転生個体なんですけどね」
店員ル級の言葉を聞いた俺達の周りに張り詰めた空気が……
「っと、それはそうと!さっき予約の電話をもらった時から皆それはもう張り切ってるんですよね~、ワンコさんが言ってた人が来るー!とか噂の『大和魂』が来るー!って!……まあ私もその中の1人なんですけどね……。実は今すっごく緊張してたりします……」
流れる事はなかった、目の前のル級の言葉を聞いて皆の気が抜けて呆気に取られてしまったのである
「ちょっち待って、今皆って言った?それにワンコさんの名前出した?ちょっちその辺詳しく教えてもらってもいい?」
すぐに我に返った戦治郎が店員ル級に尋ねる、流石戦治郎だな……、俺が気になっているところを聞いてくれている
「あれ?もしかしてここの事全然聞いてないんですか?」
店員ル級の言葉を肯定するように何度も首を縦に振る戦治郎、俺達はそのやり取りを静かに見守っていると……
「じゃあ簡単に説明しますね!ここ割烹アンダーゲートとヤマグチ水産は穏健派深海棲艦がオーストラリアの人達と友好関係を築く事と軍資金を稼ぐ事を目的として経営しているんです!特にアンダーゲートは世にも珍しい、スタッフ全員深海棲艦と言うとてもユニークな仕様になっています!」
店員ル級がとんでもない事を言った……、スタッフが全員深海棲艦だと……?そんな飲食店は世界中探してもここしかないと思うのは気のせいか……?
「っと、立ち話もなんですからお席の方へいきましょう。そのあたりの詳しい話は向こうでエリアマネージャーがやってくれると思いますので!」
そう言って店員ル級は再び踵を返し店の方へと歩き出し、俺達は困惑したままその背中を追うのだった……