俺達は店員ル級達によって部屋に運び込まれた本日のデザート、小豆餡がかけられたアイスクリームを楽しみながら話を続ける
「さて話の続きだけどよ、何で水産業の会社にしたんだ?怪しまれないようにしたかったら他の業種の方が良かったんじゃねぇか?」
「そこなんですけど~、これはリーダーさんの方針が関わってるんですよ~」
戦治郎の質問に対して夏姫がそう答える、確かオーストラリアの人々と友好関係を築きたいと言っていたのもリーダーだと言っていたな……。それとこれが一体どういう関係にあるのか是非聞かせてもらわないとだな……
「リーダーさん、世界中の皆さんが気軽に魚介類を食べられなくなっている現状をすっごく不憫に思ってたらしくてですね~、最初は世界中の人々に私達が獲って来た魚介類を無償で提供しようとしてたんですよ~。それを通じて穏健派深海棲艦の存在を世界中に知らせて、無益な戦いを減らそうとしてたそうなのですよ~」
「無償って……、そりゃ貰う側は嬉しいだろうがおめぇらの負担がでかくねぇか?」
戦治郎の言う通り、それでは穏健派側の旨味が薄過ぎる気がする……。確かに友好関係は築けるかもしれんが、穏健派の維持費に漁をする者に対しての褒賞としての手当等の出費に対して収入が0、どう足掻いても収支が真っ赤に染まってしまうのである
「ですね~、ですのでスウ様が止めに入ったんですよ~、穏健派の仲間達の方にも目を向けてあげてくれって感じで。実際その当時は穏健派には収入が無く、スウ様が貯蓄していた資金を切り崩して穏健派を維持していましたからね~」
よくやったスウとやら、穏健派の破滅はお前のおかげで回避されたのだ、この件については誇りに思い大いに胸を張って頂きたい
「それでどうしたものかと考えてる時に、哨戒に出てた娘達が孤島で瞑想していた社長を見つけて連れて来たんですよ~。そこからは本当に凄かったですね~、話を聞いた社長がネット環境と一つまみ程度の資金、それに人材をちょっとだけ貸してくれって言うものですから、スウ様が許可を出したところネットを使って株やFXを始めて最初に借りた資金を100倍?ん~……もっと多いですね、1000倍くらいですかね~?まあそのくらいすぐに稼いじゃったんですよね~」
戦治郎以外の全員が唖然とするしかなかった……、何と言う豪運の持ち主……、いや、もしかしたら市場の全てを把握していたのかもしれん……。そんな芸当が出来る人物、俺は1人しか知らんぞ……、伝言を聞いた時に立てた予想がこの話を聞いた瞬間確信に変わりつつあった……。戦治郎の方も社長の正体に気付いたようで頭を抱えていた……
「それで社長は借りたお金をスウ様に返してからヤマグチ水産を経営し始めたんですよ~、水産業にしたのはリーダーさんの世界中の人々に魚介類を提供してあげたいって思いを汲んだ形になるんじゃないですかね~?まあこれによって減る一方だった穏健派の収支は黒字になって、現在はオーストラリアだけですが皆さんに高級食材となってしまっていた魚介類を気軽に楽しめるようにしちゃったんですよ~」
水産業を選択した理由はそういう事だったか……、あの人の剛腕が一切衰えていなかった事と、あの人の心を動かしその思いを経営理念にまでさせてリーダーとやらの人柄に対して薄ら寒いものを感じた……。穏健派を敵に回さずに済んだのは本当に幸運だったのかもしれんな……
「それからアンダーゲートを使ってより魚介類を楽しめるようにすると同時に、軍資金稼ぎをスムーズにしたり、深海棲艦の印象操作したりしています~。そうでもしないと穏健派の存在を認知してもらった上で受け入れてもらうなんて難易度が高過ぎますからね~」
人類の敵がいきなり仲良くしましょうなどと言っても、そうすぐには信じてもらえないだろうし、そもそも深海棲艦に穏健派がいる事を知っている人間は一体どのくらい存在しているのだろうか……?そう考えると穏健派にとって、ヤマグチ水産とアンダーゲートは重要な施設になるのだろうな
「アンダーゲートを展開してからは、売上が凄い事になっているんですよね~。おかげで遠征の名目で漁をやっている人達や店員をやってる人達だけでなく、穏健派に所属してる人達全員にお給料を払っても余裕があるくらいになってるんですよ~」
それはまた凄い事になっているな……、確か穏健派は現存する勢力の中でもトップクラスの規模を誇る組織ではなかったか?そのメンバー全員に給料を払っても尚余裕があるとなると相当な額を稼いでいる事になるが……。……ダメだ、売上は気になるが聞くのが恐ろしい……
「お給料って……、貰ったところで何に使うんだ?つか使える場所があんのか?」
摩耶が夏姫にそう尋ねる、それについては少し予想が出来た……
「純正の深海棲艦の人達はあまりお金を使う事はないんですけど~、転生個体の人達は元が人間ですからね~、美味しいものが食べたいとかオシャレしたいとかでお金使いますからね~。使う場所についてですが~、大体休日に転生個体の人達が西部の都市に出かけたりしますよ~、アンダーゲートがある地域は私達が普通に出歩いても大丈夫な地域の目印って感じになってます~」
「このチェーン店、そんな意味もあったんですね……」
夏姫の言葉を聞いた阿武隈がそう呟く、やはりアンダーゲートがある地域=穏健派を認知してくれた地域となっていたか……
「あっ!」
皆が愕然とする中戦治郎が急に声を上げた、その様子を見ていると何だか慌てているようだが……、一体どうしたと言うのだ……?
「夏姫さんや、今回の食事代についてなんですけど……」
ああ……、そこか……。確かに宴会席でこれだけふぐを堪能した上にデザートまで出されたからな……、支払いをする戦治郎にとっては気になるところだろうな……
「それでしたら、店長さんから皆さんの来店記念と言う事で無料でいいと言われてますよ~」
いや、それは飲食店としてどうかと思うぞ……?俺がそう考えていると戦治郎も俺と同意見だったのか断固として支払いをする姿勢を示した為、夏姫が店長を呼び出して価格交渉を行った結果、店長が想定する今回のふぐ料理コースの価格の半額を支払う方向で話が付いたようだ。因みにこの交渉中に判明した事だが、ふぐを捌いたのはこの店長なのだそうだ
「夏姫さん、店長さん、今日は本当にありがとうございました!ふぐ料理、本当に美味しかったですよ」
「こちらこそ、今日はアンダーゲートにお越しいただき誠にありがとうございました~。皆さんがよければまた食べに来て下さいね~」
支払いを終え、店長に頼まれて色紙に寄せ書き型式で海賊団全員のサインを書いた後、俺達はわざわざ送迎の為に駐車場まで来てくれた夏姫と店長であるニ級後期型eliteに一言礼を言ってから次々とバスに乗り込んでいく。今挨拶をしている戦治郎が、最後に2人に向かって最敬礼である角度45度のお辞儀をしながら礼を述べ、それに対して夏姫が返礼していた
戦治郎がバスに乗り込んだところで光太郎がバスを発進させる、名残惜しさから後ろを見てみると2人は俺達に向けて手を振ってくれていた
「いや~、まさかオーストラリアでふぐが食えるとはな~!」
「またオーストラリアを訪れる事があったら、是非またここで食事を取りたいところですね」
ポートヘッドランドへ向かうバスの中ではアンダーゲートでの食事の感想で大いに盛り上がり、そのままの勢いで案の定第2回カラオケ大会が開かれ、英語教室での成果を試すかのように通と護が洋楽のロックバンドの楽曲を歌ったり、シゲとまさかの弥七が強き心と強き願いが重なる時無敵になると歌ったり、翔が尖ったナイフを突きつけられると歌っていた
個人的にはシゲと弥七の曲が心にクるものがあったな、こいつらが今まで歩んで来た道と曲の歌詞が重なる部分があるからな……
それからしばらくすると、どうやら目的地に着いたのかバスが停車する。ここからソロモンへ向かうのか……、道中で翔鶴と会う事が出来ればいいのだが……
俺はそんな事を考えながら艤装を展開し、海上へと降り立ち……
「おっし皆準備はいいな?んじゃあ長門屋海賊団、ソロモン諸島へ向けて抜錨だあああぁぁぁーーーっ!!!」
戦治郎の号令に合わせて、俺達は一斉にソロモンへ向けて移動を開始するのであった