先日、噂の真偽についての報告と大本営主力艦隊が提出したと言う報告書の写しの内容についての会議が開かれたのですが、そこでトラック泊地の提督から新たな問題が発生したと言う報告を受けたそうです
その内容はと言うと、遠征の為に出撃した6人の駆逐艦が何時まで経っても帰って来ないと言うものだったそうです
心配して通信を入れてみても反応が無かった為、深海棲艦の襲撃を受けて通信機が破損し、何処かに退避して救援を待っているのではないかと思い救援部隊を編成して周辺を捜索しても、その遠征部隊は一向に見つからなかったそうです
遠征中に深海棲艦に襲撃される事はこれまで幾度となくあったそうなのですが、今回のように捜索隊を出してもその姿を確認出来なかったのは初めてだとトラックの提督は言ったそうです
その報告を受けた強硬派に所属するラバウル基地の提督は、深海棲艦の襲撃を受けて6人全員が轟沈したのだろうと推測し、捜索を打ち切ってすぐにでも深海棲艦を殲滅するべきだと主張していたそうです
このラバウルの提督は、大本営主力艦隊の報告書を読もうが私達の報告を聞こうが穏健派だろうと強硬派だろうと関係なく、深海棲艦は全て滅ぼすべきだと主張するような武闘派な提督であると日向さんから聞きました
噂の真偽の調査に協力したのは、噂をそのままにしておくと基地の艦娘達の士気に関わると言う判断から、渋々ながら協力したんだそうです
そんなラバウルの提督を私達が所属するショートランド泊地のすぐ近くにあるブイン基地の提督が宥めながら、トラックの提督に捜索に協力する事を約束していたそうです。流石にラバウルの提督はこれ以上付き合っていられないと言って断ったそうですが……
そして私達の提督と言えば……
「まあ、こうなるな」
私の後ろを航行する日向さんがそう呟きます、今現在私達は行方不明となった艦娘達の捜索の為に泊地から出撃、コロンバンガラ島近辺を捜索する為にソロモン海を南下しているところでした
私達の提督もトラックの提督に協力する事にしたそうです、捜索に協力する主な理由については……
「捜索している途中で長門屋海賊団とやらに遭遇した場合、私達を助けてくれた礼がしたいからここに連れて来てくれ、か……。全く難しい事を言う提督だな……、そもそもトラックの艦娘の方がついでであって、提督の本命は海賊団の方だろうな……」
日向さんが私達が出撃する前に提督が言っていた事を口にします、そう、提督はトラックの件がなかったとしても長門屋海賊団を探す為に私達を出撃させるつもりだったんだそうです
流石に謎の深海棲艦を探すなどというのを大っぴらには出来ませんので、何かいい口実は無いかと考えているところに今回の艦娘行方不明事件が発生したので、これはいい隠れ蓑になると言う事で艦娘達の捜索に協力する事にしたそうです
「長門屋海賊団か~……、その中に夜戦が得意な人はいるかな~?もしいたら是非私と夜戦して欲しいな~!」
日向さんの言葉を聞いた随伴艦の川内さんがそう言います、川内さんの夜戦好きはよく知っていますが、流石にあの艦隊に夜戦を挑むのは少々無謀な気がします……
「川内さん!その時は江風もお供しますぜっ!」
「江風だけズルいっぽい!夕立もご一緒したいっぽいっ!」
川内さんの話を聞いた駆逐艦の江風さんと夕立さんが参加表明しますが、それでも焼け石に水な気が……
「翔鶴、難しい顔をしてるけど……、考え事?」
「雲龍さん……、いえ、大した事ではありませんので……」
不意に雲龍さんに声をかけられました、どうやら考え事をしているのが表情に出ていたようです……、取り敢えず雲龍さんには心配ないと伝えると、雲龍さんはそう……、と短く返してそれ以上私の考え事について尋ねて来る事はありませんでした
私が今考えている事、それはあの時私を助けてくれた空母棲姫の事でした
何故あの空母棲姫は私の顔を見てあんなにも驚いていたのでしょうか……?
報告書の写しの内容から、長門屋海賊団は人類に友好的な深海棲艦だと言うのが分かりました、しかしいくら友好的だとしても所詮は深海棲艦なので艦娘に対して特別な思い入れなどがあるとは到底考えにくい……。なのに長門屋海賊団のメンバーと思われるあの空母棲姫は私の顔を見て凄く驚いていた……、これは一体どういう事なのでしょうか……?
私がそんな事を考えていると、川内さん、夕立さん、江風さんの目つきが急に険しくなり、装備しているソナーに手を当て注意深く辺りを警戒し始めました
「ソナーに感あり!近くに何かが潜んでるみたい!」
川内さんが叫ぶようにして私達に警戒するようにと促し、それを聞いた日向さんも急いで水上機を発艦させて周囲を警戒します
「ン?……っ!?海中から何かが急浮上してくるぜ!」
江風さんの言葉を聞いた私達はより警戒を強め、私と雲龍さんはすぐに艦載機を飛ばせるように準備します
「来るっぽいっ!!!」
夕立さんがそう叫ぶと同時に、その何かが海中から飛び出し姿を現しました。それを見た私達はしばらくの間愕然としたまま固まってしまいました……。海中から飛び出して来たもの……、それは……
左右の手それぞれにメバチマグロを持った空母棲姫でした……
「ふっ!」
まるでイルカのジャンプのような美しいフォームで海上に飛び出した空母棲姫は、短い気合の声と共に海面に着地、その手に握ったマグロを見て1度だけ小さく頷き……
「あ……」
私達の存在に気付いたのかこちらへ視線向けて来た空母棲姫と目が合ってしまいました……、すると空母棲姫は一瞬目を見開いた後、何処からか取り出したロープを使ってイソイソと自分の腰にマグロの尾を括り始めました。この空母棲姫は何をしているのでしょうか……?
ビチビチと元気よく暴れ回るマグロに苦戦しながらも、何とか2匹共腰に括り終えた空母棲姫はまたも小さく頷いて……
「……夕立の姉貴、あいつ一体何やってンだ?」
「夕立にも分からないっぽい……」
陸上の短距離走者のようにクラウチングスタートの姿勢に入った空母棲姫を眺めながら、江風さんと夕立さんがそんなやり取りをしていました。恐らくここにいる全員があの空母棲姫の行動を理解出来ていないと思います……。そして……
「うわっ!こっち来た!マグロをビッタンビッタンさせながらこっち来た!」
川内さんが言うように、空母棲姫は腰にマグロを括りつけたままこちらへ向かって物凄い速度で突っ込んで来たのです。腰のマグロが何とかロープから逃れようともがくせいでマグロが海面に何度も頭を叩きつけられているように見えるので、川内さんはこう言ったみたいですね……
「ちょっ!?こっちくンなぁぁぁーーーっ!!!」
「ぽぃいいいぃぃぃっ!!!」
その様子を見ていた駆逐艦の2人が、理解し難いものへの恐怖のせいで混乱して空母棲姫へ砲撃、更に魚雷まで発射し始め……
「稼働全機、発艦始め!」
同じく得体の知れない存在を排除しようと、雲龍さんが艦載機を発艦させてしまいました
「日向さん!あれ何?!何でマグロを腰に括り付けてこっちに向かってくるのっ!?」
「マグロは分からん!だが、あの装備を見る限りあの空母棲姫は翔鶴を助けた空母棲姫と同一の存在のはずだ……」
「皆さん!攻撃を中止して下さい!!お願いですから攻撃を中止して下さい!!!」
混乱した川内さんが日向さんにあの空母棲姫の事を尋ね、日向さんがあの空母棲姫が私を助けてくれた空母棲姫だと言い、私は慌てて皆さんを止めに入るのでした
肝心の空母棲姫はと言うと、放たれた砲弾と魚雷、そして艦載機からの爆撃を全て最小限の動きで躱しながら速度を落とす事無くこちらへ向かって来ています。そして……
「って!翔鶴さん危ないっ!!!」
空母棲姫の狙いが私であると気付いた川内さんが叫びますが、既に空母棲姫は私のすぐ傍まで迫って来ていたのでここから回避するのは不可能と判断し、私は空母棲姫との衝突を覚悟して衝撃に備えるのでした……
確かこの空母棲姫は体術を得意としていたはず……、ならば激突した時の衝撃も凄まじいものになるのでは……?そう考えると覚悟を決めたとは言え恐ろしくなってきて、思わず目を強く閉じてしまいます
しかし、いくら待っても衝撃が来る事は無く、どうしたのかと思い目を恐る恐る開いてみると、空母棲姫は私の目の前で片膝を突いた姿勢で停止して……
「貴女を一目見た瞬間、俺の全てが貴女に奪われてしまいました。どうか結婚を前提にお付き合いして頂けませんか?」
空母棲姫はそう言って、まるで繊細なガラス細工にでも触るかのように優しく丁寧に私の左手を取り、その手の甲へキスをするのでした……
ちょっと待って!?結婚?!私と!!?本当にちょっと待って下さい!?!私達は女性同士ですよ?!!いえ、その前に私は人間で貴女は深海棲艦じゃないですかっ??!本当にこの空母棲姫は何を言い出すんですかっ?!?
余りの出来事に混乱する私、そして私の返事を待っているのか私の手を取ったままの姿勢でキラキラと輝く瞳を私へと向けて来る空母棲姫……
川内さん、夕立さん、江風さんが呆然とその様子を眺めている中、雲龍さんは手に持った錫杖で、日向さんは拳骨でこの空母棲姫の頭を思いっきり叩いていました……
「……解せぬ」
2人に頭を叩かれた空母棲姫がそんな事を言っていましたが、私達の方こそ貴女の行動の意図が全く理解出来ないのですが……