「ふんっ!」
気合いの掛け声と共に撃ち出された正拳は、空さんの眼前に立ち塞がる戦艦ル級eliteの装甲を易々と貫き、それの直撃を受けた戦艦ル級eliteはその場で倒れ込み静かに海の中へと姿を消してしまいました
空さんの攻撃はそれだけでは終わらず、そのすぐ傍にいた駆逐艦に回し蹴りを放って蹴り飛ばし、空母ヲ級eliteの飛行甲板になっている帽子の中に駆逐艦を叩き込んだのでした
無理矢理駆逐艦を口の中に叩き込まれた為、オエオエとえずく帽子と叩き込まれた駆逐艦を何とかして取り除こうと奮闘するヲ級elite、しかしその隙を空さんが見逃すわけもなく、空さんは艤装を遠隔操作してヲ級eliteに突撃させて、ヲ級eliteの腰の骨を完全に破壊してしまうのでした
「強ぇ……、あれが長門屋海賊団のサブリーダーの実力って奴かよ……」
「空さんすっごくカッコイイっぽい!夕立もあんな風に強くなりたいっぽい!」
空さんの戦いを見て、江風さんはただただ驚愕し、夕立さんは大はしゃぎしていました
「凄いのは彼だけじゃない……」
雲龍さんがそう言って、空を見上げると……
「ニャニャニャニャニャーッ!!!」
「逃げる奴はただの艦載機だミー!逃げない奴はよく訓練された艦載機だミー!ホント航空戦は地獄だミー!ミャーハッハッハァーっ!!!」
そこでは空さんの艦載機であるワイルドちゃんとベアちゃんが、次々と深海棲艦の艦載機を撃ち落とし……
「その綺麗な船体を吹っ飛ばしてやるミャーッ!!!」
「死ねよニーーーッ!!!」
ヘルちゃんとタイガーちゃんが片っ端から相手に雷撃と爆撃を叩き込み、見る見る内に相手を海の藻屑へと変えていたのでした……
「たった1人で24隻もいた深海棲艦の艦隊を瞬く間に半壊させるとは……、長門屋海賊団のサブリーダーは伊達ではないという事か……」
感心したように頷きながら日向さんがそう呟きます
「空さん自身は格闘戦が得意だから夜戦も問題なくやれて、艦載機も元は皆猫だから夜間飛行もお手の物……、ん~!益々空さんと夜戦してみたくなっちゃった!早く夜にならないかな~!」
その傍らで川内さんがそんな事を言っています、空さんの実力を目の当たりにしてもブレない川内さんがちょっとだけ羨ましいような……、恐ろしいような……
「終わったぞ、それで日向、これで俺の事は信じてもらえるか?」
私がそんな事を考えていると、先程まで戦闘していた空さんが艤装に乗って私達のところに戻ってきました。本当に短い時間であれだけの敵を殲滅してしまうなんて……、石川 空、なんて恐ろしい人なのでしょう……
「ああ、お前が言っていた事は信じるし、お前の実力も認めよう」
日向さんがそう言うと、空さんはうむと短く返事をしながら1度だけ頷きます。一体何がどうなってこんな事になっているかについては少しだけ時間を遡ります……
突如として出現した謎の多い空母棲姫は、現在日向さんと雲龍さんの前で正座しています
「君、名前は?」
「石川 空だ」
日向さんの質問に対して、不機嫌そうに答える石川 空と名乗る空母棲姫。告白を邪魔された事がよっぽど気に入らなかったのでしょう……
「深海棲艦にも名前はあるのね……、それにしても日本人みたいな名前……」
「名前があるのは基本転生個体だけだろうな、通常個体の方は転生個体に名付けられない限り名無しのままだと思うぞ。そして先程雲龍が日本人のような名前と言ったが、俺は生前はれっきとした日本人男性だ」
空と名乗る空母棲姫が、雲龍さんの呟きに対して私達の予想の遥か上を行く答えを返して来ました……。転生個体と言えば報告書に書いてあったあの変わり種の深海棲艦の事だったはず……
「ほう……、そのあたりの事情に詳しいようだな、少し話を聞かせてもらおうか」
「む?転生個体云々の事についてか?それについては長門達の報告書の写しが各鎮守府や泊地、基地などに送られているはずだが……」
日向さんがこの空母棲姫に質問しようとしたところ、空母棲姫が不思議そうな顔をしながらそう言いました。この空母棲姫は報告書の写しの事を知っている……?!一体どうやってこの事を知ったのでしょう……?まさか日本海軍の情報が深海棲艦に漏洩している……?
「何故それを知っている?」
「長門達と話し合って決めた事だ、日本海軍は穏健派の事も転生個体の事も知らないようだったからな、穏健派の存在と転生個体の脅威性を伝える為にこのような方法をとってもらったのだ。それにその報告書の添削には俺達も関わっているぞ」
情報の漏洩どころかこの空母棲姫とその仲間が情報の出処だったとは……、それなら知っていてもおかしくはない……、いや、それは不味いのではないでしょうか?あの報告書の内容について関わっているのなら、あの報告書は深海棲艦による情報操作と言う事に……
「ちょっと待って!報告書って何?私達はそんなの知らないよ?それ以前に転生個体って何なの?」
私がそんな事を考えていると、川内さんが話に割って入って来ました。そう言えばあの報告書を見たのは私と日向さんだけでしたね……
「川内さん、報告書の事なのですが……」
私はそう言って報告書の写しの事を皆さんに伝えます、ところどころで空母棲姫が補足を入れたり修正を入れたりする事でその内容はより分かり易いものとなり、皆さんにもしっかりとその内容を理解してもらう事が出来ました
「私が聞こうとしていた事を全て言われてしまったな……」
日向さんがそんな事を呟きます、どうやら日向さんはあの報告書の内容でよく分からなかった部分について尋ねようとしていたようです
「補足や修正なんかも的確……、まるでその報告書の内容を全て記憶してるみたい……」
「他のメンバーはどうか分からんが、俺は添削する前の内容も全員分暗記しているぞ」
雲龍さんの呟きに対してそう返す空さん、全てを暗記しているって……、とても普通の人間には真似出来ないような芸当だと思うのですが……
「報告書の内容を全て覚えてるって凄いっぽい!それって夕立も頑張れば出来るようになるっぽい?」
「やめておけ、これは俺の生まれつきの病気からくるものだからな。普通の人間がやると頭がおかしくなってしまうぞ」
夕立さんが空さんの記憶力について尋ねたところ、空さんはそう言って夕立さんを止めるのでした。生まれつきの病気と言う部分が少々引っかかりますが……、今は気にしないでおく事にしましょう
「しかし、こンな奴が提督が言ってた長門屋海賊団のメンバーだなンてなぁ……」
江風さんがふとそう呟きます、報告書には凄い人達だと書かれていましたが空さんの今までの行動を見る限り、それも疑わしくなってきました。ですから江風さんがそう呟くのも仕方がない事だと思います……
「俺は海賊団のサブリーダーなのだがな」
空さんの言葉を聞いて皆さんが一斉に固まります、この人がサブリーダーなんですかっ!?まさか海賊団はこんな人の集まりだったりしませんよね……?提督は泊地に連れて来いと言っていましたが、こんな人達をそう簡単に泊地に入れていいのでしょうか……?正直不安しかありません……
「……どうやら信じてもらえていないようだな」
「そうだな……、今までの行動を顧みても君が信用に値する人物かどうかを判断出来んからな……、さっきまでの話も君が海賊団のNo.2であると言うのも、正直まだ疑っている……」
日向さんがそう言うと、空さんは曲げた人差し指と親指で顎をつまむような仕草をしながら考え込み始めました。どうやったら私達に自分の話を信じてもらえるのかを考えているのでしょうか?
そんな事をしていると、私が飛ばしていた哨戒機から通信が入ります。それと同じタイミングで空さんも自分の耳に手を当てていました、恐らく空さんが飛ばしていた艦載機にも通信が入ったのでしょう
私はその通信の内容を聞いて、驚愕の表情を浮かべながら皆さんにその内容を伝えます
「深海棲艦の艦隊がこちらに向かって来ているそうです!その数24隻!」
「何っ!?24隻もいるのかっ?!」
「流石に分が悪すぎる……、日向、ここは退きましょう……?」
日向さんが相手の数に驚き、雲龍さんが撤退を進言します。このまま戦えば私達は相手の数に押し潰されて無事では済まない……、最悪沈む人も出てしまうかもしれない……、そうなるくらいなら雲龍さんが言うように撤退するべきでしょう……
「ふむ、24か……。日向、ちょっといいだろうか」
私達のやり取りを聞いていた空さんが、不意に私達に話しかけてきました
「こんな時に何だ?」
状況が状況の為、少々苛立ちながら日向さんが空さんに聞き返します
「その艦隊を俺1人で殲滅する事が出来たら、俺の話を信じてもらえないか?」
空さんがとんでもない事を言い出します、1人であの数を相手にすると言うのですか?!それも殲滅って、全て撃沈するって事ですよね!?本当に何を言い出すんですかこの人はっ!!?
「……正気か?」
「フェロー諸島での決戦と比べれば容易いものだ、それで、返答は?」
「そこまで言うならやってもらおうか、当然ながら私達は手出ししない、それでいいならその提案に乗ろうではないか」
「決まりだな、敵艦載機含めて1匹も通さずに終わらせてやろう」
このやり取りの後、空さんは単騎で敵艦隊に乗り込み、宣言通り艦載機1機すら私達のところへ向かわせる事無く戦いに勝利してしまったのでした
「転生個体とやらがどれほど恐ろしいものなのか……、この目でしっかりと確かめさせてもらったぞ」
「それが分かってもらえただけでも十分だな」
日向さんの言葉に空さんがそう返し、日向さんに向けて手を差し伸べていました。空さんに手を差し伸べられた日向さんはその手をしっかりと握り、空さんと固い握手を交わしていました
「そう言えばさ……」
そんな中、川内さんが何かを思い出したかのように空さんに話しかけます
「空さんは何でこんなところに独りでいるの?空さんの仲間は何処にいるの?」
「俺がここにいる理由か、それは仲間の1人がこの間オーストラリアで食べたふぐ料理に触発されて何か魚料理を作りたくなったと言う事でな、会議の結果ふぐに対抗するならマグロと言う事になって俺がそのマグロを調達することになったのだ。丁度この辺りにはキハダマグロとメバチマグロの漁場があるからな、俺ならすぐ行ってすぐ戻れるからと言う理由でマグロ調達係を任されたのだ。他の連中はロッセル島で俺がマグロを獲って来るのを待っているだろう」
……色々とツッコミどころがありますが、今はそっとしておきましょう……
「さて、俺がここにいる理由は話したわけだが、今度はお前達がここにいる理由を尋ねるとしよう。一体何があった?通常の遠征でこのような艦隊を編成するとは思えんからな」
「ふむ、それはだな……」
「待って下さい!日向さん、この人に任務の事を話すのですか?」
「そのつもりだ、彼の話を聞く限り転生個体がこのあたりをウロウロしている可能性もあるし、先程のような艦隊とまた出くわす可能性もある。何より私達の本来の任務は彼らを泊地に連れて行く事、違うか?」
日向さんが小声でそう返してきました、どうやら日向さんは空さんを泊地に連れて行く為の流れを作ろうとしているみたいです。確かに提督は長門屋海賊団の方をお連れしろとは言っていましたが……、正直人間性の部分ではまだ完全に信用しきれていないんですよね……
「話しにくい事なのか?」
「いや、そういう訳ではない、気にしないでくれ」
そう言って日向さんはこちらの事情を空さんに話し始めるのでした……
「そういう事か……、分かった、俺もその話は気になるからな、情報収集する為に同行させてもらおう」
日向さんの話を聞いた空さんは、自分達もその事件の情報が欲しいと言う事で同行して下さる事になりました
「あの、仲間の方に連絡しなくてもいいのですか……?」
「マグロ漁に苦戦していたとでも言っておけば問題ないはずだ、それにこの事件には転生個体が関わっている可能性が高いからな。ある程度遠征をこなして襲撃時の対応などをしっかり把握しているであろう駆逐艦達が、一斉に消息不明になると言うのは異常と言えるだろうからな……。こういった今まででは有り得ない事が起こった時は大体奴らが絡んでいる事が多い、そんなところに翔鶴達をこのまま向かわせるのは危険だと判断した。取り敢えずこんなところだが、まだ理由が必要か?」
私がそう尋ねると、腰に括り付けていたマグロを艤装の中に収納しながら、空さんがそんな事を言いました。もし空さんが言う通り、この行方不明事件に空さんのような強力な転生個体が関わっていた場合、私達は成す術も無く沈められてしまうかもしれない……。そう考えると空さんの同行は非常に助かるのではなかろうか、私は自分にそう言い聞かせ納得する事にしました
「よし、準備はいいな?では行くぞ」
日向さんの号令と共に、私達は空さんと共にコロンバンガラ島付近の捜索の為に再び移動を開始するのでした