「皆ごめんなさい、急に取り乱しちゃって……」
ようやく落ち着いた剛さんがそう言って頭を下げる、それを聞いた俺達は気にしていない、だから気にしないで欲しいと口々に言う。もし俺が剛さんと同じ立場であったなら、間違いなく同じようになる自信があるからな……
元々は剛さんと同期の軍人で、アリーさんとの結婚について安心して相談出来るほど信頼する友人、そんな友人が妻であるアリーさんが立ち上げたテロ組織によって暗殺された……
きっとリチャードさんは自身を暗殺したのが誰なのかを知らないはず……、そんな彼に真実を伝えた時、果たしてリチャードさんは剛さんの事をどう思うのか……、それを知るのがとても恐ろしく、そして自分の妻がやらかしてしまった事をどう償えばいいのか分からなくて、その結果あんな事になってしまったのであろうと想像する
「さて、何時までもここで立ち話をするのもどうかと思うから、そろそろ拠点に向かおうじゃないか」
海賊団の面々が剛さんの心境を考え、俯いて沈黙しているところに大統領がそう提案してきた。俺達はその提案を受け入れて島の方へと移動を開始したのだった
「何か最初見た時レッツパーティー!とか叫んでたから、この人も旦那達と似たような人なのかと思ったんだけどよ~、話してみると全然普通だな」
「おいコラ摩耶!大統領に向かってそんな口の利き方があるかっ!」
移動中に摩耶がふと思った事を口にする、戦治郎がその口の利き方について注意するのだが
「いや、僕は全く気にしてないから大丈夫だよ。むしろいつも通りの話し方をしてくれた方が僕としては嬉しいかな?大体僕はもう大統領ではないからね」
そう言って摩耶を叱りつける戦治郎を宥める大統領……、いや、ここからは彼の希望通りリチャードさんと呼ぶとしよう
「でも貴方、今は穏健派のトップの1人でしょ?」
リチャードさんの言葉を聞いた剛さんがそう言うと、リチャードさんは痛いところを突かれたとばかりに苦笑いを浮かべる
「……そういや護、おめぇリチャードさんの事あんた呼ばわりしてたよな……?」
「あっあっあっ……」
ふと思い出したように戦治郎が呟き、それを聞いた護が顔を真っ青にする。その直後戦治郎が護に飛び掛かり2人で一緒にリチャードさんに向けて、横スライド移動土下座しながら謝罪するのであった
「ハハハッ!君達は本当に面白いねっ!っとそう言えばあの叫びの事なんだけど……」
2人の姿を見て笑うリチャードさんが、ふと思い出したように最初の叫びの事について話し始めた
「あれはね、技術班が付けたメタルウルフの安全装置を解除する為のものなんだよ。僕があのセリフを叫ぶ事で、安全装置が音声を認識してセーフティーモードから戦闘モードに切り替わるようになっているんだ」
そう言う事だったのか……、しかし音声入力式か……、ここの技術班は中々面白い物を作るのだな
「技術班が僕にあのセリフを叫ばせたいが為にそんな仕様にしたんだと思うんだけどね、まあそんな僕も元ネタは知ってるからノリノリで叫ばせてもらってるけどね☆」
悪戯っぽくそんな事を言うリチャードさん、まさか元ネタを知っているとは……
「大統領と言う仕事の都合で公に出来なかったけど、これでも僕はゲームが好きなんだよ。特にアーマードコアみたいなのはやってて気持ちがいいから大好きだったよ」
それを聞いた護がピクリと反応し、他のメンバーは意外そうな顔でリチャードさんの顔を見る。確かにそんな趣味があると世間に知れたら一部の層には支持されそうだが、一般層には変な噂を流されて悪評を付けられかねないからな……、こればかりは致し方無しと言えるだろう
「つか、さっき元ネタ知ってるって言ってましたけど、メタルウルフカオスって発売されたの日本だけでしたよね……?何でリチャードさんが知ってるんですか?」
「いや~、部下にお願いしてコッソリ買って来てもらったんだよ。そのついでに『ハグルマ工務店』のゲームもね」
シゲがリチャードさんにメタルウルフカオスを何処で知ったのかを尋ねたところ、全くの予想外の返答が返って来る。それを聞いた護が今度は大きくビクリと身体を震わせるのだった
「ハグルマ工務店……?何故工務店がゲームを出しているのでしょう……?」
「ああ、ハグルマ工務店と言うのはロボットアクション系の同人ゲームを作っているサークルの名前でね、僕はそこのファンなんだよ」
ハグルマ工務店に疑問を抱いた姉様に対して、リチャードさんがハグルマ工務店について簡単に説明する。それを横で聞いていた護がプルプルと震えだす……
「ぐ、具体的にどんなところが好きでファンになったんッスか……?」
「やっぱり戦闘だね、メカのデザインや背景、オブジェの出来も凄いけど、派手な演出と思った通りに動かせる操作性から来る爽快感が本当に魅力的でね。ただまあシナリオと音楽はもうちょっと頑張って欲しいかな?とは思うね」
む、護の振動が若干弱まったな……、まあこのあたりはいつも指摘されているからな……
「護さん、どうしたんですか?何か震えてるみたいですけど……」
阿武隈が護の様子がおかしい事に気付き、心配して声を掛けるのだが……
「どいつもこいつもシナリオシナリオ音楽音楽……、自分だって慣れない作業を頑張ってやってるんッスよ……?そういうの得意な人雇えるなら雇うッスよ……?でもそういう人が身近にいないから出来ないんッスよ……?一体どうしろって言うんッスか……」
阿武隈の声が聞こえていないのか、護はブツブツと愚痴を零し続ける……
「彼は一体どうしたんだい?もしかして調子が悪かったのかい?」
「いえ、いつもの事なんで気にしないで下さい」
「新作を出す度に言われてる事なのだがな……、いい加減慣れればいいものを……」
護の様子を見て不思議に思うリチャードさんに戦治郎がそう返し、俺はやれやれとばかりに首を振りそう呟く
「ちょい待ち、新作を出す度ってどういう事や?」
俺の呟きを聞いた龍驤がそう尋ねる、むぅ……、聞かれていたか……、不覚……
「あ~……、うん、そのな……、ハグルマ工務店ってサークルなんだけどよ、護がそのサークルの代表なんだわ。んで俺と空はサークルメンバー」
「何だってっ!!!それは本当なのかいっ!!?」
戦治郎の言葉を聞いたリチャードさんが驚愕しながら尋ねて来た
「ええ、俺と空もこいつのゲームのファンだったんですけどね、こいつが金になるバイト探してるって言うものだからウチでバイトとして雇って働いてもらってたら、気付いた時には住み込みの正規雇用になってたんですわ。んでこいつが自室で作品作ってるの見て作業を手伝ったところ、俺達は護に頼まれてサークルメンバーになったんです」
懐かしい話だな……、戦治郎がメカデザインを担当し、俺が背景やオブジェなどを担当したところ人気が急上昇して、サークルメンバーになって欲しいと頼まれたんだったか……
「これは朗報だっ!こちらの世界でもハグルマ作品が楽しめるようになるなんて!」
戦治郎の話を聞いたリチャードさんは、子供のように大はしゃぎして喜んでいる。どうやらこちらでもハグルマ工務店として活動しなければならなくなったな……、まあ楽しいから別に構わないのだがな
「こうしちゃいられない!技術班の皆のも早くこの事を伝えてあげないとだなっ!」
そう言って航行速度を上げるリチャードさん、この様子だと件の技術班の中にも俺達のファンがいるようだな、ならば尚の事頑張らないといけないな
俺達はそんなリチャードさんの背中を追うように、速度を上げて島の方へと進むのであった