※この作品はR-18です。

鬼の鎮守府   作:稲荷童子

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鶴と龍と食人鬼

それは私達がショートランド泊地近海を哨戒していた時でした

 

いくら常軌を逸脱した化物がこの辺りを徘徊しているからと言って、危険だからと艦娘達による近辺の哨戒任務を一時的に中止させるわけにもいかない為、提督は苦虫を噛み潰したような表情をしながら私達に哨戒任務の指令を命じられました

 

いつもなら哨戒任務は軽巡の娘と駆逐艦の娘が担当するのですが、もし例の化物の襲撃を受けた際、軽巡と駆逐艦だけでは太刀打ち出来ないだろうと言う提督の判断で、私、川内さん、時雨さん、夕立さん、江風さん、そして戦艦艦娘の娘1人の6人編成で哨戒任務に当たる事になったのでした

 

そして私達は覚悟を決めて出撃し任務に当たるのですが、その時は空さんが言う強硬派の深海棲艦も出る事無く順調に任務をこなす事が出来ました。それからすぐに帰投する事になり、泊地に向かうその道中で戦艦の娘がとんだ肩透かしを食らったなどと言ったその時です……

 

『見つけた見つけた、銀髪の女、ようやく見つけたぜぇ~……』

 

不意に流暢な英語で誰かがそのような事を言ったのでした……

 

それを聞いた皆さんは一斉に臨戦態勢に入り周囲を警戒し始めますが、その言葉の内容を理解出来た私は、独り背筋にゾクリと冷たいものを感じるのでした……。この声の主は、私を狙っている……?

 

そんな事を考えていると背後から禍々しい気配を感じて、私はすぐさま後ろを振り返りました。すると海の中から1隻の軽母ヌ級……、いえ、軽母ヌ級改flagshipが姿を現すのでした

 

「何でこんな奴がこんなところにいるのっ?!」

 

本来このようなところで見かけるはずのない改flagshipの個体を見た戦艦艦娘の娘が、有り得ないとばかりに驚きの声を上げ

 

「川内さん?それに夕立と江風も……、一体どうしたんだい?」

 

この改ヌ級の姿を見るなり、急に敵意を剥き出しにする3人に時雨さんが問い掛けます

 

「川内さン……、こいつが例の奴みたいですね……」

 

「現場を見てない2人にも分かっちゃうか……、江風の言う通り恐らくこいつがあの事件の犯人だと思う……」

 

「あの島からこいつと同じ匂いがプンプンしてたっぽい!きっとこいつが皆が言ってる悪い奴っぽい!」

 

時雨さんの問いを無視して、3人は真剣な表情でこのようなやり取りを交わしていました。やはりこの3人は気付きましたか……、駆逐艦の2人は目隠しされて現場を直接見ていないでしょうが、あの現場に漂う淀み切った瘴気のような空気に触れたとなれば、嫌でも気付いてしまうでしょうね……

 

「皆さん!すぐに撤退しましょうっ!」

 

「えぇっ!?改flagshipとは言えたった1隻じゃないですかっ!こんなの6人で相手したら何とかなるでしょうっ?!」

 

私がすぐに撤退指示を出した事に対して、戦艦艦娘の娘が異論を挟みます。この娘は空さんの戦いぶりを見ていないから、転生個体の恐ろしさが分からないのでしょうね……

 

「時雨の姉貴!すぐに逃げるぞっ!」「ぽいっ!」

 

「えっ!?2人共急にどうしたんだいっ?!いつもなら揃って相手に向かって行くのにっ!??」

 

「それだけヤバい相手だって事っ!だからここは素直に撤退するよっ!!!」

 

江風さんと夕立さんは時雨さんを両サイドから抱えながら、ヌ級に背を向けて撤退を開始し、2人の行動に疑問を抱く時雨さんに川内さんがそう言い聞かせていました

 

『アッハッハァッ!!!こっちに背中向けちゃって……、まさか逃げる気か?』

 

そんな私達を見て、そんな事を言いながら膝を叩いて大笑いするヌ級。その笑い声が非常に癪に障るのですが、その気配から実力の差は歴然としていますからと自分に言い聞かせて、その声を無視して私達は撤退を開始しますが……

 

『させるわけねぇじゃん、バ~カ』

 

ヌ級は笑うのを急に止めたかと思えば、そのような事を言って艦載機を発艦させてきました

 

「皆さん!対空射撃っ!!!」

 

それにいち早く気付いた私は、皆さんにすぐにその艦載機を迎え撃つように指示を飛ばすのですが……

 

「なンじゃこりゃぁっ!?」「ぽいぃっ!?全然当たらないっぽいっ!?」「何て動きをするんだ、あの艦載機は……っ!!?」「何であんなに機敏に動けるのっ!?弾と弾の間を縫うように飛ぶって有り得ないってっ?!」

 

ヌ級が放った艦載機は、機敏な動きで私達の対空射撃や戦闘機を翻弄した後、まるで獰猛な獣のように襲い掛かり……

 

「うがぁっ!」「あぅっ!」「くぅっ!」「きゃぁっ!」「痛ぅ……っ!」「うぁっ!!」

 

私達を一方的に蹂躙し、時雨さんと川内さんを中破、夕立さんと江風さん、そして私を大破に追い込むのでした

 

『飯の分際で小賢しい真似してんじゃねぇよ、っといい具合に銀髪も動けねぇみてぇだし、ここいらで晩飯にするとしますかねっと』

 

そう言ってこちらへ向かって舌なめずりしながら近寄って来るヌ級、何とかこの場から逃げようとしても艤装が動いてくれない……、このままでは私だけでなくこの娘達も危ない……っ!

 

そう思った時でした、ヌ級の頭部に砲弾が直撃し炸裂しました。一体誰が……?まさか誰かが助けに来てくれたのでしょうか……?

 

そう思い砲弾が飛んできた方角を見ると、戦艦艦娘の娘の艤装から濛々と煙が立ち上っていました。その姿を見る限り小破と言ったところでしょうか、あの艦載機による激しい攻撃を受けて小破で済むあたり流石は戦艦の艦娘だと思うのですが……

 

『お前、今何しやがった?まさか俺の飯の邪魔するつもりか?えぇ?』

 

「何言ってるか分からないけど、これ以上勝手な真似させないっ!」

 

彼女はそう言って更にヌ級を狙って砲撃をするのですが……

 

「えっ!?嘘っ?!消えたっ!!?」

 

彼女の視界から急にヌ級が消えたらしく、彼女は慌てて消えたヌ級を探して周囲を見回していたのですが……

 

「う"ぐっ!?」

 

『遅ぇんだよノロマ』

 

腹部に走った衝撃に耐えきれずそのような声を漏らす戦艦艦娘の娘、彼女が視線を自身の腹部に向けるとそこには例のヌ級がおり……

 

『ったく、俺は好きなものから喰う主義なんだけどなぁ……、まあたまには前菜からってのもいいか』

 

そんな事を言いながら、彼女の腹部から引き抜いた内臓をモッチャモッチャと不愉快な音を立てながら咀嚼し、それを飲み込んでしまいました……

 

このヌ級は戦艦艦娘の懐まで一気に詰め寄り、一瞬の内にその艦娘の腹部に手を突き刺して内臓を引きずり出して食べてしまったのです……。彼女の視界からヌ級が消えたように見えたのは、恐らくヌ級の速度に彼女の目が追い付かなかったからでしょう……。傍から見ていた私達にはヌ級の動きがよく見えていたのですが、それを彼女に伝える前に彼女はヌ級の攻撃を受けてしまったのです……

 

「あ"……、あ"……?」

 

彼女は何かを告げようとするも、それを言葉としてまともに発する事も叶わず、力尽きて崩れ落ちるように倒れ……

 

『おっと』

 

そうになったところをヌ級に抱き留められた後、艤装を強引に引き千切られたかと思えば、そのまま口の中に放り込まれグチャグチャと音を立てながら咀嚼されてしまうのでした……

 

『おっし前菜も食った事だし、メインディッシュといきますか!』

 

ヌ級は戦艦艦娘だったものを飲み込んだ後、そう言ってその血塗れになった巨大な口を大きく開きながら、私の方へとゆっくり歩み寄って来るのでした……

 

「「「「翔鶴さんっ!!!」」」」

 

ヌ級の動きを見た皆さんが、ヌ級の狙いが私である事に気付き一斉に私に呼びかけますが、ヌ級が食事する姿をしっかりと見せつけられたせいで、私の身体は恐怖で竦み上がってしまってピクリとも動かせなくなってしまいました。それを見た川内さん達が何とか身体を動かそうとしているようですが、彼女達も私と同じように身体が思うように動かなくなっているようです

 

艦娘になった時、いつか私も沈む日が来るだろうと覚悟はしていたつもりです……、ですがこのような化物に骨も残さず食べられるなんて最期だけは絶対に許容出来ません……っ!ですがもう身体も艤装も動いてくれません、絶体絶命と言うのはこの事なのでしょうね……

 

そんな事を考えていると、私の頭の中に空さんが私に告白してくるシーンが思い浮かびました。私は最初は告白して来た空さんが深海棲艦である事や身体が同性である事にとても混乱してしまいましたが、包み隠さず純粋な想いをまっすぐにぶつけてくれたのは本当に嬉しかったのが本音です

 

もっと色々とお話がしたかった……、もっとあの人の事を知りたかった……、それももう叶わなくなる……、そう思った時不意に私の瞳から涙が一筋零れ落ちます……

 

せめて最後にもう1度だけ会いたかった……、そう思っていたその時でした

 

何処かで聞いた覚えのあるターボファンエンジンの音が、その轟音を轟かせながらこちらに向かって来ていました。そして次の瞬間

 

上空から物凄い速度で急降下して来た何かが、私の目の前にいるヌ級に激突してヌ級を吹き飛ばしてしまいました。そしてそれがヌ級に激突する直前の事です、1つの影がその何かの上から飛び降りて私の目の前に着地、私とヌ級の間を遮るように立ち塞がるのでした

 

「大丈夫か?翔鶴」

 

それはこちらへ振り向く事もせず、ヌ級をしっかりと見据えたまま私にそう話しかけてきました。それは正に、先程私が会いたいと思っていた人物である石川 空さんその人だったのです

 

『今度は何だ?ってなんだよあのクッソ不味い青白い奴かよ。てめぇに用事はねぇからすっこんでろ、それともてめぇも俺の飯の邪魔すんのか?』

 

『その口振りから察するに……、貴様、翔鶴を喰おうとしていたのだな……?』

 

ヌ級の言葉に対して、空さんも英語でそう返します

 

『だったらどうする?』

 

ヌ級がニヤニヤしながらそう返答したところ……

 

『何、簡単な事だ……、貴様を殺してでも阻止するだけだ』

 

空さんはその激しい怒りを一切隠そうともせず、そう言いながら空中で変形しながら戻って来た艤装を右腕に装着するのでした

 

『アーッハッハッハッハッハッ!!!面白れぇ事いうじゃん、やってみな?出来るんならなっ!』

 

ヌ級がそう叫ぶと、空さんとこのヌ級は目にも留まらぬ速度で同時に動き出し、衝撃波で海面を激しく揺らしながら激突するのでした……




Nは深海棲艦の味はお好みではないようです
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